目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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滅茶苦茶忙しいです。でもとにかく投稿出来ました。

そして お気に入り登録者数が……………… まさに ぼーぜんです。
ありがとうございました。頑張ります



22話

 

 馬を走らせ続けた。

 

 幾つかの補給拠点としていた町村を利用し可能な限り速く最短で。

 

その間にも判るがやはり巨人の絶対数が少なかった。広範囲索敵陣形を取らなくとも走破出来るのではないか? と思ってしまう程に。

 

 その理由も――壁を目視して、街に到着してはっきりと判明する事になった。

 

 それは凡そ普通の人間の手では出来ない様な巨大な破壊。壁の門は無残にも破壊され、周囲にはその瓦礫が四散していたのだ。周囲に大小群がる巨人もいた。

 巨人が壁の門を破壊し街の中へと入っているのだ。エルヴィンが危惧した悪夢は現実だった。

 

 だが、壁に近づけば近づく程違和感があり、真に驚くべき所はそこではなかった。

 

「……なぁリヴァイ。アレ(・・) 誰がやったんだと思う?」

「…………」

 

 アキラの問いに、珍しく口を噤むリヴァイ。普段だったら、判らないまでも即座に何か返答があるのがリヴァイだったのだが、流石にこれ(・・)は想定の範囲外だった様だ。

 

「こっちからじゃはっきりととは判らないけど……、これは多分岩だ。この破壊の穴を覆いつくすだけの巨大岩がこの破壊の跡を塞いでる。これは明らかに異常だよ。巨人がこんな事をやる訳がないし、利があるのは人類側だけだ」

 

 岩に近づいてそう言うのはハンジだ。

 壁の破壊を岩で塞ぐのは確かに有効かもしれない。だが現実問題として、そんな事が出来る訳が無かった。ゆうに8mは超える巨大な岩。重さは一体どれくらいになるのだろうか 想像すら出来ない。

 

「アキラでも、これは無理だよね? 色々と試したけど、瞬間的な爆発力はあっても、岩を持ち上げて運ぶみたいな、持続する様な事は」

「あぁ。……コレをぶっ壊せ! ならまだしも、ホイホイと小石みてぇに運んだりは出来ない。んな事が出来るんなら、マリアの壁が破られた時にとっくにやってる」

 

 ハンジの言葉に応えるアキラ。

 ハンジ自身もアキラの身体能力は色んな実験(いじめ)を経て、全て解明とまではいかずともそれなりに出来る範囲は判ってきているから、本当は判ってる筈だ。

 

「エルヴィン。どう思う?」

 

 岩から離れた場所でエルヴィンに聞くリヴァイ。

 まず間違いないのは想定外だという事。そして人類が予想出来る範囲はたかが知れているという事実が明らかになった事。

 

 そして、何より――。

 

「だが、これで巨人の侵入は防げた。どうやったかは確かにまだ判らないが……、それでも 判明すれば人類にとって大きな力になる。即刻壁内に」

 

 エルヴィンが、立体機動装置を使って壁の中へと指示を出そうとしたその時だ。

 

 

『エルヴィン団長!! 煙弾です! それも……黄色の!』

 

 

 1人の兵士が叫んだ。

 それと同時に、ほぼ全員が空を見上げる

 空の上に一直線に昇る煙の筋。それが意味するのは一体何なのか、直ぐに理解した。

 

「作戦成功の証……か」

 

 黄色の煙弾は作戦成功の証だ。

 調査兵団ではその煙を見る機会は近年では大分多くなったものの、壁内でそれを見た事は当然ながらない。壁内襲撃はあの5年前の悪夢以来ないから という理由も勿論あるが、それでも極一部を除いたとしても巨人の力は人間にとって絶対的な差がある。内容にも当然ながらよるが 作戦が成功した、と言う事例が無いと言える。

 

「何かあったにしろ この大岩が絶対関係してるな。これ」

「……だろうな。寧ろ関係してない訳がねぇって思える」

 

 アキラはそう呟きつつ、立体機動装置を使って壁を上る。

 その後ろからぺトラ達リヴァイ班が続く。

 

「人間業じゃないよ。いったい壁内で何が……」

「それを調べる為にも急がないとだろ」

「ああ。作戦成功の煙弾は良いニュースだ。だが、犠牲を伴ってないとは思えない」

「……巨人が侵入してるんだ。当然だろ」

 

 速く状況を把握させておく事が第一だという事。

 それ以上は何も言わず、ただただ全員急いで登っていくのだった。

 

 

 そして、壁の中に入ってきて目に入るのは 崩壊している街並み、無数の巨人。

 何よりも注目したのが、眼下の巨人の死体? の上にいる者達。

 

「あれは……アルミンとエレン、それにミカサ 後リコ。……!!」

 

 注目して誰なのか判明したアキラは、その後は何も言う事なく壁の上から飛び出した。 

 知らない者から見れば人身自殺に見えるだろう衝撃光景だが そんな事で驚いたり動揺したりする者はこの場にはいない。これはもう日常茶飯事だと言えるから。

 その代わり、怒ったりする者がいたり 少々呆れたりと部類が違ってきたりする。

 

 だが、今回ばかりは誰も何も文句は言わなかった。

 何故なら眼下には巨人が無数に存在していたから。

 

 今まさに襲い掛かろうとしていたから。

 

「ちっ……」

 

 やや遅れて続くのがリヴァイ。

 

 下で巨人と戦うには条件があまり良いとは言えない。壁があって立体機動装置を使う事は可能だが、一方向のみでは巨人の弱点であるうなじが狙いにくい。

 更に言えば、エレンは何があったのか倒れていて、アルミンが抱き抱えている状態だった。そんな状態で無数の巨人を相手にできる訳が無い。幾ら班を任されている長、訓練兵時代のトップ10で優秀な兵士だとしてもだ。

 

 

 

 

 それは、アキラやリヴァイが上から飛び降りる数秒前の事。

 

 

 詳しい説明はまた何れ、と言う事にするが 兎も角 エレンは巨人になっていたのだ。

 その力を利用して 大岩で壁の穴を塞ぐという大胆な作戦を終えた後 力尽きる様に動かなくなった。動かなくなった巨人の身体からエレンが露出し、それを引っ張り出そうとしているのがアルミン。

 

「あ、熱ッ!! い、一体何なんだ、これは!!」

 

 エレンの巨人から蒸気の様なものが噴き出し続けており、それは信じられない程高温の様で、傍にいるだけで皮膚が焼けそうだった。

 

「アルミン! エレンは!?」

 

 そんな時に駆けつけてきたのがミカサとリコ班長だった。そして 周囲には巨人が近づきつつある。まさに地獄であり修羅場だ。それでも ミカサはエレンを見捨てる様な選択を取る事はしなかった。

 

「信じられないくらい高熱だ! それに、身体の一部が一体化しかけてるんだ! 今は直ぐにでも壁を登らないといけないのに……!! 引っ張っても全然取れない!」

 

 エレンの両足はまだ巨人の中でアルミンの力では引き抜く事が出来なかった。背後には巨人の群。そして 壁は目の前。

 エレンを助けて壁を登らなければ、全員の命は無い。

 だから、リコは腰の剣を引き抜いた。

 

「ちっ…… 斬るしかないだろ!」

「ま、待ってください!」

 

 ミカサの制止を振り切り、両足を切断。

 アルミンは ずっとエレンを引っ張っていたから、突然切り離された為に勢いよく後方へとひっくり返り、エレンの巨人の残骸から落ちてしまった。

 

 そこに狙いを付けたのが、6m級の巨人4体。

 

 ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべ、大口を広げて近づいてくる。

 

「ぁ………」

 

 エレンを抱え 身動きが取れない状態。

 アルミンは再び恐怖を感じた。エレンが巨人になり 作戦を成功させた高揚感は即座に吹き飛んでしまう。巨人の生気を感じられない様な瞳を間近でまた見てしまったから。

 

「エレン! アルミン!!」

 

 ミカサが直ぐに飛び出していったが、距離が巨人の方が近い。

 それでも 諦めない。失う訳にはいかない。ミカサにとって何よりも大切な2人だから。

 弾かれた様に飛び出したミカサ。その両手の刃を巨人に突き立て2人を助ける為に。

 

 結果――2人は助かった。

 

 だが、それはミカサの刃が巨人を仕留めたからではない。

 突如飛来した何かが、巨人を吹き飛ばしたのだ。

 それは あまりの突然の光景で衝撃音が遅れて周囲に響いたと感じた。音よりも早く動き、巨人を吹き飛ばしたのだ。

 

「一体何が……、み、ミカサ? あ……」

 

 アルミンも当然判ってなかった。ミカサが仕留めたのか? と思えたのだが ミカサは遅れて隣までやってきたから。

 

「あれは………」

 

 立ち登る蒸気の霧に視界を遮られつつあったが、はっきりと見る事が出来た。

 その背中を……その自由の象徴である翼を象ったエンブレムを纏った背中。調査兵団の証。

 

「ふぅ……間に合った。大丈夫か? お前ら」

 

 その者は腕を振りゆっくりとした動作で振り返った。

 見覚えのある顔。もう、ずっと昔にすら感じてしまうが 誰なのか はっきりと判った。

 

「あ、き……ら……きょう、かん」

 

 エレンも眼も掠れてしまい見えにくく、更に全く動かない身体だったのだが はっきりとその姿を見た。

 

 そう、この場に降りてきたのはアキラだった。

 

「一先ずお前ら命はある様だ。生きていてくれて嬉しいよ。……でもエレン、お前が無事なのかどうかは、見ただけじゃ正直微妙だな。一体何がどうなってんだ、って聞きてぇが それよりもまず」

 

 吹き飛ばした巨人が他の巨人を道連れに倒れていたのだが、巨人はそれだけでは死なないのは事実。

 

「こいつらを片付けるのが先だ。不真面目だった教官のオレとはいえ 一応は教え子だ。それを随分と可愛がってくれた礼も兼ねてなぁ……」

 

 ぎりっ……、と怒りを剥き出しにする姿。

 その姿にアルミンは既視感を覚えた。

 

 そう――まるで エレンが初めて巨人となり 無数の巨人たち相手に暴れまわった時と同じなのだ。人類の怒りを体現したかの様な。何故だかは判らない。普通の人間であるのにも関わらず、その姿は人間のものとはかけ離れて、強大な何か(・・)にアルミンは見えてしまった。

 

 だが、そうだとしても立体機動装置は付けていても、手に武器も持たずそのまま近くにまで歩いていく姿を見て、正気を疑ってしまう。まさに自殺行為だから。

 

「あ、あきら……きょうっ……!」

 

 懸命に声を出そうとしているのはエレン。

 以前アキラとの話が脳裏に浮かび上がる。

 

 

『巨人相手に格闘術で攻めるのは……まぁ バカくらいだろうし』

『い、いえ…… それじゃ自殺志願者じゃないですか! そうなったら止めないと』

『……ははっ、そうとも言うかもな』

 

 

 あの日の会話が何故か頭に浮かんだ。

 武器も無く、立体機動装置も使わず 生身のままで巨人に近づくのはまさに自殺行為だ。自分自身の様に 巨人となって対等に闘うのならまだしも。

 

 

 それでも歩みを止めず、巨人も立ち上がりアキラとの距離を縮める。

 大口を開き、まるで頭突きでもするのか、と思える様な体勢で頭からアキラに飛びかかっていった。

 

「アキラ教官!!!」

 

 言葉を失っていたが 漸く ミカサも声を出す事が出来た。

 エレンの傍を離れる訳にもいかなかったが、それでもミカサにとってのアキラは訓練生時代にはエレンやアルミン、いや 104期生全員が色々とお世話になった人物でもあるから。

 

――そんな人が死ぬ姿は見たくない。もう 誰かが死ぬ所は見たくない。

 

 戦わなければならない。弱肉強食な残酷な世界だという事は判っていても 心の何処かではそう叫んでしまう。

 

 ミカサは エレンの腕を抱いたまま、空いた方の手をアキラに向けて伸ばした。

 不思議な事に ミカサは伸ばしたその手は光に包まれる感覚があった。アキラに向けて伸ばした手。まるでアキラが閃光になった様に見えた。

 

 そして 瞬きをする間もなく目の前にまで迫ってきた巨人が吹き飛ばされた。

 

「………汚ぇ面、近づけてくんな」

 

 何が起きたのか、理解する事が出来ない。

 

 見たままを説明するとすれば、アキラ教官が自分の何倍もある巨人を吹き飛ばした、と言う事だろうか。説明は出来る。でも頭では理解する事が出来なかった。

 

「ったく。熱くなるな、と言ったつもりだったんだがな。あの鳥頭」

 

 そんな時、新たにもう1人がこの場に降り立った。同じく自由の翼を纏った男。その男の傍では、巨人が数体倒れていた。この短い間に何体も仕留めた、と言う事なのだろうか。

 

「おい ガキ共。これは一体どういう状況だ?」

 

 その問いに答えられる者はいなかった。

 ため息を1つした所で漸く1人が前に出てきた。

 

「リヴァイ兵長!」

「……駐屯兵団のリコ班長か。ガキ共は放心気味みてぇだからお前から説明しろ」

 

 悠長に説明を求めている様にも見えた為、アルミンが慌ててリヴァイに言う。

 

「あの、アキラ教官は……!?」

「ん? 喋れたのか。……あの馬鹿なら心配するな。するだけ無駄だ」

 

 またまた ため息を1つした所で。

 

 

 

『オラァァァァァ!!!!』 

 

 

 

 巨大な雄叫びが聞こえてきた。

 

 はっ! として振り返ってみると、巨人の群の中で暴れているアキラがいた。6m級の巨人を殴り飛ばしては うなじを脚で踏み抜きとどめをさし、更に群がってくる2~3m級の巨人は相手にもならない。瞬く間に蹴散らしていっていた。

 

 本当に有り得ない光景だ。アルミン、そしてミカサ、リコもそうだ。

 

 エレンの時にも衝撃が走ったが今回はそれ以上だった。巨人ではなく 人の身のままで巨人を蹴散らしているからだ。更に驚くべきことに 巨人化したエレンが街中で力尽きるまでに蹴散らし続けた巨人の数よりも アキラが仕留め続けている方が遥かに多く、早かった。

 

「あの馬鹿の事は気にするな」

 

 リヴァイがもう一度そういう。

 呆れている様子だが、それでも信頼をしている、と言う事もその表情から読めた。

 それと同時に 立体機動装置のアンカー射出音が重なり合って聞こえてきた。

 どうやら、調査兵団達がそして駐屯兵団工兵部が集まってきた様だ。

 

 それを理解したのと同時に、エレンは先ほどまでは懸命に身体を動かそうとしていたのだが、その力の全てが抜けていく気がした。

 

 

 軈て、瞼も重くなってきた。

 もう目を開けていられなくなり、完全に閉じた。閉じたのと同時に意識も手放したのだった。

 


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