目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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勢いで投稿してしまった。


1話

 

――死んだ、いや、もうすぐに死ぬんだろう。まぁ、それでも良いか。

 

 

 

 子供、女の子を事故から庇った。その子の飼い猫も一緒に。だから、こういう結果だ。

 

 

 本当にどうしようもない人生だったから。

 ただ、生きてるだけ、死んでいないだけの無意味な生だった。親は早々に死別した。親にかけられていた保険があったから、当面の生活に問題は無かった。

 

 そして、その後は ありきたりと言えばそうだ。……その金を食い荒らす様に 親戚(ウジ)共が群がってきた。

 

 そんな最悪な環境下だったから、グレるのも半ば必然だった。何度も何度も警察にも世話になった。この世界は残酷。手を差し伸べる者など……いる筈もない。あるとするなら、美談として、(まつりごと)に利用される為だけ。それが証拠に少なからず、偽善が周囲にちらほらいた。

 

 ただ―――それだけだった。

 

 だから、この世の全てを諦めた。だからこの世の何にも興味は無い。……何も、興味はない。

 

 

 そう――その筈だった。

 

 

 薄れゆく意識の中で、目の中に飛び込んできたのは、初老の男。

 

――ああ……またアンタか。……いつも、いつも暇なんだな。でも、なんでだ……?

 

 薄れゆく意識の中だったがその顔には覚えがある。……何度も何度も世話になったからだ。騒ぎを起こせば必ず飛んできた。

 

 そう、確か警察の――柏崎。

 

 

――なんで泣いてる……? なんのために泣いてる……?

 

 

 涙を流していたのだ。

 いつも鬼のような形相で、怒鳴り、時には手を上げてきた男の筈……だったのに。

 

「よく、頑張ったな。……お前が、子供を……女の子を庇って、なんてなぁ……?」

 

 涙を流しながら――手を握りしめていた。その声はもう届いていないだろう、と言う事は、もう頭では判っていたが、続けて語り続ける。

 

 病院のベッドで横たわり、身体の至る所に管を取り付けられている彼。顔も包帯で巻かれ、殆ど表情は見る事が出来ない状態だった。

 

「でも、何でかなぁ……? 今日 オレは、お前をもっともっと褒めるつもりだったのに、言葉が……出てこん……。何でもっともっと、お前と……」

 

 その握りしめられた手。留めなく、流れ続ける涙。握りしめた手に伝って、涙が流れてくる。それは確かに……暖かかった。

 

――ああ……そうか。そうだったのか。……こんなオレにも……涙を流してくれるひとが、いたんだな。知らなかった。……知らなかった。

 

 涙を流してくれている。それを理解したと同時に、目の前が真っ白になっていった。

 水面に波紋が広がっていくかの様に眼前の顔も歪み、薄れだした。

 

――もうちょっと早くに気付いていたら……こんなオレでも 何か……できることがあったかもしれないんだな……。オレの中の世界も広がっていたかもしれないんだな。

 

 もっと……人を好きになれていたかもしれないんだな。

 

 

 走馬燈は、見る事は無かった。

 

 それはそうだ。強い思い入れなどある訳もない。

 本当に空っぽの空虚な人生だったから。

 悲しい程までに 何もない 何も生まない人生だったから。

 

 

 

――つぎ、つぎがあるなら……。おれは…………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次

 

 

 まさか次が訪れるなどと誰が予想できただろうか。身体の芯に温もりを抱いてこのまま死にゆく。意識も全て無くなり、全て……忘れて浄化される。そう思っていた筈だった。

 

 なのに何故だか判らないが意識があったのだ。

 

 そう、まだ自分自身にははっきりと意識が――あった。

 

 更に目を開く事が出来た。

 

 そして唖然とした。……色んな意味で。

 

「は……? ここ何処だ?」

 

 

 

~目を開いた場所は……とても不思議な場所でした~

 

 

 と何処かの映画のキャッチフレーズの様なセリフが素で出てくる事になるとは夢にも思わなかった。けど仕方ないと思う。

 目を開いて見てみれば、見渡す限りの大草原が広がっているのだから。

 

「……大神(おおがみ) (あきら)。だよな? オレ。……で、ここ 何処?」

 

 誰に聞くわけでもなく、自分自身の名前を独り言の様に聞いて、そして 暫くの間、立ち上がる事さえできず、ただただ、この大草原……、自然豊かな緑を堪能した。

 

 吹き付ける風は心地良い。

 目を瞑ればきっと気持ち良いだろう。……勿論、こんな状況じゃなかったらではあるだろうが。

 

「まぁ……こうしていても何も始まらんし。……ちょっと歩いてみるか。どうせオレは死んだ身だ。これ以上何があっても良いだろ。うん そう考えたら多分、此処はあの世なんだろ。間違いなく」

 

 楽観的になりながらも、歩みを始めた。

 何もない人生だったけれど、最後にこんな驚き、サプライズを残してくれるとは、有り難い、とまで思っていた。

 

 あの時 思考が完全に停止する前に、強く思ったあの気持ちを――、持って此処にいられたのは、ある意味では嬉しい。

 

「次……か。意味のある生? を送りたいものだ。あの世でそんな事言うのもなんかおかしい気がするけど。……今度は、間違えない様に。……あのお節介が教えてくれた事、……思い出しながら」

 

 ゆっくりと、ゆっくりと、歩を進めていく。

 地平線に伸びる草原。ところどころにちょっとした森林であろう場所が見える程度だった。

 

 そして、更に時間が経過して、それでも景色は変わらない。

 永遠に続いているのか? と思える程に。

 

「……ちょっと不味い気がする。これ、いったいどこまで続いてるんだ? ひょっとしてここは、地獄か? ……無間地獄? ってヤツか」

 

 永遠に続いているとさえ思ってしまう大草原。

 それは果てが無い、無限の空間にも思えてきた。

 

 だからもしかすれば永遠に歩き続けろ、と言う場所の地獄なのかもしれない、と頭の片隅で思い始めていた。

 

 生前の所業を考えたら地獄に行ったとしても不思議じゃない。

 おかしくも無く妥当だとも思える。でも……。

 

「……って、こんな綺麗な地獄があってたまるかよ。ぽかぽかで気持ちも良いし。……でも、オレが天国に行けるとも思えないしなぁ。たった1度、良い事したくらいで行ける程簡単な場所じゃないだろうに」

 

 太陽の光が草原全体を照らし、暖かで心地よい風も吹いてくる。

 このまま何処までも歩き続けて最終的には餓死の道を辿る……ともなれば、確かに綺麗でも地獄だと言えるだろう。

 だけど、所々に河があり、まだ試してないけど食べれそうな果物っぽいモノも生えているのも見つけた。最悪飲み物さえ確保できれば、何とでもなりそうだ。

 田舎育ちでそれなりに育まれたスキルがこんな所で役に立つとは思ってもいなかった事だが。

 

 

 そして 更に数時間歩き続けて……。

 

「……流石に疲れた。と言うか、歩くのが面倒になってきた」

 

 その2つ 殆ど同じ意味だろ? と自分自身でツッコミを入れかけたが、とりあえず止めて、丘の上まで登った所で腰を掛けた。とりあえず、用心も兼ねて、後ろから何かが(・・・)あっても、良い様に、大きめの岩を背に。

 

「いい加減 此処が何処なのかくらい知りたいな。地獄って、とりあえず思ってるけど、来たからには、正確な名称くらいは」

 

 天国に行ける身分じゃない。と言う事で つまりここは地獄だと勝手に判断していた。

 

 例えこの場所が地獄に見えなくても《地獄》。

 

 1つ頭の中で決定した所で くぁぁ、と欠伸を1つした。

 欠伸をしながら 今更だが思い返す事があった。

 

「オレ、ちゃんと着てる? 服……」

 

 最後の瞬間は、さすがに覚えてないが、結構な衝撃だった筈だ。アレが実際に意識があったのか、或いはもう既に幽霊? の様な感じで、見ていたのかはわからないが、病院のベッドの上に寝かされていたのは、身に覚えがある。……だけど、ちゃんと着衣を着けられているのかどうかは、判らないから。

 

「んー着てるな。簡素な服、それに短パンか。……ん? なんだこれ?」

 

 いつの間にか着せられていた? 見覚えのない服の内ポケットの中に、何か感触があった。取り出してみると、どうやら、紙の様だ。

 

「所持品くらい最初に確認しておくべきだった。……手がかりか何か、か? っ……!?」

 

 四つ折りに畳まれた紙を広げた時、紙が、突然光りだした。突然の眩い輝きは視界を奪うのには十分すぎる光源で、瞬く間に真っ白な世界に叩きだされてしまった。

 

 

『ヒトは――――と、どうなる―――?』

 

 

 そして、続けざまに 起こるのは小さく、それでいて、頭の奥にまで響く声。

 

 

『力を―――、どうなる――――?』

 

 

 だんだん、その声の主が近づいてくる。

 そんな感覚がした。

 

 

『―――暇潰しだ。面白い。その世界で、お前を見せてみろ』

 

 

 耳元で聞こえるはっきりとした言葉。

 それを聞いたと同時に、視界が晴れた。

 

 

「っっ……!?」

 

 周囲を見渡すが、やはり何もない。広がる丘の上、そして 見える木々……それだけだ。

 

「っっ、耳がいてぇ……、一体何が……?」

 

 頭を軽く振っていたその時、また……起こった。

 

『どうして私たちを食べる!? 何も食わなくても死なないお前たちが!! ……なぜだ!?』

 

 聞こえたのは、突然の怒声。

 怒りの感情がそのまま声にトレースされたかの様な声。……だが、その反面で酷く震えている。恐怖と怒り、その二つが等しく入り乱れているのが読めた。

 

「……今度は、幻聴じゃないな。あそこか」

 

 周囲を見渡してみると、木影に何かが見えた。

 有り得ない程の大きい物体。……そして、その物体の前に立つ人影。

 

 

『お前らは無意味で無価値な肉塊だろ!! この世から、消え失せろ!!』

 

 

 随分な暴言だった。 

 ここまでの暴言を吐かれた事も、吐いた事も無い程のものだった。

 

 だが、それよりも目を奪われたのは、相対しているモノにだ。それが何なのか……、理解するのに時間が少々かかってしまったが。

 

「……アレ、でかくないか? ……巨人?」

 

 そう、人影の前にいる物体は、同じく人の形をしている。

 違うのは、外だというのに裸である事。……そして、何よりも、あの暴言を言っている者よりもはるかに巨大である事。……ゆうに3~4倍はあるだろうか。

 

 それに、暴言を吐いている者も、やはりおかしく感じる。逆鱗に触れようものなら、あの体躯の差だったら、文字通り、……いや、見た通り紙屑の様に潰されてしまうだろう。

 

「……逃げるのが、正解か。幾ら手掛かりに出会ったとはいえ、呑気に挨拶にはいけないな。正直無茶を通り越して無ぼ……っっ!!」

 

 踵を返そうとした時、再び頭の中に、声が聞こえてきた。

 

『お前には、力があるぞ? あの程度どうとでも出来る程のモノ。紙屑の様に、ぶっ飛ばせる』

 

 至近距離からの囁き。だが、周囲には誰もいない。

 

()は。なんだろ? お前にとって、今が()だ。……見せてみろよ』

「はぁ? ふざけんな。体格に差があり過ぎだ。無駄死にするだけだろ」

 

 意味が判らない相手だったが、咄嗟に言い返していた。

 だが、それでも頭の何処かは、冷静だった。

 だから、話を続ける事が出来た。

 

「……成る程。つまり、此処は地獄なのは正解だったわけ。それで、アレ(・・)が、地獄の鬼ってわけだ? それで、襲われてるのは、オレと同じ?」

『そう思ってくれて良い。鬼と言うのはな。この世(・・・)の人間にとっては強ち間違いではない』

「ははぁ。あっそう。……んで次。ぶっ飛ばせるそうだけど、あんなのに、向かって行って勝てる気なんて微塵もわかないが? 結構喧嘩してきたけど、あんな化け物相手にした事ないし。……当たり前だけど」

 あんなのに、向かって言って勝てる気なんて微塵もわかないが? 結構喧嘩してきたけど、あんな化け物相手にした事ないし。……当たり前だけど」

『無論。今までのお前だったら。……だが、今は違う』

「……何がどう違うんだ?」

『こんな異常な事態であっても、お前は冷静に話を交わせる事もそうだ』

「……驚きの連続だったからだよ。ただ、感覚が麻痺してるだけだ」

『まぁ、それもあるだろうな。……だが事実。お前は力を握っている。間違いなくな。それに――』

 

 少し、間を置いたと殆ど同時だ。あの人影が走り出し、そして 化け物も追いかけだした。距離は離れているが、追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

『襲われているあの女は、もうじき死ぬ。アレに食われてな。どうせ、死んだ身なんだろう? 何かあっても良いんだろ? なら、やってみろよ』

「…………ぁぁ! もう。んだよ。判ったよ! もし、死んだら、化けて出てやるからな!」

 

 それ以上応対をする事なく、駆け出した。

 

 生前――、確かに 色々と悪さはしたし、罪人だ、犯罪者だ、と同じ分類にされるだろう。

 だけど、ろくでもない生活だったけど、そんな中でも絶対のルールが女子供には、そんな事はしない、と言うものだった。

 理由は定かではない。記憶もない。だけど、自然とそのルールが出来ていた。

 

 だから、だったのだろうか。あの時 助けたあの時の様に、身体が動いてしまったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――私は、決して屈しない。……巨人と遭遇しても、最後の最後まで、戦い続ける。

 

 

 

 巨人、そして巨大な恐怖と懸命に戦おうとしていた女の名はイルゼ・ラングナー。とある部隊に所属しており、その作戦行動中に……、今まさに襲ってきている巨人とは別の種に、仲間を殺され、自分自身の足でもある馬も失ってしまっていた。

 人間の足では、到底巨人から逃げ切る事は不可能である事も判っていたが、それでも最後まで抗い続けた。

 

 そして、最後の時が訪れた。

 

 大きな巨体が、それに見合う大きな手を広げて追いかけている。アレに掴まれたら、それだけで死ぬだろう。握りつぶされ、下手したら跡形もなくなる。

 

 その大きな手が、片方の足を捕らえた。

 

「あぐっ……! ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 続いて腕を取った。

 明らかに、頭から食う姿勢だった。腕の骨が砕ける音が周囲に響く。

 そして、巨人が大口を開け、私を頭から食い尽そうとしたその時だ。

 

 何かが――目の前を通り過ぎた。

 

「きゃああっっ!!」

 

 それと同時に、私は吹き飛ばされてしまった。

 何が起きたのか、理解できない。何かが、一瞬だけ見えた何かが通り過ぎた。と思ったと同時に、吹き飛ばされてしまったのだ。……巨人の身体と一緒に。

 

 

「……つぁ、近くで見ると、ほんとでけぇ……。ってか、よくオレ蹴っ飛ばせたな。あの巨体」

 

 

 呆けたイルゼの頭の中に、人間のものであろう声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 




更新速度、亀だと予想。

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