いつも感想と評価を下さりありがとうございます。誤字報告もすごく助かっております。
遂に剣盾にて、連れ歩き機能が実施されましたね。邪神様とワイルドエリアをデートする日もそう遠くないのかもしれません。
ものぐさと言われているにしては、思っているよりも大分早くカプ・ブルルは現れた。夜中とはいえ、流石に街中へ呼ぶのは不味いだろうと地域住民の考慮をした結果、集合場所になったのはマリエシティの外れだ。
ハルジオンの、来たよ。という声に反応し、気配を感じて上を見上げた。
「カプゥブルゥ!!」
目の前にいきなり現れたカプ・ブルル。上空から勢い良く着地したせいか、砂煙が周囲を覆う。まさに降臨、といった感じだ。
カプ・ブルル。初めて見るハルジオン以外のカプ神で、嘗てポータウンと巨大スーパーを壊滅させたとされるウラウラ島の守り神だ。ハルジオンが近くにいるせいで感覚が鈍っているのかもしれないが、それでも守り神としての底知れない生命力が肌越しに伝わってくる。
少しでも気を緩めれば、こちらがやられるかもしれない。後ろにはリーリエも控えているのだし、油断せずに行こうとセレスのボールに手をかけた。
とりあえず何を言おうか。まずは来てもらった事への礼が必要だなと、
「遅いわ、いつまで待たせる気?」
「……ブルフ」
そんな事を考えていた束の間に、深々とハルジオンに頭を垂れる守り神の姿が。
「こっちのブルルは随分と鈍臭いわね、アザレアとは大違い。そんなんじゃカプとしてやってけないかも……情けないアンタごと、アタシがこの島を滅ぼしてくれようかしら」
「ぶるう!?」
「ふん、冗談よ……でも、ケンがやれと言えば話は違うけどねー」
どーする?処す?と物騒な事を言いながら、愛らしい笑顔で頬擦りをしてくるハルジオン。目の前のブルルが絶望したような顔しているんだけど。潤んだ目でこっちをみているんだけど。想定していた守り神と少し掛け離れているんだけど。
「……やめろ、ハルジオン。カプ・ブルルが困ってるだろ」
「いいのいいの、困らせといて。もしアタシに逆らったら、アーカラ島のお仲間と同じ末路を辿らせてあげるわ。だから決して、ケンに粉をかけない事ね」
「ブフ……ブフ……」
先にお前があの危ない粉をかけるのをやめろ、と言いたくなったが今は関係ないので黙っておく。
「うんうん、分かればいいの。後、この島で色々やるかもしれないけど多少は大目に見て、干渉は控えてよね。アタシからはそれだけだから」
え、終わり? そもそもその言い方だと、まるでハルジオンが呼び出したみたいな言い方になる。
「いやちょっと待て。カプ・ブルルに呼ばれたんじゃないのか?」
「え、そうだけど……コイツはアタシがウラウラ島を襲いに来たんじゃないかと勘違いして、話せば分かるってテレパシーを飛ばしてきたの。それで、一回顔を合わせよっかって事になって、どうせだし持て成しますよって呼ばれてたわけ」
あれ、俺が思っていた呼び出しと何か違う。呼び出しと言うより、お呼ばれされたって表現の方が正しそうだ。
「でも、ケンがどうしてもって言うからさー。持て成しはいいからこっち来いよって呼び出したの」
「型破りがすぎる」
向こうの用意を全部ぶっ飛ばしていく事を許されるのは、流石ハルジオンとしか言えない。俺がもしブルルだったらブチ切れて怒りのウッドハンマーを決めかねん。
だが、そこまで大事になっていないようで安心した。アーカラ島でハルジオンがやった事は、完全にカプに対する挑戦と取られても仕方がない。ブルルのように話し合いで解決してくれる分には平和的で良いんだが、奇襲や騙し討ちなどをされようものならたまったものではない。守り神同士、是非とも仲良くして欲しいものだ。
「それでは、もうお話は終わりですか?」
俺と同じく、ただ傍観しているだけだったリーリエがようやく口を開いた。リーリエもカプ・ブルルに拍子抜けしたようで、少し呆れ顔だ。
「みたいだな。それじゃあ、わざわざ来てくれてありがとうカプ・ブルル。出来れば、これからも良好な関係を築きたいと思っているよ」
「だってさ。良かったね、アタシと夫が寛大で」
「ぶもぅ!!」
「アンタさっきからテレパシー使わないの、人間だからって舐めてるの?ケンが何言ってるか分からないじゃない」
「すみませんでした」
全然寛大でもないし、お前の旦那でもない。というか図体の割に可愛い声だな、男だと思っていた。守り神に性別なんかないけど、イメージ的にだ。
「いやほんと、気にしてないから大丈夫。もしアーカラ島の島キングになったらよろしくな」
「はい! よろしくお願いしますぅ!」
「ふふん、分かればいいのよ」
大仰に頷く守り神と、ドヤ顔で胸を張る邪神を見て、この先大丈夫なのだろうかと不安になった。
(利用価値があればと思いましたが、アテが外れましたね)
────────────────
昨日カプ・ブルルがマリエシティに来た事は、街の様子を見るに、まだ誰も気付いていないようだ。唯でさえハルジオンのせいで目立っているのに、これ以上何かあれば田舎特有の排他的事勿れ主義が炸裂してウラウラ島に居辛くなる。
まあ、居辛くなるだけで用事が終わるまで普通に居座るんだけどな。ここでアーカラ島の守り神様を盾に、自由に動けるのは普通に助かる。ただその後が大変そうになるので、あまり角の立つような動きは控えるが……セレスの件は反省していない。あれはフラストレーションを溜めて暴発されると困るからやった事だ、自分の命に関わるからな。
それに比べて、エルモは少しもボールを揺らさない。嫌なまでに静かで、凪のような沈黙を貫いている。全てを受け入れるかのような姿勢は、絶大な信頼を得ているのか、はたまた微塵も信頼されていないのか……後者は有り得ないとして、やはり向こうから言い出さずとも出してあげるべきか。
ああいう肝臓みたいなタイプは、様子がおかしい事に気付いた段階で既に手遅れだからな。
「ケンさん、この服はどうでしょうか? 最後の一着と言われて、少し迷っているんですが……」
危ない危ない、考え事で目の前の事象を見逃すところだった。これ一番取り返しがつかなくなるからな。
リーリエが昨日気になった服をもう一度見たい、という事で、アセロラと一緒にブティックへと向かったのだが……まさかのあの服だった。
リーリエの少し気合の入った服とポニーテールを見て、そういえばあのイメージチェンジ用の服は、ここで買うんだったかと思い出した。主人公たちには内緒で、先行お披露目という訳だ、役得である。
今日は珍しくハルジオンが出て来ないので、ゆっくり落ち着いて楽しめそうだ。隣でリーリエの披露宴を見ていたアセロラも、興奮を隠しきれないといった様子である。
「良いじゃん良いじゃん! リーリエかわいいよお!」
「アセロラさん、ありがとうございます。ちょっとわたしのイメージとは違うから、少し不安だったのですが……ケンさんはどう思いますか?」
「ああ、いつものお淑やかなリーリエとは少し違うとはいえ、そういうハツラツとした姿もまた新鮮で良いな。髪もこの服に合わせて結ったんだろ?それも含めて良く似合っていると思うよ」
「えへへ、ありがとうございます」
顔を赤らめて笑うリーリエ。可愛い。まあリーリエは既に完成されたkawaiiであるので、別に何を着ようが似合わない訳がないんだが。
もう可愛ければ何でもありという風潮さえある。可愛い女の子がダサい格好していても、それはギャップを生んでダサ可愛いという新たなジャンルを生み出すのだ。
「じゃあ今の服と前の服、どっちが好みですか?」
「前だな」
あ、やべ。即答しちゃった。
「いや別に似合っていないという訳ではなく、普段のリーリエの方が個人的に好みというだけで気にする必要は全くないし俺はリーリエが例えどんな服を着ようが全然良いと思うし寧ろ色々な服を着たリーリエを見てみたいというのもあるし「ケン、ちょっと焦りすぎ」……はい」
アセロラが苦笑いを浮かべている。リーリエはというと、特に怒っている訳でも無さそうだ。どうやらかなりテンパり過ぎていたみたいで、今もまだ冷や汗が止まらない。
だが仕方がない。こればかりは仕方がない。趣味趣向とは個人によって異なる訳で、偶々リーリエの服装が後より前の方が好きだっただけの話なのだ。ただ考え無しに口に出したのはどうしようもなく阿呆だったと思うけど。
「ケンさん、いいんですよ。むしろケンさんの好みや本音を聞けて嬉しくすら思います」
こんな失態を、笑って許してくれるリーリエ。天使だ。この笑顔を一生守り続けたい。
「わたしは、ケンさんが似合っていると言ってくれたこの服を気に入ったので、購入はしますし、せっかくですので今日もこの服装のまま遊びたいと思っています。
ですが、わたしのワンピース姿のほうが好きだということは、
ずっと、ずーっと忘れませんから」
服は俺が買った。アセロラも当然だろって顔をしていて、リーリエからも異論はなかった。ここまで言われたら、買わないほうがどうかしている。
「ふふ、ありがとうございます。大事に着ますね」
そう言われたらもう黙る他なかった。
あの後、なし崩し的にアセロラの服も買わされた。先程の件もあったし、リーリエも楽しそうだったので良しとする。というか、アセロラってあの手作り感満載の服以外も着るんだなと少しだけ驚いた。勿論、これ以上の失言はご法度なので言わなかったが。
アセロラが買ったのは、シンプルでゆったりとした白のTシャツに濃いデニムのショートパンツだ。シンプルであるが故に、アセロラの可愛さをまた一段と引き出していると言えるだろう。活発なリーリエの姿を見て、おそらくスポーティーな服装を選んだとか何とか。
二人とも心機一転といった様子で、そのままパンケーキを食べにカフェへ出向き、街を散策して解散となった。
結果的に二人とも満足した様子で、無事に終われて本当に良かった。特にアセロラの機嫌を損ねたら、クチナシにも影響が出るし、リーリエとの不仲にも繋がりかねない。極力排除すべきだろう。
ただ、少し関わり過ぎたのかもしれない。
リーリエがホクラニ岳を登ってみたい、と言った際には、どうせだし一緒に行こう! と言われてそのまま明日登ることになった。それでキャプテンが務まっているのだろうか、時期にミヅキやハウがメガやす跡地までやってくるぞ。
まあそこら辺はクチナシがどうにかしてくれるだろうと、不安を頭から放り出した。バスではなく普通に登ると言っていたので、おそらく動きやすいよう、今日買った服で行くつもりだろう。ついでにポケモンたちも一緒に歩かせて、少しストレス発散でもさせようか。
「今日も楽しそうだったね、ケン」
「ほらハルジオン、あのお店のパンケーキ」
嫉妬の炎で焼かれる前に、先手を撃つ。お店に無理を言ってテイクアウトしてきた品を、満更でもないような顔で頬張るハルジオンを見て一安心する。
夕飯と入浴がひと段落して、明日の為に荷物を見ていたところだったし、リーリエも席を外しているのでそろそろ来る頃かと思っていた。ちなみに迷惑がかかるので、もうジョーイさんにボールは預けていない。
「明日の夜、ホクラニ岳で天体観測でもやろうか。そろそろハルジオンとも何か遊びに行かないとだしな」
「あれ、アタシから誘おうと思ってたのに」
「別にお前と過ごすのも嫌いじゃないしな」
ただ気を遣いすぎてストレスが溜まるというだけだ。どうしてゲームの世界でこんな中間管理職みたいな事をしているんだろうかと、少し恨み言を言いたくもなる。
「嬉しいなあもう! じゃあ今日はゆっくり休んで、明日楽しみにしてるよ!」
「なんて、言うとでも思った?」
拙い。いつものストッパーであるリーリエは、洗濯物を見に行っているためここにはいない。
「カプ・ブルルに聞いたんだけど、ここら辺に丁度良い海岸があるんだって。明日は行けないみたいだし今日行こうよ」
「いや、明日は登山だし」
「大丈夫、ちょっと外で一緒に寝るだけだから。何だったら、ここのベッドも一緒に運んでもいいけど」
「それは流石にちょっと」
ポケモンセンターの備品を持っていくとか正気か?と思ったが、正気の沙汰じゃないのはいつもの事だったのを思い出した。
「じゃあ大人しく付いてきてよね」
「はぁ……分かった。ただリーリエに一言言ってからな。いきなり居なくなると心配するだろ」
「もう言ってあるから大丈夫!」
どうやら、俺が思っていたストッパーとは少し違ったみたいだ。
全てを諦念し、一応、書き置きだけはしていこうとメモを残して、久しぶりにハルジオンと空を飛んだのだった。
ちなみに、ポケモン復帰しました。久しぶりに厳選の楽しさを感じております