アンケートに答えて下さった方も、ありがとうございました。これまで通り、前書きに感謝の意を書き込ませていただきますので、どうぞよしなにお付き合いいただけたらと思います。
お口あんぐりのアセロラちゃんには、事情を説明して早急に口を閉じてもらった。説明と言っても、特にウルトラビーストについて説明したり、何処からやって来たのかを教えたりはせず、ただ単にセレスがどんなポケモンかについての説明だ。
悪いポケモンじゃないよお、仲間想いの良いポケモンだよお、と懇切丁寧に伝えたことで、どうにか逃げられずに済んだ。そもそもリーリエが脅かさなければこんな事にはならなかったのに。お戯れが過ぎる。
ともあれ、アセロラとは無事に良好な関係は紡げた。リーリエとアセロラはライブキャスターの連絡先を交換できたし、明日以降はウラウラ島の案内をしてくれると約束してくれたしで戦果は上々だ。ついでにクチナシに挨拶出来ればパーフェクトってところか。
ちなみに、俺のライブキャスターで連絡先を交換しようとすると、エラーが発生しましたとか、存在しないアカウントですとか表示されてしまい、終ぞ登録することが出来なかった。ルザミーネに文句の一つでもと思ったが、この端末にはリーリエの連絡先しか無いので文句を伝える事すら出来ず仕舞いである。リコールは大分先になるだろう。
まあリーリエと連絡が取れるだけでも十分に役割は果たしているし、機会があれば言ってみる程度で問題ないか。ただストーリー通りだとウルトラホールの向こう側に行く準備が整うまでは会えないし、そうなったらリコールどころじゃないんだが。
こうして説明の終わったアセロラとは、食事の後に庭園を散歩してそのまま解散した。早速明日パンケーキをご馳走になるとの事なので、明日はマリエシティ内の散策になりそうだ。
散歩していて視線を良く感じたのだが、リーリエとアセロラ……確かに両手に花のシチュエーションだが、既に背中にラフレシア(ポケモンではない)みたいなもの背負っているようなものだし、普通に手一杯なんだよなあ。しかも、リーリエとハルジオンのプレッシャーで全然楽しくない。
ちなみにハルジオン(ポケモンではない)は貧乏草と呼ばれていて、引っこ抜くと貧乏になるとお祖母様が言っていた。処理さえ許さないとか普通に厄介だ。なんで語感だけで名前付けちゃったんだろう俺。
そんなこんなで、今はリーリエと二人でポケモンセンターのチェックインを済ませ、部屋で茶屋からテイクアウトしてきたカツ丼を食べながら、ゆっくリーリエしているところだ。
リーリエとベッドに座りながら、同じご飯を食べる……ここまでの至福な時間があったか、いやない。同じ時間、同じ空間、同じ食べ物、同じ感情を共有しているのだ。何よりニコニコしながら食べているリーリエをここまで間近に見ることができるのが素晴らしい。
間近というより、最早ゼロ距離なんだが。もう肩がくっついているんだが。というか太腿に手を置かれているんだが。
最近というか、エーテルパラダイス突入前からリーリエの距離が近い。最早恋人というかもうこれ付き合ってるんじゃないかってレベルだけれども、物事を焦りすぎるのは良くない。
「はい、あーん」
差し出されたそれを口に含めば、一層喜びに満ちた表情をするリーリエ。以前の様に恥ずかしがって顔を真っ赤にしないんだな、と成長してしまった娘を想う父親みたいなセンチメンタルな気分になってしまった。
リーリエとこんな幸せな時間を過ごせるのは、ここがウラウラ島だからだろう。アーカラ島では独裁政権を敷いていた邪神も、ウラウラ島では他のカプ神がいるため迂闊なことは出来ない筈だ。ありがとう、ウラウラ島。ありがとう、カプ・ブルル。出来れば永住したい。
だからといって、リーリエとの仲を急速に縮めるのもよろしくない。リーリエはおそらく、きっと俺の事を良く思ってくれているんだろうけれど、ここは心を鬼にして遠ざけねば、最悪リーリエを失いかねない。
ハルジオンもまた、並々ならぬ感情をこちらへ向けているのは承知の上だ。その上、ルザミーネの件は何一つ片を付けられていないのだから、ここで恋愛に現を抜かすと絶対に足元を掬われる確信がある。
最低でもハルジオンと折り合いを付けなければ、リーリエとハッピーエンドを迎える事は出来ないだろう。それまではどんなアプローチを掛けられようが、リーリエと一線を超えることは出来ない。鋼の精神で跳ね返さねばならないのだ。
とどのつまり、生き地獄である。天使とイチャイチャする地獄とはこれいかに。先人の幸せすぎて死にそうって台詞は、これの事を言っていたのかな。
「食事の手が止まってますよ……ケンさん、また何か考え事してますね」
「俺はいつもリーリエの事しか考えていないよ」
嘘は言っていない。
「本当ですか? とっても嬉しいです。わたしも、いつもいつでもどんな時でもケンさんの事を考えていますよ」
「はは、それは嬉しいなあ」
にへらとしたリーリエの幸せそうな表情を見ていると、嬉しい悲鳴というか断末魔が心の底から湧き上がってくる気分になる。ここまで慕われても手を出せないなんて……ただ、ハルジオンの扱いも大事だからな。最悪皆殺しだし。
「うふふ。両思い、ですね!」
そんな心境を知ってか知らずか、というか絶対知らないリーリエは粛々と、詰将棋の如く心身共に距離を詰めてくる。
もういっそ全てを投げ出して駆け落ちでもしてやろうかとも考えた事はあるが、何度シミュレーションしても上手く行くヴィジョンが見えないから辞めた。
アローラでカプとUB相手に鬼ごっこをするのは分が悪すぎる。おそらく島キングクイーン総出で俺を止めに来るだろうし、なんと今なら国際警察のオマケ付きだ、いい加減早く帰国してくれないかなあいつら。
「そうだな、両思いだな。嬉しいよリーリエ」
「もう少し気持ちを込めて言ってください」
「あっはい」
怒リーリエもまた可愛い。久しぶりに見ればその可愛さも
だが、少しからかいすぎたかもしれない。リーリエに俺のカツ丼をぶん取られてしまった。
「そういえば聞きましたよ。ハルジオンさんに『こういう事』して貰っていたって」
リーリエがカツ丼を口に運び始める。
ヤバいと思った時にはもう遅かった。頬を掴まれたらもうあとは早業だ、もうされるがままだ。
「…………ふふ、ふふふ。これでまた一つ、ハルジオンさんに追い付きましたね」
ハルジオンとはまた違った味わいの流動食だった。まあどちらも味なんて一切感じなかったが。
今まで目を背けていたが、そろそろ向き合わなければならないかもしれない。もしかすると、もしかすればリーリエの方がハルジオンより危ない存在かもしれないと。
「では、次は何をしましょうか?」
いつもの輝かしいばかりのものとは真反対の、ドス黒く濁った翡翠の瞳に見つめられながらそう思った。
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おそらく深夜に差し掛かろうかといったタイミングで、奴は現れた。気配を感じた時点で、もうアローラでコイツを止められるものはいないんだろうと全てを諦めたのだった。
「この小娘……調子に乗るのもいい加減にしたら?」
「ハルジオンさんも、そろそろケンさんに迷惑をかけるのはやめませんか?」
「迷惑なのはアンタでしょ! そんなに密着すると、乳臭くってケンが眠れないじゃない!」
「ハルジオンさんが呆け老人のように夜な夜な徘徊するから、ケンさんも不安で眠れないんです! ジョーイさんに後で謝るのはケンさんなんですからね、迷惑かけてないで早く戻って下さい!」
「アタシは迷惑なんてかけてない……そうよね、ケン」
「ここはハッキリ言った方がいいですよ、ケンさん」
訂正。コイツらを止められるものはもういない。
いつものようにハルジオンがジョーイさんを脅して、勝手にボールから飛び出して遊びにきたのはいいんだが……ベッドの中で、リーリエに絡め取られている俺を見て早々にブチ切れたのだった。
リーリエは俺を抱き枕にして、それはもう気持ちよさそうに爆睡していたんだが、ハルジオンが来た瞬間に即覚醒。そしてこの応酬である。常在戦場にでも身を置いているのだろうか。
まあハルジオンの行為も迷惑と言えば迷惑なのだが、妥協範囲ではある。怪我人が出ないからな。
「まあまあ。ハルジオンも何か大事な用事があるかもしれないし」
「ハルジオンさんの事ですから、ケンさんに会う以外に大事な用事は無いって言い切りますよ」
「よく分かってるじゃないの」
どうしてそこは息ピッタリなんだろうな。そして、どうしてハルジオンは少し嬉しそうなんだろう。理解者を得たつもりなのだろうか。そいつはお前を貶めようとしているんだぞ?
「ケンと遊びに行くのは大事な事なんだけど、ちょっとカプ・ブルルに呼ばれちゃって。せっかくだし一緒に行きましょ!」
なるほど、もう感知して接触を図ってきたのか。流石は腐っても島の守り神といったところか、どこぞの邪神とは大違いである。
「カプ・ブルルか。温厚でものぐさだが、怒ると手がつけられなくなるってアセロラが言ってたな」
「それって……ケンさんを連れて行っても大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫、余裕よ」
少しの迷いすら見せずに、ハルジオンは言い切った。
「だって、アタシはケンと一緒に戦い続けてきたんだもの。猿山の上で踏ん反り返っている奴に負けるわけないでしょ……アザレアくらい強かったら、ちょっと自信ないけど」
アザレア。俺が育てたカプ・ブルルのニックネームだ。確かにLv100だし、グラスフィールド下での意地っ張りA極振りから繰り出されるタイプ一致ウッドハンマーは、ハルジオンのサイキネより火力指数は上だ。
ただ、草タイプは技の通りが悪くフェアリータイプの相性補完も微妙で、ブルル自体の種族値が遅めなのもあってハルジオン程の活躍は出来ない。
まあ遅いからといって、トリックルームやスカーフを使えば何とでもなるのがポケモンバトルの恐ろしいところだが。コイツで3タテした時の爽快感は何者にも変え難い。
「アザレアもハルジオンも、俺が鍛えたからこその強さだ。それに圧倒的優位に立てるセレスもいるし、あまり心配は要らないだろう」
フェアリー、草共に半減以下に抑えるセレスは、カプ・ブルルの天敵と言っても過言ではないだろう。セレスの宿木の種こそ通らないが、適当にヘビーボンバーか火炎放射を撃っているだけで倒せる。レベル差があれば尚の事だ。
「そこまで安心なら、わたしも付いて行っていいみたいですね」
「え」
「ダメ! 絶対に連れてってあげないんだから!」
「器が小さいですね、それではケンさんを受け止めることは出来ませんよ?」
「器が小さい? 馬鹿ね。生憎だけど、ケンだけのスペースしか用意していないの! 他はどうでもいいんだから!」
「そういうところで、ケンさんの評価を落としていると気付けないなんて哀れですね」
「ぐぬぬぬぬ」
売り言葉に買い言葉。何度か言葉のキャッチボールならぬドッジボールを繰り広げたところで、ハルジオンが折れた。
「そこまでして、どうしてリーリエは付いて来たいんだ?」
「ケンさんと少しでも離れたくはないので」
なんだろう。逃がしませんよとでも言いたげなこの目に、少しだけ恐ろしいと感じてしまった。この流れはよろしくない、話と空気を変えよう。
「ハルジオン。俺だけじゃなく、リーリエまで連れて行けるのか?」
「ちょっと待っててね………………よし。カプ・ブルルをこっちに呼べたわ。これで移動しなくて良くなったね」
衝撃の発言だ。どこの世界に、謁見を命じた王を呼び出す奴がいるのだろうか。横暴にも程がある。
「それでいいのか……」
「さ、流石はハルジオンさんですね。逆に呼び付けるだなんて」
随分と強気だが、本当に大丈夫なのだろうか。怒っていたら困るし、取り敢えずはセレス達を回収してくるか。ついでにジョーイさんにも謝罪しなきゃだしな。