真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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庭園の思い出。

 和気藹々とした時間は、ミヅキとハウがホクラニ岳へ向かってしまってから一向に訪れない。

 

 

 どうしたものか。俺の脳内予測だと、このまま百合ーリエ展開に突入しキャッキャウフフな状態になり、俺は二人を見守る観葉植物となる。そんな演算結果が出ていたのに。

 

 

 実際は何故かクイズバトルへと突入。これもまた何故かリーリエがアセロラに対抗心を燃やし、アセロラも負けじと対抗する中、ハルジオンが見ていてつまらないのか時々発作のように騒ぎだす。カオスだ。せめて俺を間に挟むのをやめろ。

 

 

「……じゃあ、ポニ島にある祭壇の名前は「日輪の祭壇!」……ですが、そこで必要なアイテ「月と太陽の笛!」はい、ありがとう二人とも」

 

 

 どうして早押しクイズみたいになっているんだ。クイズ形式にするにしたって、出題者はアセロラにすべきだろう。何故俺が、問題を出す役になってるんだ。

 

 

「……中々、やりますね、アセロラさん」

 

 

「ふう、リーリエちゃんも……凄いね、よく、勉強してるよ」

 

 

 そして何故、アセロラから教えてもらうより多く、リーリエが回答しているんだろうか。もう本来の趣旨から大きく脱線しているのだが。

 リーリエが回答できるという事実について考えられるのは、俺がいないところで勉強していた以外に無い。コスモッグについては一任してくれているとばかり思っていたが……流石はリーリエだな。自覚の塊だ。

 ただ、今は発揮するタイミングではないだろう。素直にアセロラの話を聞いてくれ。

 

 

「今回は、引き分けですね」

 

 

「ふふ、次は負けないんだから!」

 

 

 リーリエと、アセロラに友情?が芽生えた!

 

 

 先程までの冷え切った果たし合いのような雰囲気とは打って変わって、ガシッと、熱い握手で幕を下ろしたこの勝負。必要かどうかで言えば、恐らくは必要だったのだろう。結果的にだが、リーリエとアセロラの仲は想定よりも深まった……のか?

 

 

「……ようやく、月と太陽の獣の秘密に迫れたな。キリもいいし、そろそろ昼飯にしようか。アセロラもご馳走するよ」

 

 

「ケンさん、やっぱり手慣れてますよね?」

 

 

「ナンノコトカナー」

 

 

「うん! アセロラお腹すいたー!」

 

 

 うんうん、アセロラちゃんは純粋だなあと頭を撫でてあげていると、ミシリと骨の軋む音と共に、右腕が微動だにしなくなった。この感覚は久方ぶりだが、やっぱり慣れないし痛い。

 

 

「アタシのことを忘れて、三人で楽しそうにして良いご身分じゃないの?」

 

 

「いやいやいやいや、楽しんでたのは主にこの二人で……」

 

 

「クイズ、楽しそうだったなー」

 

 

「……ハルジオン向けに用意してやるから、今度でいい?」

 

 

「やったー! ありがとね、ケン」

 

 

 あのディープキス事件以降、リーリエとの行動を再開してからは、ハルジオンの感謝の言葉を良く聞くようになった。また別の誰かの入れ知恵か、あるいは心を入れ替えたのかは知らないが、悪い傾向ではない。未だにナチュラルに脅しをかけてはくるが。

 

 

「ケンさん、私も挑戦してみてもいいでしょうか?」

 

 

「勿論、クイズはみんなで楽しまないとね」

 

 

「アセロラはー?」

 

 

「はいはい」

 

 

 特にやる事もないし、殿堂入りした後は祭りでクイズ大会でも開いてみるか。少しでも色々な情報を集めておくに越した事はないからな。

 

 

「それより、どこに食べに行こうか。マリエシティには有名な懐石料理の店があるみたいだが」

 

 

「女の子とのデートに、そこを選ぶのはちょっと……」

 

 

「あそこ美味しいけど、地味なんだよね」

 

 

「甘い物以外はイヤ」

 

 

 女性陣のダメ出しが酷い。マリエシティの似非日本食レストランは、あのクチナシが通う程の場所だというのに……そもそも、ゲームの記憶しかない俺は、この街のレストランなんてそれ以外知りもしない訳だが。

 

 

「仕方ないなあ、じゃあアセロラとリーリエで決めていいよ。アセロラは現地人だし、リーリエはリサーチしてきたんでしょ?」

 

 

「わかりました、任せてください!」

 

 

「いや、ここはアセロラちゃんオススメのカフェがいいよ!」

 

 

「いえいえ、せっかく私がケンさんの為に観光地を調べてきたのですから」

 

 

「いやいやいや、アセロラのほうがマリエ歴長いから任せてって」

 

 

 ヤバい。新たな火種を放り込んだ気がする。と思った時にはもう遅かった。庭園の景色を見ながら茶をしばくか、今風の店でパンケーキを食べるかのバトルが勃発している光景から目を逸らすと、邪神と目が合った。

 

 

「ねえ、アタシには聞かないの?」

 

 

「アーカラ島ならともかく、お前完全なアウェーじゃねえか。今回くらい大人しくしてろ」

 

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 随分と悔しそうだ。まあリーリエが勝とうが、アセロラが勝とうが、ハルジオンの希望は概ね叶う。というより叶うように場所を選んでくれているのだろう、二人ともいい子だ。

 

 

「パンケーキなんて何処でも食べれます! せっかくケンさんとのデートなのに、ありきたりな場所に行くなんて考えられません!」

 

 

「何処でも食べれないよ! マリエシティにしかこのお店無いし、そんなジョウトのパクりみたいな場所に行くならこっち!」

 

 

 ……いい子、だよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十分の議論の末、リーリエが決めた茶屋へ行く事になった。それでもパンケーキを諦めきれないアセロラには、後日一緒にパンケーキを食べに行く約束をさせられたので、もう初めからこうしておけばよかったのにと思いました。まる。

 

 

 マリエ庭園は、日本人にとって感慨深い場所でもある……かのように思えたが、そもそも京都や奈良にでも住んでいない限り、そんな懐かしさを覚えるような所ではなかった。最早ただの観光地と同レベルである。

 それでも、やはり根は日本人なんだろう。少しだけ風情を感じる。確かに近所に寺や和風の建物が無いわけではなかったし、城も一時期通うくらいには好きだったし、何より草木の手入れがされていて庭園の名に相応しい。素晴らしいなここは!

 

 

 その素晴らしい庭園の中央に鎮座するのが、今回のメインである茶屋だ。茶屋で昼食を摂るつもりとは聞いていたものの、あまりそういった店には縁が無かったため、イメージが団子と大福とおはぎしかなかったが、蕎麦や天麩羅などのオーソドックスな日本食も置いているようだ。

 

 

 メニューを眺めていると、何やらボールホルダーが忙しない。どうやら、動いているのはセレスのようだ。そういえば、こいつは庭園産のポケモンだったか。俺と同じように、なにかを感じているのだろう。

 

 

 リーリエに、ざる蕎麦と大福を注文するよう、言伝と財布を託して人気のない場所へと移動する。ハルジオンは当然のようについて来るのは止めない。言っても聞かないし、野良トレーナーとのバトル避けに使えるからと割り切った。もう今更だしな。

 

 

 少し端の方に行くと、丁度良い広場を見つけた。ここらで良いだろう。

 

 

「ほら、おいでセレス」

 

 

「ふぅン」

 

 

 着地点に何もいない事を確認して、セレスを繰り出した。エーテルパラダイスで出すと、島が崩壊の危機に晒されるため、あまり最近は出してあげられてなかったからな。ここらでゆっくりリラックスして欲しいものだ。

 

 

「ここが懐かしく感じるだろう? セレスの前の主人と出会った場所だからな」

 

 

「……」

 

 

「あれ、どうした?」

 

 

「ねえ、セレスティーラはもうケンだけのものなのに、どうしてそんな事言うの? 嫌いになっちゃったの?」

 

 

「は? どうしてそんな事になる?」

 

 

 何か不味い事でも言ってしまったのだろうか。

 

 

「前の主人の話なんてされたら、セレスティーラだって怒るよ。はやく謝って!」

 

 

「ええ……ああ、悪い。配慮が足りなかったな」

 

 

 どうしてそうなるんだろう、別にただの思い出ではないのか。というか怒っているのか? 顔面が遠過ぎて表情が全く見えない。

 

 

「セレスティーラは、前の主人に捨てられてケンのところに来たのに、どうしてそんなデリカシーの無いこと言えるの? 次言ったらアタシが許さないから」

 

 

 結構本気で怒っているみたいだし、あまり出さない方が良い話題だったのかもしれない。藪蛇だったか……ただ、気になる事を言っているんだよな。捨てられたって、ただ交換に出された訳じゃないのだろうか。聞いてみたい気持ちもあるが、ここで何か言えばハルジオンに殺されそうだしなあ。

 

 

「分かったよ、悪かった。そんなに深い意味はなかったんだ、気にしないでおくれ」

 

 

「…………ルぅん」

 

 

 セレスが、ブラスターで俺を抱えた。許してもらえたのだろうか。もし、許されなかったらどうなるのだろうか。

 

 

 いつもセレスに乗る際、毎度のように差し伸ばされるブラスター。だが、もしもの事を考えると緊張が走る。攻撃力、質量共に子供一人軽く押し潰す程度の事なら朝飯前だろう。力加減次第で一瞬でミンチになる事だって考えられるし、空中で離されても落下の衝撃で死ぬ可能性だってある。

 

 

 セレスは、いつもの様に十二単に乗せるのではなく、自身の頭に乗るよう、器用に俺を置いた。地上からおよそ9m、大体3階建の建物から見る景色と一緒だが、足場と柵が無いせいで恐怖度が段違いだ。

 

 

「ふぅうーン」

 

 

「ハルジオン、セレスは何て言ってるんだ?」

 

 

「撫で撫でして、だって」

 

 

 ふわふわと、同じ高さまで浮いて来るハルジオン。諸刃の剣ではあるが、やっぱり便利だな。ポケモンの言葉を翻訳してくれるし、落ちた時はサイコキネシスで助けてくれる。少し恐怖が和らいだ。

 

 

 セレスは、頭を撫でて欲しい……との事だったが、どこを撫でればいいんだろうか。手すり代わりに掴んでいる部分が角だとすれば、俺が尻を置いているところが頭だろう。

 

 

 触ってみると、スベスベとした冷たい金属の感触が伝わってくる。これは撫でていると感じ取れるのだろうか。こんな巨体にこんな硬さを持っているのだから、蚊に刺された程度にすら感じないだろう。

 

 

「フーん」

 

 

 あ、これは喜んでいるみたいだ。ということは、撫でていると分かるのかな。こちらとしても少し嬉しい。最近はポケリフレ出来ていなかったし、落ち着いたタイミングで磨いてあげよう。

 

 

「一緒に散歩したいって」

 

 

「散歩か……まあ少しくらいならいいか。茶屋まで歩こう」

 

 

 リーリエはともかく、アセロラはどんな反応を見せるだろうか。もし、いきなり巨大なポケモンの頭に乗って、さっき知り合った人がやって来たら……そもそも、高さが高さだから乗っているのが俺だと認識出来ない可能性もあるな。まあリーリエが指摘してくれるだろう。

 

 

 セレスが進むべく宙に浮き始めた。ブラスターを浮かす要領で、短時間浮遊するくらいなら簡単にできるらしい。最初見たときは流石は飛行タイプだと感心した。これなら地震も当たらない。

 

 

 しかし、改めて見回してみると、この高さからの眺めがとても良い。庭園を一望できるのは言うまでもないが、塔の造詣や塀の装飾などの、地上からでは気付かないような細かい拘りも発見出来る。こんなに高い所からは普通見ないからこそ、新しいものが見えてくるというものだ。

 

 

 セレスは、敢えて茶屋までの最長距離で進んでいるのだろう。庭園を一周する気満々だ。ハルジオンまで嬉しそうにしているし止める気も無いが。

 

 

 しかし、どうしてUBと守護神という相入れないような二匹の仲がいいのだろうか。これが分からない。そういえば、積極的にセレスを外に出そうとするのもハルジオンだったし、皆が近寄らないハルジオンに積極的にじゃれあいを仕掛けるのもセレスだった……ハルジオンに喧嘩を売れるのはエルモとセレスくらいで、エルモは無関心が過ぎるっていうのもあるかもしれないが。

 

 

 喧嘩する程仲が良いとも言うのだろうが、この二匹はそれ以上に信頼し合っている様にも感じる。いずれ理由を聞いても良いのだろうが、変な地雷を踏んでブチ切れられるのも避けたいので向こうから言ってくるまで待つか。

 

 

 セレスを撫で回しながら考え事をしていると、目下に赤い屋根の茶屋が見えてきた。どうやら、そろそろ一周してしまうようだな。

 

 

 茶屋の前までやって来ると、セレスがブラスターを器用に使い、地面に下ろしてくれた。楽しかったよとお礼を言ってボールへ戻し、リーリエ達と合流する。

 

 

「待たせたな」

 

 

「……あれ、ケンのポケモンなの?」

 

 

「全く、目立ちたがりもいい加減にして下さい」

 

 

「いや、セレスが散歩したいって言うから……まあアイツ歩けないんだけど。それで庭園一周してきた」

 

 

 少しお怒りのリーリエ。宇治抹茶味パフェを食べながらの説教は威力半減だと伝えてあげたい。ほっぺにクリームついてるから更に半減だな、可愛すぎて。

 

 

「もう、あんまり目立つと碌な事になりませんからね。ほんとに! 蕎麦と大福置いてますから、早く食べましょう」

 

 

「何でそんなに怒っているんだ……アセロラ? ずっとお口あんぐりしてるけど大丈夫か?」

 

 

「あー、さっきまで巨大なナニカが近寄って来るって騒いでましたから。面白そうだったので何も言いませんでしたけど」

 

 

 悪戯が成功したかのようにクスクスと笑うリーリエ。小悪魔可愛い。流石にこのままだと可哀想なので、後で色々と話すとするか。

 

 

 


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