真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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平日は更新しないつもりでしたが、10点入ったので気合で書きました。
評価と感想を下さる方には感謝の念が絶えません。更新もなるべく絶やさないように頑張ります。


古代のプリンセス。

 マリエシティの図書館は、それはもう大きなものだった。アローラ随一を名乗るだけのことはある。

 

 

 表向きの目標は本探しだが、人脈作りのためにも人探しをしなければならない。ハプウはともかく、アセロラを懐柔するのはクチナシに対して非常に効果がある、と踏んでいる。

 

 

 クチナシは、ウラウラ島の島キングだ。しかも元国際警察でハンサムの同僚という立ち位置もあり、ウルトラビーストに対して浅からぬ因縁がある。恐らく、アローラで怒らせてはいけない人の一人にランクインするだろう。最悪消される。

 

 

 それに、アセロラはリーリエに負けず劣らず、可愛いのである。そう、可愛いのである。可愛いは正義。異論は認めない。

 

 

 正直言って、雨宿りイベントまではアセロラに気持ちが傾いていたくらいには好きなキャラクターだ。ポケモントレーナーとしての質も高いため、いざと言う時は戦力になり得る。仲良くしておいて損はないだろう。というかお近付きになりたい。

 

 

「じゃあリーリエ。俺はカプ神について調べてくるから、後で……そうだな、2時間後に入り口で落ち合おう」

 

 

「分かりました。わたしはウラウラ島について色々調べておきますね」

 

 

 リーリエは今後の冒険のために、島全体についてある程度の目星を付けておきたいと言っていた。あの口ぶりだと図書館内に収まらず、外での聞き込みも行うつもりだろう。少し心配だが、まあメラルバがいるし大丈夫か。

 

 

 リーリエのメラルバ、ミヅキのジュナイパーを追い込めるスペックがあるからな。リーリエの経験不足が否めないが、あと数手あれば確実に瀕死まで追い込んでいただろう。もう進化前の範疇を超えているし、進化の日も近いのかもしれない……進化するのLv59なんですが、ここゲームの世界じゃないし例外もあるんだろうきっとそうだ。

 そんじょそこらのポケモンだと概ね歯が立たないし、ルザミーネから念願のライブキャスターを貰ったので、緊急の際は連絡が取れるから安心か。連絡が取れない状況にあっても、互いの位置情報が分かるという優れものらしい。もうミヅキのストーキングをしなくて済む。

 

 

「じゃあケン。一緒に色々見て回ろっか」

 

 

「あい」

 

 

 リーリエの心配をしなければならなくなった元凶が、先程までリーリエの組んでいた腕にピタッと張り付いている。リーリエと図書館デートに洒落込もうとしていた矢先、カプ神を調べるならカプ神と一緒の方がいいじゃない、という謎理論をかっさげて勝手にボールから出てきた。

 

 

 いや、自分のやってきた数々の所業を暴かれようとしているって時に出てくるか普通……と考えたが、勝手に自分のスマホとパソコンのストレージや検索履歴を弄る輩が現れたら、どれだけ恥ずかしくとも、本当にヤバいものを見つけられる時に邪魔したくもなるかと一人納得した。いや別に昔サイトに投稿したポエムとか昔好きだった子の隠し撮り写真とかそんなの無いけど。

 

 

 結局のところ、どう足掻いても邪神からは逃げられないし、色々補足とかしてくれると助かるから合理的だと割り切った。諦めているとも言う。

 

 

 図書館内に足を踏み入れると、本特有の匂いが鼻をくすぐる。この世界では初めて嗅ぐ匂いだ。中は湿気防止の為か空調がよく働いており、日差しの降り注ぐ常夏の外と比べると天国のようだ。

 

 

 記憶が正しければ、アセロラは上の階にいるだろう。アセロラと前にハプウと遭遇する筈だったのだが、ここまで会うことが無かったということは、何処かですれ違っている可能性が非常に高いという事だ。会っていないキャプテンも多いし、ハプウは島クイーンとして、ストーリーにガッツリ関わってくるのでいずれ何処かで会うだろう。今はそれよりもアセロラだ。

 

 

 二階には、アローラと守り神の歴史について記載のある本が並んでいた。粗方の歴史を探るには十分の量だろう。

 

 

 ふと見渡すと、フロアの隅に継ぎ接ぎだらけの服を着た女の子がいた。間違いない、アセロラだ。

 

 

「ちょっといいかな」

 

 

 腕に纏わり付く自己主張の激しい邪神を無視して、アセロラに話しかけに行く。悪いなハルジオン、これには深い訳があるんだから腕を捻り切ろうとするのはやめてくれないかな。

 

 

「うん? どうしたの……って、本当にどうしたの?」

 

 

「いやあ気にしないでくれ。それよりこの邪神とカプ神、あとは島に伝わる伝説や伝承について教えて欲しくってさ」

 

 

「邪神って言った! アタシのこと邪神って言ったわね! もう言わないって約束したのに!!」

 

 

 喧しい。念波が不特定多数に届くせいか、周りからの注目度が半端じゃない。図書館ではお静かにって習わなかったのかな?

 

 

「あの……どういう状況か分からないけど、そこにいるのカプ・テテフだよね? どうしてウラウラ島にいるの? おにいさんはだれ? どうしてアセロラに聞いたの?」

 

 

 アセロラからは疑惑の目……というか困惑したような顔をしているな、仕方ないか。ただ、思ったより根掘り葉掘り聞かれるな。

 

 

「あー、君はアセロラっていうのか。よろしくね。俺はケン、訳あってカプ・テテフ……ハルジオンを捕まえてしまって、一緒にいるんだけどね、やっぱりお互いの事をよく知っておくべきだなって事でコイツについて色々調べにきたんだ。君に声をかけたのは他意はない……けど、何故か君の事が気になっちゃってさ」

 

 

「そっか! アセロラのこと知ってて声を掛けたのかなって思っちゃった。おにいさん、ケンっていうんだね。よろしくね! カプ・テテフの事だよね……お父さんの本にも、カプ神についてとか、アローラの言い伝えについてとか書いてあったかも」

 

 

「そうなの? アセロラのお父さんって凄い人なんだね」

 

 

「うん! アセロラも、こう見えて昔凄かった一族の娘なの!」

 

 

 えっへんと、無い胸を張る姿は隣の邪神を彷彿とさせる。

 

 

「それじゃあ、カプ神の言い伝えについて、どんな事を聞きたいの?」

 

 

「まずは……当たり障りのないところから始めようかな」

 

 

 アセロラも思わず苦笑いを浮かべる。お互いに、腕に絡みついている神の視線を無視することは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 分かってはいたが、やはりロクでもない神様だなこいつ。

 

 

 カプ神が伝説のポケモンから力を授かり、島の守り神として数百年も前から君臨しているとの事だが、今に至るまで結構な数の、それも大規模なコミュニティをぶっ壊している形跡があり、それはアーカラ島内に留まらないところがより恐ろしい。

 ポニ島はその影響か、それともレヒレの排他的主義があるのか分からないが人口が減ったまま元に戻らないようだ。合掌。

 

 

 コケコは人と関わる事で成長を促したが、テテフは再生能力という強力な力を与えこそしたものの、結果として滅亡しているようで草も生えない。

 どの時代でも畏怖の対象だったのだろう、好奇心旺盛で、人と関わろうとするカプの中でも一際悪質な神様としての記述が多いものが目立つ。レヒレのように人を避けるか、ブルルのように無関心であれば人も安心して暮らせたものを。

 

 

 ただ、アセロラと一緒に顔色を窺いながら話をしているが、どれについて話してもドヤ顔なのだ。地雷があるのか心配するだけ無駄だったが、こんな倫理観を持つ危ない力を持つ奴と、これからも付き合わされる事を心配しなければならなくなった。最早コイツが地雷そのものだろうと考えたが今更だったな。

 

 

 尚、文献の一部から、元気の出る粉に依存性と副作用がある事が発覚したため使用を厳禁とした。何だよ身体が変化に耐えられないようになり死ぬって。どんな死に方だよ。

 いきなりバラバラになって死んだりしないよなと、ハルジオンに問いかけても顔を逸らされるのでこの話はやめた。

 

 

 話を変えるべく、今度はアセロラの家系について話をしていると、見知った顔が階段から登ってきた。

 

 

 ミヅキとハウ、そして先程別れたリーリエだ。

 

 

「ケン! まさか、リーリエを放っておいてナンパした女の子とデートってワケ?」

 

 

「うわー、これはちょっとなー」

 

 

「ふーん。ケンさん、随分と楽しそうですね?」

 

 

 おかしい。まだ一時間程度しか経っていない筈だが……と考えてみて、思い出した。それもそうだ、ハプウに会うのも、アセロラに会うのも『主人公』だった。俺ではない。

 

 

 となれば、ミヅキと一緒に図書館に来ても何らおかしい事はない。

 

 

 おかしくなるのはこの後の展開だろう。心なしか、別れる前まであんなにも澄んで綺麗だった、リーリエのエメラルドのような瞳が濁りきっているように見える。

 こういう時に限って、ハルジオンは何も言わずに傍観を決め込んでいるのが腹が立つ。とにかく、この場を凌がねば。

 

 

「違う。誤解だ。弁明させてくれ頼む」

 

 

「え、アセロラもそこまで言われると傷付くなー」

 

 

「余計に話がややこしくなるから止めて!」

 

 

 ヤバい。見られてやましい事は無いが、拗らせると後の関係にヒビが入る。ここは何としても誤解を解かなければ。

 

 

「でも、ケンはアセロラのこと、気になって声をかけたって……今思えば、ナンパだったのかな? えへへ、ナンパされたのって初めてだったけど、悪い気はしないね!」

 

 

「待って。違いますリーリエさん、よく聞いてください。彼女は古代の王族の末裔であり、アローラの歴史について深い知識を持つ方なんです」

 

 

「へーそうなんですね。でも、ケンさんだったら一人で探せますよね?」

 

 

 ジト目のリーリエ。蛇に睨まれた蛙の気持ちが痛い程分かった、これは動けない。

 

 

「どれだけ時間が掛かってもいいなら探せるけど、流石に短時間じゃ無理だ。詳しい人に話を聞くのが手っ取り早いし、本にはない事も聞けるかもしれない」

 

 

「ふーん。あくまでそのスタンスを変えないつもりなのですね。今なら謝れば許してあげますけど」「すいませんでした」

 

 

「はやっ!」「認めちゃうのかー」

 

 

 頭を下げるだけで許されるならば安いものはない。もう何故謝罪しているのかすら分からないままに(こうべ)を垂れているのだが、後悔は何一つとない。

 

 

「認めてない! これは、誤解を招く行動を起こした事に対する謝罪ですので悪しからず!」

 

 

「ここまで酷い開き直りっぷりは逆に尊敬するわ」

 

 

「レアだよねー」

 

 

 この外野共そろそろ黙っててくれないかな。

 

 

「いいでしょう。許してあげますけど、条件があります。わたしも同席してもよろしいでしょうか?」

 

 

「全然いいよ。アセロラもいいか? いいよな!」

 

 

「うーん。別に良いケド……なんか複雑」

 

 

「……チッ」

 よしよし。そもそもこの流れこそが原作通りのものだ。ここでアセロラとリーリエに、是非とも仲良くして貰わなければなるまい。悔しそうなハルジオンを見て、リーリエもある程度状況を理解し始めたみたいだし順風満帆だと言えるだろう。

 

 

「はじめまして、わたしはリーリエです。ケンさんには何時も非常に良くしていただいてます、今日はよろしくお願いしますね?」

 

 

「あたしはミヅキ! こっちはハウ! 二人で島巡りしてるよー!」

 

 

「ねー、おれにも自己紹介させてよー」

 

 

「古代のプリンセス、アセロラちゃんだよ! みんなよろしくね!」

 

 

 図書館に似つかわしくない、少し騒がしい雰囲気だったが、周りはハルジオンとアセロラの時点で全てを諦め、二階から消えていたので問題はなかった。後で謝っておこう。

 

 


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