原作知識の通じない、試される大地アローラの冒険が幕を開けた。
開始地点はウラウラ島で、強くてニューゲームみたいなものだが細かい事はどうでも良いだろう。その場の気分とノリが大事だ。
結局、エーテルパラダイスでウツロイドの姿はお目にかかれなかった。もうどれだけ待とうが無駄だろうと、リーリエ、ミヅキ、ハウと共にウラウラ島へとやってきた訳だ。一応、ここは原作通り。
見送りにルザミーネがやってきて、お別れのハグをしたのは多分というか絶対原作とは違うだろう。リーリエの凍てつくような視線でタジタジになるルザミーネは、少しだけギャップ萌えした。後にその視線が俺にも向けられていたと気付くのに時間は掛からなかったが。
どこまでが一緒で、どこからが違うのか皆目検討も付かないが、おそらくミヅキがチャンピオンになる流れだけは変わらないだろう。ミヅキ強いし。
ミヅキの現段階での手持ちは、ジュナイパー、カビゴン、シャワーズ、バタフリーの四匹。よくこんな手持ちで戦えてたなあと感心するものだ。地面タイプと、鋼タイプ……序盤のアローラで手に入るポケモンなら、バンバドロやレアコイルなんかを入れたらもっと安定しそうなんだが。
ハウの手持ちは原作通りだ。アシレーヌ、ブースター、アローラライチュウの三匹。
ちなみに、ジュナイパーにはエーテルパラダイス中で進化した。俺の特訓という名の暇潰しに付き合ってくれた賜物だな。ハウのオシャマリもアシレーヌに進化したので、ライバルの差は埋まる事は無かったが。
こうもタイミング良く同時期に進化すると、ご都合主義というか作為的なものを感じる。まあ一緒に冒険していれば経験値も等分されて入るだろうし、レベルというカッチリとした数値がこちらでまだ確認できない以上は、メンタル面の問題もあるだろう。
ある程度の苦難を乗り越えなければいけないとか、ライバルが進化すれば、呼応されるように進化したりとか……まだまだ分からない部分が多いな。
その二人は、送迎船を降りて早々バトルをおっぱじめている。順当に行けばミヅキが勝つだろう。一匹多い手持ちは、それだけのアドバンテージがあるのだ。それを抜きにしても、タイプ相性と戦術面でミヅキの方が優勢のようだが。
何というか、ミヅキのポケモンは目に見えて動きが良いのだ。指示へのレスポンスも素早くシームレスで、咄嗟の機転や勘も働く。勿論、俺の手持ちには劣るが、それでも優秀な方だろう。
「うわー、また負けたー」
「へへーん、これで三連勝! あたしってやっぱり天才?」
天才だ。なんてことは、調子に乗るだけなので言わない事にする。
「ハウが四体目を手に入れてからだな、本番は」
「多くのポケモンを育てるのも実力の内だって、ククイ博士も言ってたけど」
負けじと反論するミヅキ。それも間違いではないが、純粋にバトルだけを見ればその理論は的外れだ。
「トレーナーの総合力的にはそうなんだろうけど、バトルだけに焦点を絞ればその限りではないって事。悔しかったらハウを三匹以下で倒してみやがれ」
「うるさーい! ばーかばーか!」
「ケンさん……そこは素直に褒めてあげたらいいのに」
凄いと言えば凄い……のか。異なるタイプ、異なる生息域、異なる食性。それらを正しく理解して、管理し、必要に応じポケモンに与えることが出来るというのは、やはり凄いように感じるのだろう。
ただ、それは図鑑や生息地で判断できる簡単なものだ。ポケモンも当然ながら個体差があって、ポケモンによって、過ごしやすい環境や好みも当然異なる。それは種族によるものもさることながら、ポケモンの性格によっても変化すると考えている。
例えばシルキー。ファンシーな容姿にフェアリータイプとゴーストタイプを併せ持つ、この愛らしい生き物に付随するイメージは、暗がりや廃墟で慎ましく暮らす恥ずかしがり屋で寂しがり屋、というのが一般的だろう。
ミミッキュという種族が持つ、ピカチュウの擬態をしているという逸話もそのイメージを作るのに拍車を掛けている。好きなものはスイーツで、いつも友達募集中のボッチかわいい存在。それがイメージの中でのミミッキュだ。
だが、シルキーはイメージとは全く異なると言ってもいいだろう。
性格が意地っ張りなおかげで辛いもの好きであり、ハルジオンと同じく『暴れることが好き』で腕に自信もあるため、街中を白昼堂々我が物顔で歩き回り、喧嘩っ早く、才能に満ち溢れているためか選民意識もプライドも高い。それがシルキーだ。
気を許した相手や実力を認めた相手には、フェアリーでラブリーな一面を見せるが、道端の子供等に絡まれようがそんな一面は一切見せない。息をするように子供相手にシャドークローで威嚇するし、ライチさんも撫でようとした手を払われていたし、これは相当なものだな。どうしてリーリエには懐いていたんだろう。天使だからか。QED.
邪智暴虐の女王が近くにいるせいで随分と霞んで見えるが、真の問題児はこの子かもしれない。
他の一般ポケであるニシキとシーザーは、お互い性格が陽気で、気も合う仲らしく、食べ物の好みも甘い物と凶悪な顔付きに似合わないものだ。シルキーとは違い強大な身体を持つ彼等は、自身の持つ力の影響を理解しているのだろう。
持ち前の性格もあってか、和を尊び力を無為に振るわない。なんというか、大人だ。最終進化形という事もあるのだろう。時々激しい撫で撫でを要求こそされるが、大人だ。出血すれば心配そうな顔をしてくるため、対鮫肌用グローブもライチさんの
この二匹とは対照的に他のポケモンに喧嘩を売るシルキーを、身体を張って止めようとしたシーザーが、逆に戯れつかれて返り討ちに遭う光景をコニコシティではよく目撃していた。街を離れる頃には、逆にシーザーが子供たちの人気者になっていたくらいだ。仕方がない、カッコいいし……ちなみに俺は、ガブリアスよりフライゴン派だが、泣かれると困るので言ってない。更に言えばテテフよりサーナイト派だが、殺されるので言ってない。
このように、ポケモンに付随するイメージのみで育成するには不十分であり、ポケモンを個別に見ていく事が肝心だろう。勿論、シルキーは昼より夜が好きだし、相応の才覚とプライドがあるシーザーやニシキも、同格相手に対する闘争本能は人一倍に大きい。どちらも彼等の一面だが、それのみを見て育てると大きく歪みが生じる。
伊達に15年もポケモンをやっているわけではない。最近になって、この世界での育成というのは、性格に応じての味の好みやフレーバーテキスト等、昔からポケモンをやっているものとして最低限の知識が最大限に振るわれると言っても過言ではないと理解した。
ただ、テキストで表示されるゲームとは違い、個々の性格や、個性まで正しく把握するのはやはり難しい。今でも、ニシキの個性が朧げで思い出せず、『昼寝をよくする』か『ちょっぴり見栄っ張り』のどちらかで迷っている。色違いでもあるためか少し見栄っ張りな面もあるが、『昼寝をよくする』シーザーと一緒にいるせいで見分けが付かないのだ。誤差だが、その違いが何れ役に立つ可能性もある。
ちなみに『暴れることが好き』『昼寝をよくする』という文面は、通称個性と呼ばれる。個性とは、ステータス画面で確認できる、そのポケモンの最大個体値を表したものであり、その最も高い個体値を5で割った余りで決定される30種類のフレーバーテキストだ。
つまり、ゲーム内で覚えていても何の意味も持たない要素なのだが……この世界は違う。行動原理が見て取れるのは非常に有利であるし、ある程度の才能がありそうなポケモンも目星が付く。ゲーム通りなら。
個体値の
逆に言えば、その個性に当てはまりそうなポケモン或いは従えている人間を見つけてさえしまえば、味方に引き入れるもよし、警戒するもよしで予め手が打てるようになる。まあ前述も言った通り、こんな小細工する必要も無いため誤差だが。
ただ、1余りの数字は31だけではない。昔は凖伝の乱数調整が成功したかどうか、これを基準にやっていたから良く身に染みているが、5Vっぽい個性の記述があって成功したか!?と思ったらクソ個体でしたってオチになりかねない。なんで初期seedが5つもあるクソゲーを出したんだ……まあ次回作から乱数調整自体消え去ったけど。
個性のみで判別すると、このように最大個体値が16とかいうゴミもヒットする事になるため、決定打としては薄いが、やたら強いモブが今後障害になる可能性も否定できないため、頭に入れておいて損はない。
結局、何が言いたいかって言うと、ミヅキがそのあたりの伏せられた情報を正しく汲み取っているように見えるのだ。
見えるというだけで確証はないが。
例えば、ミヅキのジュナイパー。あれは多分『物音に敏感』なタイプだろう。訓練中、気配察知に優れているなあと思ってはいたが、大きな物音に過剰に反応しているように見える。
そういった面を見て、ミヅキはよく、ジュナイパーには周りの音を良く聴くようにと指示を出す。死角外からの攻撃やフェイントは、全体を見れるトレーナーはともかく、戦っているポケモンは気付きにくい。
これがミヅキの強い秘訣だろう。ポケモンに与えるマラサダの味がポケモン毎に違うのを見るに、おそらく性格や好みも大凡把握していると見た。ハウも負けてはいないが、それでもミヅキにはやはり勝てない。
これが
「はいはい、すごいすごい。やっぱ天才は違うなー」
ただし、リーリエに褒めろと言われてしまえば掌を返すのは造作もない。手首は水を得た水車の様に回るだろう、原動力はリーリエだ。
「いや棒読みすぎ。もっと気持ち込めて! もっと!」
「流石はミヅキ、様々なポケモンを使いこなすなんて、なかなかできることじゃないよ。さすみづ」
「最後ので確信したわ、あんた絶対褒めてないでしょ!」
「……ポケモンをよく見ているとは思う、それは素直に評価しているよ」
「ツンデレかよー」
ポケモンの世界にツンデレという概念があったのか。ハウでも知っているとあれば、最早それは常識と変わりないだろう。
「分かればいいのよ分かれば。そのまま天狗になっているあんたの鼻をへし折ってやるんだから! 行こうハウ!」
「えー待ってよー」
声高らかに宣言したかと思ったら、ハウの手を引いて何処かに行ってしまった。大方、バトル後ではあるしポケモンセンターだろう。
「俺らも目的地に行くとするか」
「そうですね。図書館で情報収集でしたっけ?」
マリエシティには大きな図書館があり、そこで本来の主人公はハプウやアセロラと出会う。ハプウは未来の島クイーンであり、アセロラは未来の四天王である。どちらも強力なNPCだ。顔を繋いでおいて損はないし、何よりハプウは、あのがんばリーリエの産みの親でもある。是非、リーリエに言わせるためにも顔合わせをしておきたい。
「カプ神について、少し知識が足りてないからな。問題ないとライチさんは言っていたが、カプ・テテフが不在のアーカラ島がどのような状況に置かれているかも少し知りたい」
表向きの理由はこれだが、あながち間違いでもない。ウチの邪神が神を滅ぼしてしまったのは事実なので、その尻拭いは主人である俺がしないといけないって訳だ。傍観者ではいられないのなら、自分の状況を知るのはなるべく早い方がいい。
ハルジオンがボールから出てこないのも不気味だ。おそらく自分の縄張りではなく、カプ・ブルルの領域であるからおいそれと出てこられないのだろう。他のカプ神と顔を合わせることを当面の目標にするか。百聞は一見に如かずとも言うし。
「あ、あっちに図書館があるみたいです。早速行ってみましょう!」
自然な感じで、リーリエに手を引かれ、その勢いのままに腕を組まれる。ふと、隣にいる天使の顔を覗き込めば、恥ずかしそうに顔を赤らめ、はにかんでいる。幸せだ。身体が縮んだおかげで身長差無いから顔が近い。もう告白とかやってないけどもう恋人みたいなもんだろこれ。最高すぎる。
こんな時間が、ずっと続けばいいのに。