どちらも嬉しいのですが、やはり感想が一番励みになります。
コニコシティに滞在して一週間が経過した。最初はポケモンセンターを根城にしていたが、邪魔だと言われ三日目からはライチさんに身柄を引き渡され、居候をする事となったのだった。
やっていた事といえば、ハルジオンとデートしたり、無人となった島の外れでセレスを磨いたり、あまりレベル差の無いシーザーやシルキー、ニシキと共にライチさんと模擬戦したりとまあ充実していた。
唯一の不安要素は、リーリエから何の音沙汰もない点だが、リーリエにはエルモが付いているため武力衝突なら負け無しだろう。何か別の理由があるのか、或いは……と考えたところで、いくら心配しても仕方がないことに気付いた。
エーテルパラダイスにセレスで行くにしても着地が難しく、ポケモンライドで飛んで行こうにもブックマークしていないため飛べない。座して待つ。リーリエを信じて待つのが今できる最善策だ。
「また上の空って感じだね。どうしたの?リーリエの事でも考えてるの?」
「ケンって、時々おれらの話聞き流してるよねー。そんなに気になるなら付いていけばよかったのにー」
目の前で好き勝手言いながらマラサダを食べているのは、ようやっとコニコシティへ辿り着いたミヅキとハウだ。現状を確認するがてら、マラサダショップでお茶をしている最中だった。
「うるさい。リーリエにはリーリエなりの覚悟があるんだよ」
「でも、リーリエってポケモンバトルは苦手だったよね?」
「問題ない。俺の信頼できるポケモンを渡しているからな」
少しの動揺も見せないことにムッと来たのか、ハウが「でもさー」と異議を唱える。
「ポケモンバトルって、トレーナーとポケモンの絆が重要だと思うんだけどなー」
「それも問題ない、案外リーリエはポケモンに好かれてる様でな。更に言えば、本人曰く苦手との事だが、リーリエはポケモントレーナーとしても優秀だ。もしかすれば、ミヅキやハウでも勝てないかもしれん」
「え!そんなに!!」「へー、そうなんだー」
ちょっと自信無くすなー、と思っても無いことを言うミヅキと、ニコニコ笑うハウ。その証拠に、二人の目には闘争心がありありと見て取れた。このバトルジャンキー共が。
「まあ、いつかバトルするのも良いかもな。
それで二人は最近どうだ?仲良くやってるか?」
俺としては、ここが一番気になるところだ。そろそろ旅の折り返し地点だろうが、ここまで一緒に進んできておいて何の進展も無いわけがない。もう付き合っている頃だろうが、どこまで進んでいるのか凄く気になる。
「もちろん! ハウとのコンビネーションは最高よ!」
「どんな敵とも、一緒に戦ってきたからねー」
「へえ。流石、負け無しで進んできてるだけのことはあるな。いつから付き合ってるんだ?」
「うん! ハウと組めば勝てない敵は……付き合う?」
「付き合うって、おれと、ミヅキが?」
ミヅキとハウが顔を見合わせ、互いに少し気まずそうな表情を浮かべた後、たちまち顔が赤くなっていく様子は見ていて面白い。
……あれ、もしかしてとんでもない爆弾を放ってしまったのか?
「あれ。てっきり仲良しすぎて、もう付き合ってんのかと思ってた」
「あ、あははー。そう。そんな風に見えるかなあ?」
「別に、その、ミヅキとは付き合ってないし」
このどこか見ていてやきもきするやり取りは、中学生くらいの初々しいカップルを彷彿とさせる。付き合うのも時間の問題だろう。百合ーリエも寝取リーリエも、興味がないと言えば嘘になるが、せっかくだし俺より先にリーリエと交流のあるライバルを今のうちに減らしておく事にしよう。
本音を言えば、他人の恋愛は最高の娯楽だしな。ぶっちゃけこの一週間普通に暇だった。
「そっか。じゃあどうせだしこの機会に付き合っちゃいなよ、どうせ友達の延長線上みたいなもんだし」
「そんな気楽に!?いやいや無理無理、だって昨日までそんな目でハウを見たことなかったし、ふつーにその、仲の良い友達だって……」
「おれも、初めて出来た同い年の友達って感じだなー」
「そうそうそうよね!ていうかそんな事言って、リーリエとはどうなの?付き合ってるの!?」
「無理に話を振ろうとするな。俺のことは良いんだよ」
「そもそも、他人の恋愛にとやかく言うのはどうなのさー」
「俺が楽しければ何でもいい」
「……真顔でここまで言われると、むしろ清々しさまで感じるわ」
「何とでも言うがいいさ」
「おにー、あくまー、へたれー、たらしー」
「お、なんだ?喧嘩なら買うぞ?」
「ええ……沸点低すぎじゃない?それとも図星?」
「うーん、多分へたれに怒ったと思うなー」
「勝手に考察するな」
「え、嘘。あれだけリーリエが頑張ってるのに?まだなの?まだ付き合ってないの?」
「いいか、ご存知の通り俺にはちょっと厄介な島の神様が取り憑いているんだ。アイツは独占欲が半端ないから、ちょっとしたことでリーリエに危害が及びかねん」
「確かに、カプ・テテフは見初められたら終わりってじーちゃんも言ってたー」
「やっぱり島の守り神って怖いの?」
「怖いなんてもんじゃない。今はボールの中で大人しいが、一度癇癪を起こすと手が付けられなくなる」
「あー、確かに神様って感じじゃなくて、少し子供っぽいような気もするわよね。それなら案外飽きっぽいんじゃない?」
「でも、とーさんの幼馴染みは死ぬまで帰って来なかったってー。おれもポケモンに好かれやすいみたいだから、気をつけなさいって言われたー」
「怖っ!!」
「アイツ気に食わないからって平気な顔して人の腕を粉々にしたり、もっと遊びたいからって36時間歩かせたりするからな。子供っぽいというのも言われて当然だろう。あまり欲望に忠実になるのも大概にしてほしい」
「えー。で、でもそれも愛情表現の一つなんじゃないかなー!」
「そうね、健気っていうか。頑張ってるっていうか!」
「そうか?まあ嫌われているよりマシかとは思うが、時々これは愛なのかと問い質したくなる事もまああるぞ。暴力的だし、怖いし」
「いやいや、ちょっと距離感が分かんないだけなんだって!」
「そうだよー。あまりー、悪く言うのは良くないと思うよー」
「まあ悪く言ってるワケじゃないが。頼れる一面もあるからなんとも言えないな」
「うんうん!やっぱり仲が良いみたいで何よりよ!応援してるわ!」
「そうだねー、仲が、良いのが、一番だもんねー」
「仲が良いとはいえ、周囲の人間関係にヒビを入れかねない行動をとるのはどうかとは思うんだが。傍若無人だし」
「それは神様だから仕方ないって!」
「まあ神様は神様でも、邪神様だからな」
「誰が、邪神ですって?」
「いや、話の文脈から察せ……よ?」
「あーあー」
「そしたら、あたしたちはここらで席を外すわね」
「死なないようにねー」
「加減はするわ。でもどうなるかは分からないけど」
「あまり、その、やり過ぎないでくださいね?」
「ケンのマラサダは貰っていくよー。じゃあ頑張ってねー」
「ええ、また会いましょう……ケン、弁明は聞かないわ。そういえばアタシって、さっきも言われてたけど子供っぽいでしょ?好奇心旺盛だと思うし。だから少し気になった事は、どうしても試したくなっちゃうのよ……その鉄仮面が、どれだけ嫌がらせをすれば歪むのか」
酷い目にあった。あれからずっと、ハルジオンの嫌がらせと称した抱っこを強要され続けていた。
ハルジオン曰く、両手と視界が塞がってしまうと嫌でしょ?との事だった。確かに抱きかかえると視界がピンクの髪で半分埋まるけれども、両手が塞がっても別にといった感じなのだが、問題は食事の時間だった。
あーん、なんてチャチなものじゃない。飲み物も食べ物も全部口移しだった。
外だろうとライチさんの前であろうとお構い無しである。過激さがより一層際立ってきているようだ。お風呂も一緒に入ってくる……というか、離すと殺すって勢いだったのでハルジオンに服を脱がせてもらい、身体を洗ってもらっていたのだった。囚人かな?
勿論、寝る時も一緒だ。抱き付かれる事は無くなったため、片腕の血の気が失せる事は無くなったのだが、今度はサイコパワーで両腕が固定されるため、寝返りも打てず、睡眠は浅くなる。それを見越して危険な薬物を処方(物理)してくるのだから、人権って何だろうと少し考えさせられた。流石にトイレの時間は勘弁してもらったが、扉の前で五秒間隔でノックしてくるのはやめて欲しい。
これを丸二日間行った。
「ケン、その、大丈夫?」
「ケンは大丈夫だよ」
「……そっかー」
だいじょばない。ぜんぜん、だいじょばないよ。
「俺の心配より、自分の心配をしたらどうだ?今から大試練だろ?」
「うん、一人ずつって言ってたけど大丈夫だよー」
今日が、待ちに待った大試練の日のようだ。これを進めば、ようやくエーテルパラダイスへ足を進めることが出来る。
「まあ祭壇の片付けがてら、一緒に行ってやるよ。勿論、両手が塞がってるから全てハルジオンがやるけどな」
「案外まだ大丈夫そうだね。いや、訂正、やっぱり大丈夫じゃなさそう」
お返しと言わんばかりに、ミックスオレを注入される姿はやはり大丈夫じゃないんだろう。そろそろ平気になってきたし俺も相当かもしれない。
「準備も出来たし、そろそろ命の遺跡へ行こうよー」
思えば、ハウやミヅキと一緒に旅をした事はなかったな。これが最初の冒険になると考えたら、少しワクワクしてきた。野生のポケモンとどんなバトルをするのだろうか。
そんな事を考えながら、二人の後ろをついて行く。勿論、ハルジオンを抱っこしながら。これいつまで続くんだろうなあ。