真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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 ポケモン剣盾発売されてしまいましたね……引退したけど対戦始め直そうか悩み中です。マリィちゃん可愛いすぎてつらい


タワータイクーン。

 国際警察について作中で多くは語られないが、プラチナではギンガ団を、BWではプラズマ団を、XYではフレア団を取り締まっていた事から、おそらく多地方を跨ぐエージェントの集まりだと推測できる。

 

 

 ハンサムという名前はコードネームというより、No.836というエージェントナンバーから託けた渾名に近いものだ。国際警察は少なくともあと835人はいるのだろうが、おそらく水面下で悪の組織や危険の芽を摘んでいるのだろう。ハンサム以外には見たことも聞いたこともないが。

 

 

 サンムーンに入って、ようやくクチナシとリラという国際警察が現れたが、リラもクチナシも事情が特殊すぎて内情がサッパリ分からない。まあ、こんな田舎にも出張るほど暇だということだけは確かだ。

 

 

「キミのことは調べさせてもらった」

 

 

 開口一番ストーカー発言とは恐れ入った。正直今すぐ逃げ出したい。

 

 

「ウルトラホールは知っているね? 一週間前、アローラのメレメレ島付近に、観測史上最大規模の穴が開いた」

 

 

「……それが、私と何の関係があるんでしょうか」

 

 

「関係があるなんて一言も言ってないさ、ただ事実を述べたまで。その余波で連鎖的に開いた穴から、ウルトラビーストが押し寄せてきていてね。駆除するための協力を要請しに来たって訳だよ」

 

 

 静かに黙っていれば良かった。言外にお前のせいだと言われてしまえば逆らえない。

 

 

「お断りします」

 

 

 まあ逆らうんですけど。快諾したら扱き使われるだろうし、そうなるとどれだけ時間がかかるか分かったもんじゃない。協力するなら条件を渋りに渋った後だ。

 

 

 

「そういう訳にもいかないんだ。キミから放出されているウルトラホール由来のエネルギーが、ウルトラビーストたちを惹きつけるのに一役買っていてね。ここアーカラ島に、遅かれ早かれウルトラビーストが攻め込んでくるだろう……恐らくそれはキミにとって、とても不都合な事なんじゃないかな?」

 

 

「いえ、アローラに愛着なんてないので。それに惹きつけるのは、後ろにいるスーツの女性も同じでしょう?」

 

 

 血も涙もない切り返しだが、こうでも言わなきゃ諦めてくれないだろう。協力するのは容易いが、日数の調整に支障をきたすかもしれない。ウツロイドをあのタイミングで手に入れなければ、確実にルザミーネさんは破滅への道を歩み始めるだろう。運命を変えるなら、あそこで変えるしかない。

 

 

 悪いね。やるべき使命がなければ協力してやっても良かったんだが、生憎タイミングが悪すぎた。出直してくれ。

 

 

「キミはどうしてそれを……いや、Fall同士だと何か感じるのか? リラくんは何か感じるかね?」

 

 

「…………いえ、わたしには何も感じません」

 

 

 そりゃそうだ、俺も何も感じない。同じFallでも、やってきた場所は全く違うし、なにか惹かれ合うこともない。

 

 

「貴方達だけが、物事を把握しているとは思わないで下さい」

 

 

 とは言えども、流石に自分が出てきたウルトラホールの影響がここまで出てるなんて思わなんだ。把握しているのは、ハンサムとリラがどうしてここに来ているのかと、それぞれが抱える問題のみ。

 

 

「そうか……では『分かった上で』断っている、という事だね?」

 

 

「ええ、あなたにとって厳しいでしょうけど、そういった認識で構いません。今は本当に時期が悪い」

 

 

「どうしてもダメかな……チャンピオンを退ける実力と、ウルトラビーストを従える度量の持ち主だと伺ってたんだが」

 

 

 末恐ろしいな、どこからシロナさんとバトルした情報を仕入れてきたんだろうか。相手もとっておきの情報を切ってきただろうし、そろそろ条件を提示してみるか。

 

 

「挑発しても無駄ですよ。ただ、どのようなウルトラビーストがどこに現れているかによっては、貴方達に協力しても構わないとは思っています」

 

 

 暗い顔をしたハンサムが、希望を持った表情をする一方でリラの顔は難色を示す。

 

 

「そんな自分勝手な事情で協力されても困ります。わたし達は命を賭けて任務に当たっているんです。いざとなれば逃げ出すような人間に、わたし達や市民の命を預けるなんてできません」

 

 

「リラくん! 彼にも事情があるんだろう、それを聞いてみてから決めてもいいんじゃないか?」

 

 

 むう、と押し黙るリラ。ハンサムのあまりの様子のおかしさに閉口したが納得いかないといった様子。どうしてそんなに必死なのか理解に苦しむといった表情を浮かべているが、必死になる要因が自身にあるとは微塵も理解していない様子。

 

 

「なるほど……私には、待ち人がいますので日帰りでここに帰ってこなくてはいけません」

 

 

「そうか! では早速コニコシティ周辺に現れたウルトラビーストの対応を「その前に、本当に貴方が相応しい人物か試させていただきます」リラくん!」

 

 

「いいでしょう。こちらとしてもある程度、何ができるかを把握しておく必要がありますから」

 

 

 カウンターに代金を置くと、リラについて来るようジェスチャーをし、バトルスペースに案内する。

 

 

「結構な自信ですね。わたし、こう見えて強いんですよ?」

 

 

「知ってますよ、腐ってもタワータイクーンですからね」

 

 

「タワー、タイクーン?」

 

 

 あ、やばい。変な記憶を呼び覚まさなければいいが。さっさとポケモン出して、衝撃を上書きしよう。

 

 

「セレス、出番だよ」

 

 

 繰り出すのは10mの巨塔、しかもウルトラビーストだ。付いてきたハンサムが青い顔をしているが、何かトラウマでも思い出すのだろうか?

 

 

「ケンくん、その、リラくんに襲い掛かったりしないのかね?」

 

 

「ああ、そういう心配ですか。私とポケモンの絆を疑うなんて心外ですね」

 

 

 リラは普通のFallとは違い、多量にウルトラホールからのエネルギーを受けているためか、ウルトラビーストの帰巣本能をくすぐり狂暴化させる心配があるとのこと。ただ、セレスに限って元の世界に帰りたいなんてなることはないだろう……エルモは少し心配だけど。

 

 

「ウルトラビーストを……あの話は本当だったんですね」

 

 

「ポケモンは何体使ってもいいですよ、戦闘が終わる前にセレスのタイプを当てられたら終了ということで」

 

 

「……なるほど、わたしを試す気でいるんですね」

 

 

 細められた目から、ぞくりとするような威圧と敵意を感じる。一周回って癖になりそう。

 

 

 リラの繰り出したポケモンはフーディン。初代ポケモンらしく技のデパートと化しており、この一匹だけでタイプが見破られる可能性が高い。尚且つエスパータイプ特有の読心術で、もう既に勝敗が決してる気もしなくもない。速攻で潰すか。

 

 

「セレス、ヘビーボンバー」

 

 

 全体重を込めた一撃を、勢いを込めて振るう。フーディンは防御が薄く、耐久力のないポケモンだ。一撃お見舞いすればひとたまりもないだろうが、当てられる保証はない。素早さ種族値は120と俺のパーティの誰よりも早い上、エスパータイプの代名詞テレポートを駆使して回避でもされたら余計手間がかかる。

 

 

「フーディン、気合玉!」

 

 

 瞬時にセレスの後ろを取ったフーディンが、気合玉を放つべくエネルギーを貯める。タイムラグは1秒程だが、むしろ気合玉という技の威力と命中率を鑑みるにポケモン界屈指の速さだろう。

 

 

 ただ、相手が悪かった。

 

 

 放った気合玉を打ち消すと共に振るわれるセレスの剛腕が、フーディンを吹き飛ばす。追撃に何か指示をしようかとも思ったが、もう起き上がってくることはなかった。

 

 

「そんな、一撃で……カビゴン、炎のパンチ!」

 

 

「宿木の種」

 

 

 カビゴンの出会い頭に放った炎技を、平気な顔して受け止め、返しに宿木の種をカビゴンへ植え付けた。宿木で締め付けられ、体力を奪われながらもう片方の腕で炎のパンチを繰り出すも、セレスは守るで弾き返す。お互いに次やるべき事を見越しての行動に、トレーナーの俺が一番付いていけない。やって欲しいことがそのままセレスに伝わっているかのようだ。

 

 

 守るを使われて間合いを取られたカビゴンを、宿木が蝕み体力の25%が削られ、そのダメージ分セレスに還元される。炎のパンチで受けたダメージは、もう殆ど残ってはいなかった。

 

 

「ヘビーボンバーの後、守る」

 

 

「炎のパンチで押し切って!」

 

 

 おそらく草タイプと鋼タイプの複合だと思っているのだろう、炎のパンチで削りを入れるカビゴンにヘビーボンバーを叩き込む。カビゴンのような重いポケモンに効果は無いが、厚い脂肪を考えると火炎放射よりマシだろう。火傷しなければいいんだけれど。

 

 

 ヘビーボンバーで吹き飛ばされ、尚も食らいつこうとするカビゴンを守るで更に弾き飛ばす。守るの効果が切れるタイミングで再度殴り掛かろうとして、カビゴンは膝をついた。

 

 

「うそ……マニューラ、辻斬りよ!」

 

 

「火炎放射」

 

 

 カビゴンと入れ替わりで出てきたマニューラに、炎の壁が襲い掛かる。こう見ると物理アタッカーに特殊技は牽制にもなって強いかもしれない。

 

 

 マニューラというポケモンもフーディンと同じく、高速低耐久アタッカーだ。カウンターも覚えるので警戒して火炎放射を指示するが案外簡単に当たるな。おそらく技を指示されているというのもあるのだろうが。

 

 

「鋼タイプなのに、草タイプと炎タイプの技を使えるなんて……ボーマンダ、メガシンカよ!」

 

 

「宿木の種」

 

 

 おそらく最後の切り札であろう、メガボーマンダを繰り出される。特性威嚇がセレスの攻撃を下げるが、あまり関係はない。

 

 

 問題は、マンダが炎技を持っているかどうかだ。この対面はゲームの頃から嫌ほど見ていたが、勝敗を分けるのは炎技の有無だろう。悠長に積むなら漏れなくセレスのヘビーボンバーが突き刺さるが……

 

 

「火炎放射!」

 

 

「守る」

 

 

 やはり持っていたか、炎技。コイツの特攻はライコウより高く、普通に痛いし何なら特殊型の方が使われていた時期もあった。ボーマンダは第四世代から一緒に戦ってきたポケモンでもあり、倒してきた強敵でもある。

 

 

 今回はレベル差があるので、役割破壊の火炎放射くらいではなんともないが……普通の対戦だったらセレス切ってたな。

 

 

「もう一回、火炎放射!」

 

 

「ヘビーボンバー」

 

 

 火炎放射を受けつつも、ヘビーボンバーを打ちかますセレス。ただ高耐久のメガボーマンダに、威嚇の効果が入ったヘビーボンバーでは大したダメージは与えられない。与えられないが、そもそもセレスは耐久力に重きを置いた育て方をしているので問題ない。容赦なく宿木がボーマンダからエネルギーを吸収する。

 

 

「捨て身タックル!」

 

 

「そろそろ答えが分かったかな?」

 

 

 何も指示を出さなかったので、セレスは守るを繰り出したが悪手だった。捨て身タックルに守るを消費させられるのは反動もあるし勿体無い。

 

 

「鋼、草タイプですか?」

 

 

「残念ハズレです。ヘビーボンバー」

 

 

 メガボーマンダの火炎放射を、セレスが守るで弾き飛ばす。宿木で苦しんでいる隙に、ヘビーボンバーを叩き込む。

 

 

「鋼タイプ!」

 

 

「惜しいですね。ヒント、セレスは複合タイプですよ」

 

 

 もう一度、火炎放射を守るで弾いたと同時に、宿木のダメージでボーマンダがメガシンカを解いた。バトル終了だ。

 

 

「最後にもう一回、答えるチャンスをあげますよ」

 

 

「……鋼と、飛行タイプですね」

 

 

「まじかよ」

 

 

 負けた。気付かれる要素は何一つ無かったはずなのに。

 

 

「最初、このポケモンの特性が浮遊だと思っていました。空を飛んでいたと聞いていたので」

 

 

 だから地面技を打ってこなかったのか。てっきり草タイプとの複合だと思い込んでいるからだと思ってたが……やられた。

 

 

「でもそれ事前情報ですよね、ズルくないですか?」

 

 

「ふん、勝ちは勝ちですよ。大人しく協力してもらいますからね」

 

 

「あっはい」

 

 

 てっきり関わらせてもらえないかとも思ったが、そうではないらしい。優しい印象しかないリラの、激レアなツンツンした様子を興味深く観察しながらセレスをボールに戻した。お疲れ様。

 

 

 

 

 

 

 


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