真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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太陽。

 常夏の島であるアローラだが、シェードジャングルは熱帯地域にあるジャングル特有の蒸し暑さなどなく、寧ろ生い茂る木々のおかげか涼しさを感じる。せせらぎの丘が近いのも要因の一つかもしれない。

 

 

 今回の役目はリーリエの護衛だ。いつもと変わらないかと言えばそうでもなく、600族の威圧感で有象無象を圧倒するシーザーはお留守番。代わりに小さくてジャングル内での小回りが効く、フェアリー・ゴーストタイプのシルキーを出している。指示はリーリエが出し、俺はお目付役のようなものだ。

 

 

 リーリエ曰く、冒険したい。できればバトルもやってみたい。だそうだ。思っていたより随分と思い切った願い事で少し躊躇したが、ストーリーを改変するのは決定事項なので気にしない事にした。しかし……リーリエってこんなにアグレッシブだったっけ……?

 

 

「あ、カリキリが飛び出してきました!」

 

 

 目の前には、キューと威嚇してくる虫ポケモンもどき、カリキリがあらわれた。これが一応、リーリエの初バトルとなるのだが……果たして大丈夫なのだろうか。

 

 

「シルキーさん、お願いしますね!」

 

 

「キュキュ!」

 

 

 リーリエの前にシルキーがふわりと飛び出した。意地っ張りな性格の彼女は見た目にそぐわず好戦的なようで、即座に剣の舞を踊り始めた。最早この時点で勝負が決まったようなものだ。

 

 

「シャドークローです!」

 

 

 シルキーは残像を残すような、目にも止まらぬ速さでカリキリの背後を獲り、双腕で斬りつけた。勢いよく吹っ飛ばされるカリキリに少し同情する。

 

 

 

「あっ、ちょっとやりすぎじゃ……」

 

 

「そんなこと言い出すだろうと思ってな。はい、元気の欠片。これでカリキリを治しておいで」

 

 

 この世界、特にアローラは弱肉強食だ。弱ったカリキリなど即座に捕食されてしまうだろう。リーリエのように優しい心を持っているつもりはないが、徒らに傷付けたポケモンがそのまま死んでしまうのは忍びない。俺たちトレーナーのメンタル的にも最低限のケアが必要だ。

 

 

「ありがとうございます! 早速使ってきますね」

 

 

 カリキリが倒れている方へ一目散に走るリーリエ。それを見て、シルキーは少し申し訳なさそうな雰囲気を出していた。

 

 

「なあに気にするな。シルキー、お前は正しい事をしたんだ。リーリエを守ってくれてありがとな」

 

 

「キュ!」

 

 

 しょぼんとした様子から一転して、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ねる跳ねる……少しは落ち着いたらどうだろうか。布の下を見てしまったら最期、魂を吸い取られるとかなんとか図鑑に書いてあったし、不慮の事故とか本当にやめてほしい。

 

 

 あ、リーリエさんの布の下なら死んでも良いから見てみたいです。

 

 

「カリキリ、ちゃんと元気に帰っていきましたよ」

 

 

 リーリエは白派か黒派か、それとも水玉かなど考えていると、本人が帰ってきた。思考を即座に切り替える。

 

 

「よかった。それで初バトルどうだった?」

 

 

「……あんまり思ってたものと違う気がします」

 

 

「ポケモン同士のレベルが違いすぎるからな……」

 

 

 シルキーは進化しないミミッキュという種族であり、カリキリは進化を残したレベルの低い、且つ未熟なポケモンだ。レベル差だけでなく、種族差も露骨に出ていたと言っても過言ではないだろう。

 

 

「んー、じゃあいっそのことポケモン捕まえてみるか」

 

 

 リーリエが驚きのあまり、かわいい小さな悲鳴をあげた。

 

 

「え、でもモンスターボールが……」

 

 

「大丈夫、この時のために50個くらいバックの中入れてきたから」

 

 

「準備が良すぎませんか?……もしかして、執事が親戚にいたりします?」

 

 

「誰がセバスチャンだ」

 

 

「ふふふ。せっかくケンさんが用意して下さったんです、お言葉に甘えてもいいですか?」

 

 

 ちょっと困ったようなはにかみで、首を傾げ上目遣い。うわめっちゃあざとい。秒で脳裏に焼き付けた。

 

 

「足りなくなったらダッシュで買いに行くわ」

 

 

「流石にそこまで失敗しませんよ……わたしでも怒りますよ?」

 

 

 原作のおこリーリエも可愛かったし、是非とも拝んでみたい。ちょっかいかけてワザと怒らせてみるのも選択肢の一つとして挙がったが、そもそも迷惑をかけるのはNGなので見送った。

 

 

「ごめんごめん、じゃあリーリエに相応しいポケモンを探しに行こうか」

 

 

「あ! 先頭はわたしですよ! わたしの冒険ですから!」

 

 

「分かったから置いてかないで」

 

 

 俺はともかくとしてシルキーも追いつけてないので、全力疾走してポケモンと遭遇してもフォロー出来ない。少しため息を吐いて走り出した……シルキー、頼むから自分で歩いてくれ。重い。サトシくんのスーパーマサラ人っぷりが感じられる貴重な経験かもしれないとポジティブに考えたが……肩が筋肉痛になるのは避けられなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくら火山が近くて虫ポケモンでも、こいつが野生にいるのはおかしいだろいい加減にしろ。アローラの生態系どうなってんだ。

 

 

「やった、初ポケモンさんゲットです! でも、虫ポケモンなのにあったかいですね?」

 

 

「ピィ」

 

 

 色が綺麗だから。なんて適当な理由で、見つけたかと思ったら即座にクイックスタイルでモンスターボールを投げ、一発ゲット。リーリエってプロ野球選手だったっけ?

 

 

 それはともかくとして、問題なのはゲットしたポケモン。メラルバだ。おかしい、こんな目立つレアポケモンがこんなところで見つかるなんて。ここジャングルだぞ? 故郷の砂漠は何処にもないぞ?

 

 

「ふふ、太陽のように暖かいです。イッシュチャンピオンが同じようなポケモンを持っていた気がしますし、その進化前でしょうか……?」

 

 

 流石は博識なリーリエ。大正解だ。ウルガモスはイッシュチャンピオン、アデクの切り札で、イッシュの伝説ポケモンより高いレベルの固定シンボルポケモンである。その進化前がメラルバだ。

 

 

 ちなみに固定シンボルというのは、ほとんどの伝説のポケモンとバトルするように、フィールド上で話しかけるとバトルできるポケモンのことである。というか最近の伝説や準伝は固定シンボルばっかりで、徘徊系の方が珍しい。厳選楽だしそれでいいけど。

 

 

 ウルガモスは高水準のとくこう、とくぼう、素早さを蝶の舞や拘り系アイテムで底上げし、長らく猛威を振るってきた。コイツ用に岩技やステルスロックを導入したのは俺だけじゃないはず。

 

 

 だが運用はバトルだけに留まらず、炎の身体という特性を持ち、空を飛ぶを覚えるため長い間孵化作業のお供に使われ続けていたポケモンでもある。

 

 

 正直、俺が欲しい。59レベルでようやく進化する大器晩成型のポケモンなので、初心者には不向きすぎるし、コスモッグと同じくレアなポケモンなので襲われる原因が増えただけかもしれない。

 

 

 ただ……あんなに嬉しそうにメラルバを撫でているリーリエに、そんなこと言いたくない。まあ二匹目を早いうちに手に入れればなんて事はないからいいか!

 

 

「うーん……モフモフしてるから、もふもふちゃん!」

 

 

「……それってもしかして、ニックネーム?」

 

 

「はい! ほしぐもちゃんにも付けてましたし、この子にも付けたいなって」

 

 

 ダメとは言わないが、ネーミングセンスがユニークすぎる。でもかわいいからアリ。やっぱりリーリエは完璧すぎるので、ある程度欠点があってもそれは魅力にしかならない。

 

 

「いいんじゃないか。愛着湧くぞ」

 

 

「ふふ、ありがとうございます……家ではポケモンの名付け親なんてさせてくれませんでしたから、少し嬉しいです」

 

 

 それは家族がグッジョブと言わざるを得ない。

 

 

「それはまあいいとして、試しにバトルやってみるか?」

 

 

「そうですね、どうやらこの子は炎タイプのようですし、練習にもってこいかもしれません」

 

 

 タイプの見極め速すぎだろ……と呆気に取られてると都合よく一匹のポケモンが目の前に現れた。

 

 

「あ、今度はケララッパです」

 

 

「やる気があるのはいいけど、やめておいた方が……」

 

 

 ケララッパは飛行タイプのポケモンで、岩技を使ってくる個体もいる。虫・炎タイプのメラルバじゃ分が悪いだろう。

 

 

「もふもふちゃん、攻撃してください!」

 

 

 人の話を聞いてください。

 

 

 だいぶアバウトな指示だが、メラルバは承ったと言わんばかりに頷き、炎を纏って突撃した。ケララッパは突然の素早い攻撃に対処出来ず吹き飛ばされ、そのまま追撃の炎弾もくらってしまい、ノックアウト。

 

 

 あれ、こいつ強くね?

 

 

 炎を纏う攻撃は火炎車かニトロチャージ、炎弾は火の粉だろう。それはわかる。ただ、今の一連の洗練された流れを見る限りだと相当バトル慣れしているようだ。つまりは、レベルも相当なものになる。

 

 

 おかしいな……シェードジャングルに生息するポケモンのレベルって、良くて30くらいじゃなかったか……?

 

 

 そもそも、メラルバが出てきた時点で今までの常識は投げ捨てたほうがいいのだろう。俺は考察を諦めた。

 

 

「すごいです! 今のはニトロチャージですね!」

 

 

「プピィ」

 

 

 えっへんと、胸というかモフモフを張っているメラルバ。なんかかわいい。

 

 

「はい、ご褒美のポケマメですよ」

 

 

 バッグの中から何かを出すリーリエの様子を怪訝な目で見ていたメラルバだが、ポケマメケースの中から虹マメが出てきた瞬間、歓喜の声を上げた。

 

 

「そんなに欲しかったんですか? ゆっくり食べてくださいね」

 

 

 リーリエから手渡されたそれを一心不乱に食す姿は、三日ぶりに水にありつけたエジプト人を彷彿とさせた。見たことないけど。

 

 

「キュキュ」

 

 

 シャドークローを使って袖にぶら下がっているのは、おそらく意思表示だろう。脅しとも言う。シルキーたちは毎日食べているが、やはり目の前で食べられるとお腹が空くのだろうか?

 

 

「まあ、護衛頑張ったもんな。はい、虹マメ」

 

 

 もしリーリエがポケマメを一つも持っていなかった場合に備えて、ポケットに忍ばせておいた虹マメをシルキーへ渡した。メラルバ程じゃないが、食いっぷりは最高だ。

 

 

「ケンさんと一緒に取りに行った甲斐がありましたね。本当でしたら、一年に一度ありつけるかどうかの品ですから」

 

 

「え、そんなに貴重なの?」

 

 

 ゲーム内では、レアではあったものの一度の収穫に数個は取れていたし、何よりカフェのおじさんは何でもないようにポンと十個ほど手渡してきた。

 

 

「ポケマメ自体、最近……と言っても十年ほどですが、ある研究で発見されたんです。何故こんなにも生態系豊かなアローラで、そこまで絶滅種を見ないのか。その研究の最中、あらゆるポケモンの栄養源として、偶然ポケマメの木が見つかったそうです。市場に流通し始めたのはそれから二年後くらいで、供給量も一定を保っていたそうですよ」

 

 

「ポケモンに絶滅されたら困るしなぁ」

 

 

 何か特定のポケモンを餌にしなくても、ポケマメを食べればお腹いっぱいになる。ほぼ無限に近い数落ちて来るから奪い合いにはならないって訳だ。

 

 

 その中でも虹マメは途轍も無く貴重な代物だろう。機会があれば、おじさんへ返しに行かなければならない。倍にして返そう。

 

 

「ですので、島の管理人さんとお知り合いだったなんて驚きです。今度会わせてくれませんか?」

 

 

「い、いやーやめておいた方がいいよ? 一日三食ポケマメで過ごすキチガイだからね?」

 

 

「研究者は誰も彼も変人ばかりなので、覚悟は出来てます! 何ヶ月ククイ博士の助手をしてきたと思っているんですか!」

 

 

反対の理由は、その偏屈な研究者が生き別れた父親の可能性があるからだよ! とは言えず、さてどうしたものか……

 

 

「まあ考えとくよ。それより次のポケモンが来たみたいだぞ」

 

 

 目の前には二匹のカリキリと、一匹のカイロス。リーリエがメラルバをゲットした段階で、後ろに隠しておいた匂い袋を放り投げておいたが都合の良いタイミングで効果を発揮したようだ。処理が追いつかなくなったらニシキで威嚇しよう。

 

 

 カリキリはともかく、カイロスは強敵だ。何より図体がデカく威圧感がある……メラルバの視点であればだが。

 

 

 さて、注意は反らせたし、ここをどう切り抜けるのか見物させてもらおう。リーリエは既にメラルバの攻撃技をある程度把握したが、補助技が無い状態でどう立ち回るか……

 


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