真顔のシングル厨がアローラ入りするお話   作:Ameli

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みんな知ってるあの人。

 トレーナーとしての格が違う。

 

 

 彼女と、彼女の従えるポケモンを目の前にして、漠然とだが圧倒的な差をピリピリと肌で感じとってしまった。

 

 

 凛とした、何があっても動じないであろう自信に満ち溢れる佇まいを目にするとトレーナーとして、人として何ランクも上の存在だということを思い知らされ少々鬱な気分になる。

 

 

「あら、もしかして私を知ってるの?」

 

 

 いかにも意外そうな顔をする彼女に少しだけ毒気を抜かれてしまった。向こうの世界にいる大きなお友達(ポケモントレーナー)なら、一目見るだけで誰なのか簡単に当てることが出来るだろう。

 

 

 特徴的な髪飾りに黒のコート、太陽の光で煌めく腰まで伸びた長いブロンドの髪に意志の強さを感じさせる灰の瞳、何より傍に控えさせているポケモン……ガブリアスが、彼女がいったい誰なのかを物語っていた。

 

 

「……シンオウチャンピオンのシロナさんが、こんなちっぽけな島に一体何の用ですか?」

 

 

 正解よ、と、そんな様子で満足そうに不敵な笑みを浮かべる様は、世の人全てが思い浮かべるクールビューティそのものであった。身体がガチガチに緊張していたとしても魅入ってしまう美しさがある。

 

 

 シロナが何の用事でポケリゾートにいるのかなんて知ったことではないが、ライド登録されていないセレスで飛んできたところを見られているのは間違いないだろう。運が悪いのか、それとも日頃の行いが悪いのか。自然と眉間に皺が寄る。

 

 

 アローラでは、ライド登録していないポケモンで空を飛ぶことが禁止されている。そして、向こうもそれを知っているだろう。

 

 

 誰が勝手に飛んで勝手に着地した先にチャンピオンが待ち構えているなんて思うか。どうしてこうなった、頭が頭痛で痛くなりそうだ。

 

 

「私ね、アローラにはバカンスで来てるの」

 

 

 悩みの種を抱えているこちらを見かねてかは知らないが、シロナが語り始める。

 

 

「でね、手持ちのポケモンにいっぱいポケマメを食べさせようと思って、カフェのおじさんに仕入先を聞いておいたの」

 

 

 え、ポケマメの仕入先ここなの?

 

 

「そしたら、最近は豊作だし、自分で取りに行ったらどうかって言われちゃって…………場所聞いてガブリアスで来ちゃった」

 

 

「…………なるほど、貴女の言いたいことがなんとなーく理解できました」

 

 

「つまり、貴方も私も共犯者よ!!」

 

 

 敢えて自分からライドポケモンを使っていないとカミングアウトすることで、信用を少しでも得ようとしているのだろうか。とはいえ、そもそもこちらに擦り寄ってくる意味が全く見えないのだが。

 

 

 しかし、社会的立場のある人間と島巡りする子供とでは持たなければならない責任は比べ物にならないので、媚び売って見逃してもらおうとする考えは強ち間違っていないのかも知れない。

 

 

「共犯……ということは、シロナさんはポケマメを盗みに来たという事ですか?」

 

 

 長らく背中に隠れていたリーリエから、一転攻勢の鋭いツッコミが入る。その発想はなかった。流石マイエンジェル、賢い。

 

 

「え!? えっと、そういう事じゃなくてライドポケモンの事!……そもそも、この島は出入り自由でポケマメも自由に取っていいはずよ!」

 

 

「本当に? この島の管理人の方には話を通しているんですか? 仮にこの島が出入り自由なら、港や空港が何処にも見当たらないのはどうしてですか? ポケマメを自由に取っても構わないのに、こんなにも人間の痕跡が無いのはどうして?」

 

 

「え、えっと……そういう所はあまり詳しく知らないわ。そういった手続きが必要そうな場所じゃなさそうだし、無人島だったら出入り自由で港がないのも理解できると思うんだけど」

 

 

「つまり、この島についてなんの前調べもせずに違法ライドでここまで来たという事ですね。一地方のチャンピオンがこんなことをやってるなんて知られたら、大スクープになると思いませんか? 共犯だなんて軽々しく言いますけど、罪の重さも責任の重さも全く違います。そういう点を理解した上で物申しているんですか?」

 

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

 

 リーリエさん、ちょっとやり過ぎじゃあないですかね……?

 

 

 リーリエの苛烈な攻め(意味深)に屈したのかどうかは分からないが、あれだけクールなキメ顔をしていたシロナさんの顔がどんどん泣きそうに……

 

 

「それぐらいにした方がいいぞ。そもそも違法ライドしているのは……不本意ながら俺たちも変わらないんだからな」

 

 

「…………えへ、ちょっとムキになりすぎちゃいました。シロナさんごめんなさい」

 

 

「え、ええ。分かってくれたならいいのよ」

 

 

 止めなければ何処までも行ってしまいそうだったので、ブレーキをかけておく。不本意そうな沈黙と棒読みの謝罪は、俺の心を震え上がらせるのに十分すぎた。理由が分からないから余計に怖い。何が彼女をこんなにも駆り立てるのだろうか。

 

 

「それで、シロナさんは目的を達成できたんですか?」

 

 

「ええっと、まだね……」

 

 

「丁度良かった。それじゃあシロナさんも手伝ってください、収穫」

 

 

「え?」

 

 

「えっ?」

 

 

 虚を突かれた思いがした。

 

 

「いや、互いに協力し合った方が効率いいじゃないですか。私たちのポケモンもお腹が空いていると思うので」

 

 

「そうしてくれるなら助かるんだけど……あの子は不服そうよ?」

 

 

 確かに背中から尋常ではない圧力を感じる。やめてリーリエ、ゴムみたいに服を引っ張ると傷んじゃうから。

 

 

「どうしたんだリーリエ、らしくないぞ?」

 

 

「…………嫌な予感がします。ケンさんが遠くに行ってしまうような、悪い予感です」

 

 

「何を言ってるんだか。俺をどうにか出来る人間なんてそれこそチャンピオン………………くらいでもどうにもならない筈だし大丈夫だって!」

 

 

「あら、それは聞き捨てならないわね」

 

 

 隣のガブリアスも唸り声をあげる。やっべ、藪蛇だった。リーリエに調子のいいことを言って安心させようと焦った結果がこれだよ! ……勝てないわけではない、原作通りならば。

 

 

「いやシロナさん落ち着いてくださいよ、子供の戯言ですよ?」

 

 

「貴方達はもう成人してるじゃない、自分の言葉には責任を持つべきよ? それに、貴方の持つポケモンに少し興味があったの」

 

 

 シロナは、モンスターボールを一つ取り出した。やばい、この人マジでやる気だ。目が座ってやがる。

 

 

 仕方がない、勝てるかどうか怪しいがやってみよう。

 

 

「……消耗は避けたいので、互いの切り札同士でやりましょう」

 

 

「ええ、構わないわ」

 

 

 バトルスペースを作るべく互いに距離を取る。リーリエは相も変わらず後ろに引っ付いているが、これといった支障は出ないだろう。

 

 

 さて、切り札同士といった手前、出てくるのはガブリアスのはず。タイプ一致技の地面とドラゴン両方を半減以下に抑えられるセレスが適任か。シルキーは火力不足が否めないし、何よりレベル差が大きすぎる。ニシキも威嚇持ちだが相手に押し切られそうだ。ハルジオンもいいが、存在を知られるわけにはいかない。

 

 

 まあセレスで完封出来るだろうと、ボールを投げようとして

 

 

「これはあたしの出番ね!」

 

 

 やっぱり、やめた。作戦の全てが台無しとなった今、臆することは何もない。全てハルジオンのせいにしてしまおう。

 

 

「えっと、この子が貴方の切り札?」

 

 

「違うようなそうでないような……」

 

 

「あたしが一番よね? ……違うなんて言わせないから」

 

 

 確かに口が動かない。あまりに動かなさすぎて鼻が詰まってたら死んでいただろう。邪神っぷりを見せつけるのも良いのだが、もう少し好きな人くらいは思いやってくれても良いのではないかといつも思うのは間違いではないはずだ。

 

 

「ずいぶん気性の荒いポケモンね……トレーナーの指示を聞けないんだったら、確かに切り札なんて言えないわね」

 

 

「人間風情が身の程を弁えろ」

 

 

 一瞬で雰囲気が変わる。こっわ。久々にガチギレしてるし、テレパシーから伝わる怒気が半端ではない。心なしか口の拘束が酷くなっているのもポイントだ。これもう顎くっつくんじゃないか?

 

 

「ハルジオンさん、ケンさんの伴侶を名乗るならお淑やかにしないと……嫌われますよ?」

 

 

 ピクリと、ハルジオンがリーリエの言葉に反応した。かと思えば、あれだけキツく結ばれていた俺の口も解放され、ハルジオンから苛立ちの感情が消えた。もしかして、リーリエの声に耳を傾けているのだろうか。あれだけリーリエのことを毛嫌いしていた筈なのだが。

 

 

「…………さっさと始めるわよ。すぐに片付けてあげる」

 

 

「並々ならぬ自信ね、少し期待してるわ! 行くのよ、ガブリアス!」

 

 

 ガブリアス……シロナの切り札であり、イメージポケモンと言っても相応しいポケモンだろう……他の人はミカルゲとか言いそうだけれども。

 

 

 ガブリアスが前に出た瞬間、ハルジオンのサイコフィールドが発動。それを見たシロナさんは臨戦態勢に移った。

 

 

 さてこの勝負、シロナがハルジオンのタイプを知っているかどうかで勝負が分かれてくる。

 

 

「ガブリアス、ドラゴンダイブよ!」

 

 

よし、知らないな!

 

 

「ハルジオン、引きつけてムーンフォース!」

 

 

「!?……ガブリアス、アイアンテールに切り替えて!!」

 

 

 咄嗟のアイアンテールへの切り替え。なるほど、逆鱗ではなくドラゴンダイブを覚えさせているのは小回りの良さか。きちんとフェアリー対策もしているようだ。

 

 

 ただ、残念ながら選択肢を見誤ってしまったようだな。ここは回避すべきだった。Lv100であるハルジオンの高い特攻から繰り出される、それも弱点のつけるタイプ一致技をガブリアスが耐えられる筈がない。

 

 

 鋭い月の力を纏った光線は、近づいてくるガブリアスへと寸分の狂いもなく吸い込まれていった……あれ、おかしいな。光線が曲がったんだが。

 

 

 しかし、現実を両目はきちんと捉えていた。あのガブリアス指示も無いのにアイアンテールで弾きやがった!

 

 

「一回下がってサイコキネシス!」

 

 

 ハルジオンが今一番繰り出しやすい技は、先程しくじったムーンフォースではなく、サイコキネシスだろう。迫り来るガブリアスに意識を素早く切り替えたハルジオンは、即座にサイコキネシスで対応、ガブリアスを吹き飛ばした。

 

 

「……流石はチャンピオン、ガブリアスもよくサイコキネシスを耐えたな」

 

 

「さっきのでヤったと思ったんだけどねー」

 

 

「……私が褒められるなんて、なんだか新鮮な気持ちね」

 

 

 ガブリアスが吠える。さっきはやってくれたなと言わんばかりである。

 

 

「もう一度ムーンフォース!」

 

 

 ハルジオンに月の力が集う。それを見たガブリアスは一気に距離を詰めようと駆け出した。マッハポケモンなだけあってか、距離はグイグイと詰められる。

 

 

「アイアンテールよ!」

 

 

 やはりか、先程も同じ戦法だっただけに予想は付いていたが、かといって何か策がある訳でもない。

 

 

「ハルジオン!限界まで引きつけるぞ!」

 

 

「任せて!」

 

 

 ハルジオンも俺を信じている。ならば、俺も信じるしかあるまい。

 

 

 ハルジオンの目の前にガブリアスが来るのは、指示を出して3秒と経たなかった。ムーンフォースを警戒してか横薙ぎではなく縦に振るわれた鋼の尻尾。だが、それは押し負ければ逃げようのない体勢になる。向こうも本気だ。

 

 

 ハルジオンに当たる瞬間、溜め込まれた光が一気に解放され、一条の光となってガブリアスを包み込んだ。ガブリアスも負けじと尻尾を盾に前に出る。

 

 

「大丈夫!俺を信じろ!」

 

 

「ガブリアス! 頑張って!」

 

 

 その声援は、本人たちに届いたかどうか分からない。ただ、ハルジオンは俺に近く、ガブリアスはシロナさんと離れていた。勝負の分かれ目はそこだけだったのかもしれない。

 

 

 

 

 


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