問題児に紅茶、淹れてみました(休載)   作:ヘイ!タクシー!

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今回は長め

"ノーネーム"の席順ですが、作者は会議室と言うものに入ったこと無いので、矛盾を感じた人は脳内補正して自分で席の順番を決めてください。



南側初上陸ですよ?

 七七五九一七五外門"アンダーウッドの大瀑布"フィル・ボルグの丘陵

 

 六人は丘陵の境界門を抜けた所から眼下を見下ろしていた。

 頂上の見えない巨大な水樹が大量の水を吹き出して、網目模様に大樹の根に沿って流れた水が、地下都市へと落下していた。都市を通る水路は加工された翠色の水晶でできている。

 水を生む大樹と、河川の隣を掘り下げて作られた地下都市。

 これら二つを総じて"アンダーウッド"と呼ぶ。

 

「わぁ…………」

「凄い……………」

「……大きい樹だね」

「そうだろ?この光景がアンダーウッドと呼ばれる由縁だ」

 

 初めて見た大樹に圧倒される四人。レティシアは感慨深く眼下の街を見て、ジンは久しぶりのアンダーウッドに少し興奮していた。

 そうやって彼女達がその場に立ち止まっていると、旋風と共に耀にとって懐かしい声が上からかかった。

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

 旋風を巻き起こした巨体な存在、"サウザントアイズ"で初めてゲームを行った時の相手である、巨大な鷲の翼に獅子の体を持つ幻獣・グリフォンが耀達の前に現れた。

 

「久しぶり。ここが故郷だったんだ」

『そうだ。収穫祭では"サウザントアイズ"も参加するのでな。戦車を引いて私もやって来たのだ』

 

 二人は仲良さげに話しているが、黒ウサギと、限られた種の翻訳ギフトを持つレティシア以外には、グリフォンが何を言っているのかわからなかった。

 耀と話が一通り済んだらしいグリフォンーーーー名前が"グリー"らしいーーーーは耀のお願いにより彼女達を乗せて地下都市まで送ってくれるらしい。

 とは言え、流石に六人を乗せるのは厳しいらしく、一人で跳べる耀と自前の翼で翔べるレティシアは自分でついていく事に。

 黒ウサギはグリーの頭に乗り、手綱を命綱にした飛鳥とジンは背中に乗った。

 因みにエミヤは、乗っていけと大人verレティシアに言われて、彼女にお姫様抱っこされている。

 

「れ、レティシア…………流石にこれは………せめておんぶに…………」

「そう恥ずかしがるなエミヤ。いつも十六夜にお姫様お姫様と言われてるんだから馴れてるだろ?」

「それとこれとは話が違う!!」

 

 空中では抵抗できないため、エミヤは大人しくレティシアにさせるがままだった。普段ならその光景を見てニヤニヤする問題児二人だが、今はその余裕が無かった。

 グリーの速さについていくのがやっとの耀に、ジンの様に早々落下して宙吊り状態になるのが嫌な飛鳥はそれどころではなかったのだ。

 

「グリーさーーん。気持ちいいですよーー!」

 

 はしゃいでいるのはこれより速く移動できる黒ウサギのみだった。当然、ただの猫である三毛猫も例外ではなく、風圧でもがき苦しんでいた。

 そのまま、一同を街の宿舎の前に送り届けたグリーは、再び空へ舞い上がり行ってしまった。参加者に害を為す可能性がある殺人種、ペリュドンが境界を越えて街に近付いているので、彼の騎手と共に追い払ってくるとのことだ。

 

「殺人種何て生物もいるのか。……私も撃ち落としてこようかな……」

「まあそう言うなエミヤ。確かに奴等は人類に仇なす者達だが、下を辿れば被害者だ。奴等は呪われて生まされた哀れなモンスター。追い払うくらいでちょうど良いのさ」

「…………」

「そう難しい顔をするな。ここの警備はしっかりしているからな。奴等に襲われる者など殆どいないし、お前が気にすることではない」

「………わかったよ」

 

 そうエミヤとレティシアが話していると、見知った声が掛かった。

 

「あーー!お前耀じゃん! なんだよ?お前らも収穫祭に」

「アーシャ、そんな言葉遣いは教えていませんよ」

 

 そこには、北で出会った"ウィル・オ・ウィスプ"のコミュニティである、カボチャ頭のお化けジャックと、ヒラヒラした服を着る少女アーシャが宿舎の窓から手を振っていた。

 そのままアーシャは窓から飛び降りて耀達の前に現れた。

 

「アーシャ、君も来てたんだね」

「まあねーこっちにも事情があってさー。ところで耀は出場するギフトゲームは決めたか?」

「ううん。今来たばっかり」

「それなら"ヒッポカンプの騎手"には出ろよ!」

 

 耀達は聞きなれなかったが、なんでもヒッポカンプとは水を走る馬で、別名"海馬"と呼ばれる馬らしい。因みにアーシャが言っているゲームは、水上・水中を駆ける彼等に乗って行われるレースで、『ヒッポカンプの騎手』と呼ばれるギフトゲームだ。

 

「前夜祭の中じゃ一番大きいゲームだし、なにより北のときのリベンジだ! 絶対に出ろよ」

「検討しとく」

 

 耀とアーシャがそんな会話を交わしている一方で、ジャックはフワフワと麻布の体を浮かしながらジンとエミヤ、レティシアのもとへ近付くと礼儀正しく頭を下げた。

 

「ヤホホ、お久しぶりですジン=ラッセル殿。いつかの魔王戦ではお世話になりました」

「い、いえこちらこそ!」

「それとエミヤ殿にレティシア殿もお久しぶりです。…………最近、エミヤ殿の剣は北でも評判ですからね。私達とは売るジャンルは違いますが、貴女の活躍を聞いていると私もウカウカしてられない気持ちになってしまいますよ」

「謙遜しないで欲しいな。君のコミュニティの人気に比べれば私なんてショボいものさ。ああ、それとだけど、依頼の剣が新しくできたから"サウザントアイズ"経由でそちらに送ったよ」

「ありがとうございます。ウィラも喜びますよ。…………ところで貴女の相棒殿は此方には来てないのですか?」

「アレは来てないよ。まあ、アイツは"サウザントアイズ"の客だからね。大抵は白夜叉と共にいるさ」

「ヤホホ、残念です。あの方には恩がありますからね。是非とも今度お会いしたいと申し上げて置いてください。それと、フェイからも今度会えるのを楽しみにしている、と伝えておいてください」

「わかった。伝えておく」

 

 その後"ノーネーム"一同は"ウィル・オ・ウィスプ"と共に貴賓客が泊まる為の宿舎に入った。

 中は土壁と木造でできていたが、しっかりした造りで、土造りにも関わらず乾燥していなかった。それも水樹が放つ水気の因るもので、とても生活しやすい環境となっていた。

 

 彼等は一度割り当てられた部屋で身支度を整えると、ジャックのお誘いで今回の"主催者"に会いに行く事になった。

 

 ____________________

 

 彼等は翠の水晶で作られた水路の脇を通り、大樹の中心にある収穫祭本陣営に向かっていた。

 会話の最中、耀が屋台の食べ物を気づかれない様に買い食いして、それを見た飛鳥とアーシャが羨ましそうにしていた。

 また、ジャックにこの街の説明などもされた。

 なんでも、この水晶の水路は十年前の魔王襲撃の際に、北側のある人物が持ち込んで"アンダーウッド"を復興させた功績の一つらしい。

 また、今回の主賓の連盟コミュニティである "龍角を持つ鷲獅子" についても黒ウサギとレティシアの説明混じりで話された。

 なんでも"龍角を持つ鷲獅子"とは連盟の為の旗印であり、六つのコミュニティで構成されているらしい。

 

 その話を聞きながら目的地である本陣営の受付にやって来た一同。そこで受付にいた樹霊の少女に話しかけられた。

 

「"ノーネーム"………もしかして"ノーネーム"の久遠 飛鳥様ですか?」

 そう飛鳥に話しかけた。

 

「そうだけど、貴女は?」

「私は火龍生誕祭に参加していた"アンダーウッド"の樹霊です。飛鳥様には弟を助けていただいたと聞きまして……」

 

 ああ、と飛鳥は思い出す。戦闘時、巻き込まれそうになっていた少年をたしかに彼女は助けていた。

 

「その節はどうもありがとうございました! おかげでコミュニティ一同、誰一人欠けることなく帰ってくることが出来ました!」

「それはよかったわ。なら招待状は貴女達が送ってくださったのかしら?」

「はい。大精霊(おかあさん)は眠っていますので私達が送らせていただきました。他には"一本角"の新頭首にして"龍角を持つ鷲獅子"の議長であらせられるサラ=ドルトレイク様からの招待状と明記しております」

 

 少女が口にした名は一同も聞き覚えのあるものだった。思わずジンに振り返った飛鳥が訊ねる。

 

「もしかして《サラマンドラ》の……?」

「え、ええ。サンドラの姉の、長女のサラ様です。でも、まさか南側に来ていたなんて……」

 

 そういえば、南の景観の一部に北で見た水晶技術に似たものがあったのを思い出す。

 

「もしかしたら北の技術を流出させたのも――――」

「流出とは人聞きが悪いな、ジン=ラッセル殿」

 

 聞き覚えの無い女性の声に一同が振り返る。途端熱風が顔を撫ぜた。炎熱の発生源は、空から現れた褐色肌の美女が放つ、二枚の炎翼だった。

 

「さ、サラ様!」

「久しいなジン会える日を待っていた」

 

 "一本角"の新頭首にして、"龍角を持つ鷲獅子"の議長。

 姉妹であるサンドラと同じ赤髪の長髪を靡かせた彼女は、健康的な褐色肌を大胆に露出させた踊り子の様な衣装に身を包んでいた。

 本来ならばサンドラに代わって"サラマンドラ"の頭首となるべきはずだった女性。ここ"アンダーウッド"を再建した救世主――――サラ=ドルトレイク。

 

「ようこそ"ノーネーム"と"ウィル・オ・ウィスプ"の諸君。私はサラ=ドルトレイク。"龍角を持つ鷲獅子"の議長として君達を招待した者だ。……何時までも客人相手に立ち話もなんだ。中に入ってくれ」

 

 そう言って彼女は一同を引き連れ本陣の中に入っていった。

 

 ____________________

 

 本陣営、貴賓室

 

 大樹の中心に設けられた貴賓室は窓から外を見ると、網目模様の根に覆われた"アンダーウッド"の地下都市が一望できた。

 サラは、"一本角"の旗が飾られた席に座り、ジン達に席に座るよう促した。

 

「では、改めて自己紹介しよう。私は"一本角"の頭主サラ=ドルトレイク。聞いた通り元"サラマンドラ"だったものだ。次に、両コミュニティの代表者にも自己紹介を求めたいのだが…………ジャック。彼女はやはり来てないのか?」

「はい。ウィラは滅多なことで領地に出ませんから。よって参謀である私がご挨拶をしに来ました」

 

 それを聞いたサラは残念そうに息を零す。

 

「そうか。北側の下層で最強と謳われるプレイヤーを是非とも招いてみたかったのだが」

「北側、最強?」

 

『最強』という言葉に思わず耀と飛鳥は反応した。それを隣のアーシャが自慢そうにツインテールを揺らして話し、サラも同調する。

 

「当然、私達のコミュニティのリーダーの事さ」

「そうだ。"蒼炎の悪魔"、ウィラ=ザ=イグニファトゥス。生と死の境界を行き来し、外界の扉にも干渉出来るという大悪魔。噂では《マクスウェルの魔王》を封印したという話まである。それが本当なら六桁どころか五桁最上位といっていいのだが……」

 

 そう言ってサラはジャックに真偽を問うように目を向けた。

 

「ヤホホ……………さてどうでしたか。五桁は組織力が重要ですし、個人の実力ではどうにもできませんよ」

「…………まあ、いいさ。それに最近噂の"ノーネーム"を呼べたことに私は満足しているのでな。"ペルセウス"や"黒死病の魔王"を打倒した新進気鋭のコミュニティの話。此方でもよく聞くぞ、ジン?」

 

 そう言って今度はジンに話を向けた。

 

「そ、それは……」

「隠さなくていい。今の"サラマンドラ"では魔王相手に太刀打ちできないから。礼を言わせてくれ」

「いや……は、はい……」

 

 ジンに話しかけていると、サラはその奥にいる耀が、此方をキラキラした瞳で見つめていることに気づいた。

 

「どうした?私の角が気になるか?

「うん、凄く立派。サンドラみたいな付け角じゃないんだね」

「ああ、私のは自前だ」

「そういえば、君の角は二本あるけどいいのかな?"一本角"と聞いたんだけど」

 

 先程からその事が気になっていたエミヤも会話に混ざった。それを聞いて、苦笑混じりに返答するサラ。

 

「我々"龍角を持つ鷲獅子"はたしかに身体的な特徴でコミュニティを作っているが、頭の数字は無視して構わないことになっている。でなければ四枚の翼を持つ種などはどこにも所属出来ないだろう?」

「なるほど」

「あとは、役割に応じて分けられる場合かな。"一本角"と"五爪"は戦闘を担当。"二翼"、"三本の尾"、"四本足"は運搬。"六本傷"は農業・商業全般といった具合にな。それらを総じて"龍角を持つ鷲獅子"連盟と呼ぶ」

 

 それを聞いて納得する新参者三人。サラはエミヤを見て面白そうに話しかけた。

 

「しかし意外だな。"銀の鍛冶"は南側でもとても有名な鍛冶師だ。"無銘"の作品は、今や箱庭の最近のトレンドになっていると言っていい……その最先端を行く者が世間に詳しくないとは」

「まあ、新参者なのでね。そこは大目に見てほしい」

 

 それを聞いていたジャックがそういえば、と会話に混ざるように呟く。

 

「なぜ、かの騎士の名前を剣に付けているのですか?普通は作者である貴女の名前が刻まれるはずですが……」

「いや、厳密にはあの騎士の名前では無いんだよ。"無銘"は名前ではなく称号。それも造り手と担い手、二人合わせて"無銘"という称号なんだよ」

「ほう?それは面白い話を聞いたな。出来れば詳しく聞いてみたいんだが……さすがに客人を私個人のために縛るのは得策ではないからな。機会があれば聞かせてほしい」

 

 そう言って一旦話を切り上げるサラ。

 それを聞いた耀は、ポン、と両手を叩いて思い出したようにサラに聞いた。

 

「そういえば、私達は南側特有の植物を探しに来たんだけど何か珍しいものはある?例えば…………ラビットイーターみたいな」

「まだその話を引っ張るのですか!? そんな愉快に怖ろしい植物があるわけ」

「あるぞ」

「あるんですか!?」

「だから言ったじゃない」

 

 ウサ耳を逆立て愕然とする黒ウサギ。

 

「じゃあブラックラビットイーターは?」

「だから何で黒ウサギをダイレクトに狙うんですか!?」

「あるぞ」

「あるんですか!!? ていうか、エミヤさんの話は冗談では無かったのですか!?どこのお馬鹿様がそんな対兎型最強プラントを!?」

「どこの馬鹿と言われても……」

 

 サラが執務机から発注書を取り出すと、黒ウサギはひったくるようにそれを奪った。

 

『対黒ウサギ型ラビットイーター:ブラック★ラビットイーター。八十本の触手で対象を淫靡に改造す――――』

 

 グシャリ、と発注書は彼女の手によって握り潰された。

 

「――――フフ。名前を確かめずともこんなお馬鹿な犯人は世界で一人シカイナイノデスヨ」

 

 起訴も辞さないのですよーッ!?と窓から大河に向かって吠える黒ウサギ。その背中を一同が可哀想に見つめる中、黒ウサギは振り返り、黒髪を光る緋色に変えて宣言した。

 

「サラ様、収穫祭に招待していただき誠にありがとうございました。黒ウサギ達は今から向かわねばならない場所が出来たので、これで失礼させていただきます」

「そ、そうか」

 

 若干気おされたように苦笑いを浮かべるサラ。

 

「ラビットイーターなら最下層の展示会場にあるはずだ」

「ありがとうございます。それではまた後日です!エミヤさんは確認のためにツイテキテクダサイ」

「わ、わかったよ」

 

 黒ウサギはそう言うと、ジン、飛鳥、耀の襟を持ち、エミヤを促して窓から飛び出していった。それを見たエミヤとレティシアも黒ウサギを追いかけた。

 




この話書いてる時に、一巻の最初辺りを読んだんですが…………あれですね。ヤバイですね色々と。受験終わったら早々に編集しなければ。

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