誕生祭、魔王襲来から二週間後
"ノーネーム"メンバーは本拠に戻っていた。また、誕生祭から新たに加わったメンバーーーーー
ーーーー飛鳥と一緒にいた幼い妖精メルン。
飛鳥がギフトゲームで手に入れた、"ラッテンフェンガー"の群体精霊が星海龍王より授かりし鉱石で鍛え組み上げた神珍鉄製、伸縮自在の自動人形。紅い鋼の巨人"ディーン"が加わった。
二人がコミュニティに入ったことにより、"ノーネーム”の砂漠の様に土が死んだ農園が復興させられる状態になった。
メルンが持つ開拓の功績を利用して土地の再生が少しずつ進み、ディーンの巨体を活かした膨大な土作業が楽になる。
また、ディーンは飛鳥の"威光"と相性がよく、そのまま戦力となっていた。事実、ディーンの活躍により飛鳥はラッテンを倒したのである。
二人が加わった"ノーネーム"の主力メンバーは、ここ最近はギフトゲームに参加したり農園復興を手伝ったり昼寝したりと穏やかな時間 (黒ウサギはあまり穏やかではなかったが、エミヤとレティシアの尽力によりそこそこ穏やか) を過ごしていた。
その一人であるエミヤも、今日も変わらず"サウザントアイズ"の白夜叉の下へ足を運んでいた。
"サウザントアイズ"支店
今日の催しの為に朝早くから出向いたエミヤは、白夜叉がいるであろう執務室に向かった。
扉にノックして返事が返ってきてから開ける。
「おはよう白夜叉。今日はサウザントアイズ主催のゲームの手伝いに来たよ」
「おーうエミヤ。おはよう」
エミヤは中に入ると、椅子に座って書類を読んでいる白夜叉の隣まできた。
「おんしも毎度毎度飽きないな。病み上がりだと言うのに」
「君の方が大変なのによく言うよ。それに傷ならもう癒えた。そんなことより、今日のゲームについて何か手伝える事はあるかな?」
「んー………特に無いな。まあ、主催側が大変なのは準備と事後処理だからな。この書類も殆ど確認済みだ」
そう言って白夜叉はペラペラと自分が読んでいた紙をエミヤにみせる。
「ふぅん。疲れたでしょ?紅茶淹れてあげる」
「すまないな。私は緑茶派なんだが、おんしの淹れた紅茶は美味しいから嬉しいぞ」
エミヤはお湯を沸かしに一度執務室を出ていった。
そして少しした後、再び扉が開く。
「できたかエミ………なんだおんしか。どうしたのだ?」
「オーナー。少し問題が発生しました。"クイーン・ハロウィン"の者が境界門を通ってきたと情報が」
入ってきたのは例の割烹着の店員だった。彼女は白夜叉の前に来ると、すぐに問題の情報を告げる。
それを聞いた白夜叉は訝しげな目で店員を見る。
「………それは真か?ふむ…………もしかしたらあの野郎、私の挑戦権の噂を何処からか知ったか。不味い………どの辺りの序列の者が来たか知らんが、三桁の者が相手では下層は誰も勝てんではないか………どうしたもんかのぉ………」
上層、それも三桁のコミュニティのメンバーともなれば、下層の者ではどんなに足掻いても勝てないのが常だ。
白夜叉が、このままではクイーンが一人勝ちして、些か盛り上がりに欠けるのでは?と考えている時だった。
再び執務室の扉が開き、ティーセットのワゴンを押して戻ってきたエミヤが見えた。
「白夜叉、ティータイムの準備が出来たよ……む?君もいたのか。ちょうど良い、飲んでいくかい?」
「ええ、いただくわ」
エミヤは店員を見てお茶を誘い、店員も気軽に頼んだ。サウザントアイズの客分+仕事の手伝いをしてくれるエミヤは、店員とこの2ヶ月程でとても仲が良くなっていた。今では砕けて話すぐらいには仲が宜しい。
そんな二人を見ていた白夜叉はここでピンッと来た。
「エミヤ。話があるんだが良いか?」
「いいよ。紅茶を飲みながらで構わないかな?」
そう言ってエミヤは、紅茶を淹れたティーカップとソーサを白夜叉の座る仕事机の前に音をたてず置く。
白夜叉がそれを飲み、店員もそれを見てから受け取ったカップに口をつけた。
「やはりおんしの淹れた紅茶は旨いな。仕事が一段落ついた後の一杯は格別だ」
「ええ、本当に美味しいわ」
「フフッ、ありがと」
エミヤも二人の感想を聞いて嬉しそうな表情を浮かべた。
一度彼女達が飲み干した後、話を聞いた。
「それで白夜叉。話とは?」
「うむ、それなんだがな」
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『ーギフト名 "Raimundus Lullus"ー
参加資格E:力ある者
敵対者:
・善なる者。
・偉大なる者。
・継続する者。
・知恵ある者。
・意思ある者。
・徳ある者。
敗北条件:"契約書類"の紛失は資格の剥奪に相当。
勝利条件:全ての"ルルスの円盤"を結合し、心理ならざる栄光を手にせよ。
ゲーム補足:
全ての参加者の準備が整い次第ゲーム開始。
ゲームの終了は全ての参加者達が敗北した場合。
宣誓 上記を尊重し誇りと御旗の下、"サウザントアイズ"はギフトゲームを開催します。
"サウザントアイズ"印』
しばらくして。そう書かれた黄金盤と、"善"と"意思"の資格がある黄金盤を手に、街を徘徊するこれまた黄金の騎士がいた。
周りの街並みには、リトルゲームの準備を開催しようとする商業コミュニティや、ゲームに挑まんとする武道派のコミュニティの喧騒で賑わっていた。
このゲームの期間中、黄金盤の資格を賭けてそれぞれが参加資格の意味に殉じたリトルゲームを開催する。
それによって勝って集めた資格を七種類揃えれば勝者となるわけである。
リトルゲームとは、ゲーム中に行われる簡易ゲームのことだ。
黄金の騎士ーーーー無銘もまた先程、"金の騎士と銀の鍛冶"と言われる噂の実力を確かめようと、"力"で挑んできたコミュニティを二つほど潰していた。
(ハァ…………私にも剣を売り捌くという大事な仕事があったのにまったく……)
(ええー、良いじゃん別にぃー。あっちが勝手に売り捌いてくれるんだし、こっちの方がアルちゃん的にも面白そうだし)
(気楽に言ってくれるけど………メドゥーサはそのコミュニティの強さを知ってるんでしょ?)
(まあねー。来てる奴が女王本人じゃないからどんな奴か知らないけど、中々強いと思うよ?なんせアイツが選んだ選り優りの騎士、"
(ふぅん…………君が言うほどの騎士達なのか)
(そうだよ。あとはケルトの英雄が多いね)
アルゴルが気楽にエミヤに話すと、凄く嫌そうな顔をされた。
(うげぇぇ…………ケルトとか……もしかして"クランの猛犬"とかいたりする?)
(さぁー……。そこまではわからないけどアレはいるよ。スカサハ)
(…………あれだよね?クーフーリンが師事していたという影の国の王だよね?それはちょっと………)
(うーん………どうなんだろうね?やっぱり本人と会ったことあるの?まあ、ヤー君が知ってる奴じゃないと思うよ?あいつ執事やってるし)
(そっか………でも、ケルトかぁー………)
若干…いや、かなりテンションが下がりながらも白夜叉が示した目的地へと足を進める無銘。
その目的地が近くなってくると、爆音と共に家越しに人間が吹っ飛ばされている光景が見えた。
『あれか………憂鬱だ』
そのまま開けた広場まで行くと、結構な数の人だかりができていて、その広場を囲っていた。
その人垣を抜けて出ると、複数人の男が倒れているのとローブを頭まですっぽり羽織った怪しい出で立ちの女がいた。
女は無銘が出てくるとそちらを向き、そのローブの中から覗く仮面が見えた。女は尋ねる。
「貴女が次の相手ですか?今のところ私は"力"と"知恵"と"偉大"を持っていますが、それ以外は持っていますか?」
『(なんだろ…あなたのニュアンスが……)……ああそうだよ。私も三つ持ってるけど、被ってないのは"善"と"意思"だね』
「そうですか。この時間帯で既に三つとは素晴らしいですね。ではどのようにしますか?貴女が選んでいいですよ?」
『………そうだね。では"力"で構わないかな?』
「わかりました」
そう言って仮面の女は鞘から剣を抜く。その際、ローブの下から白の手甲と白の騎士甲冑、ドレススカートが見えた。
それを確認した無銘もギフトカードから金の鍔があしらわれた剣を取り出した。
そのまま無銘が一歩踏み出すと、十六夜ですら視認するのがやっとの速さの一閃が彼女を襲う。
『……………』
「やりますね」
動体視力のみなら十六夜を超えるその目で、剣の軌跡を予想し、手に持つ剣で白騎士の一撃を受け止めた。
「なるほど。その仰々しい姿は見かけ倒しでは無いようですね」
騎士は一度離れながら剣の柄を捻る。すると刀身が緩み鞭状に刃が分解される。その連接剣が後退しながら振るわれ、鞭の様にしなる剣が先程の速さで迫る。
無銘はそれをいなし、追撃の返す刃を弾く。さらに弾いた一瞬の隙を抜って、女騎士に一撃を入れようと肉薄する。
がしかし、騎士は忍ばせたギフトカードから二本の長槍に持ち替えると、無銘の剣と槍の刃が衝突した。
衝突により起きた衝撃波が大気を震わせ、周りの野次馬からも悲鳴があがる。
騎士は二本の槍で無銘を刺し穿とうと、嵐の様に槍を迸らせ、無銘はもう一本取り出した二本の剣でその猛攻をいなし、弾く。
電光石火の速さで振るわれる槍の突進と、堅牢な守りで迸る剣が、かち合う度に衝撃波を起こし周りで観戦している人々を魅了した。
が、その均衡から押され始めるのは無銘だった。
(くそッ………この1ヶ月で大分馴れたとはいえ……やはり持ち主を真似た剣技では限界があるか!)
押されてきた無銘は堪らず後ろに跳んで距離をとる。
しかし、一瞬で弓に持ち替えた騎士が、空中にいる無銘に剛弓から放たれた矢の雨を浴びせる。
相手が弓を構えた事に気付いた無銘も、弓と矢を取り出す。そこから持ち前の連続投射で全ての飛んでくる矢を打ち落とし、残った矢が騎士に迫る。
「ッ!?」
騎士がすぐに持ち替えた槍で叩き落とすと、無銘はその隙に周りにあった一軒の屋根に着地した。
ローブを羽織った白い騎士ーーーーーーーーフェイスレスは仮面の下で驚きの表情をしていた。
(強い………まさか下層にこれ程の武芸を持つ者がいるとは驚きですね。しかも弓技で私が劣るとは………)
今の攻防でわかる、無駄の無い動きと研鑽された技。久しく見ない武芸の達人。それも自分と同等の腕を持つ者に、フェイスレスは嬉しさを感じた。
どんなに腕が立つ者でも、相手がいなければ鈍る。しかし、こんな下層でこの様な強者に会えたのは幸運だと感じたのだろう。
(女王の気まぐれには辟易してましたが………これは嬉しい誤算ですね。それに良い土産話にもなりそうです)
そう考えると、フェイスレスは無銘がいる屋根まで跳んだ。
そのまま無銘の前に着地すると、改めて彼女は口を開いた。
「強いですね。武芸の達人………それもこんな下層で会えるとは思いませんでした」
『君も大概だと思うけどね。しかも槍に連接剣に弓と…………一度の戦闘で近中遠の得物を隙無く使い分けられる者は中々いない。それに全てが一級品とはね………』
「それは貴女もでしょう?剣技では守り、弓技では私を超えてくる。戦法が似ているのはとても親近感が湧きますね」
ですが、と付け加えて槍を構える。無銘もまた、武芸の勝負で馴れていない剣で争うのは不利と感じ、干将・莫耶を取り出して構える。
「今度は短剣ですか………やはり多芸です、ねッ!」
そう言って突進してくるフェイスレスの槍を、無銘は干将・莫耶で捌く。再び嵐のような激突が始まり、その衝突で屋根がボロボロになっていく。
無銘は堅実な守りで槍をいなし続けると、後退するように地面に向かって跳ぶ。フェイスレスは持ち替えた連接剣で空中の無銘を襲い、その剣閃は干将・莫耶に叩き落とされた。
そのまま広い道に出ると、フェイスレスも跳んで無銘に迫り、二本の長槍を上から落とす。
短剣を交差させてまともにその一撃を受け止めると、彼女の足下の地面が陥没した。
無銘は槍を横に弾き、空中にいるフェイスレスを蹴りでふっ飛ばす。
瞬間、両者は弓を取り出し矢を射る。次々と矢が発射されては衝突して辺りにばらまかれた。
やはり弓では不利と感じたのだろう。着地したフェイスレスが連接剣を取り出し、鞭の様に剣を操り、矢を必要最低限の動きで叩き落としていく。が、弾幕が厚く狙いが必中なために中々進めない。
一度弾幕が途切れると、フェイスレスは素早くエミヤに迫り、しなる剣を一閃。
すぐに干将・莫耶に持ち替えた無銘は、剣閃を弾き飛ばしそのままフェイスレスに突進する。
槍と剣の衝突音が辺りに響いた。
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"ノーネーム"本拠・貯水池前の憩いの小屋
エミヤを除く主力メンバーは、リリの淹れたお茶と煎餅をお茶請けを手に集まっていた。
ちなみに、先程黄金盤を奪いに来た他のコミュニティの者達を返り討ちにし、今回の"サウザントアイズ"主催のゲームの内容を詳しく聞いた後である。
「さて、そんじゃあ"勝った奴、黒ウサギが1日服従権"を賭けてゲームに参加しに行くか」
「行きませんお馬鹿様!!」
飲み干した十六夜は立ち上がり、黄金盤を手に街へ繰り出そうとするが、スパァン!と黒ウサギのツッコミが彼の頭を捉えた。
「ええ、早く行きましょう。私もその権利欲しいし」
「そうだね。急ごう」
「私も早くエミヤを見つけたら勝ちを狙いにいかねば」
「ノリノリで行かないでくださいこのお馬鹿様方!!」
今日も平和に黒ウサギのツッコミが響く。
ガチ戦闘回だけど………大丈夫ですか?ちゃんと書けてる?
ちなみに剣の存在は忘れてませんよ私