問題児に紅茶、淹れてみました(休載)   作:ヘイ!タクシー!

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以外と進まない……

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23話 アンダーウッドで迷路をやるそうですよ?

『長らくお待たせいたしました!火龍誕生祭のメインギフトゲーム・〝造物主達の決闘〟の決勝を始めたいと思います!進行及び審判は〝サウザンドアイズ〟の専属ジャッジでお馴染み、黒ウサギがお務めさせていただきます♪』

 

 黒ウサギが満面の笑みを振り撒くと、

 

「うおおおおおおおおおお月の兎が本当にきたあああああああぁぁぁぁああああああ!!」

 

「黒ウサギいいいいいいい!お前に会うため此処まできたぞおおおおおおおおおお!!」

 

「今日こそスカートの中を見てみせるぞおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」

 

 観客は奇声じみた雄叫びを上げた。それに黒ウサギは笑顔で、だがウサ耳を垂れさせ怯んだ。

 そんな光景を、運営側の特別席のバルコニーから"ノーネーム"の十六夜と、飛鳥は見下ろしていた。

 

「……………………………………………。随分と人気者なのね」

 

『L・O・V・E 黒ウサギ(ハァト)』の文字。それを掲げた観客を飛鳥は生ゴミの山を見るような冷めきった目で見下ろす。

 

(これも日本の外の異文化というものなのかしら………頭を柔軟にして受け入れないと……)

 

 黒ウサギは事実可愛いから文句のつけようもない、と飛鳥は思う。

 一方、十六夜は観客の様々な雄叫びのような声を聞き、ハッと重要なことを思い出す。

 

「そういえば白夜叉。黒ウサギのミニスカートを絶対に見えそうで見えないスカートにしたのはどういう了見だオイ。チラリズムなんて趣味が古すぎるだろ。昨夜に語りあったお前の芸術に対する探究心は、その程度のものなのか?」

 

「そんなことを語っていたの?」

 

 お馬鹿じゃないの?と飛鳥は言うが、二人には届かない。

 一方、白夜叉は後ろに控えている、黄金の騎士に頼んで渡された双眼鏡から視線を外して、十六夜を不快そうに一瞥。その表情には、彼に対する明確な落胆の色が見え隠れしていた。

 

「フン。おんしも所詮その程度の漢であったか。そんな事ではあそこに群がる有象無象となんら変わらん。おんしは真に芸術を解する漢だと思っていたのだがの」

 

「………へえ?言ってくれるじゃねえか。つまりお前には、スカートの中身を見えなくすることに芸術的理由があるというんだな?」

 

 無論、と首肯する白夜叉は、まるで決闘を受けんばかりの気迫で凄んだ。

 

「考えてみよ。おんしら人類の最も大きな動力源はなんだ?エロか?成程、それもある。

 だが時にそれを上回るのが想像力!未知への期待!知らぬことから知ることの渇望!!小僧よ、貴様程の漢ならばさぞかし数々の芸術品を見てきたことだろう!!その中にも、未知という名の神秘があったはず!!例えばそう!!モナリザの美女の謎に宿る神秘性ッ!!ミロのヴィーナスの腕に宿る神秘性ッ!!星々の海の果てに垣間見るその神秘性ッ!!そして乙女のスカートに宿る神秘性ッ!!

 それらの神秘に宿る圧倒的な探究心は、同時に至る事のできない苦渋!その苦渋はやがて己の裡においてより昇華されるッ!!何物にも勝る芸術とは即ち―一―己が宇宙の中にあるッ!!」

 

 ズドオオオオオオオオオオン!!

 という効果音が聞こえて来そうな雰囲気で、十六夜は自分の知らない新境地に、

 

「なッ………己が宇宙の中に、だと………!?」

 

 衝撃を受けて硬直。

 一方、別の意味で衝撃を受けるサンドラ一同。

 

「し、白夜叉様………?何か悪いものでも食べたのですか………!?」

 

「見るな、サンドラ。馬鹿がうつる」

 

 マンドラは不安そうなサンドラの顔をそっと隠し、何も知らぬ存ぜぬの姿勢を貫くが、その視線は冷え切っていた。

 白夜叉の客分である黄金の騎士も、流石に不敬な物言いのマンドラに注意を促すことができなかった

 だが白夜叉は気にせず握り拳を作って、己の説法をこう締めた。

 

「そうだッ!!真の芸術は内的宇宙に存在するッ!!乙女のスカートの中身も同じなのだ!!見えてしまえば只々下品な下着達も―――見えなければ芸術だッ!!!」

 

 ズドオオオオオオオオオオン!!

 白夜叉は言い切った。そして十六夜にもう一つの、騎士に渡された双眼鏡を差し出す。

 

「この双眼鏡で、今こそ世界の真実を確かめるがいい。若き勇者よ。私はお前が真のロマンに到達できる者だと信じておるぞ」

 

「………ハッ。元・魔王様にそこまで煽られて、乗らないわけにはいかねえな………!」

 

 ガッ!と双眼鏡を受け取り、二人は黒ウサギのスカートの裾を目で追う。

 騎士は、頼まれて渡した双眼鏡達をどこか悲しそうに見ていた。

 

 ____________________

 

 耀は舞台袖で、セコンドについたジンとレティシアと、対戦コミュニティの相手について情報を貰っていた。

 

「―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟に関して、僕が知っている事は以上です。ただ、"サウザントアイズ"の客分に対してはわかりません。それらしき人は昨日会ったのですが、黄金の騎士と言うことしかわかりませんでした…………」

 

「大丈夫。ケースバイケースで臨機応変に対応するから」

 

「本当にサポートがいなくて大丈夫か?万が一と言うこともあるぞ?」

 

「大丈夫、問題ないよ」

 

 舞台の真中では黒ウサギがクルリと回り、入場口から迎え入れるように両手を広げた。

 

『それでは入場していただきましょう!まずは〝ノーネーム〟の春日部耀と、〝ウィル・オ・ウィスプ〟のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 

 呼ばれた耀は舞台に出る。その瞬間、彼女の眼前を高速で駆ける火の玉が横切った。

 

「YAッFUFUFUUUUUuuuuuu!!」

 

「わっ………!」

 

 堪らず仰け反り尻もちをつく耀。

 強襲した人物―――〝ウィル・オ・ウィスプ〟のアーシャは、ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートを揺らしながら、愛らしくも高飛車な声で嘲った。

 

「あっははははははははは!見て見て見たぁ、ジャック?〝ノーネーム〟の女が無様に尻もちついてるよ!素敵に不敵にオモシロオカシク笑ってやれ!!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 煽るアーシャに盛大に笑う火の玉。

 一方、耀は火の玉の中心に見えるシルエットに釘付けだった。

 

「その火の玉………もしかして、」

 

「はぁ?何言ってんのオマエ。アーシャ様の作品を火の玉なんかと一緒にすんなし。コイツは我らが〝ウィル・オ・ウィスプ"の名物幽鬼!ジャック・オー・ランタンさ!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 アーシャが腰かけている火の玉へ合図を送ると、火の玉は取り巻く炎陣を振りほどいて姿を顕現。

 轟々と燃え盛るランプと、実体の無い浅黒い布の服。

 人の頭の十倍はあろうかという巨大なカボチャ頭。

 

 それを見た飛鳥は興奮気味にはしゃいでいた。

 

「ジャック!ほらジャックよ十六夜君!本物のジャック・オー・ランタンだわ!」

 

「はいはい分かってるから、落ちつけお嬢様」

 

 らしくないほど熱狂的な声を上げて十六夜の肩を揺らす飛鳥。十六夜はそれに苦笑する。

 

 一方、アーシャが耀を嘲笑して言った。

 

「ふふ~ん。〝ノーネーム〟のくせに私達〝ウィル・オ・ウィスプ〟より先に紹介されるとか生意気だっつの。私の晴れ舞台の相手をさせてもらうだけで泣いて感謝しろよ、この名無し共」

 

「YAHO、YAHO、YAFUFUUUuuuuuuuu~~~♪」

 

『せ、正位置に戻りなさいアーシャ=イグニファトゥス!あとコール前の挑発行為は控えるように!』

 

「はいは~い」

 

 アーシャは小馬鹿にしたような仕草と声音で舞台上に戻る。耀も舞台に上がり、円上の舞台をぐるりと見回し、最後にバルコニーにいる飛鳥達に小さく手を振った。

 それに気が付いた飛鳥は耀に手を振り返す。

 その仕草が気に入らなかったのか、アーシャはチッ、と舌打ちして皮肉気に言う。

 

「大した自信だねーオイ。私とジャックを無視して客とホストに尻尾と愛想ふるってか?何?私達に対する挑発ですかそれ?」

 

「うん」

 

 カチン!と来たように唇を尖らせるアーシャ。効果は抜群らしい。

 黒ウサギもそのやり取りを見た後、次のコミュニティを呼ぶ。

 

『次は"ラッテンフェンガー"の……と言いたいところですが、諸事情により今回は棄権と言うことになりました。よってゲームは三つのコミュニティで優勝を争うことになります。』

 

 黒ウサギの説明に観客も動揺する声があっちこっちから上がる。

 しかし、その雰囲気を吹き飛ばすために黒ウサギは努めて明るく宣言した。

 

『なので最後のプレイヤーになります!今回の"主催者"である白夜叉様が呼んだ謎多き人物。"サウザントアイズ"《客分》の無銘です!』

 

 黒ウサギが入場口を見る。そこには…………誰も現れていなかった。

 

『あれ?』

 

 バルコニーに座って観戦していた一同は、白夜叉の後ろに控えている黄金の騎士に「なぜここにいる?」とばかりに視線を送る。

 騎士は白夜叉に「なぜ自分をここに呼んだ」とばかりに困った視線を送る。

 視線を受け取った白夜叉は、

 

「よし"無銘"よ!ここは一つ、私の客分として盛大な登場をしてくれ!」

 

 そんな無茶ぶりを騎士に言い放った。

 

「……………………」

 

 助けてくれとばかりに主賓のサンドラに、兜の中で懇願の眼を向けるも逸らされた。隣のマンドラを見るも逸らされる。

 

「……………………」

 

 十六夜を見ると「楽しみにしてるぜ!」とばかりにサムズアップされ、飛鳥を見ると「が、頑張って」と応援された。

 

『…………………ハァ』

 

 男とも女とも判断のつかないくぐもった声で溜め息を吐く、紅い腰マントをたなびかせた黄金に輝く騎士。その輝きはどこか鈍くなっているように見える。

 

 騎士はその場から舞台に向かって高く跳躍した。

 いきなり主催者席からの登場に観客が驚く。

 無銘はギフトカードから取り出した剣を、舞台の中央に着地すると同時に構える。

 そこから曲芸じみた動きで剣を縦横無尽に振り、ブオオオオオオオアア!!という音と共に大気が巻き上げられ、最後に剣を高く突き上げる。

 剣先から天を突くかの如く極大の光の柱が昇った。

 日輪のように辺りを照らす閃光に、悲鳴やら歓声やらが観客から上がる。

 

「………綺麗」

 

「……………ッ!」

 

「Yaho…………」

 

 最後に剣を振り払って地面に突き立てた後、騎士はそのまま直立不動でいた。

 

『……………ハッ!あ、ありがとうございました…………コホン。それではゲーム開始前に、白夜叉様から舞台に関してご説明があります』

 

 そう言って黒ウサギは復帰すると、白夜叉にゲーム解説を求めた。

 

「うむ、承った。そして私の期待に応えてくれてありがとう無銘よ。ーーーーーーーーそれでは、まずは手元の招待状を見てほしい。ナンバーが書かれているはずだ。

 そしてナンバーが3345番になっておる者はおるかの?おるのであれば招待状を掲げ、コミュニティの名を大きな声で言ってくれ」

 

 しばらくして、樹霊の少年が招待状を掲げ、叫んだ。

 

「こ、ここにあります!『アンダーウッド』のコミュニティが、3345番の招待状を持っています!」

 

 それを聞いた白夜叉は一瞬で少年の前に移動し、ニコリと笑いながら声をかけた。

 

「おめでとう、『アンダーウッド』の樹霊の童よ。後に記念品でも届けさせてもらおう。よろしければおんしの旗印を拝見してもよいかな?」

 

 頷きながら少年はシンボルの彫られた木造の腕輪を差し出す。

 少しの間、その旗印を見つめた白夜叉は腕輪を返し、一瞬で元の位置に戻った。

 

「今しがた、決勝の舞台が決定した。それでは皆の者。お手を拝借」

 

その言葉に会場の客が手を構え、『パン!』と、盛大に手を打ち鳴らす音が会場に響く。

 瞬間、世界が一変。舞台は樹の根に囲まれた場所になった。

 

『ギフトゲーム名〝アンダーウッドの迷路〟

 

 ・勝利条件 一、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る。

       二、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

       三、対戦プレイヤーが勝利条件を満たせなくなった場合(降参含む)。

 ・敗北条件 一、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

       二、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

「―――"審判権限"の名において。以上が三名不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。御三人とも、どうか誇りある戦いを。此処に、ゲームの開始を宣言します」

 

 黒ウサギの宣誓が終わり、ギフトゲームは開始した。

 二人は他のプレイヤーを睨み、一人はただ突っ立っているだけで、膠着が生まれた。

 暫しの空白後、動いたのは小馬鹿にした笑いを浮かべるアーシャだった。

 

「睨み合ってても進まねーし、先手はどっちかに譲るぜ?」

 

「………………貴女は"ウィル・オ・ウィスプ"のリーダー?」

 

「え?そう見える?嬉しいんだけどさぁ♪残念だけどちが」

 

「そう。わかった」

 

 アーシャはリーダーと思われて嬉しかったのか上機嫌で答えようとしたが、耀は会話をまともに聞かずに背後の通路に疾走した。無銘もその後に続く。

「え…………ちょっまっ……………」

 アーシャは一人だけ残されて唖然とするも、すぐに我に返り、怒りに身を任せて叫ぶ。

 

「…………お、オゥゥゥウウウケェェェイ!!バカにしやがったこと後悔させてやるぜぇ!いくぞジャック!人間狩りだ!!」

 

「YAHOHOhoho!!」

 

 ツインテールを逆立たせて猛追するアーシャ。樹の根の隙間を次々と昇る耀に、それを追う無銘。その後ろから追うアーシャは叫ぶ。

 

「地の利は私達にある!焼き払えジャック!!」

 

「YAッFUUUUUuuuuuu!!!」

 

 アーシャが左手を翳し、ジャックが右手のランタンとカボチャ頭から溢れた悪魔の業火が、耀と無銘を襲う。

 だが、無銘は振り返ると、ギフトカードから取り出した名剣で炎を切り払う。耀もまた最小限の風を起こし、炎を誘導して避けた。

 

(なんだ?騎士の野郎は剣技で避けたのはわかるが…………今の風……それがヤツのギフトか?)

 

 アーシャは業火を避けられ舌打ちする。対して、耀は既にジャック・オー・ランタンの秘密に気が付き始めていた。

 

 Will o' wisp と Jack o' lanternの伝承

 

 生前のジャックは二度の生を大罪人として過ごし、永遠に生と死の境界を彷徨うことになる。それを哀れに思った悪魔が与えた炎こそ、ジャックのランタンから放つ業火。

 ―――〝伝承がある"という事は〝功績がある"。その法則に則るなら〝ウィル・オ・ウィスプ"のコミュニティのリーダーは、『生と死の境界に現れた悪魔』のはずだ。

 

 しかし、彼女はリーダーではないと宣言した。

 

(ならあの子は違う悪魔か種族のはず…………)

 

「あーくそ!ちょろちょろと避けやがって!三発ずつ同時に撃ち込むぞジャック!」

 

「YAッFUUUUUUUuuuuuuuuu!!」

 

 アーシャが左手を翳し、次に右手のランタンで業火を放つ。勢いを増した炎を、無銘は先程同様に剣で切り払うが、耀は異能ギフトすら使わずにすり抜ける。

 

「………な………!?」

 

『…………………』

 

 絶句するアーシャと興味深そうに耀を見る無銘。

 一方で、耀は今度こそ業火の―――篝火の正体に行き着いた。

 

(やっぱり。あの炎は、ジャックが出してるんじゃない。あの子の手で、可燃性のガスや燐を撒き散らしてるんだ)

 

 "ウィル・オ・ウィスプ"の伝承の正体とは―――大地から溢れ出た、メタンガスなどの、可燃性のガスや物質の類である。

 本来は無味無臭の天然ガスだが、嗅覚が人間の数万倍の感覚を持つ耀はその違和感を感じ取っていた。その嗅覚で耀は炎の軌跡を予測し避けた。

 グリフォンの異能で軌道を曲げる事が出来たのは、噴出したガスや燐を発火前に霧散させていたからだ。

 種を見破られた事を察してアーシャは歯噛みする。

 

「くそ、やべえぞジャック!このままじゃ逃げられる!」

 

「Yaho…………」

 

 走力では俄然耀が勝っている。

 豹と見間違う健脚は見る見るうちに距離を空けて遠ざかる。さらに耀の五感は外からの気流で正しい道を把握しているため、最早迷路の意味は既にない。

 

 しかし、ここで問題なのは黄金の騎士・無銘の存在であった。

 耀の脚力に余裕で付いてくる脚力。鷲獅子のギフトで妨害しても、何処吹く風で耀にピッタリとマークする。

 耀の中で一番警戒しなければいけない相手だった。

 そんな離れていく二人を見つめるアーシャは、諦めたように溜め息をを吐いた。

 

「…………くそったれ。悔しいけど後はあんたに任せるよ。本気でやってくれ、ジャックさん」

 

()()()()()()

 

 そうジャックが言うと、一瞬にして無銘と耀の前に現れた。堪らず止まる耀と、それを見て止まる無銘。

 

「嘘」

 

「嘘じゃありません。失礼、お嬢さんと騎士の御方」

 

 ジャックの真っ白な手が、強烈な音と共に二人をなぎ払う。

 樹の根に叩きつけられる耀は意識が飛びそうなほどの衝撃を受けてケホッと咳をつく。事実、無銘はその一撃で意識を失ったように兜が下を向いていた。

 

「さっ、早く行きなさいアーシャ。このお嬢さんは私が足止めします」

 

「すまないジャックさん。本当は私の力で優勝したかったんだけど…………」

 

「それは貴女の怠慢と油断が原因です。猛省し、このお二人のゲームメイクを少しは見習いなさい」

 

「了解…………」

 

 そう言ってアーシャは根を登っていく。

 

「まっ」

 

「待ちませんよお嬢さん」

 

 そう言ってジャックは先程と比べ物にならないほどの熱量と業火を出すが、

 

()()()()()()()()()()()()

「「なっ!?」」

 

 いつの間にか意識を取り戻した(正確には気絶したフリ)無銘が、炎で視界が狭まった瞬間に二人を追い抜く。その時、知らない間に上空に浮かんでいた矢や槍が放たれた。その武具はアーシャのゴシックロリータの服を貫き、袖とスカートの部分を重点的に樹の根に縫い止めた。

 

「ふぎゃぁッ!!」

 

「アーシャ!!」

 

 さらに注意が彼らに向いている耀にも、後ろに浮かんでいる夥しい量の肥大したグレートソードが狙っていた。

 剣群はドガガガガガガガガがガガがッ!!という重い音をたてて、彼女が一分の隙も動けない様に回りに突き刺さる。

 

「ッッッ!!?」

 

『さて。これで私以外のプレイヤーは動けなくなったな。"ノーネーム"の彼女が先に進んでくれたお陰で、大まかな出口もわかった』

 

 無銘は淡々と己の仕事をやり遂げたように呟いた。

 それを聞いても、もがくにも剣で切れてしまうため動けない耀と、もがいても抜け出せないアーシャは悔しがる。

 

「くっ!!」

 

「なんだよこの矢とか槍は!!手が動かせねぇ!!」

 

「アーシャ!!今助けーーーーー」

 

『させると思うかい?』

 

 そう言って無銘はジャックの前に出る。

 先程とは真逆の構図が出来上がってしまった。

 

 ____________________

 

 装飾付きの黒い兜

 

 装備中に、認識阻害及び元の存在が世界から希薄になる能力を持つ。

 個人ではなく世界に干渉を及ぼすため、ギフト無効でも条件を満たさなければ気付くことは困難。

 本来は世界から存在を消す能力だったが、劣化してしまった模造品

 




無銘まじ悪役

まさか7000文字超える日が来るとは……

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