問題児に紅茶、淹れてみました(休載)   作:ヘイ!タクシー!

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お風呂が……思ったより長くなってしまった。


22話 露天風呂らしいですよ?

"サウザンドアイズ"露天風呂

飛鳥は、昼襲われた時に汚れてしまった体を清めていた。

 

彼女がレティシアに捕まった後、一緒にクレープを食べていたのだが、妖精を見つけて追いかけたらレティシアとはぐれてしまう。

その後、追いかけた妖精ーーーーコミュニティ"ラッテンフェンガー"所属らしい妖精と友達になった飛鳥は、展覧会場の大空洞で、彼女のコミュニティ作の鋼の巨人に見いっていたが、そこをネズミの集団に襲撃された。

 

ネズミ達は飛鳥の"威光"が効かず、生傷を作りながらもガルド戦の時に手に入れた白銀の剣で抵抗するが、劣勢に立たされてしまう。

運よく追い付いて、大人の姿になったレティシアに助けられたが、"サウザンドアイズ"に戻るとそのまま割烹着の例の店員によって、風呂に連行されて今に至る。

 

 

「ふぅー………………」

 

飛鳥は体を綺麗にして、治癒の効果のある湯殿に浸かりながらネズミ襲撃の件について考えていた。

 

(さっきのネズミ…………私のギフトが通用しなかった……)

 

飛鳥の"威光"はあらゆる人・物に干渉するモノだが、霊格の高い存在または、物品に対しては通用しない場合がある。

 

"ノーネーム"工房に眠る宝剣・聖槍・魔弓と言ったギフトや、エミヤが造った宝具などが例である。

 

(霊格と言うのが未だよくわかってないけど、私が鼠如きに劣るとは思えないわ…………)

 

"霊格"とは世界に与えられた"恩恵"。生命の階位である。

霊格を得るには主に2つの条件の内、1つを満たす。

 

一つ、世界に与えた影響・功績・代償・代価によって得る

二つ、誕生に奇跡を伴う遍歴がある。

 

前者は仙人や、英雄。

エミヤはこれに当たり、抑止力と契約して輪廻の枠から外れた守護者としての"代価"と、霊長類の危機を幾度も救った影響による"功績"によって彼女の霊格が本来よりも上がっている。

 

後者は、神の子孫などにあたる存在。

"施しの英雄"カルナなどは、"功績"もあるが"太陽神の子"としての影響が強い。

 

飛鳥も、黒ウサギ曰く霊格を持っているらしく後者の条件が濃厚らしい。

 

(私は高い霊格を備えてるって黒ウサギが言っていた…………。それでも鼠を操れなかったのは()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うこと………)

 

それでも彼女はその存在と相対しないといけない事情があった。

 

(鼠はあの幼い妖精を狙っていた。そうなればまた彼女を襲ってくるはず…………その時には……!)

 

飛鳥が思考を整えていると、

 

「飛鳥さん!お怪我の程は大丈夫でございますか!?」

 

手拭いで身体を隠した黒ウサギが勢い良く飛び込んできた。

 

「待て待て待て黒ウサギ!!家主より先に入浴とはどういう了見だいやっほおおおおお!」

 

「きゃああああああ!!」

 

 バシャン、ズゴン!!

素っ裸な白夜叉に背後から強襲された黒ウサギは、二人共にくっついたままトリプルアクセルで湯船にダイブ。特に黒ウサギは頭から飛び込んだように見えた。

致命的な音を聞いた飛鳥は、慌てて黒ウサギに駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっと黒ウサギ!大丈夫!?湯船の底に頭が突き刺さってるわよ貴女!」

 

「だ、だびぼぶでごばいばぶ!(だ、大丈夫でございます!)あぶばばんごどきぶはだいぼうぶでぶが!?(飛鳥さんこそ大丈夫ですか!?)」

 

 湯船の底に頭を突っ込んだ黒ウサギは、その状態でも飛鳥の心配をする。次いで入ってきたエミヤが黒ウサギの頭を腕で抱えて引き抜く。

ポンッと、いう音と共に黒ウサギが湯船から引き上げられ、飛鳥の肩を掴んでボディチェックを行う。

 

「き、傷は大丈夫でございますか?細菌は問題ないですか?乙女の肌に痕が残るようなものは御座いませんか?痩せ我慢していませんか?本当に大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫よ。湯船に浸かったらすぐ治ったわ」

 

「私も心配したよ。レティシアから聞いた話では、体中に傷を負ったらしいじゃないか」

 

「心配かけてごめんなさい……」

 

 黒ウサギに無遠慮な程に身体をまさぐられ、エミヤには身体を細やかなところまで観察されるが、疚しい気持ちが無いので突き放せない。

 

「…………………」

 

そんな光景を白夜叉は黙って観察していた。

そんな白夜叉にエミヤは疑問を挟んだ。

 

「どうしたの白夜叉?」

 

「………飛鳥は15とは思えん肉付きだ。エミヤも顔に似合わずかなりのブツを持っている事はわかっていたが……着痩せするタイプかッ」

 

「はっ?」

 

「飛鳥の身体は鎖骨から乳房まで豊かな発育をしているしエミヤは垂れること無く張りがあり上を向く巨乳を持ちながら二人は乳房から臍のボディラインには一切の崩れが無くされど触れば女人の肉であることは間違いなくしかも臀部から腿への素晴らしい脾肉を揉みほぐせば指と指の間に瑞々しい少女の柔肌が食い込むのは確定的に」

 

スパァアンッ!!

木製の桶が二つ、白夜叉の顔面に見事直撃。始終一秒と掛からないセクハラ発言。

飛鳥は頬を紅潮させるが、まるで生ゴミを見る様な冷瞳で白夜叉を見下す。

 

「………え、何?白夜叉ってこんな人だったの?」

 

「ええ、まあ。凄い人ではあるのですが。それ以上に残念な御方なのでございます」

 

そう、と冷たく相槌。そのまま湯殿から出て扉にむかう飛鳥。

エミヤはその痛みの経験がある分、思いっきり顔面に桶が直撃して湯船に突っ込んだ白夜叉を介抱していた。

 

「白夜叉大丈夫!?」

 

「がフッ……エミヤよ……私はもう、ダメかもしれないッ……」

 

「しっかりして!傷はまだ浅い!!」

 

「何をしているんだお前達は……」

 

そんな茶番に興じていると、レティシアが二人にツッコミを入れながら湯に入ってきた。

その他にも耀や、とんがり帽子の小さな妖精も入ってきた。見れば出て行こうとした飛鳥も妖精に引っ付かれてまた湯船に浸かっていた。

 

「さてエミヤ。まだお前は身体を洗っていないだろ。ついでだし私が洗ってやる」

 

「ん?………それは流石に悪いよ。私が洗ってあげるからレティシアはそこに座って」

 

「いやいや……この前も私の部屋を掃除してくれたり剣を造ってくれたりするお礼だ」

 

「でも……」

 

渋るエミヤに見かねて白夜叉が助言を入れた。

 

「まあ、そう言うなエミヤ。こういう時は素直に気持ちを受け取っておくのも礼儀だ。そうだの…………私も普段のお礼だ!洗ってやるぞ!もちろん前をなッ!!」

 

「え……白夜叉もかい?いつも助けられてるのは私なんだから、それこそ悪いよ」

 

白夜叉のセクハラ発言にナチュラルに断るエミヤ。

だが白夜叉は知っている!この娘は押せば弱いと言うことにッ!!

 

「ならおんしも「では私も洗いますよエミヤさん!!」ぬうぅ……」

 

白夜叉の発言が黒ウサギの元気の良い声で阻まれてしまった。

 

「うーん……じゃあ代わりに私も二人を洗うよ。そうしよう」

 

「まてエミヤ!!私も入れろ!!」

 

「……そんなに洗いたいの白夜叉?」

 

(アルちゃんも洗ってよヤー君!)

(洗うからちょっと待ってて)

 

場が混沌としてきた中、飛鳥と耀はその光景を端から見て呟いた。

 

「………飛鳥、私と洗いっこしよ………」

 

「………ええ、そうね……」

 

____________________

 

「前々から思ってたけど……レティシアが大人の姿になるのは慣れないね……」

 

エミヤはリボンを解いて大人になったレティシアを見て少し頬を紅く染めた。

今のレティシアは出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んだ長身のモデル体型である。

普段のギャップがある分、元男として照れてしまうエミヤだった。

 

「ん?そうか?たしかに伸長は伸びるがそこまで変わるか?」

 

「いやいや……おんしのその体型も中々よな。スラッとした手足にエミヤや黒ウサギ程ではないが大きく綺麗な形をした胸。色白でクビレた体はプラチナブロンドの髪なのも相まってとてもエロい」

 

「そうだね。前に黒ウサギも言ってたけど、濡れた髪が月明かりに照らされてとても綺麗だよ。どんな宝石よりも輝いて見える」

 

「…………そうか」

 

少し照れた様子で返すレティシア。白夜叉は無視した。

 

 

レティシアはエミヤの背中を洗い、エミヤは白夜叉を洗っていた。

 

「ん………気持ちいいよレティシア。とても上手だね」

 

「まあな。前にメイドをやってみたいと思っていた時があってな、その時に練習したんだ」

 

「そっかぁ………あっ!そこはッ!」

 

「フフッ。エミヤは中々敏感だな。さっきからビクビクしてるぞ?ほらここなんか」

 

「ひゃっ!?首筋はッ!!」

 

「レティシア!おんしズルいぞ!!私にも代われ!!」

 

「良いじゃないか白夜叉。エミヤに洗われているんだから」

 

「まあそうだが…………たしかに、頭にある柔らかい感触はなんとも心地良いがな!!」

 

ちなみに白夜叉は後ろが終わり腕を洗って貰っていた。子供の体型である白夜叉は膝の上に抱えられて、必然的に頭の位置にエミヤの胸が当たる。

 

「もう良いぞエミヤ。後は自分で洗うからな」

 

「んッ……そっか……ぁ……れ、レティシア少し、んん……くすぐったいよっ」

 

「ここがいいのか?ほらほらエミヤ。もっと鳴くがいいさ」

 

「あうぅ…………れ、れてぃしぁ…?」

 

「………………おんしら!私を放っておくとはいい度胸だな!とうっ!!」

 

白夜叉はエミヤに飛び付き、顔を谷間に突っ込みモミシダク。

 

「白夜叉っ!や、やめぇッ!!」

 

そのままエミヤの悲鳴が鳴り響き続けた。

 

隅っこでは、体を洗われるのを待っていた黒ウサギが、危険を感じて巻き込まれないよう飛鳥と耀の洗いっこに参加していた。

 

____________________

 

風呂から上がった面々は先に上がっていた十六夜、ジンと合流。十六夜はセクハラ発言してハリセンを叩き込まれたのはご愛嬌だろう。

 

来賓室へ移動した面々は、木で出来た長テーブルの回りを囲んで、畳の上に座った。

上座に座る白夜叉が音頭をとる。

 

「それでは皆のものよ。今から第1回、黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません!」

 

「始めます」

 

「始めませんっ!!」

 

悪ふざけする白夜叉とそれに悪乗りする十六夜にツッコミを入れる黒ウサギ。

 

「もうっ! 魔王襲来に関する重要なお話かと思っていたんですよ!?」

 

「いやいや、審判の話は本当だぞ? 実は明日のギフトゲームの審判を黒ウサギに依頼したいのだよ」

 

「あやや、それはまた唐突で。何か理由でも?」

 

「おんしらが起こした騒動のおかげで〝月の兎〟が来ていると公になってしまっての。こうなったからには出さぬわけにもいくまい。無論、別途応酬も出るので安心せい」

 

 白夜叉の言葉になるほどと納得した一同。

 

「分かりました。明日のゲームの審判・進行役はこの黒ウサギが承ります」

 

「感謝するぞ。・・・・・・それで審判衣装だが、例のレースで編んだシースルーの黒のビスチェスカートを」

 

「着ません」

 

「着ます」

 

「断っ固着ません!もう、二人ともいい加減にしてください!」

 

「「チッ」」

 

舌打ちする二人。

すると、先程まで全く無関心だった耀が口を開き白夜叉に問う。

 

「ねぇ、白夜叉。私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

 

「すまんがそれは教えられん。〝主催者〟である私がそれを語るのはフェアではないからの。教えられるのはコミュニティの名前までだ」

 

 白夜叉がふと指をパチンッと鳴らすと、耀の前に昼間のゲーム会場で配られたものと同じ羊皮紙が現れた。

 その羊皮紙に書かれているコミュニティを見て、他の面々も驚く様子を見せた。

 

「"ウィル・オ・ウィスプ"に――"ラッテンフェンガー"ですって?」

 

「それに"サウザントアイズ"って……どういうことですか!?」

 

この二つのコミュニティはここの一つ上の階層――六桁の外門から参加しており、"サウザントアイズ"は言わずもがな、実質耀たちの各上の存在である。

一方、十六夜が"契約書類ギアスロール"を見て、物騒に笑い言う。

 

Rattenfänger(ラッテンフェンガー)――ドイツ語か。なるほど、なら明日の敵はさしずめハーメルンの笛吹きか」

 

「「へぇ」」

 

飛鳥と耀はどうでもいいようなリアクションを取った。だが、黒ウサギと白夜叉は驚嘆の声を上げる。

 

「ハ、"ハーメルンの笛吹き"ですか!?」

 

「どういうことだ小僧」

 

二人のあまりの驚きように、十六夜は思わず瞬きをしてしまう。

十六夜の様子に気づき、白夜叉が声のトーンを下げ説明する。

 

「すまぬ。召喚されたばかりのおんしらは知らんのだな。・・・・・・〝ハーメルンの笛吹き"とは、とある魔王に仕えていたコミュニティの名だ」

 

「何?」

 

十六夜は、魔王という言葉に目を細める。

 

「その魔王は、全二〇〇篇以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出し――"幻想魔道書群グリムグリモワール"というコミュニティを率いておったのじゃ」

 

「しかし、その魔王はとあるコミュニティとのギフトゲームで敗北し、この世を去ったはずなのです」

 

「魔王が死んだ以上、"ハーメルンの笛吹き"も力を失ったはずじゃが・・・・・・」

 

白夜叉は十六夜の方を向き問う。

 

「そもそも小僧。なぜ"ラッテンフェンガー"が"ハーメルンの笛吹き"なのだ?」

 

十六夜はしばし考えた後、隣にいたジンの頭に手を掴み、

 

「ふっ・・・・・・それは、我らがおチビ様が説明する」

 

「え? あ、はい」

 

ジンは、突然の事にキョトンとしたもののすぐに十六夜の提案に承諾した。

コホンと一度咳払いをし、ダボダボのローブを整え、ゆっくりと語る。

 

「"ハーメルンの笛吹き"という物語がグリム童話にあるのはご存知ですね? "ハーメルンの笛吹き"のハーメルンとは、実際に物語の舞台となった都市の名前です。そして、町の石碑にはこう書かれています」

 

『一二八四年 ヨハネとパウルの日 六月二六日 あらゆる色で着飾った笛吹き男に一三〇人のハーメルン生まれの子供らが誘い出され、丘の近くの処刑場で姿を消した』

この碑文はハーメルンの街で起きた実在する事件を示すものであり、一枚のステンドガラスと共に飾られている。

 

「このグリム童話の笛吹き男がラッテンフェンガー――ネズミ捕りの男。このネズミ捕りの男とは、グリム童話の魔書にある "ハーメルンの笛吹き" を指す隠語です。それは、グリム童話の道化師が、ネズミを操る道化師だったとされるからです」

 

(ネズミを操る・・・・・・ですって?・・・・・・)

 

飛鳥は、ジンの説明を聞き息を呑んだ。

先程の襲撃が飛鳥の脳裏を掠める。そして、襲われている時に不協和音のような笛の音がかすかに聞こえていたのを思い出す。

飛鳥はふと手元を見る。そこには、付いてきたトンガリ帽子の精霊が気持ちよさそうに眠っていた。

飛鳥はこの精霊と仲良くなった時、この子の名前を聞いた。名前はなかったが、コミュニティの名前を聞いた。その時に彼女が口にしたのは――

 

『ねぇ。あなたはなんというコミュニティに所属してるの?』

 

『らってんふぇんがー!』

 

 ――ラッテンフェンガー。まさに件のコミュニティの名前である。

 

(・・・・・・ラッテンフェンガーが魔王の配下? なら、この子は――――?)

 

 飛鳥の疑問、焦りはよそに話は進んでいく。

 

「ふむ。"鼠捕りの道化(ラッテンフェンガー)"に"ハーメルンの笛吹き"か…………これが予言の魔王かどうかはともかく"幻想魔道書群(グリムグリモワール)" の残党が忍んでおる可能性が高い」

 

そうある程度推測をつけていると、

 

(白夜叉)

 

(なんじゃエミヤ?)

 

(たしか君達の"主催者権限"で参加者を絞っているはずだったよね?)

 

(そうだ。私と"サラマンドラ"が認めたコミュニティ以外は参加できないし、勝手に街の中でゲームを主催できないようになっている。)

 

(では魔王は"主催者権限"が発動できないと言うことであってる?)

 

(うむ)

 

(なるほど……今回の襲撃には魔王も本来の実力が出せないと言うことか…………)

 

(どうしたのじゃ?エミヤ)

 

(…………白夜叉。確かに準備も万端だが何事も例外はある。最悪、警戒心が緩んでいる時に襲われて全滅、何てこともある。私も気を付けるが君も慢心はするなよ)

 

(………わかった)

 

そう言ってエミヤは白夜叉との内話を切った。

 




なぜだろう。レティシアとか白夜叉は台詞が浮かんでくるのに他の主力メンバーの台詞が出てこない。


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