前回の投稿時間ミスってた。夜じゃなくて朝に設定してた
黒ウサギが宣言した瞬間、ルイオスは足具のギフトで素早く飛翔した。
「なんだい?いきなりの逃げかな?ペルセウスの名が泣くよ?」
「ふん。僕が馬鹿正直に真っ正面から戦うように見えるかい?それに空にいてもヤることはあるんでね。」
そう言ってルイオスは"ゴーゴンの首"の紋が入ったギフトカードから、光と共に燃え盛る炎の弓を取り出した。
「メインで戦うのは僕じゃない。そして君が今から戦うのは、かの星霊だ。」
「っ!!」
「……なに?」
審判役である黒ウサギは焦りだし、エミヤは何のことかわからないとばかりに疑問の声をあげる。
黒ウサギが想像するのは最悪の事態。ルイオスが持つのはギリシャ神話の神々に匹敵するほどの凶暴なギフト。
ルイオスは首に付いたチョーカーを外し、それに付いた装飾品を掲げた。その瞬間、掲げたギフトが光始める。光は強弱を付けながらそのギフトの封印を一つ一つ解いていく。
エミヤは隙だらけのルイオスを撃ち落とそうか、と考えたが、一度そのギフトを確認しておこうと思い、止めた。
光の強さが最大になった瞬間、その"知っている気配"を感じ臨戦態勢をとるエミヤ。
獰猛に嗤ったルイオスはそのギフトの名前を告げた。
「目覚めろーーーーーーーー"アルゴールの魔王"!!」
光は褐色に染まり、エミヤの視界を染めた。
闘技場の隅々まで響き渡る様な甲高い声が耳を揺さぶる。
「ra………Ra、GEEEEEYAAAAAAAAAaaaaaaaa!!!」
現れた女は、身体中に拘束具と捕縛用ベルトを巻いて、女性とは思えない乱れた灰色の髪を逆立たせていた。
謳う様な、そして叫ぶ様な女の声に堪らずに耳を塞ぐ黒ウサギ。エミヤはその霊格を肌で感じ、叫ぶ。
「これは……メドゥーサか!!」
そして一瞬で投影した干将・莫耶を振り、石化して落ちてきた雲を切り捨てる。
「いやぁ、飛べない人間て不利だよねぇ。落下してくる雲も避けられないんだから。」
エミヤの頑張りを見てルイオスは嘲笑っていた。
「星霊・アルゴール………白夜叉様と同じ、星霊の悪魔。不味いですよエミヤさん……!!」
1つの星の名を背負う大悪魔、箱庭最強種の一角である"星霊"こそがペルセウスの切り札だった。
「RAAAAAALaaaaaa!!」
そんな彼等を無視して、エミヤは未だ叫ぶアルゴールに哀れみの視線を向けた。
「メドゥーサ……君はこちらでもマスターに恵まれなかったのか……本来の君はこんな姿ではないはずなのに……」
そう呟くとルイオスに敵意の視線を向ける。向けられたルイオスは不適に嗤った。
「さあ、どうする刀鍛冶師くん?」
「……予定が1つ変わった。本来ならもう少しじっくり様子を見ようと思ったけど、止めた。」
そう言って干将・莫耶を消し去った。唐突に己の得物を消したエミヤを疑問に思ったルイオスは。
「ん?どうしたの?諦めたかな?」
「戯け。そうではないわ」
エミヤは弓と剣を投影した。その瞬間、ルイオスを五つの赤い閃光が襲った。
「あ?…………ぁぁぁぁがあああああああぁぁぁぁぁ!!!」
四肢と腹が灼熱で焼けるような感触と、遅れてやって来た貫かれた激痛で、靴の制御がとれずルイオスは落下する。
「うぐぅぁぁぁぁ……うっぐ、ぼがぁぁ!!」
口に溜まった血を吐いてのたうつ彼に、エミヤは冷静に聞いた。
「私は弓兵なのでね。あんな撃ってくださいとばかりに空中に留まるなんて愚の骨頂だよ。」
そう言ってから一拍空けて、エミヤはルイオスに問う。
「さて、ルイオスくん。四肢と、内蔵ごと腹を貫いたんだ。このまま放置すれば出血多量で死ぬよ。それに早く処置しなければ四肢が壊死するかもしれない。さっさと降参することをお勧めするよ。」
「……ぐぅぁ……ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!!終らせろアルゴ」
ルイオスがその言葉を聞き、絶叫しながらアルゴールに石化の呪いを行わせようとした瞬間。
ルイオスの前に出て守っていたアルゴールがいる方向とは別の、全く予期しなかった方角から、捻れた剣がルイオスの顔すぐ傍の地面に突き刺さった。
「ひっ!」
「次は当てるが、どうする?」
そう言ってアルゴールの隙間から此方を狙うエミヤが見えた。
「わ、わかった!降参だ!!だから助けてくれ!!」
「そうか。では早速品を受け取ろうかな。」
そう言って、エミヤは弓と剣を持つ腕を下ろした。
呆気なく終わった決闘に観戦していた白夜叉達は呆然としていた。
一番早くに復帰したのはレティシアだったが、彼女は早々にエミヤの下に飛んでいってしまった。
まず、口を開いたのは飛鳥だった。
「……よ、弱くないかしらあの男」
「……いや、そうではない。油断していたとはいえ、本人とアルゴールが反応できない速度で矢を射たのだ」
「そうだぜお嬢様。あの光の軌道、見えたのか?」
「うっ……」
実際見えていなかったのだろう。飛鳥は押し黙ってしまった。だが、十六夜もこの結果に味気無いものを感じていた。
「まあ、それにしても呆気なく終わっちまったがな。もうちょっと星霊の実力ってのを見てみたかったぜ」
「いや、無理じゃよ。ルイオスはあの魔王を完全に御しきれていないからの。見ろ。あの数々の拘束具がその証拠だ」
「なんだ。結局アイツが弱かったのが敗因てわけか。……まあ、こうなったら後は、お姫様が何を奴等から取るかだな」
「一つはレティシアだとしても、残りは何を選ぶのかしら?」
彼等はエミヤが求める物に意識を向けた。
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「エミヤ!!」
レティシアが凄い勢いでエミヤに飛び付いてきた。
彼女は飛んできたレティシアを受け止めて、彼女に注意した。
「レティシア。危ないから、いきなり飛び付いて来ないでよ」
だがレティシアはそんな余裕がないのだろう。エミヤの発言を無視して彼女の胸ににすがり付きながら捲し立てる。
「良かった。ホントに良かった!……エミヤが私のせいで石にされて………連れて行かれるのではないかと気が気でなかったぞ!」
そう言ってエミヤに顔向ける。その目には少し涙が浮かんでいた。
レティシアは仲間を失うのを二度も経験しているのだ。そのトラウマが甦ってきたのだろう。
その顔を見て罪悪感が沸いたエミヤは、慌てて彼女をあやす様に喋る。
「ご、ごめんなさいレティシア。まさか君がそんなに私の事を心配してくれるなんて思わなくて……。ホントにゴメン」
「……うぅぅ…」
エミヤが慌てていると、黒ウサギも彼女に抱き付いてきた。
「全く!エミヤさんはここぞと言う時に無茶してっ!私も心配したんですからね!!」
「ああ、ごめんね黒ウサギ。……いや、そうじゃないよね。」
そう言って此方を見るレティシアと黒ウサギに告げた。
「心配してくれてありがとう。」
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その後、白夜叉の手を借りて応急手当てを受けたルイオスに、エミヤは報酬の内容を告げる。
「ではまず、レティシアを貰おうかな」
「ハイハイ。勝手に持ってけよ……はぁ」
「ああ、そうするよ。それと後二つが、"不可視の兜"のオリジナルと、"魔王アルゴール"の所有権だ。」
「はぁ?…………はあああああぁぁぁぁぁぁ!!!?」
エミヤの発言を理解した瞬間、堪らずルイオスは絶叫した。
当たり前だが、彼女は"ペルセウス"の主戦力だ。彼女を失うことは"ペルセウス"の瓦解を確定させるのに等しい。
それを理解している他の面々も少し口元を引くつかせていた。
「おお………随分とデカイ要求をしたなお姫様」
「まて!あれは僕ら"ペルセウス"の切り札だぞ!?それを持っていくなんて………」
「そう言う割には、彼女の力を全く制御できていなかったじゃないか。私の知ってるメデューサは、英霊に格が落ちてたとは言えもっと強かった。君が持ってるだけ宝の持ち腐れだよ」
「うぐぅ……」
至極真っ当なことを言われて黙るルイオス。
「まあ、そんなわけでそれらを貰うよ。悪いね"ペルセウス"くん」
そういった直後、エミヤの前に彼が付けていたチョーカーの装飾品と、オリジナルの"不可視の兜"が現れた。
それをギフトカードに入れたエミヤは、"ノーネーム"の面々に振り返り、満面の笑顔で、
「それじゃあ帰りましょうか!それとレティシア。"ノーネーム"復帰おめでとう!!」
そう告げた。
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その後、サウザントアイズ主催のゲームを中止させ、取引相手との交渉が破談になった"ペルセウス"は、"ゴーゴンの魔王"のギフトも無くなったのも相まって、六桁の外門にまで本拠が移された。
閑話休題。
エミヤが勝利してから二日後の"ノーネーム"談話室にて
「……………ぶぅ……」
「まあそんな落ち込むなよ春日部。二日間でこんなにイベントがあったんだ。その内、オモシロイ事がやって来るさ。」
「そうよ春日部さん。今回は仕方がなかったけど、また何時かエミヤさんの活躍も見えるわ。」
「………私だけ除け者にされた。」
「ち、違うのよ春日部さん!今回はエミヤさんが独断で急に行ったからであって、春日部さんを除け者にしようだなんて考えて無かったわ!」
一人置き去りにされた燿は盛大にブー垂れていた。
それを必死になってあやす飛鳥はとても友達想いであろう。
そんな二人を端から見ながら、エミヤは何とも言えない表情をしていた。
「……まあ、今回は私に非があるので認めるが……なんで私は執事の格好をさせられているの?いや、メイドとかじゃないから構わないんだけどさ」
「いやぁ、……あの姿を見たらなぁ。騎士はガチャガチャしてあれだから執事にしてみた」
「……どこから持ってきたの?」
『私だよ、エミヤ!!』
ビクッと、エミヤは急に頭の奥から響いた大きな声に反応してしまう。
「あん?どうしたお姫様。」
「いや……今しがた諸悪の根源がわかったところだよ…………で?なぜ私はこの仕切りの前に立たされているのかな?」
「まあ、今回した独断専行の罰ゲームだな。場合によっちゃあ、俺たちは優れた鍛冶師を失うことになったんだぞ。」
そう言われてはエミヤは黙るしかなかった。だが、仕切りの向こうでは黒ウサギとレティシアが何やら騒いでいるので、彼等がやりたいことが何となく察していた。
(……白夜叉。いきなり叫ばないでくれないかな?)
(む……ビックリさせたかったのになんだか反応が淡白だの。これが俗に言う倦怠期か)
(十分反応したよ…………ちなみに私は君と結婚した覚えもないけど?)
(連れないこと言うなよぅ。ディープなキッスをした仲じゃないか)
(……どうすればコレを切れる?)
(酷い!私との関係は遊びだったと言)
エミヤが凄く拒否りたい思いを白夜叉に送ると、白夜叉との念話が切れたようだ。
「……それで十六夜。いつまで待てば良いの?」
「そうだな……。黒ウサギ!まだか!?」
そう十六夜が仕切りの向こうにいる黒ウサギに話しかけると。
「ちょっと待ってください!!……レティシア様、なんで私まで!?」
「お前も一緒に抱き付いた仲じゃないか。それにエミヤはそっちの気がないか気になったのでな。ついでだ」
「ついでとか酷くないですか!?」
「開けるぞー」
それを聞いた十六夜はもう我慢できないのか、仕切りを開けた。
「ちょっ、まっ、十六夜さああぁぁぁん!!」
四人の視界に現れたのは、黒のドレスに花の装飾品が胸元であしらわれた姿のレティシアと、なぜか黒のメイド服に白のエプロンとカチューシャを着けた黒ウサギだった。
「わあ…………なんて可愛らしいのかしら!金髪のメイドも見てみたかったけど金髪のお姫様も棄てがたいわね!」
「…………レティシアも黒ウサギも可愛い。」
「テーマは美しい主従だな。ほら、お姫様も黒ウサギの隣に並べ。白夜叉に、『服を提供する代わりに写真撮ってくれ』って頼まれてるんだ」
「やはり彼女か……」
それぞれが感想を述べた後、エミヤをレティシアの後ろ、つまり黒ウサギの隣に行くように押した。
エミヤが傍に来て、レティシアは嬉しそうに聞く。
「どうだエミヤ?似合っているか?」
「ああ……二人とも、とても綺麗だよ。本当に絵本から出てきたお姫様とその従者のようだ」
「……黒ウサギはなんか複雑ですよ……でもその言葉は嬉しいです!ありがとうございます、エミヤさん!」
「ふふっ。エミヤも中々似合ってるよ。……まあ、男性物を似合っていると言っても微妙な褒め言葉だけどな」
そんなレティシアの言葉を聞いて、エミヤは嬉しいような、でもなにか違うと哀しんでるような、そんな表情を浮かべる。
「…いや、素直に喜んでるよ。うん……」
「でも、流石に胸とかお尻の方が窮屈そうですね。……お尻のラインが浮かんで妙な色気を醸し出してます……」
「………そうか……」
彼女はその後終始無言でいた。
彼女達が撮られた写真は全て、白夜叉の秘蔵コレクションの中に封印されたとかなんとか。
あと1話くらいで1巻分終わりですね。
なぜか2巻買ってなかった+受験勉強の気分転換で書いてるので更新速度遅くなるかと思いますが、どうぞこれからも良しなに