「…ハッ、スゲー盾だなお姫様。それにその剣もそうだが、俺の一撃を受けてどちらも原型を留めているとはな。お姫様の腕はかなり確からしい。」
「……こちらもかなり驚かされたよ……まさかあれほどの一撃を起こすとは……。アイアスが無ければ私は再起不能になっていたかもしれないね」
「そいつはありがとよ。んじゃあ次はお姫様だぜ」
そう言って十六夜はどこまで唯我独尊を貫いて、エミヤを見下していた。彼は余裕に腕まで組んでいる。
「……少し調子に乗らせてしまったようだね。」
魔力を右掌に溜める。
「
現れたのはドリルのように螺曲がっている剣だった。それと同時に投影した黒い弓に宛がい、高く跳躍する。
弓を引くのと同時に剣は捻れ伸び、その先を十六夜の頭もろとも地面を穿つように狙う。
「
瞬間、十六夜はエミヤから過去最大の脅威を感じて臨戦態勢を取ろうとするが、エミヤが先に魔力を剣に流し真名開放する。
「
十六夜は本能に従って伏せた。その頭上を先程の速度を超える速さで"空間を削り取りなから"剣が通過し、地面を穿つ。
剣は箱庭の地を貫き、遥か彼方まで飛んでいった。
「…………」
(やはり、強化された宝具の真名開放は魔力を余剰に喰う分、威力が上がるな。)
そう分析していると、
「……な、な、なななななな何してるんですかエミヤさん!!十六夜さんを殺す気ですか!!」
「十六夜にも驚いたが、エミヤには更に驚かされたな。正直ここまでとは予想してなかったぞ!」
「これは私の能力というよりは宝具の能力なんだけどね。……これでも魔力は抑えたつもりなんだけど(ボソッ)」
「なるほどな。これがお姫様がギフトで産み出した武具の力か……」
そう言って十六夜も少し口を尖らせながら近付いてくる。だがその目はエミヤを狙い定めた好敵手のように見ていた。
「そうだよ。あれは私が造った剣の中でも最強の宝具の1つ。切り札でもあったからあれを防がれたら私も少し落ち込んだかもね。」
「……さっきカラドボルグと聞こえたんだが、その名前は俺の知識では剣だったはずだ。出した時は剣だったし。それを矢のように飛ばしてきたのはどう言うことだ?」
「あれはまあ、私が使いやすいように改造したと言うか……」
どうやって説明したものかとエミヤが考えた瞬間。懐かくも少し違う脅威を感じ取った。
十六夜達もそれを感じ、そちらを振り向くと、褐色の光が射し込まれた。
「あの光はゴーゴンの威光!?見つかったか!!」
レティシアは3人を庇うように動こうとしたが、
十六夜が先に前にでて、その光を踏み抜いた。
ガシャン!!という音と共に、天地を覆う褐色の光はガラス細工のように砕けた。
「「なっ!!!」」
あまりの光景に黒ウサギとレティシアは声をあげる。
「今俺は、興奮とイライラで感情がごちゃ混ぜなんだよ。そんな時にフザケた物持ち込んできやがって。何処のどいつだごらぁぁぁ!!」
十六夜が吠えた。
光が迫ってきた方向に、羽の生えた具足を着け、甲冑をと兜を着けた騎士のような者達が遠方から近づいてきた。そして、ゴーゴンの首を掲げた旗印。"ペルセウス"の者達とわかった。
「いたぞ!奴だ!」
「石化してないぞ!?」
「例の"ノーネーム"もいるな」
「構わん。邪魔する奴は切り捨てろ」
「オイオイ何なんだ一体?」
「とりあえず、屋敷に戻りましょう。」
サウザントアイズの幹部である"ペルセウス"相手に揉め事を起こしてはいけないと思い、そう言ってエミヤを促し十六夜を屋敷に戻そうとするが。
(あの足具に兜は……)
エミヤは解析の魔術を行い、彼らのレプリカ品に目を着けた。
エミヤはレティシアの前に出て。
「少し待って欲しい。君達は"ペルセウス"コミュニティの者達だな?君達のリーダーと交渉をしたい」
「"ノーネーム"が我らのリーダーに交渉だと!?部を弁えろ!!名無し風情が!!」
「何を交渉するのか知らんがその商品は既に、箱庭の外にある一大国家クラスのコミュニティと契約を取り付けたんだ!!今さらお前達などと
「箱庭外ですって!?」
突然のエミヤの奇行に慌てていた黒ウサギだが、彼らの言葉を聞いて横槍を入れた。
「彼女達"箱庭の騎士"は箱庭の中でしか生きられません!なのに箱庭の外に売りつけるですって!?」
そう言って邪魔になると感じた"ペルセウス"メンバーは、敵意を向けた目で彼女を見る。
「我らが当主が決めたこと。部外者は黙れ。」
そう言って空で舞う彼等は各々の武器を構える。
本来ならば本拠への不当な侵入はコミュニティの侮辱であり、世間体もよろしくない。
それに、大手商業コミュニティ"サウザンドアイズ"は信頼を大事にする。その傘下である"ペルセウス"がこんな暴挙に出るのは、完全に"ノーネーム"を見下しているということだからだ。
「このっ!これだけ無礼な行いを働いておきながら、非礼を詫びる一言も無いのですか!?」
「ふん。こんな下層に本拠を構えてるコミュニティに礼を尽くしては我らの旗に傷が付くわ。身の程を知れ"名無し"」
その言葉を聞き、黒ウサギの堪忍袋も切れた。いきなりの襲撃と暴挙。それに加えて数々の侮辱発言には流石の温厚な黒ウサギもキレる。
「あり得ない……あり得ないですよ。天真爛漫にして温厚篤実、献身の象徴とまで謳われた"月の兎"をコレほど怒らせるとはッ……!!」
黒ウサギが右手を掲げた瞬間。閃光が迸り、雷鳴の爆音が周囲を襲う。そして現れたのは雷を纏うが如く輝く槍だった。
「雷鳴と共に現れるギフト……インドラの武具だと!?」
「ばかな!最下層のコミュニティが神格を付与された武具をもつなど!!」
エミヤも黒ウサギの槍を解析していた。
("インドラの槍"!?いや、姿形は私の知ってる槍ではないし、そもそもレプリカだけど……それでも破格の神秘と性能だ。………これは、少し不味いかも。黒ウサギか"ノーネーム"が、かの大英雄に関係するとしたら………魔王は最悪、あの英雄王と同等とも言われる存在を負かす実力の者と言うことになる。
脅威とは言え、"老化を進行させる"程度のギフトだと思っていたけど……悠長なことを言ってられなくなった)
そうエミヤが考えている中。
黒ウサギがインドラの槍を彼等に受かって撃ち出そうとすると、
「てい」
「フギャア」
十六夜が後ろから耳を引っ張った。
「まてよ黒ウサギ。コイツらは俺が最初に因縁つけた相手なんだぜ?それにコイツらを殺すと後々面倒なことになるだろ?」
そう言って黒ウサギをレティシアの所に投げる。
「いたぁ!ちょっ十六夜さん!!もうちょっと私のステキ耳を労ってください!!」
「ほら黒ウサギ。痛かっただろう?」
「レティシア様ぁ」
レティシアは投げられた黒ウサギを撫でて愛でる。
「さて、先に手を出してきたのはそっちだ。先ずは取っ捕まえてコイツらの無礼な行いの証拠を、コイツら自身に証言してもらうか。」
そう言って十六夜は拳を鳴らして彼等に近づいていった。
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「さて、良い感じにぶちのめして大人しく言うことを聞くようになったし。コイツらの主に会いに行こうぜ」
「い、十六夜さん……恐ろしい子っ」
黒ウサギは十六夜の拷問に戦慄した。
その後。十六夜達は飛鳥も誘い、事を説明してから"サウザンドアイズ"支店に向かった。
五人が"サウザンドアイズ"に着くと、店先で迎えたのは例の無愛想な店員だった。
「お待ちしておりました。中でオーナーとルイオス様がお待ちです。」
そう言って黒ウサギ達を、中庭を通り抜けた先にある別館に案内した。
中に入ると、迎えた酷く軽薄そうな男が黒ウサギとエミヤを見て歓声を上げた。
「わぉ!これが噂の"月の兎"か!ミニスカにガーターベルトとか超エロいじゃん!!それにこっちのグラマスなおねーさんも綺麗な銀髪にエロい胸が良い感じだ!
僕は"ペルセウス"のルイオスって言うんだけどさ。君達、僕のコミュニティに来ないか?君達が良ければ三食首輪付きで飼ってやるぜ?」
開口一番その男ーーーールイオスは、好色そうな視線で黒ウサギとエミヤを舐め回した。不躾な視線から守る様に、飛鳥が二人の前に立ちふさがる。
「これはまた随分と分かりやすい外道ね。断っておくけど、二人の美脚と巨乳は私達のものよ」
「そうですそうです! 黒ウサギの脚は、って違いますよ飛鳥さん!!」
突然の所有宣言にツッコミを入れる黒ウサギ。そんな二人を見ながら十六夜は呆れて溜息をつく。
「そうだぜお嬢様。二人の美脚と胸は既に俺のものだ」
「なら、私が二人をいい値で買おう!!」
「売・り・ま・せ・ん! なんで皆様でふざけ合っているんですか!」
そんな彼等のやり取りを見たルイオスは、ポカンとした顔の後に唐突に爆笑しだした。
「あっははははは! え、何? “ノーネーム”って芸人コミュニティなの? そうなら纏めて“ペルセウス”に来いってマジで。道楽には好きなだけ金をかけるからね。生涯面倒見るよ? 勿論、その美脚は僕のベッドで毎晩好きなだけ開かせてもらうし、その胸も好きなだけ堪能させてもらうけどさ。」
「お断りでございます。黒ウサギは礼節を知らぬ殿方に肌を見せるつもりはありませんし、エミヤさんもこんな殿方に、このエロエロで包容力のある胸をあげるつもりは毛頭ありません!!」
嫌悪感を吐き捨てる様に高々と宣言する黒ウサギ。
「お前がボケるなよ黒ウサギ。と言うかそんなエロい衣装着て誘ってないとかないだろ」
「これは白夜叉様が開催するゲームの審判をさせてもらう時、この恰好を常備すれば賃金を三割増しすると言われて………」
そう黒ウサギがゴニョゴニョと反論すると、十六夜は白夜叉に目を向けて
「超グッジョブ」
「うむ」
サムズアップし、それにサムズアップで応える白夜叉。
「……いい加減、本題に入らない?」
エミヤはこの茶番を終らせた。
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念のためレティシアを別室に待機させていた四人は座敷に招かれて、〝サウザンドアイズ〟の幹部二人と向かい合う形で座る。長机の反対側に座るルイオスは舐め回すような視線で黒ウサギとエミヤを見続けていた。
黒ウサギは悪寒を感じるも、ルイオスを無視して白夜叉に事情を説明する。
「―――〝ペルセウス〟が私達に対する無礼を振るったのは以上の内容です。御理解頂けたでしょうか?」
「う、うむ。〝ペルセウス〟の所有物・ヴァンパイアが身勝手に〝ノーネーム〟の敷地に踏み込んで荒らした事。それらを捕獲する際に於ける数々の暴挙と暴言。確かに受け取った。謝罪を望むのであれば後日」
「結構です。あれだけの暴挙と無礼の数々、我々の怒りはそれだけでは済みません。〝ペルセウス〟に受けた屈辱は両コミュニティの決闘を以て決着を付けるべきかと」
レティシアが敷地内で暴れ回ったというのは勿論捏造だし、彼女にも了承は得ている。本当はレティシアを悪く言うのは黒ウサギとして心苦しかったが、彼女を取り戻す為には形振り構っていられ無かったのだ。
「〝サウザンドアイズ〟にはその仲介をお願いしたくて参りました。もし〝ペルセウス〟が拒むようであれば〝主催者権限ホストマスター〟の名の下に」
「嫌だ」
唐突にルイオスはそう言った。
「………はい?」
「嫌だ。決闘なんて冗談じゃない。それにあの吸血鬼が暴れ回ったって証拠が有るの?」
「それなら彼女の石化を解いてもらえれば」
「駄目だね。アイツは一度逃げ出したんだ。出荷するまで石化は解けない。それに口裏を合わせないとも限らないじゃないか。そうだろ?元御仲間さん?」
嫌味ったらしく笑うルイオス。筋は通っているがしかし、現在レティシアがノーネーム側に居ることを彼は知らない。
「そもそも、あの吸血鬼が逃げ出した原因はお前達だろ?実は盗んだんじゃないの?」
「な、何を言い出すのですかッ!そんな証拠が一体何処に」
「事実、あの吸血鬼はあんたのところに居たじゃないか」
「……そうですかあくまで白を切るつもりですね」
「切るも何も僕は本当のことを言ったまでだよ?」
「では、……その当事者と貴方達のメンバーの一人に証言を貰います。」
「はっ?」
そう言うと、黒ウサギは十六夜に目配せする。十六夜は立ち上がり部屋を出た。少しするとレティシアと顔以外ボコボコにされた"ペルセウス"メンバーの一人を連れてきた。
「なぁ!?お前!」
「ルイオスさんよ。コイツらから既に言質は取ってあるんだ。必要ならもっとお前のお仲間さんを呼ぶぞ?」
エミヤの投影品。疑似神格って書いたけど神格に変更させました。