打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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第9話 青春のプロローグ

 宣言通り(?)滝先生は俺が音楽室に戻って間もなく指導に来た。内容はねえ、うん、なんかすごかったです。今までは俺が独学でやった事をパートメンバーに伝えるだけだったが、流石音楽教師と言ったところか滝先生の指導を仰ぐと一気に効率が上がって技術も向上した。

 さてさてそんな感じで月日は過ぎていった。ほんの数週間前までのやる気のない雰囲気が嘘のように、各々練習に励んでいる。

 

 そうして約束の1週間がたった。

 

 

「なんかやる気入ってんなあ。みんな」

「怒られたくないのと、滝先生への反骨心だろうな」

 

 

 ざわざわざわざわ。ここはカイジの世界ですかってぐらい音楽室のあちこちから真剣な会話が聞こえてくる。と言っても内容は様々で、音楽の中身の事であったり、あいつ絶対見返してやる、とかだったり、これで文句言うならマッピ投げつけてやる、だの聞こえてくる。

 っておい最後のやめろよ。フツーに金属だからな。本当にやったら今後お前の事はソウルネームでマッピ投げ子って呼ぶぞ。もしかしたら声にも出ちゃうかもしれない。

 そうこうしているうちに先生とうちゃーく。指揮台の上に立ち穏やかに部員に声を掛ける。

 

 

「皆さん、揃ったみたいですね。どうです? ちょっとはマシになりましたか?」

「上達したと思います」

 

 

 じゃなくちゃ困る。晴香がちゃんと言い切ってるってことはどこもそれなりに大丈夫だろうな。

 通常通り、合奏の前にまずはチューニングから始まった。相変わらずこの時間は暇だ。手を抜いてるとかじゃなくてパーカッションは純粋に暇なの。それほど意識しなくても音が良くなってるのがこの時点でわかる。そんなレベルで酷かったんだなあ、滝先生様様だ。

 

 

「それでは、一度皆さんで合わせてみましょうか」

 

 

 一通り音出しをしてからようやっと合奏に入る。これの結果次第でサンフェスに出られるかどうか決まるわけだが、大丈夫だと信じたい。

 先生が両手を上げると室内にピリリと緊張が走る。いよいよ審判の時だ。

 

 挙げられた手が振り下ろされる。まずは俺の出番。導火線が燃えるが如くシンバルを少し鳴らすと、それに続いてそれぞれの楽器の力強い音が放たれる。音が揃った。今までよりもずっと綺麗だ。

 先生の指導は本物だった。全パートの音が合わさって、先ほどよりもそれを強く感じた。俺達は確実に上達している。演奏にはまだまだ粗があるけれど、それでもこれはちゃんと音楽だ。ある程度の技術が伴った、ちゃんとした合奏はいつぶりだろう。合奏ってこんなに楽しかったっけ。

 若干の高揚感に包まれながらライディーンは終わりを迎える。上手くなった。そう実感してはしゃぐ部員の姿もあった。

 

 人がはしゃいでるのを見ると冷静になれるのってなんだろうね。部員達の姿を見て、俺らしくもなかったと、冷静さを取り戻す。

 はしゃいでいるのが収まった頃に滝先生が部員をぐるりと見回した。俺達は彼の口から発される言葉を今か今かと待っている。サンフェスに出場できるか、否か。

 

 

「まだ演奏に粗が目立ちますし、改善する点は沢山ありますが、まあ及第点と言ったところでしょう」

 

 

 あーびっくりした。落第だったらどうしようかと思っちまったぜ。いやまあ、どうもこうもないんだけどな。コンクールに向けての練習を始めるってだけで。ただ部内の雰囲気が悪化するのは確実だったろう。

 

 

「さて、残された日数は多くありません。ですが皆さんが普段若さにかまけてドブに捨てている時間をかき集めれば、この楽譜を完璧に暗記して、歩きながら吹けるレベルに到達するための練習量は余裕で確保できます。今までの部活の時間内で出来るでしょう。サンフェスは楽しいお祭りですが、コンクール以外で有力校が一堂に会する大変貴重な場でもあります。この場を借りて、今年の北宇治は一味違うと思わせるのです」

 

 

 すげえこと言ってるな、この先生は。でもそれは荒唐無稽なことじゃない。たった一週間の指導で部内の誰もがそれを知った。それでも、滝昇という素晴らしい指導者がいても俺達はどうかわからない。2,3年生が経験しているコンクールの結果は府大会銅賞のみ。いくら中学の頃の実績があったって北宇治でどうなるかはわからない。

 だから全員不安だった。正確には全員ではないけれど。そんな大多数の心の声を部長の弱々しい声が代弁する。

 

 

「でも、今からじゃ……」

「できないと思いますか? 私はできると思っていますよ。何故なら私達は、全国を目指しているのですから」

 

 

 そう言って先生は挑戦的で不敵な笑みを浮かべた。まるで俺達を挑発するようなその笑みに、思わず身震いをしてしまった。そして全員が気付いたのだ。この先生は本気だ。本気でやる。本気でやらせる。本気で、俺たちを高みへと導く。

 ああ、ぞくぞくする。早く練習してえなあ!

 

 

「それでは、これから明日からの練習表を配布します。小笠原さん、皆さんにこれを」

「はい」

 

 

 晴香によって部員に配布された練習表は、それはそれはびっしり埋め尽くされていた。これ受験生の負担酷いことになるぞ。つか今までこんなの見たことねえ。ドブに捨てている時間をかき集めてこんだけやるのか。大変そうだが、これが出来なきゃ全国なんて行けない。やるっきゃないな。

 ちなみに、今日はこれからどうするのん? ひたすら合奏しちゃいます?

 

 

「それでは、今日は先ほどの合奏でズレが目立ったところを直していこうと思います」

 

 

 全員が一斉に楽器を構えた。今までとは顔つきが異なっていることだろう。

 

 そして、新生北宇治高校吹奏楽部の物語が始まるのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 この合奏以来、放課後になると吹奏楽部が拝借しているあちこちの教室から練習している音が聞こえるようになった。今までどんだけサボっていたかは知ったこっちゃないが、練習するようになって良かった。これで全国に行ける確率が高まる。

 

 まあその前にサンフェスでオーディエンスの度肝を抜くのが先だ。そのためにパート練と合奏を何度も繰り返す。滝先生のねちっこい指導にも耐える。あの人超細かい。でも直していけば確実に音が変わる。それがわかっているからちゃんとやる。

 そしてこれからサンフェス衣装の合わせを行う。1週間ほど前に身体測定をし、それをもとに作成された衣装が届いたのだ。

 

 

 

 

 

 

 計測は当然のことだが男女別で行われる。男子は第3視聴覚室を貸し切らせてもらった。計測する箇所はいくつかあるのだが、何が楽しゅうて野郎の身体を隅々まで見なきゃいかんのだ。

 

 

「はい次ー。学年パート名前はー?」

「1年、トロンボーンパートの塚本です」

「ほいそこ立って。俺より背ぇ高いやつは恨みも込めて強めに下すからな」

「やめてくださいよ!」

「どうすっかな」

 

 

 計測は身長や足の大きさ、頭のサイズなどを計る。これは大体この順番でやっていく。

 秀一に強めに下すと言っているのは、身長計るときのバーみたいなやつだ。俺は格別に身長が低いわけではないが、彼女や幼馴染など辺りが女子の平均身長よりも大分高いほうなのでなんだか悔しいのだ。一応そいつらよりも高いんだが、あすかとの身長差なんてたったの5㎝だからヒールなんて履かれたら見下ろされる。そんな俺と比べて秀一や卓は180㎝以上あるもんだから羨ましくて仕方がない。

 悩んだ末、パワハラとか訴えられても嫌だからちゃんと計測した。あー高身長羨ましいなあー!

 計測が終わったら結果を紙にまとめ、衣装担当に渡す。

 衣装担当は吹奏楽部内にも当然存在しているが、特別顧問として演劇部にも協力を仰いでいる。衣装にあまり予算を使ってしまうと肝心の楽器に関する道具が買えなくなってしまうし、そもそもここ数年実績を出していない公立高校の部活に充てられる予算なんて雀の涙ほどしかない。だから安く済ませるために演劇部の方に制作してもらったりするのだ。

 

 

 

 

 

 

「これから来週の本番に向けて衣装を配ります。順番に取りに来てください」

「はい」

「晴香、ちょっといいか」

 

 

 この2年で経験した悲劇を忘れてはならない。それを未然に防ぐべく、また新たな犠牲者を出さないために俺は行動しなくてはならない。吹奏楽部の男子は男子と思われていないのだから。

 

 

「どうしたの?」

「男子の分だけ先にくれないか。ごちゃっとしててもいいから。指示出してくれれば俺が3組の教室で配るからさ。な?」

「うん、男子のはまとまってるから良いけど」

「ありがとうございます部長殿」

 

 

 きょとんとする晴香から男子の衣装を貰う。よし。これで女子たちの着替え現場に放り出されることも、変態の汚名を着せられることもない。2個上の代の不憫な先輩、もうあなたの様な哀れな者は表れないでしょう。心の中で敬礼をしていると、あすかがテキパキとこの後の段取りを説明していた。

 

 

「午後の練習はこの衣装を着て行います。着替え終わった人から楽器を持って外に集合してください。着替える教室は、女子が音楽室、男子は3年3組の教室なので篤についていってください」

「男子行くぞー。もたもたしてると置いてくからな」

「そんな距離ないじゃないですか」

 

 

 卓、律義に突っ込まなくてもいいじゃないか。普段あんまり喋らないくせに、偶に口を開けば辛辣なことが多いのが後藤卓也というやつだ。

 さて、今年の衣装はどんなもんなのかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




えー、先日財布を無くしました。中には現金の他にポイントカードやら入っていたんですが、一番焦ったのはその中に保険証が入っていたことです。
やべえ……やべえ……、と思っておりましたら警察署から封筒が届きまして。もしかしたら財布の関係かな?それとも何かやらかしたかな?そんな気持ちに包まれながら開封いたしますと、その中には『遺失物確認通知書』とやらが入っていました。
内容を確認いたしますと、「落とし物預かってるから取りに来てねっ」ってことでございました。翌日警察署へ行き、無事お財布と再会できましたとさ。ちゃんちゃん。

世の中捨てたもんじゃありませんね。財布は捨てたのではなく、落としましたが(爆笑)。
警察署の方々の対応のとても丁寧でした。ありがてえありがてえ……!

日本は落とし物が戻ってくる確率が高いとはいえ、決して油断してはなりませんよ!
それが身分証明書であればガクブル具合は異常です。皆さんもお気を付けください。


そうそう、このサンフェス編の区切りがイマイチ気に食わないので、そのうち前後の話と合わせるかもしれません。
それでは、また再来週お会いしましょう。(^^)

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