打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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幕間 得体のしれない先輩

 黒田先輩は天才だ。誰もが口をそろえてそう言う。

 勉強とか部活とかそんなところで収まりはしない。きっと何をもってしても圧倒的な才能で周囲を叩き潰せる。

 神様から与えられた、特別な才能を持つ人をギフテッドと呼ぶらしい。フィクションの世界にギフテッドはそれなりに溢れていて、彼らは皆一様に恐れられ、避けられる。

 黒田先輩を避ける人間を、少なくとも私は知らない。

 希美先輩の一件で黒田先輩の恐ろしい面も知った。一瞬にして凄まじい怒気を放出するも、関係のない私達と話すときにはそれを完璧に覆い隠す術を持っている。

 それでも私は、彼に畏怖の念を抱いて忌避することはできない。苦手だとも言い切れない。

 見えているものがわかるから。あすか先輩とは違うから。

 

 あすか先輩は自分の特別さを隠そうとしない。自分が持っているものを最大限活用して、全て上手くコントロールするための振る舞いをする。智慧、美貌、キャラクター。彼女にとって大切な何かのためにそれらは駆使される。その何かを決して明かすことがない。まるでマジックミラーのような態度が、高校生らしくない姿勢が、どこか苦手だ。

 黒田先輩は自分の特別さを強調しない。けれどあすか先輩と真逆の、素のような振る舞いでその特別さが表れる。あすか先輩と同じぐらいのものを持っているのに、結果的に似通ったことをしているのに、彼女と比べると驚くほど素直だ。彼自身を開示するその姿は、苦手意識を感じさせない。

 だからこそ、黒田先輩は底が知れない。

 

 

 

 文化祭でのこと。

 吹奏楽部員はどの学年もクラスも、コンクール練習に一生懸命になっていて準備にはそれほど参加できなかった。たった一人の例外を除いて。

 そんな私たちにも届いた噂があった。あすか先輩と黒田先輩が主演を務める劇が上演される。

 文化祭当日。興味本位で劇を覗くと、二人の先輩が体育館を魅了していた。その演技に、美貌に、釘付けになっていた。数時間後。二人はこの夏休み中に見慣れた様子で楽器に向かっていた。日常の中で見せる結果も、それから溢れた日々の結果も、二人とも規格外だ。

 黒田先輩の規格外ぶりはそれだけに留まらない。文化祭実行委員として活動しているところに遭遇した。ただの委員ではなく副実行委員長。聞けば委員長は文化祭に参加していなかったらしく、実質的に委員長を務めていた。準備段階から忙しなく動いていたようだが、その片鱗をどこにも感じさせなかった。

 

 体育祭を兼ねた球技大会でのこと。

 球技大会は文化祭の翌日に行われた。そこでも先輩は大活躍をしていたようだ。怒涛の日々の中だと言うのに。

 運動部でない限り他学年の生徒がスポーツをしているところは早々見られない。黒田先輩が出場した競技はフットサル。日焼けが嫌だ、と体育の授業ですら外に出ることを拒むクラスメイトさえ、先輩の試合をわざわざ観に行っていた。

 

 部活の先輩という繋がりを外せば、黒田先輩は遥か遠くにいる存在だろう。誰も近くにいないのではと感じるほど、人気も実力もある。

 非公式だがファンクラブとやらも存在しているらしい。またの名を牽制会と言って、誰かが抜け駆けをして黒田先輩とつき合ったりしないようにだとか。うっかり、「黒田先輩彼女いるのにね~」と言ってしまったときは地獄を見るかと思った。

 

 

 

 黒田篤先輩。この学校で一番有名な男子生徒。

 成績は三年間不動の学年トップ。行事や部活ではその多才ぶりを発揮し、甘いマスクと落ち着いたバリトンボイスで数多の女子生徒を魅了する。

 後輩にも気さくに接していて、話しやすい先輩であることは間違いない。恋人である小笠原先輩との交際も長いことから、真面目で誠実な性格だと窺える。

 聖人君子ではないけれど、黒田先輩の欠点は見えない。欠点は見えないけれど、怖さは感じない。怖さは感じないけれど、底が知れない。

 底を知ろうと覗き込めばどこまでも遠く。けれどこちらのことは徹底的に知られそうな、そんな気がする。

 

 恐怖感を覚えるとも苦手意識を感じるとも違う、何かを感じる。

 得体のしれない先輩。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
文化祭編を書くつもりでしたが、書きたいこと全然まとまらなかったのでなくなりました。申し訳ない。
その代りにこんな幕間劇をばどうぞ。誰視点かは明かしません。が、まあ、なんとなく察してくださいな。
篤がどんな人なのか。私だけが知っていてもどうしようもありませんし、今後伝えたいことが伝わらなくなりそうなので書かせていただきました。
黒田篤に関して誤解してほしくありませんから。私の文章力次第なんですけどね。

来週から日曜日の12時30分に投稿予定です。ぶっちゃけこの半年欠片も書いてなくてこれ書いてる時点でストック0です。死ぬほどシリアス続きの所為で打鍵音が響きません。高頻度での更新とか、素晴らしい内容とか、期待しないでください。
最後に書きたいことはずっと決まっているので、途中で投げ出すことはしません。私が皆さんにお約束できるのはこれだけです。
それでもよければ、今後ともよろしくお願いします。

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