打ち鳴らせ!パーカッション   作:テコノリ

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訳題:一緒にお祭りに行きませんか?


前回の後書きで大口を叩いておきながら今回は短いです。前後編に分けるというなんとも不本意なこととなりました。後編は近日公開となります。申し訳ありません。


京都府大会編完結記念 Would you like to go to festival with me? 前編

 いつだかの終わりに「部活に尽力できるようになる」と言ったな。あれは嘘だ。

 いやちょっと待て。俺は悪くない、世界が悪い。具体的に言えば宇治市が悪い。な…… 何を言ってるのか わからねーと思うが ちょいと聞いてくれ。

 俺はすっかり忘れていたんだ。今は六月が開けたばかりだってことをな……。

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか勿体つけてきたし、エンターキーを何度か押して空白を作ってみたが、何、大したことじゃない。来るべき六月五日にあがた祭りというそれなりに規模の大きなお祭りがあるのだ。

 高校生がバチクソ盛り上がる行事と言えばお祭りだ。大半の高校生は体育祭、学校祭、そしてCHIIKI NO OMATSURI(地域のお祭り)を楽しみにしているし、人によってははしゃぎまくる。何なら盆踊りでも楽しんでる。

 千葉の名物は踊りと祭り。おいおい、ここは千葉じゃねえんだよ。京都府だ。だからマッカンも売ってない。飲んでみたいのにぃ。

 いやいや、俺がガイルで得た千葉知識披露はどうでもいいんだ。俺が言いたいのは、お祭りが近くてなんだかそわそわしている奴が多いということ。流石に部活中に滝先生の前でそれを露にする様な命知らずはいない。俺だってそんな命知らずのデスゲームはしたくないし。

 しかしながらそれ以外の時間では当然お祭りに関する話でキャッキャッしている。ただキャッキャしているわけではない。女子が部員の大半を占める吹奏楽部であるが故に、所謂コイバナが盛んになるのだ。

 つまりだ。恋人がいる人間がどんな目に遭うか、わかるな……?

 

 

「黒田先輩はあがた祭行くんですか?」

「あー、まあな」

 

 

 現在パート練タイム。その中でも休憩中であーる。だから面倒なことに繋がりそうな質問も一蹴できないのだ。ぐぬぬ。

 取り敢えず当たり障りない感じで切り抜けよう。

 

 

「小笠原とか。爆ぜろ」

「ナックル先輩、嫉妬はみっともないですよ」

「ねえお前ら、俺が彼女いること公言してないって知ってる?」

 

 

 ほらこうなったほらこうなった。でも一つ想定外があるな。順菜と万紗子の反応は俺が危惧していたほどではない。

 良かったー。人によっちゃすごーく食い付てくるからね。ヒューヒューだよ、なんて言って来たり……はしねえわ。俺らが生まれる前だもんなあ。

 

 そんなこんなで(どんなこんなだ)部活の時間は過ぎてゆく。話も出たことだし、帰りに晴香と話そうか。あがた祭どうする? って。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「どうするって、行かないの?」

「その予定だったんだがな。バイト入れられた」

「バイト?」

「そ。叔父さんが毎年屋台出してんだけど、今年はスタッフの中に来られない人がいるらしいから来いって。その埋め合せ兼客寄せパンダだ」

 

 

 お陰で折角のお祭りを彼女ではなく、汗と煙と鶏肉の匂いにまみれて過ごす羽目になった。解せぬ。

 いや、俺の感想よりもはるかに申し訳ないという気持ちが強い。

 

 

「それって拒否権はなかったの?」

「あったらとっくに行使してる。俺だって抗議したさ、彼女と約束してるって」

「ちゃんと約束してなかったけどね」

「でも二人で行くつもりだったろ?」

「うん。あ、そしたら今年は一緒に行けない感じ?」

「そうなるな」

 

 

 明らかに落胆している姿を見ると、本当に罪悪感に押しつぶされそうになる。

 叔父さんとの交渉結果を伝えれば、多少なりとも元気になってくれるだろうか。そうであってほしいと思いながら逆接の接続詞を口にする。

 

 

「でも、時間制限つけられたからそれ以降なら」

「時間制限って、いつまで?」

「く、九時まで」

「遅いね」

「マジごめん」

 

 

 項垂れたのか謝罪として頭を下げたのか自分でもわからない。

 県祭りは「暗闇の奇祭」と呼ばれるようなお祭りなので、遅い時間であっても祭を十分に楽しむことができる。むしろそれくらいの時間からが本番といってもいい。だが高校生が出歩くと考えれば遅い時間だ。女の子なら親御さんの心配も大きいだろう。そんな時間に解放されても殆ど一緒にいられない。

 本当に申し訳ない。顔を伏せたままもう一度ごめんと呟くと、笑われた。

 

 

「なんで笑うんだよ」

「ごめんごめん。篤がしおらしいの、なんだかかわいいなって」

「不愉快です」

「まあまあ。お祭りの日は少ししか一緒にいられないけど、楽しもうね」

 

 

 言いながら俺の頭に手を伸ばし、軽くぽんぽんとはたく。なんとも照れ臭い。

 

 

「そうだな。それと頭をはたくの止めろ恥ずかしいガキ扱いするな」

「反抗期の男の子感増したよ? 私も手を挙げてるの疲れるからこの辺にしておこうかな」

「ああそうしとけ。前方不注意で電柱にぶつかっても知らんぞ」

「その前に止めてよ」

 

 

 そういえば、誰かに頭を軽くはたかれたり撫でられたりするのなんていつぶりだろう。父さんにも母さんににも、小学校高学年の頃からされた覚えはないんだよな。晴香にだってされた覚えはない。それは普段逆だからなんだけど。

 俺自身は堂上教官並みに他人の頭に手をやるが、周囲にそんな人はいない。

 

 考えている途中で見慣れた駅舎が見えてきた。思考を一旦止める。

 

 

「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

 

 

 

 晴香と別れてから中断していた考えごとを再開する。暫くされた覚えないなー、で終わらない違和感があった。誰だ?

 シャーコシャーコと自転車を進めていると、唐突に答えが降りてきた。

 

 

「千尋さんか」

 

 

 少し思い出してしまえば後は芋づる式に記憶が掘り起こされる。

 あの時俺は中学生で、大人の人に頭を撫でられたのがひどく気恥ずかしかった。それでも、彼女の笑顔や手から伝わる体温がとても温かくて、文句を言いつつもされるがままになったな。

 なあ千尋さん。物事に懸命に取り組んでいる時こそ、休息をしっかりとるのが大事。でしたよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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