戦艦レ級 カ・ッ・コ・カ・リ(仮タイトル)   作:ジャック・オー・ランタン

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6月6日

まえがきにあった小説は諸事情によりあとがきの方に移動しました。





04 未来を(にな)若人(わこうど)たち

海の見える町並に一台の乗用車が走る。

 

ワゴンタイプのそれに映るのは大半が女性だ。

それが向かっているのはシノハラ中将のいる佐世保鎮守府。

 

やがてワゴン車はそこへとたどり着く。

 

敷地内に入り、駐車場へと車を止めて扉が開いた。

出てくるのはやはり女性が大半だが、男性がそのなかに2人ほど混じる。

 

一人は運転手、そしてもう一人は彼女たちを率いる責任者。

まだ若い青年で、真ん中に分けた茶髪から覗く顔はまだ初々しさを残しており、現在着ている白い軍服ではなくスーツを着ていれば、入ってまだ年月の経っていない新入社員に見えることだろう。

 

彼の名はタキザワ セイドウ。

ホウジ少将の受け持つ鎮守府に所属している司令官代行である。

 

『司令官代行』

 

彼、彼女ら高い霊力の素養を持つ若者達はベテランの提督たちの(もと)で艦娘や鎮守府の運用、戦術などのノウハウなどを学び、やがては全国にある無数の鎮守府の中でも重要なところへと配属される。

また、司令官代行とあるように上司である司令官が本部などに(おもむ)いている間は、彼らがその間の指揮権を持ち、その海域を守ることになる。

 

そんな司令官代行であるタキザワ代行は、ここ最近大人しくなっている深海棲艦の活動を機にこうやって他の鎮守府に赴き、演習のためここ佐世保鎮守府に訪れていた。

 

自身の艦隊がそろっているのを確認し、タキザワは行く。

 

シノハラ提督のいる鎮守府内へと歩き進める中、ここに来ることになった経緯を彼は思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ・・・・本当なんですか?」

 

タキザワは手にした資料を見て、上司であるホウジに向き直る。

 

「ええ、確かな情報です。タキザワくん」

 

そう答えたホウジ提督。髪を後ろに撫でつけ、細い目つきの彼は目下の者にも敬語を使う紳士的な人物で、自分の部下と相対していた。

この大きな鎮守府を預かる彼はこの日本海軍でもトップクラスの実力者で、まだ世界中で艦娘の運用が行き届いていない時代に中国でキャリアを積んできたエリートである。

 

タキザワは手にした資料をもう一度目にする。

 

深海棲艦の鹵獲(ろかく)

 

写真も付いたこの資料を目にしてもいまだに信じられない。

しかも、しかもだ。

 

「にしたって、よりによってこいつ(戦艦レ級)だなんてッ」

 

タキザワからすれば彼女は上司(ホウジ)部下(艦娘)の命を奪ったあの深海棲艦と同一艦だ。

その胸中は複雑極まる。

 

まだ若く、提督としての能力も未熟な自分。そんな自分に良くしてくれたホウジの部下(艦娘)達。そんな彼女たちの何人かはあのバケモノ(”悪魔”)の手に掛かり帰らぬ人となった。

 

あの大規模作戦で何もできず何度歯噛みしたことか。

 

疲弊し、轟沈してゆく彼女達に何度涙を(こら)えたことか。

 

歴戦のホウジはともかく、まだ若いタキザワには日の経っていない現時点では心の折り合いがついていなかった。

 

資料にある大人しい様子の写真を見ただけでは、心に余裕のないタキザワには何かのまやかしにしか見えていない。

そんな自分の部下(タキザワ)を察して、ホウジはある提案を持ちかける。

 

「タキザワくん――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思い(めぐ)らせていたタキザワは敷地内にもう一台車が入ってくるのに気づき、足を止めた。

 

駐車場に止めた車からやってきたのは背の高い女性だ。

180もある長身にがっちりとした体型、短くそろえた髪は女性軍人としては理想的だろう。固くきりっとした表情に三白眼、そして眉間にある黒子(ほくろ)が特徴の顔を見てタキザワは彼女がだれなのかを思い出した。

彼女は確かクロイワ中将の所の司令官代行だったはずだ。

 

彼女の名はゴリ ミサト

彼女もまたここ佐世保鎮守府にて演習の為やってきたのだ。

 

タキザワとゴリはお互いを認めるとそれぞれ敬礼する。

彼女はタキザワと違ってクロイワ提督の下で実績を積み、ほかの重要な鎮守府へと配属されるのもそう遠くはないという噂だ。

 

2人は軽く対話した後、それぞれの部下を率いて鎮守府内へと向かった。

 

 

 

 

 

「「本日はよろしくお願いします!」」

 

シノハラは彼らの言葉を受け取り、ようこそと迎えた。

当然のことだが演習というのは日帰りでできるようなものではない。

装備の点検や演習の海域までの移動、そして実戦には時間がかかる。そのため彼らは数日この鎮守府で泊まり込むことになる。

 

そう、時間はあるのだ。

シノハラは二人の上司が()()()のことを知っていることから、彼らがただ演習の為やってきたわけではないことを察していた。

 

「どうだい、準備などでまだ時間はある。ここへ来たのもただ演習の為というわけじゃあないだろう?」

 

まだ若い二人は正義感に(あふ)れ、実際に深海棲艦とやりあっている分、子供と違って深海棲艦を害悪と断じている部分が強い。恐らく二人の上司は彼らに実際あの子に触れあって、あの子が他とは違う例外だと頭ではなく心で理解してもらうため、といったところだろう。

 

2人はシノハラに連れられ、かの白い異形の少女の下へと向かう。

 

一度外に出て、彼女のいる建物のほうへと歩いた。

そこは着任したばかりの艦娘、主に幼い駆逐艦に対して座学を行う教育施設となっており、教鞭をとっているのは軽巡以上の艦娘が持ち回りでを行っている。

座学と言っても艦娘たちは生まれた時からある程度は知識や、おぼろげながら軍艦だった前世の経験を持っているので、教わっているのは主に戦闘に対する心構えや戦術についてだ。

 

その一室に彼女はいる。

 

まるで学校の教室を思わせるその一室には今、そんな部屋相応の光景が(うつ)っていた。

 

「もうカタカナもだいぶ書けるようになったクマ~」

 

「ひらがなはもう完璧にゃ」

 

「お~、がんばるねぇ~」

 

そこでは幼い戦艦レ級が軽巡洋艦のお姉さんたちに囲まれながら、読み書きを教わっている光景が広がっていた。

読み書きを教えているのは球磨型の艦娘たちで、球磨、多摩、木曾の3人が彼女を囲み、今回の担当である白いへそ出しルックのセーラー服を着用した女子、北上は少し離れたところで机に肘をつき、頬杖(ほおづえ)をついてあまりやる気がなさそうに様子を見ている。

 

「あれが、そうなんですか?」

 

タキザワは思わず(つぶや)いた。およそ想像の付かない出会いに、目の前の存在が人類に対する害悪だとなかなかに結びつかない。

横目で見れば隣にいるゴリ代行も少なからず動揺しているようだ。

 

「どうだい?実際にあの子を見て」

 

「あ、えと、」

 

シノハラからの急な問いにタキザワはつい(ども)ってしまう。

しかたないのだ。資料でそうだと確認していても、目の前にいる存在が友好的だとは(かたき)の同一艦だという先入観から半ば認められなかったのだから。

 

つっかえているタキザワと違って幾分か冷静になっていたゴリはシノハラの問いに答えた。

 

「資料を見てわかってはいましたが、実際に見ると言葉に詰まってしまいます。今まで深海棲艦とは人に(あだ)なす存在という認識でしたから」

 

「まぁ、そうだろうね。私もあの子と出会うまではそうだったからね」

 

実際目の前にいる小さな深海棲艦、戦艦レ級はイレギュラーな存在であり奇跡の産物と言っていい。

人を襲わず懐いているというのも希少だが、なにより他に類を見ない被害を出した前任の戦艦レ級である”悪魔”の印象が凶悪すぎて、ますますこの戦艦レ級、”モラトリアム”の大人しさが際立(きわだ)っているのだ。

 

シノハラは彼女の勉強を中断させ、司令官代行の2人を紹介した。

 

「いいかい、ここにいる2人が今日から少しの間、一緒にいるタキザワとゴリだ。さあ、挨拶してごらん?」

 

そう言われ、彼女は手に持った板に字を書く。

声帯がなく、喋ることができないため、このようなコミュニケーション方法を採用している。

 

手に持っているのは磁気ボードというもので、詳細は省くが付属した先端に磁石が付いたペンでホワイトボードをなぞると、中に敷き詰められている微細な磁石がボードに引っ付き文字が浮かび上がるというものだ。

 

そうして書いた板をひっくり返し、みんなに見せる。

 

コニチワ

 

「「・・・・」」

 

こんにちはと言いたい(書きたい)のだろうか。

 

彼女の(そば)で「ここ間違ってるクマ~」と指摘されているのを見て、軽いジャブをくらった気分になる2人なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きみがここんちの子か~、よろしゅうな。しばらく世話になる龍驤(りゅうじょう)や。ほな、アメちゃんあげるで~」

 

ひらがなカタカナの練習中、見覚えのある人物に興奮し、調子に乗ってついふざけた後の昼下がり。昼食を終えて、2人の部下たちと面識を持つことになった。

ジューゾーとその部下もこの場におり、顔合わせのようなものがあるらしかった。

 

今話している関西弁の女の子はタキザワの部下だという。

他にもあと5人の女の人がいて、大鳳(たいほう)という黒っぽい茶髪にもみあげの部分が長いボブカットの女の人がリーダーさんらしい。

 

「”モラトリアム”というのは君か」

 

振り向き、そして見上げる。

 

話しかけてきたのは背が高く、腰まであるストレートの黒髪に凛とした表情の女性だ。コロコロともらった飴玉を口の中で転がしながら先日のことを思い出す。

 

そう、先日自分に識別名が与えられたのだ。

 

識別名”モラトリアム”

 

なかなかかっこいい響きだ。

意味はなんだったか・・・・別にいい意味ではなかったとは思うが、そのうち調べようと思う。

 

「私の名は長門、ゴリ代行の艦隊旗艦を務めている。ほんの数日の間だがよろしく頼むぞ」

 

挨拶されたので頷いて挨拶を返す。身長に差があるので、見上げる形になるが。でもなんだろう、よく見るとこの人、微妙にプルプルと震えているんだけど。

 

訳が分からず、首をかしげた時、それは起きた。

 

「~~~~ッ!く、くふーー!!た、たまり゛ゃん!!」

 

「ッ!?」

 

ガバッと長門が抱き着き、頬ずりをし始めたのだ。

抱き着かれたレ級は急なことで思考が停止し、目を白黒しながら困惑した。

しかもこの抱き着いてきた女性、目がヤバい。イッちゃってる。

 

レ級は長門に対して、実は無意識に攻撃を仕掛けていたのだ。

 

そう、以前那珂に対して行った愛くるしい容姿と、非常にきれいなアメジスト色の瞳による上目使いである。

 

(はか)らずとも、彼女と長門の身長差によってそのような状況を生み出してしまっていたのだ。

彼女が当時読んでいた通り、それは抜群の威力を誇っていた。那珂には違う意味で効果があったが、長門にとってはレ級が意図していた通りの効果があったのだ。

 

そう、もうメロメロという奴である。

 

しかもそれに加えて、コテンと首を傾けたのだ。

 

もう、もう、抱きしめたくなるだろッ!

 

かわいいもの好きである長門にはあまりにも刺激の強いアレだったようだ。

その場には何とも言えない空気があたりを支配していた。

 

 

 

 

 

クロイワ中将のいる鎮守府の司令官代行であるゴリ ミサトは、スカートの中を覗くため両手で(めく)ろうとしている自分の部下を見て思う。

 

 

クロイワ提督の長門と比べて、なぜ自分のとこの長門はこんななのだ。と

 

 

ゴリはここに来ることになった数日前のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クロイワ提督が率いている鎮守府にて――――

 

ゴリ代行は鹵獲された深海棲艦の資料を読み、今後の深海棲艦との戦いに有効的な変化が訪れればと思っていた。

 

終わりの見えない深海棲艦との闘争、艦娘の登場によりどうにか文明が保たれている現在。少しずつ敵が強く複雑になり、人類が様々な工夫をしてそのたびに乗り越えてきた。

 

しかし、すこし前の”悪魔”との戦い。

あれを経て、今後の深海棲艦との戦いに影が差し、いつか更なる波に我々人類が飲まれてしまうのではないかと不穏を感じていた時、やってきたこの情報は人類たちにとっての福音(ふくいん)に成り得るのではないかとゴリは感じていた。

 

・・・・のだが――――

 

「なぁ、ゴリ代行!この子に会いにいかないか!?」

 

シノハラ中将に抱き上げられている戦艦レ級の写真が付いた資料を手に、ゴリの艦隊旗艦である戦艦『長門』は鼻息を荒くしてそんな提案を持ちかける。

 

目の前にいる長門はゴリがクロイワ提督から譲り受けた艦娘だ。

自身の艦隊旗艦と同一艦で、クロイワ提督は2人の長門を部下に持っていた。故にそのうちの1人をゴリに譲ってくれたのだ。

クロイワ提督から鍛えられただけのことはあり、彼女はゴリの艦隊をまとめ、秘書艦としてもその能力を遺憾なく発揮するなど、彼女は十全にゴリのことを支えてくれている。

 

そんな一見して完璧な彼女だが、欠点ともいうべきものがあった。

 

彼女は小さくてかわいいものが好きだ。

 

それだけ聞けばそれほどおかしくは聞こえないだろう。自分だって猫の赤ちゃんを見て心癒されるのだ。

凛々しい彼女がそうなのは意外かもしれないが、長門だって女性だ。そういった面があっても別に異常というわけでもないだろう。

 

ただし、彼女のそれは他とは一線を画する。

 

記憶に新しいのは以前に駆逐艦『朝潮』が建造された時――――

 

「なぁ!この子私が小さくなったらそっくりなんじゃないか!?ひょっとしてこの子私の妹だったりするんじゃないのか!?」

 

そう言ってその日の夜、自室に連れ込もうとして姉妹艦の陸奥にしょっ引かれたり――――

 

駆逐艦たちと(たわむ)れるため、島風や天津風の自立型艤装に(ふん)して(小中学生の図工レベル)クロイワ長門にしょっ引かれたり――――

 

ともかく有能な部分を吹っ飛ばして余りある問題児っぷりである。

玉にきずってレベルではない。

 

しかし、この鹵獲された戦艦レ級”モラトリアム”に興味がないと言えば嘘になる。

自分も一目見てみたいという欲求が湧きあがり、ゴリは自分が所属する鎮守府の司令官に伺いを立てた。

 

クロイワ提督は寡黙(かもく)な方だ。その艦隊旗艦である長門も長年相棒を務めているからか、同じく物静かながらどっしりと構えている。

 

クロイワ提督の長門はゴリ代行の長門とは見た目もだいぶ違う。

顔や体格は同じだが、お(なか)(わき)が露出しているデザインの上着にミニスカートのゴリ代行の長門に比べ、クロイワ提督の長門はそこにお腹から上をインナーで包み、その上に武者を彷彿(ほうふつ)とさせるコートを着込んでいるのが特徴だ。

上半身で露出しているのは頭部とお腹、そして両手の親指と人差し指くらいだ。

 

同一艦の艦娘は建造された当初こそ衣装は同じだが、錬度を上げ、その存在を昇華させると見た目が多少変わってくる場合もある。

クロイワ提督の長門はその強さを極限まで高めた結果、海軍本部にある総合開発部門にて特殊な改造処置を(ほどこ)され、今の姿となっているのだ。

 

ゴリはクロイワ提督に鹵獲された深海棲艦に興味があること、ちょうど機会が訪れた演習相手に佐世保鎮守府へと赴きたい(むね)を述べた。

そうして少しの熟考とともに帰ってきた答えは、

 

「・・・・うむ」

 

シンプルな一言とともに了承の意が取れた。

クロイワ提督はその一言に思念も加え、ゴリに伝えていた。

 

 

存分に研鑽(けんさん)を積め

 

そして自らの目であの子供を見極めるがいい

 

 

 

そうしてゴリは感謝とともにクロイワ提督の執務室を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――少し現実逃避に数日前のやり取りを思い出していたようだ。

スカートの(すそ)を必死で押さえているレ級に「ちょっとだけだから!尻尾の付け根がどうなっているか気になるだけだから!」と暴走をつづける長門。周りはドン引きで数歩分引いており、長門たちの周囲には不可視の壁が出来上がっていた。

 

さすがにいたたまれなくなったゴリはとっとと一連の騒動を一掃するため、自らの艦隊旗艦である長門をしょっ引くために事の中心へと足を進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

「すまない、うちの長門が迷惑をかけた」

 

散々な目に合い、ようやく危機を脱したレ級。見るとゴリの後ろには一連の騒動を起こした元凶が「きゅう」、とぐったりと横たわっている。

肉体が違うので他人に裸を(さら)しても特にどうというわけでもないが、それはそれ、これはこれ、である。なぜ公衆の面前で下着を晒さねばならんのか。

 

なので先ほどスカート捲りをかましたあの女性がどんな目に合おうとちっとも心が痛まなかった。

 

「お詫びと言ってはなんだが、これをやろう」

 

そう言ってゴリはレ級に大きめの紙袋を渡した。

受け取った彼女は中身が気になり、広げて中身を確認する。

中に入っていたのはどうやら黒いドーナツのようだ。

 

「手土産に作っておいたのだ、タキザワ代行にスズヤ代行も食べるといい」

 

そう言ってゴリは近くにいたタキザワやジューゾーにも紙袋を押し付ける。

 

さっそくレ級はドーナツを食べようと紙袋から取り出すが、そこでようやく気付いた。

 

黒いドーナツ

 

チョコレートを混ぜ込んだ奴とかじゃなくて明らかにおかしい。

 

黒く、固く、焦げた匂いのする明らかな異物。

 

手にしたそれを見て口にするのを思わずためらってしまう。

チラ、とゴリを(うかが)うと緊張したような、けれどどこか期待しているような表情。

これを見てしまうと食べないという選択肢はない。

 

意を決してドーナツを口にする。

 

ガリリ、ゴリリ、とおよそドーナツがしてはいけない音が口内に。

噛み砕くのに一苦労、寝ぼけてスプーンに歯形が付くこともあるくらい噛む力があるはずなのに、これは一体どういうことなのか。

それだけでなく、かみ砕いてドーナツを崩していくたびに広がっていく炭の味、焦げた香り。

表情を顔に出さないようにするのでいっぱいいっぱいだ。

 

「ど、どうだ?味のほうは?」

 

意識が薄れ、吐き出したくなるのを我慢していると()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

散らばる小麦粉、入り込む卵の殻、混ぜても混ぜてもまとまらないドーナツ生地。

飛び跳ねる油、燃え盛る鍋、炎上するキッチン――――そして、ようやく救い出された価値あるもの、現在口にしているのはそういうものなのだ。

 

レ級は震えそうになる指を押さえ、磁気ボードを手にする。

 

あまくない

 

まずいと言わないのは彼女の優しさか、頑張って作ってくれたものに対して彼女は非難することはできなかった。

ゴリの安心した顔を見て、その思いはより一層強まる。

 

さすがに残りを食べる気になれず、味覚のない尻尾のほうの口の中に紙袋を逆さにして残りのドーナツを処理した。

 

 

そんなレ級の様子を見ていたジューゾーは開いた紙袋に顔を近づけ、鼻をスン、と鳴らすとにっこりと笑顔で、

 

 

「後で島風たちと一緒に食べるです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海を渡り、港へと近づく一団がいる。

 

タキザワの艦隊だ。

 

上陸し、近くにある大型の輸送車へと皆乗り出した。

 

彼女達は先ほどシノハラ艦隊との演習を終え、帰ってきたばかりである。

故に用意されていた輸送車で鎮守府へと送ってもらう。

 

かつて少将以上の艦隊たちが直接足で鎮守府へと向かったのは、大人数で輸送車が入りきれなかったというのもあるが、何より当時はレ級の存在があった。

鹵獲された当初はまだその危険性を完全に測りきれなかったため、限定された空間にいるリスクを負うのを避けたというのが正直なところだ。

 

さて、タキザワの艦隊が輸送車に揺られているのは、ただ鎮守府へたどり着く時間を短縮しているという理由だけではない。

 

彼女達は皆、恰好がボロボロ。

 

あるものは服があちこち(ほつ)れ、あるものは服が破けて半裸の状態の者もいる。

 

そう、これが輸送車に乗って鎮守府に帰る理由であった。

 

艦娘たちは小学校低学年の者から二十代ほどまでと見た目の年齢に幅があるが、その全員が見目のいい美人ばかりである。

そんな彼女たちのあられもない姿を民間人に晒す事が出来ようものか。

 

タキザワの艦隊たちは先ほどの演習により大敗を(きっ)してしまっていた。

 

「はあ゛~~~~づかれ゛た~~~~ッ、まじパないわ、中将の艦隊」

 

全員が疲労している中、龍驤が代表して口を切る。

皆も同意見なのか、輸送車に身を預け、揺られていた。

 

 

 

 

 

⦅お疲れ~皆~⦆

 

タキザワは”思考共有”で自身の艦隊と交信し、皆をねぎらう。

事を終え、一息ついてタキザワは座っている椅子の背もたれに体を傾けた。

 

 

やっぱパねぇ・・・・ッ

 

 

タキザワの思いはそれに尽きた。

 

タキザワの艦隊が対峙したシノハラの艦隊はその存在を極限まで高めた逸脱級の艦娘達だ。

もはや生きる伝説。

過去にSSS(トリプルエス)レートとも何度もやりあって生き残っているのは伊達ではない。

 

不屈のシノハラ

 

徹底的な基礎と忍耐が特色の彼の艦隊は、実質剛健を体現したような戦術が特徴だ。

つけ入る(すき)が見当たらず、手堅い攻め。

熾烈(しれつ)な敵の攻撃を耐えに耐えて僅かな勝機を見逃さない。

 

その決して(くじ)けず勝利を掴みとることから、彼は不屈の二つ名を(たまわ)る事が出来たのだろう。

 

タキザワの艦隊は艦載機を使う空母の運用を中心とした艦隊だ。

旗艦である大鳳はホウジ少将から譲り受けた艦娘であり、逸脱級でこそはないが、かなりの錬度を誇る。

しかし、タキザワは彼女の力を完全に運用できているとは言えなかった。

彼女が旗艦にいるだけでそこらの敵艦隊は容易(たやす)(ほふ)ることが出来ていたため、彼女に甘えていた部分もあったことは否定できない。

 

今回の演習で圧倒的な戦力の前になすすべなく敗れ、そのことをはっきりと突き付けられた。

今後はただ彼女(大鳳)に甘えず、より密な連携と錬度を積んでゆこうと心に決めるタキザワ。

負けはしたものの、その気分は晴れやかであった。

此度の戦いは実に得る物が大きな、有意義な一戦であろう。

 

なんだかんだ言って、ここに来てよかったと思い始めた。

いまだにあの深海棲艦”モラトリアム”には思うところがないわけではないが、それでもここに来る前と比べれば随分と険が取れたように思う。

 

シノハラの艦隊はこの後タキザワの艦隊と入れ替わるようにゴリの艦隊との演習が待っている。

自身の艦隊が帰って来たら(ねぎら)ってやろう。

 

タキザワは今後の日本の平和を守る次代の若人(わこうど)としての自覚とともに、そう思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令官代行の艦隊との演習を終え、大人数での入浴に同伴することになった。

 

自分の真後ろにはスカート捲りをかました挙句(あげく)、しょっ引かれた長門が陣取り、自分をがっちりとつかんで離さない。

もういろいろあきらめた。

この人(変態)だからなのか、慣れてきたからなのか、女性の裸を見ても体を洗われたりしてもあまり気にしなくなりつつある。

 

”前”だと女性の裸なんて母親か付き合っていた女性くらいだったし。

それよりお風呂に入って温まると眠くなっちゃう。今もうとうとして(まぶた)が重い。

後頭部に柔らかい感触があるけど余計寝ちゃいそう。

 

「でもホントお肌真っ白よね~」

 

そう言って頬に手を触れてくるのはタキザワの部下の金髪碧眼の巨乳、愛宕(あたご)さん。

ほんとデカい。どたぷ~んって音が聞こえそうなくらい。

思わず目がそこに行っちゃう。つい自分のを触って比べてみる。

 

小さいけれどちゃんとむにっとした感触、これがそのうち大きくなっていくんだろうか。

自分はどのくらいの速さで大きくなるんだろう。正直分からない。

ネズミみたいにすぐ大人に成長できるのか、それとも何十年もかけて成長するのか。

 

それを考えると今度は寿命を気にしてしまう。

自分はどのくらい生きられるのだろうか。

数年しか生きられない?それともエルフみたいに何百年も生きられる長寿?

 

それとも・・・・

 

 

寿命という概念がない?

 

 

シノハラさん達が老いていなくなるのを想像してみる。

 

シノハラさんの抱っこがもう体験できない・・・・

 

ゆう君にも会えない・・・・

 

嫌な感じだ・・・・

 

 

 

むにぃ

 

そんな暗い雰囲気は後ろにいた長門によって粉砕された。

 

「胸の大きさが気になるのか?なら私が()んで大きくしてやろう」

 

乳を揉まないでください

 

乳を揉まないでください

 

さっきまでのシリアスが台無しだ。

 

「そうか・・・・あなたにはまだ未来があるのよね・・・・」

 

「せや・・・・まだ大きるなれる可能性が・・・・」

 

「いっぱい食べたって、私たちは・・・・」

 

あぁ・・・・

 

大鳳(たいほう)さん、龍驤(りゅうじょう)さん、それに瑞鳳(ずいほう)さん・・・・

 

なんて残酷なんだ・・・・

 

 

長門に乳を揉まれながら世の無常を噛み締めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころ若き司令官代行達はすでに風呂から上がり、談話室のソファーにて対面していた。

 

「せーどー、シノハラさんに負けたですかー」

 

「うっせ、明日はお前とやるんだからな!」

 

「やはり中将の艦隊は尋常ではないな」

 

そんな中、飲み物を運んでやってくる艦娘が一人。

 

「ちーっす、ジューゾー。飲み(もん)持ってきたよー」

 

「おぉー、すずっち、ナイスです」

 

「すずっちゆーな!」

 

彼女はジューゾーがシノハラから譲り受けた艦娘の航空巡洋艦『鈴谷(すずや)』。ブレザータイプの制服を着た女子で、彼女もまた非常に錬度の高い艦娘である。

ただ、鈴谷はほかの艦娘とは違う特徴があった。

 

彼女は工廠で調整を受けることで航空巡洋艦から軽空母へ、軽空母から航空巡洋艦へと艦種を変えることができるのだ。

戦略の幅が実に広い艦娘といえよう。

 

彼女はジューゾー付きの秘書艦でもあり、彼の問題行動に頭を悩ませる苦労人なところもある。

最近はそれも慣れ、むしろ染まりつつあるのだが。

 

明日に向け、軽いミーティングを終えた一行はそれぞれ解散し就寝に入るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長門に乳を揉まれたせいで何とかお風呂で寝ずに済んだ。

今日いっしょに寝てくれるのは北上おねえちゃん。

この部屋にはおねえちゃん一人みたい。

髪をとかし、白いへそ出しのセーラー服から寝間着に着替え、就寝の準備が整う。

 

今回自分の面倒を見てくれるのはおねえちゃん一人みたい。

自分も寝ようと二つあるベッドの一つに向かうが、おねえちゃんに呼び止められた。

 

「ほら、こっち来な」

 

ベッドに横になったまま手招きし、こっちで一緒に寝るように促すが、自分は『こっち空いてるよ?』って空いているベッドに指をさす。

 

「・・・・いいからこっちおいでよッ」

 

「ッ・・・・!」

 

有無を言わせない迫力をを感じて、そそくさとおねえちゃんのベッドにもぐりこんだ。

怒らせてしまったのかと思うとあの女子高生(天龍)のことが頭をよぎり、委縮してしまう。

 

涙腺が緩み、鼻がツンとしてくる。

 

()()()()()()()()()()、顔を窺ってみるが、すぐに頭を抱えられて顔が見えなくなった。

 

「・・・・ごめんね、怒ってないから・・・・」

 

「・・・・」

 

こっちもぎゅって抱きしめる。

 

言葉はなく、静寂のまま自分はまどろみに落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝

 

ズザザーッと静寂を破り、海をかき分ける一団がいる。

 

タキザワの艦隊だ。

今日はジューゾー達の艦隊との演習である。

昨日の演習が完敗だったためか、今回の戦闘に関する意気込みはなかなかに高い。

 

装甲空母1、軽空母2、重巡1、駆逐艦2とタキザワの艦隊は空母運用を中心とした戦術を取る。

対してジューゾーの艦隊は航空巡洋艦の鈴谷を筆頭に、軽巡1、駆逐艦4の水雷戦隊だ。

フットワークは軽いが、火力と攻撃のリーチではこちらにアドバンテージがある。

鈴谷の火力に気を付け、夜戦にもっていかれるようなことがなければまず大丈夫だろう。

 

大鳳はマガジン付きのボウガンを、龍驤は右手に開いた巻物と左手に霊力の灯を(たずさ)え、瑞鳳は弓をつがえて艦載機を発進させる。

 

ジューゾーの編成を再確認し、勝利を確信するタキザワ。

しかしその認識はあっという間に崩れ去ることになる。

 

大鳳たちからの焦りの思念が届き、何事かと”思考共有”のつながりを強めた。

 

⦅どうした?皆⦆

 

⦅タキザワ代行、スズヤ代行の艦隊が・・・・ッ!⦆

 

 

 

 

 

「なんやあれぇ!?」

 

艦載機からの情報を共有し、その観測した映像に思わず目を剥いてしまう龍驤。

あまりの非現実的な光景を目にして思考が止まってしまう。

 

見えているのは鈴谷以外の五人の姿。ただし、その走行速度が尋常ではない。およそ二百キロの速度で彼女たちは海上を走行していた。

 

その秘密は彼女たちの手にあるものが原因だ。

 

彼女達が手にしているのは鈴谷が放った艦載機。

大型のラジコン飛行機程度のそれを水上スキーの如く翼を霊力で補強して掴み、推進していた。

 

風圧などは障壁(バリア)で遮断。艤装をしまい徹底した軽量を図ることで可能になる荒業である。

グングンと距離を詰められているのを察して大鳳たちは急ぎ対処することに。

しかしそのころにはもうお互いの距離が肉眼でとらえられるほどに詰められていた。

 

艦載機の機銃で対処しようにも相手はありえない速度で走行しているのだ。蛇行運転するだけで当てるための難易度はとてつもなく跳ね上がる。

結局駆逐艦たちの有効射程距離内という(ふところ)に入れられ、戦闘と相成った。

 

しかし、ジューゾーの艦隊は勢いが止まらず、さらにこちらに突っ込んでゆく。

 

⦅あいつらまさか!?⦆

 

タキザワはそこでようやく相手の意図が分かった。

しかし、発覚した時にはもう遅い。

 

相対する者の戦術。

 

それは接近戦による近接格闘である。

 

相手との距離のメートルが3ケタを切った時、遂に手にしていた艦載機を手放した。

全員すぐさま艤装を展開し、さらにある装備を手にする。

 

手にしているのはいわゆる刀剣だ。

艦娘用に開発された近接戦闘用の艤装。

本来それは弾薬を撃ち尽くして手がないときの手段だ。

よもや(しょ)(ぱな)から振るってくるアホがいるとは。

 

だが完全に虚を突かれたタキザワ艦隊には効果は絶大であった。

 

主砲や魚雷に対してブレード(刀剣)による攻撃が艦娘や深海棲艦に果たして有効か否か。

 

答えは有効、である。

 

彼女達は砲弾や魚雷に対して障壁によってそのダメージが軽減されていく。

しかしその障壁は同じ霊力によって中和されてしまうのだ。

霊力のこもった超至近距離からの攻撃は素の肉体による耐久力でしか対処できない。

出来るとするなら”肉体強化”による防御くらいのものか。

 

ともかく、タキザワ艦隊は慣れない接近戦を強いられてしまったのだ。

 

温存した霊力を開放し、軽巡や駆逐艦のスピードを生かした動きで翻弄するジューゾー艦隊。

妙に近接格闘にこなれている。

 

艦隊の司令であるジューゾーはある理由から刃物の扱いには非凡なものを持ち合わせており、彼はその技術を自分の部下たちに教え込んでいた。

次々主砲や機関を断ち切られ、戦闘不能に追い込まれてしまうタキザワ艦隊。

 

もはや勝負は決した。

ジューゾー達の奇策の前にタキザワ達は大敗を喫してしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんでやねん」

 

あまりの理不尽な結果に龍驤は目の前にいるジューゾー達にツッコミを入れる。

負けたほうが甘味を(おご)るという昨日の宣言通り、間宮の店で演習をしていた者たちは甘いものに舌鼓を打っていた。

 

「なんでや、なんでや、オオウ、なんでや」

 

さらに手でツッコむもジューゾー達はどこ吹く風。

 

「勝ちは勝ちだし~」

 

「反則じゃないしぃ~」

 

島風と時津風はそんな龍驤の文句に軽口を叩くだけ。

そんなことよりスイーツにパクついてるほうが重要だ。

負けた奴から奢られるスイーツほど美味いものはない。

 

「くっそ~~~~」

 

タキザワは悔しさのあまり机に肘をつき、頭を抱える。

 

そんな彼の姿を愉悦()に、ジューゾーは甘いものを口にするのであった。

 

 

 

 

 

そして午後の部

 

今度はジューゾーの艦隊VSゴリの艦隊

 

ゴリ艦隊は長門を筆頭に戦艦1、重巡2、軽空母2、駆逐艦1と比較的火力傾倒の編成だ。

当然ジューゾーの艦隊では勝つのが厳しい戦力差のはず。

だがゴリは先ほどの演習の結果を知って、決して慢心することはなかった。

 

まず、軽空母の千歳(ちとせ)型2人が艦載機を発艦し、最優先で相手を(とら)え、対処する。

相手の前面に砲撃を放ち、吹き上がる飛沫(しぶき)で隊形が崩れたところを機銃などで迎撃。

 

確かに思いもつかない奇策だが、あくまで虚を突いた初見殺しに過ぎない。

冷静に対処すれば早々後れを取ることはないのだ。

 

 

しかし、ゴリはジューゾー艦隊のことをまだ測りきれてはいなかった。

 

 

軽空母からさっそく敵艦隊を捕捉したと通達が入る。

しかし、今度は発見した敵の数が少ない。捕捉したのは3人のみ。

まさか分散して仕掛ける気か。

周囲の索敵を続行し、今は捕捉した3名を対処することを即座に判断する。

 

だが――――

 

「――――え?――――ぁえ?んん!?てッ、敵ッ!敵発見!上空!数2!」

 

千代田が残りの2人を捕捉する。

 

空の上で。

 

彼女達、島風と天津風は高度からゴリ艦隊に接近していた。

鈴谷の艦載機にぶら下がり、さらに足元にも艦載機が彼女たちを持ち上げるように支えて移動している。

合計4機の艦載機でぶれなく島風たちを運べるのは、(ひとえ)に鈴谷の艦載機運用技術の高い錬度あってのもの。もはや神業と言っていいだろう。

 

急ぎ艦載機での迎撃を試みるが、ここにもイレギュラーが存在した。

島風たちが所有する自立型の艤装、通称連装砲ちゃんに連装砲くん。

これらが島風たちの代わりに艦載機を迎撃していく。上空の艦載機を狙うのが難しくても、肉眼ではっきり見える距離まで接近している現状ならばその限りではない。

 

そうやってゴリ艦隊は接近を許し、島風たちは艦載機から離れ、急降下する。

急ぎ長門たちは迎撃するが、高速で降りている者に当てるのは至難の業だ。

 

「ッ!」

 

長門は島風たちから何かが射出されたのを感じ、『それ』を認識した瞬間、すぐさま指示を出す。

 

「全員、回避!!」

 

しかし、艦隊が動き出すよりも『それ』が到達するほうが早かった。

 

途端辺りが爆発し、高々と水柱を上げる。

島風たちは爆雷を投射していた。

本来潜水艦に使うそれを上空から使用することで、水面に直撃した際のショックで起爆。爆撃の代わりを果たしたのだ。

 

 

これはまずい・・・・

 

 

完全にしてやられた。

そう時間を置かず残りの3人もやってくるだろう。

恐らく2人もすでに着水しているはずだ。ここまで接近されては砲撃の機微を付けられない。

 

爆雷によって発生した霧の中、不意に現れる影。

 

「はぁあッ!」

 

天津風の気合い一閃。

それを強化した腕で受け止める長門。

 

「即座に旗艦を狙うか!だが誇り高きビッグ(セブン)、簡単に墜とせると思うな!」

 

「それは!どうかしら!!」

 

天津風がその場で腰を曲げ、霧の向こうから高速で向かってくる影が1人。

 

島風だ。

 

あっという間に接近し、腰を曲げた天津風の背を蹴って飛び上がり、とび蹴りを放つ!

 

「シマカゼキック!!」

 

「ッ!ぐッ・・・・!」

 

島風の右足が長門の頭部に吸い込まれ、直撃する。

さすがによろけ、体勢を崩した長門。

だがすぐに体制を整える。ダメージは負ったが、無視していいものだ。

 

が――――

 

「――――あぁ、参ったな」

 

体に突き付けられる砲塔。それも二方から。

ここまで砲を密着させられるといくら駆逐艦の主砲とはいえ、唯では済まない。

 

長門は島風たちの砲撃を浴び、大破判定を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後旗艦を失ったゴリ艦隊は、残りの3人と合流したジューゾー艦隊に翻弄され、そのまま敗北と相成った。

 

再び間宮の店で今度はゴリたちに甘味を(たか)るジューゾー達。

今度はレ級も一緒だ。

長門は敗北の癒しを求め、自腹でレ級に好きな甘味を奢り、長門自身が頼んだものを食べさせてもらう。

レ級も奢ってくれたお礼にと、それくらいはサービスすることにした。

 

持っているスプーンで長門のパフェをあーんしてあげる。

パフェを口にした長門は実に幸せそうだ。そのだらしない顔をどうにかしなさい。

 

そうやってひと時を過ごしていると、シノハラさんがやってきた。

もう十分でしょ、と言わんばかりにスプーンを長門の口に突っ込み、シノハラさんに駆け寄る。

後ろで長門がどんな状況になっているか、興味はない。

シノハラさんの服にしがみついてトン、トンと飛び上がり抱っこをせがむ。

 

抱き上げられ、胸に顔をうずめて思う存分堪能する。

 

しばらくするとシノハラさんから素敵なことを聞かされた。

 

「喜べ、次の日はユウタ君が遊びに来るぞ。しかも兄弟も一緒だ」

 

「♪ッ~~~~」

 

嬉しさで溢れ返り、ゆっさゆっさと体を揺らし、尻尾を振るのであった。

 

 

 

 

 

そうして再び席に着き、甘味のお代わりを頼もうとすると、タキザワが近づいてきた。

 

「まあ・・・・なんだ、ちょっと遅くなったけれど、これから数日よろしくな」

 

言われたからには返事をせねば。

磁気ボードを書き殴り、タキザワに向ける。

 

コンゴトモヨロシク

 

「ああ!よろしくな!」

 

 

ネタが通じないや、かなしいなあ

 

 

 

 

 

 

 




おまけ


北海道東部の海域にて、一つの大きな戦いが終わろうとしていた。

空は薄暗く、あたりには深海棲艦の残骸と(おぼ)しき物が海の上を漂っており、先ほどまで激戦があったのだと推測することができよう。

海の上には十数人の艦娘たちがある一つの存在を囲んでいる。

それは一体の深海棲艦だ。

その深海棲艦は先ほどの激戦に敗れ、その身を投げ出し、ゆらゆらと漂わせていた。
彼女は姫級の軽空母深海棲艦『護衛棲姫(ごえいせいき)』。深海棲艦特有の白い姿と額の右側に一本の角が生え、衣服は胸から下を大きくはだけているシャツと下半身は秘部を布で隠しているのみだ。

S+レートの強敵であるが、その身はすでにボロボロで、もはや彼女に戦う力は残されていない。長い白髪が海に散らばり、彼女の姿を少しだけ大きく見せていた。

⦅マタ・・・クライウミニモドルノ? イヤダ・・・モウ・・・・⦆

意識は混濁し、もはや死を待つのみの彼女。憎悪で満ちていた心は霧散し、さらけ出されたか弱い想いが思念となり、周りにいる者に訴える。

そんな中、彼女を取り囲んでいる一団の中から一人の少女が前に出た。
セーラー服を着た中学生ほどの少女、肩ほどの髪を後ろにまとめたよく言えば純朴そうな、悪く言えば田舎の中学生のような容貌(ようぼう)

少女の名は特型駆逐艦『吹雪』

吹雪は護衛棲姫に近づき、彼女の(かたわ)らに腰を落とした。
傷つき果て、その命の(ともしび)が消えようとしている彼女に吹雪は語りかける。

「深海棲艦さん、聞こえますか?」

側で語りかけられ、僅かに反応する護衛棲姫。
瞳が動き、吹雪の視線と目が合った。

「よかった・・・・深海棲艦さん、これを」

吹雪は自身の胸に手を当て、魂からあるものを呼び寄せる。
掌から光が(あふ)れ、ソレを形作ってゆく。

吹雪の手に現れたソレを見て、護衛棲姫は質問した。

⦅・・・・ソレハ?⦆










(いも)


ホッカホカの 


(いも)


それが、吹雪の手にあるものの正体である。

「これは、しばふ村で取れた新鮮なお芋です」


どこだそこは


瀕死ながら思わずつっこまずにはいられない


吹雪は芋を二つに分け、小さい方を護衛棲姫に差し出す。芋の断面からは出来たてである証明にほかほかの湯気が湧いていた。

「さあ、食べてください」

いきなり芋を差し出され、困惑する護衛棲姫。

⦅イヤ・・・ソンナコトヲキュウニイワレテモ「食べてください!」ッ!?」

ガバッっと口の中に()かした芋を突っ込まれ、仰天する護衛棲姫。吹雪のほうは一仕事を終えたように汗を(ぬぐ)う動作をする。

口を動かすとほろほろと崩れ、うまみと甘さがにじみ出す。

なにか、懐かしいような・・・・大切な何かを思い起こすような。

そんな暖かい感覚。

⦅コノ、芋ッポサ・・・・ナニカ・・・ナニカガ「まだ足りませんか!」ッ?!」


ガボッっと残りの芋も突っ込まれ、護衛棲姫はついに確信する。


⦅ソウダ・・・・ワタシハ・・・・!⦆


圧倒的な芋成分が彼女の体を駆け巡り、奇跡を起こした。


護衛棲姫の体が発光し、沸々(ふつふつ)と光の粒子(りゅうし)が空へと舞ってゆく。

幻想的なその光景は、これから起こる奇跡を祝福しているかのようだ。

湧き上がる力のまま、護衛棲姫は立ち上がる。
体から粒子が出るたびに表面の外装が剥がれ、内なる姿を現してゆく。

⦅コノ、芋ッポサ・・・・オ芋(思い)・・・・ダシタ・・・・!⦆

パアァ・・・と彼女は一層輝き、遂にその姿があらわになった。

⦅ワタシハ・・・・ワタしは・・・・春日丸(かすがまる)・・・・ッ!」

「「「「「春日丸さん!!」」」」」

黒い髪をリボンで束ね、赤い(はかま)の和服姿の少女。

春日丸がここに新生した。


皆は彼女の出会いを祝福する。


深海棲艦との戦いはまだまだ終わらない。


だが、こうしてまた一歩、勝利への道を進んでゆく。



我々の戦いは、これからだ・・・・ッ!



――――fin





2017年春イベントのE-3クリアはきっとこんな感じ。

※本編とは関係ありません

ニコニコ静画で見かけたのが元ネタになっております。

あとがきへと移動した理由ですが、まえがきでこの小説を先に読むと本編が頭に入りずらいだろうと感想からそう推測しました。

なので勝手ながらあとがきの方に移動した次第です。





今回はずいぶんと長くなってしまった。
最後らへんはかなりぐだぐだだと思います。



おまけ:2

その日の午後、タキザワとジューゾーの艦隊が謎の腹痛を訴え、次々と倒れたそうだ。

何事かと調べると、龍驤が床にダイイング・メッセージを残していた。

()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()地面にはこう書かれていた。


な ん で や


追記

次話投稿6月18日 06時00分投稿です。

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