戦艦レ級 カ・ッ・コ・カ・リ(仮タイトル) 作:ジャック・オー・ランタン
期限などは特に決まってません。活動報告からまだまだ募集中です。
必ずしも反映するとは限りませんが、皆様の意見から何らかの着想を得られるかもしれないので送ってくださると幸いです。
朝日が昇らず外はまだ薄暗い。
そんな早朝に目覚めた。
ベッドから起き上がり、その姿があらわになる。
緑みがかった黒髪は肩より先へと乱雑に伸ばし、手で掻き上げその顔についている両の目があらわになった。
精悍な顔についたその両の目は瞳の色がそれぞれ違っている。
左目は髪の色と同じく緑みがかった黒だが、斜めに入った傷痕のある右目の瞳は金色。いわゆる両の瞳の色が違うオッドアイと呼ばれるものだ。
ベッドから抜け出して浴衣を脱ぎ、身だしなみを整える。
深緑色のラインが入ったへそだしのセーラー服を身に着け、傷痕のある右目を隠すように眼帯を着用している。頭には白いベレー帽を斜めに被り、セーラー服の上に右半身を隠すように黒いマントを羽織る。そして手足にはグローブと折り返しの付いたブーツを身に着け、軍刀を帯刀しているその出で立ちは、
彼女の名は重雷装巡洋艦『木曾』、この佐世保鎮守府に所属する最高戦力の一人である逸脱級の艦娘である。
身だしなみを整えた彼女は部屋にあるもう一つのベッドに目を向ける。
人が入っているにしては歪な膨らみ。布団からはみ出して床に投げ出されているのは大きな頭部の付いた尻尾だ。
不揃いで剥き出しの大きな歯が付いた頭部は、それの口が開けば、人間の頭を丸齧りにできそうなほど。
一体ベッドの中には何が眠っているのか。
布団に手を掛けめくるとそこにいたのは二人の幼い子供だ。
一人は尻尾の持ち主である異形の少女。まるで人工物のような白すぎる肌に髪、異形の尻尾からは考えられないようなかわいらしい顔立ち。自分の親指を口に含めて眠っている様子は見た目の年齢よりも幼い印象を受ける。
もう一人はこの部屋のもう一人の住人。異形の少女より幼い姿をしているが、彼女もまた艦娘である。
黒いショートヘアの6、7歳くらいの少女。
彼女は潜水艦『まるゆ』。木曾と同室している少女だ。
「ほら、二人とも起きろ。もう朝だぞ」
木曾はベッドで眠っている二人を起こす。
「ふぁい、木曾さん・・・・おはようございます」
まるゆはすぐに起きたが、もう一人は身じろぎして体を丸めるだけだ。
「ほら、いい加減起きろ」
口に含んだ親指を手をつかんで離す。指についた唾液が糸を引き、プツリと切れた。
異形の少女は目を覚ます。ゆっくり手を突いて体を起こし、あくびをする。すると尻尾についた尾顎も連動するようにガバ、と大きく口を開けた。
戦艦レ級、今回は川内たち三人から木曾たちが担当になる。
木曾はまだウトウトしているレ級の浴衣を脱がし、白いワンピースに着替えさせた。まるゆも自身の正装である白いスクール水着に着替えている。白スクが正装だなんて字面だけを見ると酷いが、そういうものなのだ。決してこの鎮守府の提督が指定したものではない。
木曾は部屋を出る前にあるものを用意する。水の入ったコップに洗面器、そして歯ブラシだ。
木曾はそんな彼女を抱き寄せ、膝の上へ横向きに乗せる。
「ほら、歯を磨いてやるから口を開けるんだ」
途端に彼女は嫌そうに顔を歪めて精一杯の抵抗とばかりにぺチ、ぺチと木曾の顔を力なくたたいた。
「だめだ、昨日は
そんな木曾の気遣うセリフに彼女はとうとう折れ、体の力を抜いて目をつむり口を開いた。
シャコシャコと歯を磨く音が部屋を満たす。やがて歯磨きは終わり、コップに口をつけてちゅくちゅくと口をゆすぎ、口元に持ってきてくれた洗面器にべ、と水を吐き出した。
「ん、ちゃんとできたな。えらいぞ」
彼女の頭をなでてあげると少し誇らしそうにしている。
木曾は彼女を立ち上がらせ、まるゆとともに部屋を出た。
木曾たちは朝食の為に廊下を渡る。
木曾は二人の後ろに離れてついてゆく。
彼女たちがこちらを振り返らないのを確認すると、木曾は右目に着用している眼帯を持ち上げ、金色の瞳を露出させる。
そして木曾は瞳に意識を集中し、自分の固有能力を発現した。
今の木曾の右の瞳には普段と違うものが映っている。
視界が色
靄の中心には強い光の輝きのようなものがある。
目に映っているこれは魂だ。
木曾の固有能力は魂の視覚化。
このように生きている者に備わっている魂を目にすることができるようになる。
だが逸脱級艦娘の固有能力としては珍しいものではない。
発現する固有能力は大まかに区分がされていて、夕立のソロモン海域での戦闘能力向上や川内の夜間戦闘時の戦闘能力向上など、特定の状況で戦闘力が上がる指定強化型。木曽のように魂を何らかの形で知覚できたり、霊力を感知できたりすることができる霊魂感応型。そして武蔵の耐久力や装甲、摩耶の命中力に特化した性能を持つ艦娘としての能力が純粋に強化される性能特化型の三つに分かれる。
木曾の魂の視覚化によるメリットは以下の通りだ。
まず夜戦時のような暗くて見えない時でもこの能力ならばはっきりと敵の位置がわかる。
この能力は壁越しでも知覚可能なので海中にいる潜水艦の奇襲にも対応でき、先ほども述べたが夜でも敵の位置がわかるため、夜戦時でも潜水艦相手に大きなアドバンテージを得ることができる。
木曾はこの能力を使って自分の前にいる異形の少女を見つめた。
やはりほかの深海棲艦とは違う
木曾が知覚している魂には感情の波からくる揺らぎが見えている。
木曾のような霊魂感能型には相手の思考を読むといったことができるが、木曾の場合は相手の感情を読むとこには長けていない。
本部にいる尋問に特化した艦娘のような嘘を見抜いたり、つついて心の奥にある僅かな動揺を見抜いたりなど以ての外だ。
せいぜい魂の揺らぎから相手が怒っているのか悲しんでいるのかが分かるぐらいだ。
木曾が目の前の少女から見えるのは隣にいるまるゆと大して違わない穏やかな感情の波。
他の深海棲艦ならば憎悪と敵意で激しく波打つのに対し、彼女は我々と何も変わらない。
今までに深海棲艦を”視て”他とは違うと思ったのは三度目だ。
1度目は10年間に渡って我々と戦ってきた
2度目は目の前にいる少女の前任である”悪魔”。あれは憎しみで戦っているというよりもただ純粋に戦うことに喜びを持っていたように思う。こうして余裕を持って考えていると、ただ戦うのが好きなだけだったならば、もしかしたら歩み寄れる可能性があったのかもしれない。
こうしてあの”悪魔”に良く似た少女を見ているとそんなバカげたことを考えてしまう。
ひとしきり彼女を観察した木曾は眼帯を元に戻し、彼女たちとともに食堂へと向かうのだった。
食堂で朝食を済ませたシノハラは食後の休みにと茶を
深海棲艦の勢いも”梟”の10年に渡る戦いに”悪魔”との激闘、これらを経てから急になりを潜めたように思う。
実際全国の状況を流し読みしてもここ最近の深海棲艦の出現の少なさは
これが嵐の前の静けさか、それとも我らの奮闘が報われその数を減らすことに成功しているのか。
ともかく、深海棲艦の活動が大人しい今、シノハラは英気を養うためこうしてのんびりとしていた。
周りを見てみる。
自分たちの部下である艦娘たちは思い思いにくつろいでいる。
軍務についている者としてこれはいかがなものかと昔の軍人ならば顔をしかめているだろうが、今まで気を張り詰めた毎日だったのだ。それに彼女たちはみな若い女性だ。中にはまだ
そんな彼女たちにシノハラは厳しい規律で縛るような真似をするつもりはない。
他の鎮守府によっては多少の違いはあるだろうが、シノハラは比較的ゆるい雰囲気のこの鎮守府を好ましく思っている。
自分のやり方に異を唱える者がいたとしてもシノハラは自信を持って反論できるだろう。
自身の積み重ねてきた実績と、中将という軍の中でも最上位に近い地位が異を唱える者に有無を言わせぬ要因となるのだ。
こうしてシノハラがテーブルでくつろいでいる時。
それはやってきた。
トコトコと白い異形の少女がやってくる。
朝食を終え、すぐにこちらにやってきたようだ。
シノハラはまたかと苦笑する。
彼女はシノハラの目の前に来ると両手をこちらに向けて、期待のまなざしでこちらを見ていた。
トン、トン、と両足を使って軽く体を浮かばせ、催促する。
「ほら、おいで」
そうシノハラは両手を広げ呟いた瞬間、バッと抱き着いた。
「おっと」
彼女はその小さな腕でシノハラの背に手を廻し、頭を押し付ける。
「♡~~~~」
小さな頭をグリグリと押し付け、彼女は存分に甘える。
「本当に提督の抱っこが好きだね、この子は」
「もー毎日やってるぽい」
そう、ここ数日で彼女がこうして甘えてくる姿は、すっかりこの鎮守府の日常になりつつある。
鎮守府にいた艦娘たちはこの幼子のような戦艦レ級の様子にすっかり毒気が抜かれ、”悪魔”という強烈な危険性とこびりついていたイメージを
トロンと眠そうに顔を
全身真っ白な中、その宝石のような紫色の瞳がキラキラと輝いていた。
今の彼女にとってシノハラに抱っこされるのが最も幸せを感じている瞬間だ。この世界に生まれてきて、寄る辺もなく家族に会う方法すら断たれた。
そんな中、
家族に会えない悲しみは割り切りつつある。住んでいた世界が違うというこんな状況では、家族の再会など望むべくもない。
いつか死に別れてしまうときが来るのだ。それが唐突に訪れたのだと彼女は無理やり納得する。
そんな寂しさを埋めるように彼女はシノハラに父性を見出した。
これが知らない人物ならここまですぐに懐いてはいなかっただろう。
だが彼女は目の前の人物を漫画のキャラクターとしてその人となりを知っていた。本来そんなありえない状況に戸惑い警戒してしまうのが普通なのだろうが、彼女はあまり難しいことを考えるのが得意ではなかった。
ここまで来るとそういうものだと考えるだけである。
あの日、シノハラに初めて抱っこされたとき、彼の腕の中の心地よさを感じたときからそう思うようになったのだ。
そんなわけで彼女は幼くなったのを利用して存分に甘える心算でいた。
シノハラさんの抱っこを存分に堪能し、幸せなひとときを過ごしているとシノハラさんから今後の予定を聞かされた。
何でも自分はしばらくしたら外国からの科学者が精密検査の為にやって来て、そこに預けられるらしい。
だからこの後、外国に自分の情報をあらかじめある程度データを取って送るようなことを言っていた。何でも自分のように大人しく調べられる機会はなかったんだとか。
精密検査と聞いて人体実験という嫌なイメージが頭をよぎったが、こうやって甘えていられることといい、この前のゆう君と遊んでいられたことといい、待遇の良さにあまり心配することはないと頭を振る。
シノハラ達についていき、彼女はある施設に連れてこられた。
そこは
そこで待っていた女性が自分が最初に着ていた衣服を持ってきた。
レインコートやストールを身に着けず、黒いビキニ水着だけを身に付け、まず軽い身体測定を行う。
身長は140センチも届かず137センチとずいぶんと縮んでいた。だが体重が100キロを超していたのには驚いた。体重110キロなんて”前”の自分の倍近く増えてしまっている。
ふと自分の尻尾を見てみる。やっぱりこれが原因だよねぇ。
その後、スリーサイズやら尻尾のサイズなど測られ、工廠の地下に案内された。
シノハラさんに転ばないよう手をつながれながら階段を下りる。前に階段を降りるとき、”前”の感覚で普通に降りていたら体のバランスが違うせいで思いっきり転げまわったのは記憶に新しい。
人外の肉体でなければ下手したら死んでいたかもしれない。
でもシノハラさんに転んでぶつけたとこを
やがて階段も終わり、そこにたどり着いた。
そこに来てまず見えたのは一面に広がる水面。
工廠の地下には艦娘たちの艤装の調子を確かめるための地下施設が存在した。水面に浮かび、縦横無尽に動き回るためにとてつもなく広い面積を誇っている。
一面の水は海水で、海から引っ張っているのだ。
艤装のテストの為にこれほどの設備が整っているのは、ここの鎮守府の提督が中将という高い地位にいるからこそなせる業である。
今回、戦艦レ級の簡単なスペックのテストの為、人目の付かないこの場所を選んだ。
さっそくとばかりにシノハラはレ級に指示をする。
「さて、まずは水面に浮かんでくれるかな?」
言われた彼女はぼけっと突っ立ているだけだ。
心なしかマジで?と言わんばかりの表情なのは気のせいだろうか。
「ほら、こうするんだ」
いっしょに来ていた木曾がお手本とばかりに魂に収納されていた艤装を展開し体に身につけ、水の上に両足をつけそのまま浮かびスーッと滑るように移動する。
できねーよ
彼女の心境はそれに尽きる。
フルフルと頭を振ってできないと訴えてみるが、木曾は近づいて彼女の手を取り水上に来るよう促す。
「ほら、ゆっくりでいいからやってみろ」
恐る恐る木曾にしがみつき、しっかり抱き着いたのを確認すると木曾はゆっくりと移動する。
ある程度移動すると木曾は彼女を水上に浮かばせるため、脇に手をやり体から離すが、ズブズブと瞬く間に水の中に沈んでゆく。
「ぷあっ」
すぐに彼女は水の中から顔を出し、こちらを見た。
「やっぱりできないのか?」
木曾は彼女がこの鎮守府に来る直前のことを思いだす。
あの時も水上に浮かぶことができなかったが、あれは単に状況がわからず呆けていただけだと思っていた。
だがこうして水上に浮かぶよう促してもできないのを見ると、彼女の艦としての能力に欠陥があるのではないかと疑わざるを得ない。
その後も何度も水上走行に挑戦してみるが結果は変わらず、まるで手ごたえを感じずに時間だけが過ぎて行った。
水上に浮かぶのを何度も失敗し、彼女はいじけて水の底へ沈み込み体を横にして寝転がっていた。
できない・・・・
何度やっても水上に浮かぶことができず、失敗しては沈み失敗しては沈みを繰り返してとうとう彼女はあきらめてしまった。
しばらくすると潜水艦であるまるゆが迎えに来た。
⦅あのー、大丈夫、ですかぁ?⦆
まるゆは”思考共有”で水中にいる彼女に語りかける。
語りかけられた彼女は急に頭の中から声が聞こえてきたせいで驚き、その場から起き上がりあたりを見回す。
⦅ああぅ、ごめんなさい。驚かすつもりはなかったんです⦆
まるゆの姿を認め、頭の中から聞こえた声が目の前の白スクを着た子によるものだと認識すると、少し興奮してきた。
”前”からゲームやアニメに触れてきた彼女は、テレパシーなんて言うファンタジーに触れてちょっとご機嫌。
彼女自身も”
彼女自身、それを知らないのだから。
現状彼女がソレを使えるのはシノハラに抱っこされて気持ちが昂ぶっている時くらいだ。
⦅あの、提督さんが心配してるので早く上に行きましょう?⦆
シノハラさんを心配させていると分かり、あわてて差し出してくれたまるゆの手を取る。スーッと体が水面へと上昇していく。
こうやって手足を使わずに水中を泳ぐことができるのだ。水上に浮くくらいできてもおかしくないのだが、結果はごらんのとおり。
水面に上がり地上に出るとシノハラさん達が寄ってきた。
「お疲れ様、今日はよく頑張ったね」
シノハラさんに撫でられて機嫌もよくなり、思わず両手を上げて抱っこをせがむがそばにいる木曾が待ったをかける。
「待て待て、濡れた体で抱き着くつもりか?」
言われて途端に気分も沈みシュンとする。だがシノハラはフォローを忘れず、彼女にお風呂に入って体を拭いたらなと機嫌を取る。一応この工廠内でもシャワー設備があるのだが、シノハラは早めに本部へと報告しておきたかった。
その後、報告を終え彼女のご機嫌を取った日の夜、数日ぶりの上層部による会議が行われた。
会議室
シノハラ以外の立体映像による出席で会議に立つ提督たちが集まり、シノハラによる報告が行われた。
それを受け、それぞれの提督たちは様々な感想を抱く。
「水上を移動するどころか、浮かぶこともできないとは・・・・」
大将であるワシュウは呻くようにつぶやく。
「砲撃能力も持ってねぇのかこいつは」
そう、彼女には深海棲艦には全員身に着けている砲塔などの兵器の概念が付いていないのだ。従来の戦艦レ級ならば身に持つ異形の尻尾に砲塔が取り付いている。
だがこの戦艦レ級にはおよそ艦としての能力が著しく乏しい。マルデ提督の言いぐさももっともだ。
シノハラはあの後彼女にいろんな質問をした。そうして分かったのは海の中から来ただろうこと、水中は移動できること、呼吸はしなくて平気なこと、
遠くのものを見ることができる”望遠”を使えるなど、艦としての能力を全く持っていないわけではないのだが、はっきり言って、彼女が従来の戦艦レ級の強さの一割にも届いていないという事実がこの場にいる全員の落胆に似た感想を抱かせた。
「・・・・・・・・」
「マドは何かあるのか?」
先ほどから黙りこくっているマドを見て、シノハラは彼を呼びかける。
「・・・・これまでの情報をまとめて、分かってきたことがある」
そんなマドの言に全員が注目する。
「これはあくまで仮説だが、深海棲艦は何者かによって作られているだろうと言うことだ」
「「「「!」」」」
「そもそもな話、
そう、深海棲艦は人類という概念に対して攻撃を仕掛けている。
長い年月をかけた観測の結果、深海棲艦は人や人が創造しただろう建造物や船を破壊している。それが中に人がいようといまいと、である。
だが地上に見えているだろうほかの動物には目を向けやしないのだ。かつて深海棲艦が発生して間もないころ、地上に侵攻され民家などを襲われた際、住んでいた住人は赤子もろとも殺されたが、ペットは全く手を付けられていなかった。
動物園や水族館なども人間だけが殺されていることから、奴らは人間、もしくはその概念に対して攻撃されるようプログラムされているのではないか、というのがマドの仮説だ。
「そしてあの戦艦レ級は従来のよりも小さいことから、その何者かによる影響から途中で抜け出したのではないのかと予想している」
マドの予想曰く、妖精によって艦娘が作られているように、何者かによって深海棲艦も作られているものと推測する。そして深海の底は深海棲艦にとって母胎の役割を果たしているのではないかとマドは考える。
「彼女が深海の底で作られている際、何らかの偶然か原因によって彼女は本来より早く
戦艦レ級の一か月のインターバルによる発生は、深海で育つための準備期間ということなのか。
そうこの場にいる者達は深海棲艦に対する見識を深める。
「そうなると、今後あの子の肉体の成長は全く分からないということか」
シノハラはそう呟く。時間の経過で成長できるのか、それとも深海の中でしか成熟できないのか、今は何もわからない。
「彼女が何であろうと、ドイツの科学者たちに引き渡すのに変わりはない。彼女が大人しい原因もおおよそ推測ができて安心というものだろう」
そうワシュウは
砲撃能力どころか霊力による”肉体強化”も使えないのなら、こちらに対する被害は気にしなくていいのだから。
「ちょうどいい、これを機に彼女に二つ名を付けるとしよう」
本来ならば手強い深海棲艦に付けられる二つ名。だが彼女は逆に最も弱い深海棲艦として、
そうしてつけられる二つ名は
「彼女の二つ名は――――
シノハラは執務室で仕事が一区切り、一息つく。
ふと
異形を持つ白い少女は小さな机で読み書きの練習をしている。
あ、い、う、え、おとひらがなはすぐに覚え始めた。もともと言葉がわかるので後は字を覚えればいいだけだ。
彼女自身は指の器用さを養うためにやっていることなのだが、シノハラにとってそれは知るところではない。
シノハラは彼女を見てワシュウ大将の言を思い出す。
――――”モラトリアム”
遅れている者という意味を持つが――――
「”
この場合、出来損ないや未熟児といった意味合いなのだろう。
はっきり言って
シノハラはまるで最強である”悪魔”が彼女の分の強さを吸い取ってしまったかのようだと感想を抱いた。その際残った僅かなカスがあの子という結果なのではないのかと――――
そう思ってしまうのだ
彼女はこの日――――
最弱の深海棲艦として――――
二つ名という烙印を押された
今回は『アスラ』さんの要望で木曾改二を参加させました。
頼れる兄貴感漂う彼女に世話を焼かれるレ級が見たいという『アスラ』さんの
こういう読者の声にアンケートを取って反映できるのはネット小説の強みだと思います。
追記
次話5月30日 18時00分投稿です