戦艦レ級 カ・ッ・コ・カ・リ(仮タイトル) 作:ジャック・オー・ランタン
アニメや漫画にアンソロジーとそれぞれ決まった形がない分、設定がしやすい。
試しにほかの作品のプロットを作ってみようとしたらかなり手こずりました。
今はこの作品で手いっぱいですね。
何十人もの女の子たちが海の上を行進する。
その顔にはみな、死地に飛び込まんとする気迫があった。
彼女たちは史上最強の深海棲艦、”悪魔”の追撃に向かっている。
倒したと思っていた奴が生きていたと知り、不思議と全員必ず殺さねばと、どす黒い感情に支配されていた。
無理もない。奴と相対し戦ったことがあるならば皆そう考えるだろう。
”悪魔”はそれだけ危険な深海棲艦なのだ。
2か月間、奴は一度の補給や休息を取らずに艦娘たちをそのあまりにも逸脱した力で蹂躙し続けた。
奴の最後は、消耗しきっていたところで相対した駆逐艦『夕立』と戦艦『長門』の奮戦によるところが大きい。二人とも逸脱した艦娘でそれぞれ固有の能力を発現している。
駆逐艦『夕立』はソロモン海域でその戦闘能力を大きく向上させる特性を備えている。その効果は絶大で、消耗しきっていたとはいえ、あの”悪魔”相手に拮抗する程である。
そして戦艦『長門』はその海域で最も強い深海棲艦に対して特効を持つ、というものだ。奴の異常な耐久力に対して有効打を与えられるのは非常に大きい。過去のSSSレートの”梟”相手にもその特性によって大活躍していた。
しかしそれは奴が2か月も戦い続け、兵装を撃ち尽くし、消耗しきっていたからできたこと。戦艦の主砲が繰り出す砲弾を拳で打ち返すだけでなく、パンチの衝撃波で艦載機群を航行不能にし、撃墜するような化け物だ。完全に傷を癒し補給の済んだ奴にはきっと敵わない。
そう、ここで必ず駆逐せねばならない。
必ず
必ずだ
チャプ、チャプ、チャプ、チャプ
小さな沼で異形を持つ少女はリュックの中身である持ち物を洗っていた。
チャプ、チャプ、チャプ、チャプ
海水に浸かって塩分が染み込んでいるであろうから、きれいな水で濯いで落とそうとしていた。たとえ携帯などの機械類がダメになっても、人間だったころの唯一の所持品なのだ。そう簡単に諦められるものではない。劣化を少しでもなくしたくて潮を落としているのだ。
うん
これくらいでいいかな
所持品をリュックに入れ、沼のほとりにリュックを置いておく。自分はこのまま沼の中央に移動した。そのまま仰向けになり、ぶくぶくと沈んでゆく。この体は本来深海で活動しているだろうから呼吸については問題ない。すぐに沼の底に着き、横たわる。
人間、いなかったな。
あの後しばらくして海のそばに家々が見つかった。ただし、どれも粉みじんになった状態で、だが。
爆撃でもあったのかと言わんばかりの酷いありさまだった。あちこち地面は抉れ、わずかに家具らしきものを発見し、ここが住宅であったとやっと理解したのだ。経年劣化が激しく、わずかに回収できたものには英語らしきものを確認した。しかし自分は英語に明るくない、いくつかの単語を拾えるだけでは文章として理解できず、この場所を特定する手がかりは得られない。こんなことなら学生時代にもっと英語の教科にまじめに取り組むべきだった。
急に日本から深海の中で人外の女の子になって、見知らぬ地にたどり着く。こんなことならって・・・・予想できるわけないだろッ!日本で拉致誘拐されて外国に連れてかれるより確率低いぞこれ!
思わず両手で顔を覆う。日本に英語を導入させている者たちはこんな状況なんて予測して無かったろうなぁ。
悲観に暮れているが、何も収穫がなかったわけではない。
いろいろと物色し、カレンダーを発見した。潮風で劣化が激しく、ほとんどかすれてたが、年号は確認できた。少なくとも現在は2013年の4月以降、ということになる。
思ったより自分の過ごしていた時代と離れてなくてよかった。だがまだまだ問題は山積みだ。これからのことを考えなければならない。
まず人がいるのか。先ほどの惨状を見て島全体が壊滅している可能性が高い。できるならあのあたりが偶然攻撃された箇所であってほしいが、被災後の処理など手を付けられていないとこから望みは薄いだろう。
次に食料。最初に目覚めてから今まで2日近く経っているはずだが、あまりお腹はすいていない。この体は何を食べるのか、と思ったときふと嫌な予想をしてしまった。
『
簡単に言うと
もし、
これは早く確認しなければならない。
他には何かないか、と考えるとこの体の肉体スペックを忘れていた。今の自分はどう見ても人外だ。当然人間達に攻撃される、という可能性がある。
自衛のため、自分がどのくらいの力が出せるのか検証する必要がある。
そろそろ地上に出て行動しよう。水中で起き上がり、しゃがみこんでから一気に飛び上がる。
ドパァッ!と勢いよく飛び出しそのまま地上に降りた。ちょっと楽しい。
リュックはどこかと捜すと、さっきの勢いで波にさらわれ、沼の中に沈み込んでいた。
Orz⋍∑ いろいろ台無しである。
しばらく絶望した後、散策を再開した。したのだがやはり予想通り人はいなかった。海に近いほど被害が大きく、陸の中央ほど被害は少ない。そこで小さな町を発見した。やはりそこも爆撃らしき被害を受けていて、海側ほどではないがめちゃくちゃになっていた。
何か使える者はないかと物色する。こうしているとサバイバル物のゲームをしてるみたいだ。『ラストオブアス』は面白かったな。
もしここがゾンビ系の世界だったらどうしよう。それはいやだなぁ。
もしそうだったらチェーンソーとか日本刀とか”丸太”を持っている人を見かけたら全力で逃げる自信がある。
ショットガンとかマシンガンとか持ってる人なんかよりよほど恐ろしい。
しばらく物色したがめぼしいものはなかった。襲撃される際、貴重品は持ち去ったんだろう。
小さな島だったから他にも近くに島があるとあたりを付ける。
海岸線までたどり着き、例の”遠視”の力でほかの島を探す。すると予想した通り、水平線に島が見えた。もう荷物が潮に浸かるのは嫌なので、今度はリュックを頭に乗せて頭を出したままパチャパチャと犬かきをして海を渡った。”遠視”を使わなくともはっきりと島が見える頃には、別に犬かきをしなくてもスイーッと渡れるのに気付いて余計な労力を使ったと後悔する。
当然島に着くころには真っ暗で、へとへとに疲れてしまった。
今日はもうここまでにしよう。
砂浜で体を丸め、尻尾を抱き枕にして眠った。眠ってる途中、無意識にまた親指をくわえているが、ご愛嬌である。
そう、日が上がって起きたとき潮が満ちてリュックを海水で濡らしてしまうのもご愛嬌である。
オンオン、と文字通り声にならない叫びを上げ、むせび泣きそうになるのもご愛嬌なのである。
ひとしきり『エシディシ状態』になって立ち直った後、今度こそ上陸する。
疲れて満ち潮のことをすっかり忘れていたのもあるが、海水に浸かっても呼吸に問題ないのが完全に裏目に出た。島に上陸したのもあって、『お次はなんだ?』とあのモンスターパニック映画を思い出して次なる災害に警戒する。したところでどうしようもなさそうである。
散策したはいいが、ここもさっきの島と似たような状況だった。
ただ、大きな収穫が一つ。
畑を見つけた。
幾年も手つかずで大変なことになっているが、ちゃんと機能していた。
穀物らしき物の根を引っ張ると、その姿を現す。これは・・・・サツマイモ・・・・かな?記憶にあるサツマイモと少し違うような気もするが、自分が知っているのは市場に出ているきれいなものだからこんなものだろう。
サツマイモは好きなほうだ。”蒸かした芋”にして食べたいな。
少し離れたところにはバナナの木もあった。これがあるってことはここは南の島ってことなのかな。黄色く実っていておいしそう。
手を伸ばし、採ろうとするが届かない。前から思ったが、この体小っちゃいな。鏡見てわかるが、10歳ぐらいに見える。目測だが140センチ前後くらいじゃないだろうか。
だが手段がないわけではない。今の自分には人間だった頃にはなかった器官が存在する。
そう、尻尾である。
こいつがあれば素の体では届かなくても尻尾で届く。
というわけで取るよ。
尻尾の力で支え、体を伸ばす。そしてバナナの房の塊を手に取り、根元をボキリと折る。
なぜ尻尾で直接取らないかと思っただろう。尻尾の先端には顎が付いているからそれで取ればいいじゃないかと。
それではだめなのだ。たしかに尾顎でバナナが取れるかもしれないが、慣れない器官だからきっと採るときぐちゃぐちゃだ。この体になって最初の食事、綺麗な状態なのとぐちゃぐちゃで汚いの、どちらがいいか。つまりそういうことである。
何度もさんざんな目にあって自分は学習したのだ。こんなものさ。
この異形っ娘、完全に慢心である。
さて・・・・この体になって初めての食事・・・・
ポキ・・・・と房から一つ取出し、皮を剥く。そしてあらわした実は太陽の光に照らされ白く輝いていた。本当においしそう。
覚悟を決めパクつき咀嚼。ムグムグと味わうと口の中は記憶と違わぬバナナの味。いやそれ以上の新鮮で甘いものが口いっぱいに広がり、幸せな気分でいっぱいになる。
おいしーーいッ!
んんーーッ、と体が震え、この体は初めての食事に喜ぶ。
始めて食べるのがコレで本当に良かった。
下手したらさっきのサツマイモを生で食べる羽目になっていた。先ほどまで不幸が続いた分、感動も一塩なのだ。
ふと気になり、尻尾もものを食べるのかともう一つバナナの皮を剥く。裸になったバナナの実を尾顎で食べさせる。頬や唇がないからボロボロこぼすが、きちんと食べれている。ただ、ベロがないからだろう、味を感じることはない。しかし、どういう体の構造になっているんだろう?食べたバナナの皮を尾顎に放り込みつつ、人体の、いやこの体の神秘に思いを馳せる。
あのあと何本かバナナを味わって残りはリュックの中に詰めた。ちゃんとこの体は普通の食事がとれると分かって一安心だ。
それにしても、と思う。先ほどは意識して無かったが、バナナの房の塊の根元を片手で簡単にへし折れた。よく考えればあれは相当な力が必要なはずだ。
自分の手を見てみる。白く、ちっちゃな手。とてもあんな力が出るとは思えない。だが確かにこの手がへし折ったのだ。
草木に溢れたこの地を見まわす。
地面にコーラの空き瓶を見つけた。ずいぶん時間がたってるみたいで汚れている。
片手で持ち、思いっきり握りしめる。
パキパキ・・・・バキンッ!
―――――簡単に砕けた
少し歩くと・・・・見えた。戦車を見つけた。戦争が終わった後そのまま放置されていった戦車には、木や草たちが生い茂っていた。錆びて履帯が外れ地面にベロンと飛び出している。
近づき、戦車と対面する。
「フ――――ッ」
集中して拳を構える。
半身になり、右の拳は腰に、脇は軽く締める。
「――――――――」
今ッ!
「シィッ!」
歯の隙間から音が漏れ、突き出した拳は戦車にぶち込まれる。
ベゴォンッ!!
一瞬戦車が浮き上がりかけ、一世紀もの沈黙を破り僅かに動いた。
確認する。
殴った部分は凹み、パラパラと錆が落ちる。
すご・・・・
殴った拳はジンジン痛むが、驚きで痛みは気にならない。
尻尾を見る。こいつの顎の力はどれくらいだ?手ごろな樹を探す。選んだ樹は両手の指じゃ囲えないほどの太さ。尾顎を開き、噛みつく。
ベギ・・・・ベキ、ベキ・・・・
もっと力を込める。
ヴチ、ブチチチッ、ベキィッ!!
ズズゥン・・・・ッ!
「――――――――」
なんだ・・・・これ・・・・
こんなの、人間に噛みついたら簡単に喰いちぎれちゃう。
これなら少なくとも刃物持った男くらい簡単に撃退できそう。
戦車の一部を尾顎で噛み砕くのを見て、そう思った。
ただし、”丸太”を持った人は力の強さがわかっても逃げるけどね!
自分の力の強さを確認し、再び散策に入る。少し遠くまで歩くと、探していた建物を見つけた。
役所だ。
幸いなことに半壊こそしているものの、倒壊せずきちんと状態を保っている。
中に入り、資料室を漁る。そして見つけた。
地図だ
簡易版のほうを調べるとやはりこの島のことが載っている。世界地図で比べるとこの島はオーストラリアの近くで、北東の位置にある。日本からはずいぶん遠い。島から島に移動するのにあんなに苦労するのにこの距離は・・・・どうしよう。
この体は結構お腹が持つようだし、いかだとか作って食料を持っていくか?
いや、現実的じゃない。まず方角がわからない。星を見て方角を読んだりするようなスキルなんて持っていない。
なら逆にオーストラリアを目指すか?そっちなら島から島を移動し続ければできそうではある。
でも自分は日本に行きたい。オーストラリアにしたって、きちんとたどり着けるかわからない。
ああ・・・・気が滅入ってくるなぁ。
とりあえず、食べ物はたくさんある。寝るとこだって、この体は場所を選ばない。それこそ水の中だって眠っていられる。ここで暮らすにはしばらくは大丈夫だろう。もっとじっくり考える時間はあるんだ。そしたら何かいい考えが思いつくかもしれない。
資料室を物色していると、資料用のクリアケースを見つけた。島国だから潮風で傷まないように必要なのだろう。これはいい。手ごろで丈夫そうなものを選んで、人間だった時の所有物を入れておく。これでもう海水にさらされることはない。もう何も怖くない。
さて、まだ明るいけどそろそろ寝床を探そう。明日からは地図を片手に地理の確認だ。地理も明るくないけど。
そうして彼女はベッドを探すべく、外へと出るのであった。
日が沈み始め、夕焼けのオレンジ色が海を照らす。
艦娘たちは目的の場が近づくのを見て、いったん足を止め集合する。
「ようやくここまで来たね。」
「うむ。」
「もう日が落ちるっぽ~い。」
「マルデ提督とマド提督の艦隊さん、よろしくお願いします。」
逸脱した艦娘には固有の能力が発現することがあるが、それにはある程度の方向性がある。例えば夕立のソロモン海域での戦闘能力の向上は史実にあった夕立の武功に関係があると思われる。
それともう一つ、同一の艦娘でも発現する固有能力が違うことがある。それは絆を深めた提督の性質にある程度性格が引っ張られ、提督の感性に似通ってくるのが原因だと思われる。
そのため、先ほどの両提督の艦娘には索敵系統の固有能力を持つ者がいるのだ。
艦娘たちはそれぞれ索敵系統の能力持ちを一艦隊ずつに配分し、艦隊ごとに”悪魔”捜索に乗り出す。静かに移動し、着々と”悪魔”を追い詰めるための布陣が整おうとしていた。
日の出前。
まだあたりは暗いが、早めに眠ったので目が覚めた。
上半身を起こし、んんーッと背伸びをする。
倒壊せず無事に残った家のベッドを見つけ、夜を明かした。目覚めは快調でいい日を過ごせそうだ。
朝食は昨日採ったバナナを食べる。
水が飲みたくなったので、昨日見つけた水飲み場に向かう。水飲み場と言っても小さな川で、飲んでも問題なさそうだった。
森の中
顔を洗い、のどを潤しているとなにか音がしたような気がした。動物が近くにいるのかな?そういえば魚を除けば人間以外に動物を見かけていない。好奇心につられ、鬱蒼とした森の中を歩く。
どこにいるんだー、と探していると。
シャァン・・・・
今聞こえたのはなんだ?
聞き覚えがあるような
そう、よく映画とかで刀を抜くときの音に
音に
え?
振り返ると、いた。
そこに佇んでいる。女の子だ。
女子高生?
まず思ったのはそれ。シャツにプリーツスカート、カーディガンにネクタイ、二ーソ。パッと見てそう思ったが、眼帯に角のように見える両側頭部に着いたユニット、手には刃の部分が赤い刀に何より背中に砲の付いた何かの装備を背負っている。
人間・・・・ッ!
いきなりの邂逅で硬直する。
どうしようかと迷っていると。
「よう・・・・見つけたぜ・・・・・・・・。」
?
どういうこと?
言っている意味が分からず、呆ける。それにさっきから既視感を感じる。
「龍田の・・・・仇だぁッ!!!」
バッ!と目の前の女子高生が飛び出し、刀を振るう。
いきなりのことで頭が真っ白になったが、体は動いてくれた。しかしとっさのことだったので、振るってくる刀に左手で受けを取り奇跡的にいなすことができた。瞬間、左手に強い熱を感じて確認しようとした途端、おなかに衝撃が走り、勢いよく吹っ飛ばされる。認識できなかったが、いなした瞬間、相手は蹴りを放ったのだ。
ドンッ!と樹にぶつかり、地面に這いつくばる。
「~~~~~ッ!」
痛い・・・・ッ!
衝撃が体中に伝わり、動けない。何とか左手を動かして、確認すると左手の半場から小指と薬指が欠損していた。トクトクと血が流れる。ワインみたいな赤紫だ。
「?・・・・まぁいい。いーいザマだなぁ、オイ・・・・。」
女子高生が見下ろし、近づいてくる。
まずい・・・・ッ!何とかしないと・・・・
「どんな気分だ?せっかく逃げ延びたのに、止めを刺される気分はよ。」
女子高生から感じる圧力がパンパじゃない!質量すら感じるッ!
注目を浴びせるため、手を大きく動かし上体を上げ、目を合わせる。
こわい・・・・でも、
「終わりだ。化け物。」
左手に持った刀を振り上げる。
まだだ・・・まだ・・・・
「くたばr「ドバァッ!!」わぶッ!」
いまッ!
尾顎に溜めた土を噴射して振り下ろした刀を避け、一気に懐に飛び込む。がっちりと抱き着き、背中に手を回す。尾顎は振り下ろした刀を銜えて無力化した。背が小さいせいで女子高生の大きな胸に顔がふさがるが気にしてる余裕がない。
「ッ、の野郎ッ・・・・離しやがれッ!!!」
ゴッ!!!
一瞬視界が真っ白になり、火花が走るが離さない。離したら死ぬ。相手は空いてる右手で殴ってきたのだ。
そのあと相手は左手の刀を離し、自分の両腕に手を掛ける。
「離せって・・・・言ってんだろ・・・・ッ!」
ギリギリ・・・・と痛みが走り、背に回した手が剥がされる。
うそ・・・・戦車だって凹ませられるくらい力が強いのに、何でッ!?
離すまいと抵抗するが、どんどん引き剥がされる。胸から離れ、相手の顔が間近に見えた。
あれ・・・・?この顔・・・・?どこかで・・・・
『俺の名は天龍。フフフ、怖いか?』
あ
「
ゴッチィンッッ!!!「ッ!」
相手から強烈な頭突きをかまされ、地面にへばりつく。
すかさず頭を足蹴にされ、今度こそ動けない。
「ッたく、みっともねぇ抵抗しやがって。」
この状況から逆転できる方法が浮かばない。尻尾を振って吹き飛ばすような器用さはない。相手は自分よりずっとパワーが上だ。
駄目だ・・・・詰んだ・・・・・・・・
”悪魔”を足蹴にし、軽巡洋艦『天龍』は一息つく。
この島に上陸し、”悪魔”を発見した俺は後をつけ、機を窺った。本当なら見つけた時点で連絡を取る手はずだったが、奴を見つけた途端、そんなことは頭から吹っ飛んだ。あいつは俺の相棒を殺しやがった・・・・ッ!
殺す・・・・ッ!
今思えば馬鹿なことしたと思ってる。SSSレート相手に単身で挑むなんて正気じゃねぇ。実際頭に血が上って冷静さをなくしていた。
だが相対して拍子抜けした。慣れない地上戦で不意こそ突かれたが、いとも簡単に無力化した。交戦してから妙に手ごたえがなさすぎるが、それだけこいつが弱っているってことだろ。
さて・・・・どう
ホウジ提督の艦隊、一航戦の二人はマルデ提督の天龍の叫び声を拾い、急ぎ駆けつける。だがそこで見たものは二人の予想を超える状況だった。
”悪魔”が地に着き、足蹴にされていたからだ。
「天龍さん・・・・これはいったい。」
「天龍、状況を説明して頂戴。」
駆けつけた二人が説明を求めるが。
「見ての通りだ、今始末するとこだよ。」
「目標を見つけ次第報告のはずよ、単身で挑むなんて何を考えているの。」
答えた天龍に対し、弓道衣を着たサイドテールの女性が冷たく放つ。
天龍はただ睨むだけだ。
「赤城さん、みんなに召集を。」
相方にお願いし弓から放たれた矢が複数の艦載機になって飛んでゆく。
ほどなくして艦娘たちが集まってきた。
「さて、人も集まってきたようだし、説明してもらおうか。」
天龍の艦隊の旗艦、重巡洋艦『摩耶』が言い放つ。自身の艦隊の旗艦にそう言われ、ばつが悪そうに口を開く。
「・・・・自分でも悪かったと思ってるよ、馬鹿なことしたって。でもよ、こいつを見つけた途端、何も考えらんなくなっちまったんだ。」
「それで一人で突っ走っちまったってわけか。」
「天龍さん、気持ちはわかりますが、だからって単独行動をしていいわけではありません。もしものことがあればどうするのですか。」
天龍の言葉に摩耶とホウジ提督の艦隊旗艦、空母『赤城』はそう言う。
「とにかく、みんな自分たちの提督に思考を飛ばすんだ。」
マド提督の旗艦、重巡洋艦『那智』はそう提案する。
出撃艦隊の旗艦には、あらかじめ司令官と魂のパスをつなげ、思考や感覚を共有し、力の底上げなどの恩恵が得られる。それを利用し、今この状況をそれぞれの提督に報告するつもりなのだ。遠征に行っていた那珂がすぐ連絡できないことにもどかしさを感じていたのはこういうことだ。出撃任務中なら旗艦に報告して迅速な通達ができたはずだからである。
ほどなくして提督たちは例の会議室に直行し、準備は整った。
見慣れぬ装備を背負った女性達に囲まれ、異形の少女は肩身の狭い思いをしていた。女子学生に首根っこを掴まれ、周りからは砲のようなものを向けられる。
どうしてこうなった。
弟がね、言ってたんですよ。天龍はあんな強キャラ感出してるのに、ゲームだとなんであんなに残念性能なんだと。
だからせめてこの作品くらい強キャラとして描写したのです。
書いてから気づいたけれどこの天龍、ハチカワの艦娘でも良かった気がする。ハチカワが殉職してマルデのとこに人事異動したってことにしてもいいのかな?
追記
次の更新は1月の23日以降になります。
出来次第、次話の投稿予定を記載します。
追記
次話更新
1月24日 06時00分です。