いや、他にも色々とあれやこれやしてたら、ね
ポケモンスクールで一番元気なクラス、それはサトシ達6人のクラスだったことは間違いない。が、今日はそんな風にはとても感じられないほど、しんみりとした空気が漂っている。
原因は今まさにサトシが手に持っている紙。
リーリエが残した書置きである。
「あの後、そんなことになっていたなんて……」
「リーリエ、大丈夫かな?」
「母親を助けるって言っても、どうするつもりなんだ?」
「ウルトラホールの先の世界って、どうやって行くのかな?」
心配そうに話しをするクラスメートたち。サトシも知らないことばかりで答えられない。ウルトラビーストらしいほしぐもなら或いは、ウルトラホールを開けることもできたかもしれない。けれども、
『この姿に変わってから、全く動かなくなってしまったロト』
『命の波導は感じ取れる。ただ、休止状態になっているからなのか、それとも弱ってしまったのか、以前と比べると格段に弱い』
何度呼びかけても、金平糖を差し出しても、全く反応しないほしぐも。完全に手詰まり状態だった。
「ハラさんに話しをしに行こう」
と、教室の入り口からかかる声。見ると、真剣な表情のククイとバーネットが来ている。
「こういう時こそ、守り神から認められているトレーナー、島キングの家に頼る時だな」
「彼なら、何か知ってるかもしれないわ」
「ハラさん……俺も行きます!」
「あたしも」「俺も!」「僕だって!」「私も」
「校長から許可はもらってる。みんなで行ってみよう」
こうして、サトシたちはスクールを離れ、ハラの家へと向かうのであった。
(リーリエ……グラジオ……待っててくれ!)
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「なんと、そのようなことが……」
「俺たち、リーリエを、ルザミーネさんを助けたいんです!ウルトラホールの先の世界、それについて、何か知ってることはありませんか?」
真剣な表情で尋ねるサトシに、ハラはむぅと考え込む。島キングとはいえ、ウルトラホールについての知識が研究者よりもあるわけではない。加えて、その先の世界ともなると……
「そういえば昔、聞いたことがありましたな。とある伝説のことを」
「伝説?」
「どんなですか?」
「アローラに伝わる伝説のポケモン、ソルガレオとルナアーラ。彼らは空間に穴を開け、その先の世界からやって来たものだと」
「空間に、穴?」
「それってもしかして……」
「うむ。ウルトラホールかもしれませんな」
「ソルガレオとルナアーラなら、ウルトラホールの先に行ける!ですよね、ハラさん!」
「あくまでその可能性もあるということです。しかし、私もそう思いますな」
みんなの表情に希望が見える。僅かではあるものの、手がかりをつかむことができたのだから。ただ、
「ソルガレオとルナアーラって、どこにいるんですか?」
「申し訳ありませんが、私もそこまでは……しかしポニ島にはソルガレオを祀る、祭壇がありますな。かつて守り神のポケモンたちとウルトラビーストが戦ったと言われる場所。そこに行けば、何かわかるやもしれませんな」
「日輪の祭壇……」
以前サトシが夢の中で訪れた場所。そこでサトシが目撃したのが2体の伝説のポケモンたち。もしかしたら、そこに行けば彼らに会うことができるのかもしれない。
「行こう、日輪の祭壇に。もしかしたら、リーリエたちもそこに向かってるかもしれない」
「うん!」
「なら、早速準備しないとな」
「僕も、色々と持ってくるよ」
「俺は船を手配する。この前の港に集合だな」
「はい!」
「サトシくん、これを持って行きなさい」
「これって?」
ハラがサトシに渡したのは一つの笛。太陽を模した飾りがつけられている。
「かつてソルガレオに音色を捧げたと言われる笛です。きっと何かの役にたつでしょう」
「ありがとうございます、ハラさん。俺たち、行ってきます!」
ハラにお礼を言った後、サトシたちはそれぞれが慌ただしく飛び出していく。その様子を見送るハラ。
「我々島キングや島クイーンでもなく、守り神でもない。サトシ君たちに与えられたこれは、アローラそのものからの試練かもしれませんな。サトシ君、そしてみんな。ご武運を祈っていますぞ」
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ポニ島。
渓谷を見つめる2人と1体。シルヴァディにまたがりながら、グラジオとリーリエが人1人通らないその道の先を見ている。
「お兄様、ここが?」
「あぁ。この先に、日輪の祭壇がある」
「では、そこにソルガレオが?」
「……そう願うしかない」
誰もいないその道は、ひどく不気味に見える。少しばかりの恐怖を感じながらも、リーリエは自分自身を鼓舞するように、拳を握る。
「行きましょう、お兄様」
「ああ……そんなに気張るな」
「えっ?」
「変に気合を入れすぎるな。今ここはお前だけじゃないだろ。俺もいる」
「あ……」
自分の悩みのことなんて、どうやら兄にはお見通しだったらしい。前を向いたままで自分の方は見ていないのに、それでも気にかけてくれている。どこか不器用で、それでいてわかりにくいところもある優しさ。それに思わず笑みがこぼれ、緊張がほぐれる。
「はい。ありがとうございます、お兄様」
「……行くぞ」
歩を進めるシルヴァディ。その背中の2人には、迷いはなかった。
「ルカリオ、2人は見つかったか?」
『ああ。この先の方向に進んでいる』
『この道の先に、日輪の祭壇があるロト!』
「やっぱり、ソルガレオを探しに来てたんだな」
「よしっ、急ごう!」
途中、いくつかのトラップを潜り抜け、というよりもグラジオがエーテル財団にあった資料を見ていたために攻略が楽だったということもあるが、グラジオとリーリエは祭壇のすぐ近くの洞窟にたどり着いた。
奥には長く続く階段が見える。
「あの先に、日輪の祭壇があるのですね!」
「っ、待て、リーリエ!」
駆け出そうとするリーリエの腕を引くグラジオ。と、洞窟のあちこちからポケモンが飛び出してくる。
「ジャラコにジャランゴ!」
「いや、それだけじゃない。まだ何かいる!」
洞窟の奥から聞こえる唸り声。雄々しく、猛々しく、荒々しい。その声はどんどん近づいてくる、と、洞窟の奥に積まれていた瓦礫の山が弾け飛ぶ。
圧倒的な体躯に、体にまとうオーラ。その瞳はグラジオたちを捉えている。
「ジャラランガです!でも、本で読んだのよりもずっと大きい」
「さしずめ、ここの主というわけか。シルヴァディ!」
「シヴァ!」
「シロン、お願いします!」
「コォン」
ジャラコたちの後ろにそびえ立つジャラランガ。ここを通るためには、倒して行くしかなさそうである。
「行くぞ、リーリエ!」
「はい!」
『近いぞ!だが、他にもポケモンが多い』
「よしっ、急ごう!」
「マーマネ、急いで」
「はぁ、はぁ、これ以上は無理だよぉ〜」
「ほら、押してやるから、もうちょっと頑張れ!」
「待っててね、リーリエ」
必死に走り続ける少年たち。目指す場所は、もうすぐそこに。
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「くっ!」
「お兄様!」
「大丈夫だ。まだいけるな、シルヴァディ?」
「シヴァ!」
声を張り上げるシルヴァディ。しかし状況はあまりよろしくはない。オーラを纏ったジャラランガは、かなりの強敵だ。更に周りにいるジャラコたちの数も多く、シロンだけでは足止めしきれない。
どうすれば……そういえばジャラランガのタイプは……
「お兄様!シルヴァディをフェアリータイプに!」
「そうか!その手があったか。シルヴァディ!」
タイプを変えることができるシルヴァディ。ドラゴンタイプを持っているジャラランガに対して有利なフェアリータイプにチェンジしようと、フェアリーメモリを取り出す。と、
「シルヴァディ!フェアリーメモリを受け取り、っ!?」
シルヴァディにパスをしようとしたところ、突如飛び掛かってきたジャラコによって、ディスクがはじかれてしまう。地面を転がったディスクが止まった先、それは丁度ジャラランガの真下。取るためにはジャラコたちの妨害を潜り抜け、その上でジャラランガの攻撃をかわす必要がある。
「くそっ!」
「あの場所……どうすれば……」
圧倒的不利な状況に、思わず焦りそうになる。けれども、
『最大のピンチは最大のチャンス!それをひっくり返すのが、バトルの面白いところなんだ!』
頭をよぎったのはサトシの声。不思議とその声は自分の思考をクリアにしてくれる。
「お兄様、わたくしたちが道を作ります!その好きにフェアリーメモリを」
「リーリエ……?わかった」
「シロン、地面に向けてこなゆき!」
「コォォォン!」
大きく息を吸い込み、最大限の力でこなゆきを放つシロン。苦手なタイプの技に、ジャラコたちが避けるために道を開ける。こなゆきが地面を凍らせていき、ジャラランガの足元まで続く氷の道が出来上がる。
「今です!」
「行くぞ、シルヴァディ!」
駆け出すグラジオとシルヴァディ。シロンの作り出した氷の道に飛び乗り、スケートするかのように移動する。
ジャラコたちの攻撃をかわし、目指すのはただ一点のみ。
大きく振りかぶられるジャラランガの手。シルヴァディがとっさに飛び上がり、ブレイククローでその手を弾く。その一瞬の隙に、グラジオがフェアリーメモリに手を伸ばす。
「お兄様!」
リーリエの叫び声が響く。見上げると、ジャラランガの口が大きく開き、エネルギーが集約されているのが見える。
「受け取れ!シルヴァディ!」
自分めがけて飛び込んでくるシルヴァディへと、グラジオはメモリを投げる。
直後、ジャラランガから放たれたりゅうのはどうが、大きな爆発を引き起こす。
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立ち込める煙、転がる瓦礫。思わず口元に手をやるリーリエ。不安げな瞳で煙の奥を見ようとする。
「ふっ、お前の攻撃はもう、俺たちには通じない」
煙の奥から聞こえる声。現れたグラジオとシルヴァディは、一切のダメージを受けた様子がない。
「やりました!」
「光を纏った妖精の鎧は、竜の爪を通すことはない。そして、煌めく妖精の剣は、竜の鱗をも打ち破る!シルヴァディ、マルチアタック!」
フェアリータイプへと変わったシルヴァディが、ジャラランガに向かって飛び上がる。効果抜群の攻撃が、ジャラランガを大きく仰け反らせる。その巨体が地面に叩きつけられ、大きな衝撃が洞窟に伝わる。
「今だ!乗れ、リーリエ!」
「はい!」
慌ててシロンを抱き上げ、シルヴァディに跨ったグラジオの手を取る。先ほどの衝撃で、洞窟が崩れ始めている。天井から降る瓦礫を避けるようにしながら、シルヴァディが階段へと向かう。
「あと少し……もう少しで!」
「お兄様!」
ハッと顔を上げるグラジオ。真上から巨大な瓦礫が落ちてきている。グラジオと違い、後ろを見ているリーリエ。立ち上がったジャラランガが腕を振り上げ、シルヴァディを狙っている。
前門の虎、後門の狼。彼らに逃げ場はどこにもない。万事休すか、と、
降ってくる瓦礫が、球体の電撃に破壊される。ほぼ同時に、ジャラランガの体に水の手裏剣とエネルギーの球体が直撃し、弾き飛ばす。障害がなくなったシルヴァディは、全力で洞窟から飛び出す。
「っ、今のは」
「まさか……」
「リーリエ!グラジオ!」
洞窟が崩れ、立ち込める土煙。それを掻き分けるようにして、サトシ達が姿を現わす。全員息が切れていることから、洞窟を全力で駆け抜けたのだろう。マーマネはカキに支えてもらっている。
「はぁっ、はぁっ……よかった、間に合って」
先ほどの窮地を救ってくれたのは、間違いなく彼のそばにいるピカチュウたちだろう。でも、
「どうしてここに……」
「ハラさんから聞いたんだ、ソルガレオの伝説。グラジオなら、ここに向かうと思ってさ」
笑顔で答えるサトシ。でも、自分が聞いているのはそういうことではない。リーリエは信じられないという気持ちと、それでもやっぱり嬉しいという気持ちの両方を感じながら、サトシ達を見る。
「何故来た?これは俺たち家族の問題だと言ったはずだ」
険しい表情のグラジオ。巻き込みたくない、そう思って突き放すために動いた。なのに、どうして彼らはここに来てしまったのか、それがわからない。だと言うのに、
「仲間を助けるのは、当たり前だろ?」
何を言ってるんだ、とでも言いたいような表情のサトシ。熟考することもなく、即答だった。グラジオの目が驚きで僅かに開く。
「なぁ、グラジオ。アローラではなんでも分かち合う、そういうものなんだろ?ならさ、楽しいことばかりじゃなくていい。大変なことも、みんなで分かち合っても、いいんじゃないか?」
「あたしもそう思う!」
「ぼ、僕も」
「同感だな」
「私も」
「ははっ。まるでりんしょうだな。みんなの思いが合わさって、より強い力になる」
ここに来ている全員が、同じ気持ちで動いている。ただ、ルザミーネを助け出すため。それだけのために……
「お兄様……論理的な根拠ですとか、理論ですとか、そんなものはありません。でもわたくしは、みんなと一緒なら、きっと、いいえ、必ずお母様を助け出せるはずだと信じてます」
「リーリエ……」
真剣な表情の妹。その決意も固いらしい。その覚悟を宿した瞳は、どこか自分を見上げる少年に似ている、そんな気がする。
「……すまないサトシ。それから、他のみんなも。俺たちに力を貸してくれ」
「待ってたぜ、その言葉!」
シルヴァディから降り、グラジオがサトシに手を差し出す。しっかりとその手を握るサトシ。やる気を見せるカキ達。少し涙ぐんでいるリーリエ。
改めて共にルザミーネを救出すると決めたサトシ達が階段を上る。既視感ある風景に、サトシは何かが起こりそうな、そんな予感を感じていた。
『っ、何かいる』
「どうした、ルカリオ?」
『来る!』
あたりを波導で探っていたルカリオが空を見上げる。と、一瞬でサトシの帽子が掠め取られる。赤色の帽子が、階段の一番上まで行くのが見えた。慌てて追いかけるサトシ達が階段を登りきると……
「えっ!」
「これは」
「なななななんで!?」
空を舞うのは4体のポケモン。しかしただのポケモンではない。
「カプ・コケコ!」
「あれは、カプ・テテフか」
「あちらはカプ・ブルルです!」
「それにカプ・レヒレだと!?」
アローラの4つの島にいる守り神達。その全員が彼らの前に現れたのだった。まるで彼らを出迎えるかのように、まるで彼らを導くように、守り神は空から彼らを見下ろしていた。
集結した守り神。
祭壇に置かれたもう一つの笛。
そして動かなくなってしまったほしぐも。
全てが揃った時、誰もが驚愕することが起こって……
次回、XYサトシinアローラ物語
ソルガレオ降誕!ウルトラホールの先へ!
みんなもポケモン、ゲットだぜ!