というかなんかここんとこ連続でかなり濃ゆいな笑
まぁ、こっちも進むわけなのですが、今回色々変わってます、はい
聞こえてくるのは波の音。
潮風を頬に受けながら、リーリエは帽子が飛ばされないように片手で抑えている。
久しぶり、というほどでもない船の上。
サトシたちは今回、とある場所へと向かっていた。
「みなさん、見えてきましたよ!」
船頭に立っていたリーリエが声をかけると、みんなが集まってくる。船が進む方向に浮かぶのは、ほぼ白一色の大きな島。正確には人工的に作られた巨大建造物。
「あれが、お母様たちの仕事場、エーテルパラダイスです」
ポケモン保護活動を行うという団体、エーテル財団。その本拠地にして研究所、保護施設を兼ね、かつてリーリエとグラジオの暮らしていた家のある場所。エーテルパラダイスの水上用の門が開き、サトシたちを乗せた船が中に入る。
「アローラ!エーテルパラダイスにようこそ〜」
サトシたちを出迎えたのはビッケとザオボー。ビッケは笑顔でみんなを出迎えるのに対し、サトシに対して苦い思いのあるザオボーはやや不機嫌そうだ。
「ようこそ。それで、ほしぐもは一緒ですか?」
「ええ。今はサトシのリュックに」
「……そうですか」
「まずは代表のところに案内しますね〜」
常ににこにこしているビッケに、他のみんながなんだかほっこりした気持ちになる中、サトシはザオボーに対する警戒心を強める。心なしか、自分のリュックを見ているその目が、どこか危険なもののように思ってしまう。
「……考えすぎかな?」
「?サトシ、どうかしたのか?」
「いや、なんでもないよ」
エレベーターに乗り込み、移動するサトシたち。連れていかれた先は、大きく開けた場所。中央に大きな道、その両側は綺麗に並んでいる木々。そしてその奥にそびえ立つ、豪邸。
「これ、もしかして、」
「はい。お母様の住んでいる、わたくしたちの家です」
「おっきい……」
お城や宮殿と比べだすとキリがなくなるが、それでもその家はそんじょそこらのものとは明らかに格が違う。基本カラーは財団と同じ白、いくつもの部屋があり、財団のトップであるルザミーネの持つ影響力が感じられる。
「どうぞ〜。代表が中でお待ちです」
ビッケが扉を開け、みんなを招き入れる。玄関の正面にある大きな階段。赤い絨毯が敷かれるそれは、高級感漂うものだったが、それを歩いてくる女性には、やたらと似合っている。
美しい髪も、白い肌も、スラリとした歩き姿も、モデル顔負け。とても二児の母とは思えない雰囲気を出している。
「ようこそ、我がエーテル『ピリリリ』……」
話し始めたぴったりのタイミングで、携帯電話がなる。思わずひきつるルザミーネの笑顔。
「今日は、ゆっくりし『ピリリリ』……」
仕切り直そうにも、着信音でまた遮られる。思わずサトシたちも苦笑を浮かべてしまう。
「ごめんなさいね。はい、ルザミーネです」
電話に出ながら階段を登っていくルザミーネ。仕事のできる人って感じではあるが、それでもこれだけの規模の財団のトップともなれば、忙しさは段違いなのだろう。
「すごい大変なんだな、ルザミーネさんも」
「そうですね……昔から、仕事に追われていました」
「じゃあ、お部屋にご案内しますね〜」
ビッケに連れられ、サトシたちもルザミーネの後から階段を登っていく。移動中でも、ザオボーの瞳は、サトシのリュックから離れることはなかった。
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案内された豪華な部屋、ルザミーネが仕事にも利用しているらしいそこで、サトシたちに大量のお菓子と飲み物がふるまわれる。
「このケーキ、美味しい!」
「ああ。クリームときのみがいい感じに合ってる」
「このケーキ、どこで売ってるのかな?」
ケーキにマカロン、更には金平糖まで。ほしぐもも満足そうに金平糖を口いっぱいに頬張っている。
「一気に食べ過ぎると、お腹壊しちゃうぞ」
「本当にほしぐもちゃんは、金平糖が大好きですね」
「ほほぅ。金平糖が好物ですか……」
ニヤリと、ザオボーが悪そうな笑みを浮かべているのに、サトシたちはお菓子に夢中で気付けなかった。
「それじゃあ、早速みんなに色々とお話を聞かせてもらえるかしら?リーリエのスクールでの様子とか」
電話がひと段落したらしいルザミーネが机の上に肘を乗せ、手を組む。組んだ手の上に顎を乗せ、やや身を乗り出し気味にサトシたちに話しかける。
「えっ、お母様?それはどういう?」
「ここなら、仕事しながらでもお話を聞くことができるでしょ?」
「まさか、そのためだけに皆さんを招待したのですか?もっと施設を案内するとか、」
「それももちろんするわ。でも、折角だから、色々と話を聞きたいの。ポケモンに触れるようになったきっかけとか、それからサトシ君についてもね」
「えっ?俺?」
予想外のタイミングで自分の名前が出たことに、マカロンを今まさに口に入れようとしていたサトシが、動きを止め、首をかしげる。
「ええ。ほしぐもちゃんや喋るルカリオのこともだけど、バーネットがククイ博士から色々と聞いたみたいなの。守り神のポケモンたちもあなたに関心があるみたいだし、どうしてなのか、気になったのよ」
「どうしてって言われても……」
「ね。あなたに興味があるの。お話聞かせてくれないかしら?」
ルザミーネ程の美人に笑顔でそんなことを言われれば、大抵の人間なら断る理由は特にないだろう。むしろどこかのポケモンブリーダー兼ドクター研修生なら、「感激です!喜んで!」とか言いそうだ。が、
「お、お母様!」
「あら、どうしたのリーリエ?急に立ち上がって?」
「え、いえ、あの……」
キョトンとしているルザミーネ。リーリエも思わず立ち上がってしまい、その後のことは特に考えていなかったのか、口ごもってしまう。と、
『ピリリリ』
「えっ、また?『ピリリリ』こっちも?」
ルザミーネの携帯が鳴り出す。それも二つ同時に。慌てるルザミーネをよそに、リーリエがシロンを抱き上げる。
「みなさん、行きましょう。わたくしが施設を案内します」
「えっ?でももっとお菓子食べたいんだけど」
「マ・ー・マ・ネ?」
「あ、はい……なんでもないです……行きます」
謎の気迫を見せたリーリエに連れられ、サトシたちはエーテルパラダイスを見て回ることになった。その後からビッケが案内役として付いてくる。
なお、この時のことを後にマーマネはこう語る。
『背後に氷山が見えたような気がしたよ……リーリエは本気で怒らせたら絶対ダメだって、思っちゃった……』
「ええ。ええ、はい。ありがとうございます。では『ピッ』ふぅ」
「代表」
「あらザオボー。どうかしたのかしら?」
「あのような子供に興味を示すとは、どういうことですか?私の見た限りでは、ただの子供にしか思えませんが」
「非論理的ね、ザオボー。その見解は彼に負けたことに対する僻みから来てるわ」
「ぬぐっ。では、代表は彼をどう見ているので?」
「守り神のポケモンに、伝説で語られるウルトラビーストたち……彼は特別な存在なのかもしれないわ。うちに欲しいわね」
にこやかな笑みでルザミーネは答えるルザミーネ。ザオボーがズレているサングラスをかけ直しながら表情を伺う。けれども、その真意は彼には見えなかった。
「全く……お戯れを」
「あら、どうかしらね?」
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「着きましたよ〜。ここがポケモンの居住区です」
エレベーターで移動したサトシたちの目に入って来たのは、建物の内部とはとても思えない光景だった。高く育っている木に、流れる川。まるで大自然のど真ん中に、突然現れたような気持ちになる。
「すっごーい」
「びっくり……!」
「おっ、ポケモンもいっぱいいる!」
空にはヤヤコマやツツケラの群れ。陸にはガントル、ウソハチ、メグロコなど、様々なポケモンがそれぞれ過ごしている。
「ここは、傷ついたポケモンを保護して、野生に帰るための手伝いをしているのよ」
突然声をかけられるサトシたち。声の方向を向くと、ドライスーツを腰あたりで結び、何やら海藻をモグモグしているゴンベを連れながら、快活そうな女性がこちらに向かって来ている。
「アローラ。ようこそ、ポケモン居住区へ」
『ビビッ、バーネット博士ロト!』
「サトシ、リーリエ。この前ぶりね。みんなは、初めましてよね。バーネットよ。君たちの先生、ククイ博士と同じポケモン博士で、ここでルザミーネを手伝ってるの」
「「「「アローラ!」」」」
「博士、潜ってたみたいですけど、今日はなんの研究してたんですか?」
「それはね、この居住区の環境のチェックよ。いろんなタイプ、地方のポケモンを保護してるから、みんなが過ごしやすくなってるか、時々確かめているの。他にもポケモンの健康状態を診察もするのよ」
「それから、ここではモンスターボールが使えないんですよ〜」
「えっ?」
「どうしてですか?」
「ポケモンを保護するための施設なので、勝手にゲットしようとする人が来た時のために、ここにはジャミング機能が付いているんです」
「だから、あらかじめボールから出ているポケモン以外は、この居住区では活動できないのよ」
そんなことができるのだろうか、とも思ったが、よく考えるとデオキシスが似たようなことをやっていたことを思い出す。
「そうだ。今日予防接種を受けるポケモンがいるの。見てみる?」
バーネット博士に連れられ、サトシたちは居住区の一角に着く。ガラス越しに部屋の中をのぞいてみると、
「おっ、メタモンだ!」
5体のメタモンが、部屋の中で遊んでいるのが見えた。
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「いた?」
「いない!」
「また変身しちゃったのかな」
「次から次へと、素早いです!」
居住区を駆け回るサトシたち。誰もそれを咎めないのは、今が一種の緊急事態のためだ。
「どこ行ったんだ、メタモン!」
話は数分前にさかのぼる。
「じゃあ順番に打ってくから、みんなはしっかり抱えていてね」
バーネット博士に頼まれ、サトシたちはメタモンの予防接種の手伝いをすることになった。メタモンを抱き上げて並ぶサトシたち。リーリエはビッケとともに、その様子を眺めていた。
サトシ、カキ、スイレン、マオ。四人のメタモンが無事に注射を終え、いよいよ最後の一体となったその時、事件が起きた。
余程注射が嫌いだったのだろうか、なんとメタモンがマーマネの腕の中から抜け出し、開いた扉から外の保護区へと飛び出して行ってしまったのだ。
変身能力を持つメタモン。他のポケモンに紛れ込むと見分けがつかない場合もあるため、隔離されていたのだが……
「どこにいるんだ?」
様々なポケモンが住んでいる居住区。メタモンは次々に姿を変えながら逃げ回っている。ロトム図鑑に始まり、タマタマ、プリンと、姿が変わる。更にまずいことに、最初は顔で区別がついていたのだが、何度も変身するうちに上達したのか、徐々に顔までもが変化するようになって来ている。
「長引いたら、絶対に見つからなくなっちゃうよ」
「どうしたらいいのかしら……」
「あっ!」
何か思いついたらしいサトシ。腰につけていたボールを一つ手に取る。
「ダメよサトシ君。ここではボールは使えないわ」
「ちょっと思いついたことがあるんです」
「?思いついたこと?」
頷いてから、サトシがボールをじっと見る。
「ルカリオ、聞こえるか?」
『聞こえている』
ボールの中から声が聞こえてくる。あのルカリオが応えているのだと気付き、みんなの注目が集まる。
「なぁ、確かお前、波導で姿を変えた相手でもわかるんだよな?」
『そうだ。姿が変わろうと、そのポケモンの有する波導の形は変わらない。波導の質、色、形は、万物において不変だからな』
「なら、俺にもできるかな?」
『可能だ。アーロン様と同じ波動を持ち、既にコントロールし始めているお前なら、やってできないことじゃない』
アローラに戻って来てから、サトシはポケモンの特訓はもちろんだが、ルカリオによる波導の特訓も欠かさず行って来た。まだまだ広範囲を探ったり、波導で念話を飛ばすようなことは出来ないが、それでも少しずつコツを掴んで来ている。
「よしっ」
サトシがボールを戻し、リュックから波導グローブを取り出す。興味深そうにしているビッケとバーネット博士、カキたちが集まる中、サトシは芝生の上に座り込み、ふっと息を吐く。
「波導は我に有り」
小さく呟き、意識を集中させる。暗闇の中に、青い炎のように、周りの波導が見えてくる。まず感じられるのは近くに来ている仲間たち。ぼやけているものの、一応人の形を取っている。ピカチュウ、ロトム、シロン。仲間のポケモンたちの形が確認できる。
(ゆっくり、範囲を広げて……)
徐々に視界に入る影が増えてくる。紛れ込むなら群れの中。単独に行動しているポケモンではなく、群れで行動しているポケモンを探してみる。メグロコ、ポッポ、サニーゴ、ウソッキー。まるで手探り状態で進むように、徐々に周りのポケモンたちの様子を確認する。と、川の側。ヌオーの群れ。その中に一体だけ、形の違う影が。
「見つけた!」
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「もう逃げちゃダメですよ〜」
予防接種を終えたメタモンを、ビッケが元の部屋に戻してから優しく叱る。
あの後、サトシによって変身を何度も見破られたメタモンは、逃げても無駄だということを察したのか、おとなしく捕まったのだった。
「みんなありがとう。助かったわ」
「いえいえ。あたしたちも楽しかったですし」
「うん。ちょっと鬼ごっこしてるみたいで」
「でも、こんなにポケモンがいると、やっぱり大変なのかな」
「そりゃそうよ。タイプも種族も性格も、みんな違うポケモンたちが集まっているから」
「でも、いろいろ大変なことがあっても、きちんとケアして野生に返すこと。それが、私たちエーテル財団の役目よ。そのトップとして働いているのが、ルザミーネ代表、リーリエちゃんのお母さんなの」
「ルザミーネは、とても愛が深いから。ポケモンに対してもそう」
「へ〜。やっぱりすごい人なんだな、リーリエのお母さんって」
「そう……ですね」
なんだかんだ言っても母親のことを褒められて嬉しいのか、リーリエが微笑む。と、ドアが開き、部屋にルザミーネとザオボーが入ってくる。
「大丈夫?メタモンが逃げ出したって聞いたのだけど」
「もう遅いです。みんなと一緒に、もう捕まえちゃいました」
一転ツンツンした態度に変わるリーリエ。反抗期だろうか、その様子にザオボーとルザミーネを除く大人組が笑ってしまう。そんな娘の態度は御構い無しと、ルザミーネがリーリエを抱き寄せる。
「そうなの?偉いわリーリエ。ありがとう」
「いや、だから、恥ずかしいって言ってるのに」
必死に逃れようとするリーリエに、放す様子が全くないルザミーネ。なんだかほっこりとした気持ちに、一同がなる。
「ところで、どうやって捕まえたの?メタモンが変身してたら、こんなに早く見つかるとは思えないのだけれど」
「ふぅ。サトシのおかげです」
なんとか抜け出したリーリエが、ルザミーネに背を向けながら答える。と、ルザミーネの視線がすぐさまサトシに向けられる。
「サトシ君の?どういうことなの?」
「えっ、いやぁ、それは……」
「サトシは、波導が見えるんです」
どう説明したものかとサトシが口ごもると、何やら誇らしげにマオが答える。
「波導?それってルカリオが感知できる、あの波動のこと?サトシ君、詳しく聞かせてもらっても、いいかしら?」
「は、はい」
急に距離を詰めてくるルザミーネに少し驚きながらも、サトシは説明を始めた。
自分がかつて波導使いと呼ばれる英雄、アーロンと同じ波導を持っているらしいこと。
その弟子だったルカリオが時を超え、自分と共に来てくれたこと。
そして今、その波導を使いこなす訓練をしていること。
ややこしくなりそうだったので、ミュウや世界の始まりの樹については、結局説明しないことにした。
「波導使い……凄いのね、サトシ君って」
「そんなことないですよ。今だって、まだまだ使いこなせてないし」
「いいえ、それはとても素晴らしい力よ。その力なら、見つけにくいポケモンを探すこともできるわ。保護活動では、凄く力になるわね。ますます欲しくなっちゃう」
「え?」
思わず声を漏らすサトシ。なんだかルザミーネの雰囲気が違うような……
「お母様?」
「……あ、ごめんなさいね、変なこと言って」
「あ、いえ」
「じゃあ私はまだ仕事が溜まってるから、戻るわ。みんな、ゆっくりと楽しんでいってね」
手をヒラヒラ振りながら部屋を出るルザミーネとザオボー。サトシを睨みつけながら出て行くザオボーはともかく、ルザミーネの視線も最後までサトシに向けられていたのは、気のせいだろうか……
その後、ポケモンたちとの触れ合い、バーネット博士やビッケとのお話、そしてポケモンのお世話の手伝いなど、様々なことを楽しんだサトシたちは、エーテルパラダイスから帰ったのだった。
しかし誰も思ってもいなかった。
何か大きな変化が、起ころうとしているなんて……
「ねぇ、ザオボー」
「代表?」
「やっぱり、ほしぐもを彼に預けて良かったわ」
「な、何故です?」
「彼がいれば、きっと現れるはずよ。私の愛しい愛しい、あの子たちも……」
「はぁ……それにしても、良かったのですか?」
「何がかしら?」
「リーリエ様のことです。このままポケモンと触れ合っていては、いずれあの時の記憶も」
「ええ、そうね。でも、問題はないわ。あの子には、止めることなんてできないもの」
「して、グラジオ様のことは?」
「そうね……ほっておいてもいいわ。少なくとも今は、心配する必要はないわ。それにしても、果たしてあの子に従えられるかしら。あのシルヴァデイを、ね」
…………… To be continued
アニメもシリアスになって来たけど、多分こっちはさらにシリアスに……
そんなこんなで次回予告!
いきなりほしぐもテレポート!?
たどり着いた先で待ち受けていたのは、グラジオ
えっ、ほしぐもがどうかしたのか?
待て待て、UBキラー?シルヴァデイ?
どういうことなのかわからないけど、バトルなら受けて立つぜ!
って、待てよおい!ルガルガン!
次回
赤き眼差しとビーストキラー
みんなもポケモン、ゲットだぜ!