その理由は………
ポケモンスクールに設置されたバトルフィールド。今日もまた、そこではバトルが繰り広げられていた。
「イワンコ、いわおとし!」
「ドロバンコ、にどげり!」
勢いよく打ち出されたいわおとしが、ドロバンコに完全に防がれたにもかかわらず、イワンコとサトシは笑顔を浮かべていた。
「なんだかイワンコ、押されてない?」
「いわタイプのイワンコにとって、じめんタイプのドロバンコは、相性が悪いからな」
「でも、サトシはそうは思ってないみたいだよ」
「はい、とても楽しそうです」
「頑張れサトシ、イワンコ!」
クラスメートが見守る中、サトシとイワンコがアイコンタクトを交わす。
「行っくぞ、イワンコ!」
「アン!」
Zクリスタルからの輝きをその身に受け、イワンコのZ技が放たれる。
「ウルトラダッシュアタック!」
高速で相手目掛けて突っ込むその技を、ドロバンコは躱すことができなかった。大きく弾かれたその体は宙に浮き、地面に落ちた時には目を回してしまっていた。
「ドロバンコ戦闘不能、イワンコの勝ち!」
審判を務めたククイ博士のコールを持って、このバトルは終了した。握手を交わすサトシとトレーナー。再選の約束をし、相手は走って行った。
「サトシ、お疲れ様です」
「いいバトルだったね!」
「あぁ、スッゲェ楽しかった」
イワンコを抱き上げ、頭を撫でながらサトシは応じた。ここのところ、サトシにバトルを申し込みに来る人が増えているのだ。それもそのはず、サトシは今やスクールの中でも最も注目されているトレーナーなのだから。
予測不可能な戦法に、フィールドや相手の技をも味方にするバトルスタイル。スクールの授業だけでは学べないことを、サトシを通して学んでいる生徒もいるんだとか。
「それにしても、イワンコもどんどん強くなって来たね」
「さっきのZ技も、中々だったぞ」
「サンキュー。でも、まだまだ強くならないとな。どんな試練が待ってるのかもわからないし。それに、あいつともまた戦いたいしな」
そう言って空を見上げるサトシ。そのあいつに、なんとなくカキたちは心当たりがあった。彼らが初めて観たサトシの全力、その衝撃はあれからしばらく経った今も、鮮明に思い出せる。
「だったらさ、僕にトレーニングメニューを考えさせてよ!」
「へ?マーマネに?」
「そう!」
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スクールからそう離れていないところに、マーマネの家はあった。おおらかな母親に、なんだか面白い父親。カキの家族とはまた違う印象を持たせる家庭だった。おやつを食べたりお話ししたりもしたが、今は最初の目的を忘れてはいけない。サトシはマーマネとともに、カプ・コケコの対策を考え始めた。
「まずあのエレキフィールドなんだけど、あれは特性エレキメイカーで発動してるみたいなんだよね」
「ってことは、勝手に発動してるってことか?」
「そ、んで、問題はそのエレキフィールドの特徴なんだけど、」
『でんきタイプの技の威力が上がるロト』
「つまり、ピカチュウには有利ってことか」
ちらりと相棒の方を見てみるが、どうやらトゲデマルと一緒に遊びに夢中になっているようだ。少しほっこりとしたサトシは意識をマーマネたちの方へ戻した。
「ピカチュウはいいけど、他のポケモン、特にゲッコウガは要注意だよ」
「確かにそうだな」
エレキフィールドの発動が最も痛いのは、間違いなくゲッコウガだ。しかしそれを未然に防ぐすべはない。せめてヌメルゴンがいたらなぁ、なんてサトシが思う中、マーマネとロトムは様々な対策を考えていた。
「うーん、みんなのもっと詳細なデータが欲しいんだけど……ん?」
マーマネの視線の先には、滑車の中に入り、走りながら遊んでいるピカチュウの様子だった。
「これだ!」
「えっ、どれ?」
サトシが待つことしばし、マーマネの家の庭に、巨大な滑車が設置されていた。その滑車の中で走ることによって、サトシたちのデータを集めることができるらしい。
「よーし、みんな出てこい!」
「クロ?」
「アン!」
「コォン」
「コウガ」
モンスターボールから出て来たサトシのポケモンたち。額に情報収集のためのマーカーをつけ、早速プログラムを始めた。走り始めたサトシたち。そのデータはマーマネの機械でグラフとして現れている。
「いいよ、いいよ。しっかりとデータが取れてる。サトシ、もっと早く行ける?」
「よっしゃ!行くぜ!」
だんだんと滑車の回るスピードが速くなる。そのスピードについていけず、モクロー、イワンコ、ロコンは滑車の外に飛び出した。残ったのはサトシ、ゲッコウガ、そしてピカチュウ。
徐々にスピードが上がる中、ゲッコウガには見えていた。サトシとピカチュウの間に、強いエネルギーが流れているのが。それはメガ進化のエネルギーにも近い何か。その繋がりが強くなればなるほど、サトシのZリングにはめられたデンキZがよりかがやきはじめていた。
「何この数値、どうなってるの?」
『驚きロト!』
とっさに危険を感じ取ったゲッコウガは、滑車から飛び出し、マーマネや他のポケモンたちを連れて離れた。直後、まばゆい黄色の柱が空に向かって登っていき、その後には壊れた滑車、そしてサトシとピカチュウが立っていた。
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翌日、マーマネは興奮気味にサトシたちとともに行った実験についてカキたちに話していた。珍しくゲッコウガもボールから出ていて、柱にもたれかかりながらサトシたちを見ていた。
突然ピカチュウが何かに反応する。頬から電気が溢れていることから、何やらでんきタイプに関係することだろう。ほぼ同時に、ゲッコウガも何かが現れたことを感じ取っていた。
「ピカチュウ?あ、どこ行くんだよ?」
走り出したピカチュウを追って、サトシたちも外へと飛び出した。彼らがたどり着いたのはスクールのバトルフィールド。そこで待ち受けていたのは、
「カプ・コケコ!?」
「うそっ、また現れたの!?」
メレメレ島の守り神、カプ・コケコだった。その瞳は真っ直ぐにサトシに向けられている。
「また会えて嬉しいよ、カプ・コケコ。俺たち、あれから強くなったんだ。またバトルしてくれないかな?」
サトシに答えるようにカプ・コケコはサトシたちの前まで行き、その腕でピカチュウを指した。バトルしたい相手は、やはりピカチュウのようだ。
「ありがとう。よーし、ピカチュウ!見せてやろうぜ、俺たちの力!」
「ピィカ!」
バトルフィールドで相対するピカチュウとカプ・コケコ。神出鬼没でほとんど姿を見せない守り神が現れたことを聞いて、スクールの生徒たちも集まっていた。彼らはカプ・コケコを見て驚き、その前に立つサトシたちを見てさらに驚いている。
「これは、」
「ククイ博士、カプ・コケコが」
「あぁ。何とも面白いことになってきたな」
「カプ・コケコは、どうして何度もサトシの前に現れるのでしょう」
「その答えは、このバトルの中にあるかもしれないな」
「バトルの中に、ですか」
視線を戻すリーリエ。スクールの生徒たちが見守る中、カプ・コケコとピカチュウによるバトルが始まろうとしていた。
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周囲に電気が走る。特性エレキメイカーにより、エレキフィールドが発生した。それを合図に、サトシは行動した。
「ピカチュウ、でんこうせっか!」
「ピカ!」
高速で走り、カプ・コケコ目掛けて突撃するピカチュウ。かなりの速度で繰り出されたにもかかわらず、カプ・コケコはそれをあっさり躱してみせた、
「アイアンテール!」
走ったスピードそのままに、木を蹴って跳躍したピカチュウのアイアンテールが、カプ・コケコを背後から狙った。咄嗟に腕を使い防ぐカプ・コケコ。パワーで押されたピカチュウが地面に向かって落ちるのを、追撃せんとカプ・コケコが追って急降下した。
「尻尾で飛ぶんだ!そのままアイアンテール!」
「チュー、ピッカァ!」
地面に激突する寸前、尻尾をバネのようにし飛び上がったピカチュウ。その咄嗟の切り替えにカプ・コケコの反応が間に合わず、顔面に強烈な一撃を食らってしまう。
「エレキボール!」
「ピカピカピカ、チュピィ!」
体勢を崩したカプ・コケコ目掛けて打ち出される電撃の球。腕でそれを防ぐものの、カプ・コケコは大きく後退した。
「ピカチュウ、すごい!」
「これならいけるかもしれません」
「このまま行けば、だがな」
カプ・コケコの周りを走り回り、隙を見つけようとするピカチュウ。その動きを、カプ・コケコは動かずとも正確に捉えていた。背後からピカチュウが攻撃をしようとした瞬間、カプ・コケコは地面を殴りつけた。エネルギーがほとばしり、ピカチュウは大きく弾かれた。
「ピカチュウ!」
「しぜんのいかりだ。これは強烈なダメージだぞ」
「流石は守り神、そう簡単にはいかないか」
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「大丈夫か、ピカチュウ?」
「ピカ!」
大丈夫と返事するように声を上げるピカチュウ。それを見て一瞬笑みを浮かべたサトシは、気を引き締めてカプ・コケコを見据えた。
「さっきよりも速く動けば、もしかしたら。ピカチュウ、でんこうせっかで撹乱しろ!」
先ほどよりも速く走り、カプ・コケコに接近するピカチュウ。狙いさえ定まらなければ攻撃も躱せる。そう考えた故の作戦だった。しかし、
「コォー!」
「な、ほうでん!?」
広範囲に広がる電撃を躱すことが出来ず、ピカチュウは攻撃をくらってしまう。タイプ相性はいまひとつとはいえ、エレキフィールドで強化されたその一撃は重く、ピカチュウは膝をついてしまう。
放たれたほうでんの威力が大きすぎて、フィールドの外、側で観戦していた生徒たちの方へと電撃が向かってしまう。突然のことに誰もがひるむ中、咄嗟に動いたのはゲッコウガだった。みずしゅりけんをいくつも作り出し、乱回転させる。それによって渦巻く水の壁を作り出し、広範囲に広がっていたほうでんを防いだ。
「ありがとうゲッコウガ」
「コウガ」
「でもどうやって?水は電気をよく通すんじゃないの?」
「正確にはゲッコウガのみずしゅりけんは粘液だ。成分までは研究されたことはないが、電気を通さない性質を持っているのかもしれないな。それか、相当の純度の高い水で構成されていたとかな」
自分の技についての話が行われる中、ゲッコウガはじっとピカチュウを見つめていた。何かを期待しているかのように。
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「ピカチュウ、立てるか?」
「ピカピィカ!」
しっかりと地面を踏みしめ、少しふらつきながらも立ち上がるピカチュウ。勝ちたい!強くなりたい!そんな二人の気持ちに反応するように、Zクリスタルが光を放ち始めた。
それを見て頷くカプ・コケコ。待っていたのだ、二人の全力を。もう一度その力を確かめるために。
「待たせたな、カプ・コケコ。いっくぞ!」
「ピィカ!」
Zクリスタルが一層輝きを増し、二人の動きがシンクロする。溢れるエネルギーを身に受けたピカチュウが、巨大な雷撃の槍を作り出す。
「これが、俺たちの、全っ力だぁ!スパーキングギガボルト!」
放たれた一撃をカプ・コケコは両腕を合わせて守りの態勢に入る。以前はカプ・コケコによって完全に防ぎ切られてしまった。完全にZ技を使いこなせたわけではなく、クリスタルも砕けてしまった。けれども、今のサトシたちはあの時よりも成長している。
打ち出された雷撃のは、カプ・コケコに命中した瞬間に、巨大な光の柱となった。あまりの爆風に飛ばされそうになる生徒たち。目も開けていられないほどの眩しさだった。
大きく弾き飛ばされ、木に激突したカプ・コケコだったが、すぐに態勢を立て直し、攻撃に転ずる。しかし、それを見逃すサトシではなかった。
「アイアンテール!」
カプ・コケコを迎え撃つように、ピカチュウのアイアンテールが繰り出される。丁度フィールドの中央で激突する両者。その衝撃に空気が震える。しかしパワーはカプ・コケコの方が上だったようで、後ずさりはしたものの、ピカチュウの方が弾き飛ばされてしまった。
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ピカチュウの体はフィールドから飛び出し、スクールの柵を破壊し、そのまま崖のようになっていた場所から落ちてしまった。
「ピカチュウが!」
「っ!待て、サトシ!」
それを見たサトシは、躊躇いなく走り出し、自らも飛び降りた。生徒たちから悲鳴が上がる。それはまるでミアレシティの再現だった。落下しながらもピカチュウを抱き寄せたサトシ。ピカチュウを庇うように体を少し丸める。
慌てて崖まで駆け寄る博士たち。その頭上を一つの影が通り過ぎ、サトシを追うように落ちていく。崖から下を見下ろした彼らは、その光景に目を疑った。
崖から飛び上がったのはカプ・コケコ、そしてその腕にはサトシとピカチュウが掴まっていたのだった。空高く登るカプ・コケコと、笑顔のサトシたち。その様子をロトムがしっかりと写真に収めていた。
地上にサトシたちを下ろしたカプ・コケコ。見た所、サトシにもピカチュウにも怪我はなさそうだった。
「ありがとな、カプ・コケコ。また負けちゃったけど、次は絶対勝ってみせるぜ!」
拳を握り笑顔で語るサトシに、一度頷くカプ・コケコ。しかしその後、スクールの生徒たちの近くへと飛んでいった。近づく守り神に驚く生徒たちをよそに、カプ・コケコはある場所で止まった。その真正面には、
「コォー」
「コウガ」
互いに相手を見据えるカプ・コケコとゲッコウガ。相手のことを探っているようだった。
「もしかして、ゲッコウガともバトルしたいのか?」
返事はなかったが、両者ともに相手から視線を逸らそうとしていない。おそらくは肯定とみなしても問題ないだろう。
「ゲッコウガ、一緒にやろうぜ!」
「コウガ!」
ピカチュウ戦に続き、ゲッコウガとカプ・コケコのバトルが始まろうとしていた。
はい、というわけで、次回はオリジナルの展開入りまーす
頑張って書きますので、しばしお待ちを