Infinitum Heroicis Ficta -無限の英雄- 作:燃え尽きた灰
ここは日本だ。例え【領域】だとしても日本だ。異論は認めない。
ということは、だ。当然通貨は日本円である。いつも【領域】に行ったときのために《アイテムボックス》の中にどこでも大体価値のある金塊を置いているのだが、換金がめんどくさい。それもそうだろう。18にも満たない子供が金塊を持ってくるのだ。怪しまない訳がないだろう。しかし、今回はその必要がないのだ。
さらっと《アイテムボックス》なんてものが出てきたが、これは中にものがいくらでも入る空間を作り、制御する魔術だ。これはとある【領域】の勇者サマに教えてもらった。
話を戻そう。
誰がなんと言おうとここは日本、しかも現代の日本だ。国籍は魔術で適当に作っている。身分証明書もある。完璧ではないか。
(いやっふぅ!久々のふかふかの布団!っとその前にホテルを探そう。)
◇◇◇
そうしてチェックインしたビジネスホテルの一室でくつろいでいると、唐突に近くで強力で異質なエネルギーの流れを感じた。半径5km以内であろう。詠唱を始める。
「世界の流れを司る、偉大なる風の神よ。我、この力を捧げ、乞い願わん。我欲するは此の地と彼の地を結びし扉。我が願いを聞き届け給え。」
そう唱えると、そこはもうホテルではなかった。ここはつい先ほど感じたエネルギーが放たれた場所だった。
見ると、高校生ぐらいの一人の女の子が
「IPGOSTSMP IWSTBSAPAP (我祈るは眠りの女神、我が力を捧げて。我彼の者に安らかな眠りを与えること望まん。)」
そして眠ったのを確認すると、《煉獄の業火》の詠唱をする。
「世界を照らす、光の神が眷属、偉大なる炎よ。それは闇を照らす、温かき神の恵みにして、咎人を罰する、冷たき恐怖なり。我想いを捧げ、神罰の執行者と成らん。我に仇為すは悪、我に与するは善。我に懲罰の業火を与え給え!」
すると、魔物は燃え上がり苦悶の悲鳴をあげ、悶えた。そして暫くすると、完全に動きを止めた。ユーリは魔物が死んだことを確認すると、炎を消す。そして死体を何処かへ転移させると、隅で眠っている女の子を起こそうと呪文を唱えた。
「エグジタスモーメンタム!」
すると、女の子は目をしばたたかせると、怯えるように飛び起き、回りを見渡したあとユーリを警戒の色が濃い表情で見つめた。
「あなたは...だれ、ですか?助けてくれたんですか?」
「【銀の牙】のユーリ、とでも名乗って置くわ。怖かったでしょう。でも大丈夫、あれはもう居ないわ。って、怪我をしてるじゃない!ちょっと待って。『世界を支える大いなる土の神が眷属、命の女神よ。我が身は御身の鏡、心は御身の魂の欠片。我彼の者の為、祈らん。彼の者を御身の鏡とし、その御姿を写したまえ。《
「ユーリさん、って言うんですね。その上怪我まで治していただいて。私は織斑一夏、です。助けてくれてありがとうございました。」
「気にしないで。仕事なんだから。それより、今日の事は夢だと思って忘れなさい。記憶消去もできるけれど、そんなことはしたくない。口外法度だよ?」
「はい。分かりました。」
「じゃあね。」
そしてユーリは転移魔術の詠唱を始めた。
◇◇◇
怖かった...。あそこでユーリさんが助けてくれなかったら死んでいたかもしれないと思うと足がすくむ。
ユーリさんは強い、そう直感的に感じた。
私が久しぶりの休日に外泊届けを出して遊ぼうと思っていた矢先の出来事だった。実家への帰り道に襲われたのだ。あのとき、久々の帰宅に気が急いて近道を使おうと思った自分を殴り飛ばしたい。
「いっちゃん、大丈夫!?」
唐突に聞こえた女性の叫び声に思考が中断される。束さんだ。きっと、
「ええ、大丈夫です。」
「にしても、何があったの?束さんにきれいさっぱり話しちゃいなよ~。」
「一時は死を覚悟しました。けれど、詳細は助けてくれた人に口外法度といわれているので...。束さんでも話せません。」
「そう、なんだ。話せないなら話さなくてもいいよ~。けど、助けてくれた子ってどんな子だったの?」
「私と同じくらいの女の子、でした。」
「そうなんだ。じゃあ、そろそろ帰ろうか?」
「そうですね。」
...まだ、あの頃の私にはあの女の子がどんな存在なのか知る由もなかった。
◇◇◇
ああっ、認識阻害するの忘れてた...。 どうしよう...。
ようやくユーリと一夏が出会いました。
これまでの3話が実質プロローグです。
今回から本編
次回も早めの投稿を目指します。
*変更履歴*
2017-03-24:
警戒しないわけがないだろう。→怪しまない訳がないだろう
半径20km以内であろう。→半径5km以内であろう。