デート・ア・ライブ 風見サンフラワー 作:文々。社広報部部長 シン
新入部員が入ってきてなかなか忙しい日々です。
でも楽しい。
では、どうぞ。
幽香は砂糖と塩を入れ換えた人物に心当たりがあるようで、「またスキマか…」と不快感を顔に滲ませながら呟き、日傘の柄を握り締めてぎちぎちと音を鳴らしていた。
そんな幽香に士道は苦笑いを浮かべたが、すぐに神妙な面持ちになり話を切り出す。
「幽香さん。貴女に聞きたいことがあるんだ」
真剣な話の気配を感じ取ったのか、幽香は柄を握る力を緩めて士道の方へ体を向き直し言った。
「あら?折角私が気を使って作ってあげたハーブティーを吹き出して台無しにした士道くんが私に何を聞こうっていうのかしらね」
さっきの事を相当根に持っているみたいだ。
「そ、それは態とやったんじゃない、余りにもしょっぱくて反射的に吹き出してしまった訳で…」
「ふーん…私のお茶は飲めないって訳ね。まぁ、それはいいけど、紅茶に使った子が可哀想だわ。私が育てた子達が、ね」
私が育てたを強調して言ってきた幽香の口調はふざけ半分という感じだったが、その表情は我が子が死んでしまった親の様に
「…すまん。態とやった訳じゃないのに強く言って悪かった」
「もういいわ、終わった事よ。それに私の不注意でもある訳だしね。…次の機会があれば良いのを入れてあげるわ」
「そうか…!それはありがたいな。次の機会があるように努めることにするよ」
「そう、せいぜい頑張りなさい」
と素っ気なく言った幽香はくるりという擬音が聞こえてきそうな軽快な所作で向日葵の方へ向くと歩き出した。それにつられて士道は幽香の後ろを歩き出す。
日傘をくるくる回して歩く幽香。その後ろ姿に魅入られそうになるのを堪えながら士道は話を切り出した。
「--幽香さん。貴女は一体何者なんだ?」
「それはどういう意味で言っているのかしら?」
一瞬だけ動きが鈍くなった幽香は声を少し低くし、質問を質問で返した。
「最初に幽香さんと会った時、貴女は俺のことを『人間』と呼んだだろ?普通、同じ人間同士なら相手のことを人間なんて呼ばない。その後も、『人間ごとき』と俺のことを別種族のように言っていた。だから、幽香さんは人間じゃない別の違うものなんじゃないのかって思ったんだよ。それに、幽香さんは人間とは思えないくらい、…そ、その…美人だから……」
「ん?最後なんて言ったの?」
「な、何でもない!」
士道は幽香に美人と言うのが気恥しくて声が小さくなってしまった。聞き返され、先程に増して恥ずかしくなった士道はお茶を濁した。
余談だが、その言葉は幽香の耳にしっかり届いており、後々弄られることになるが今の士道には知る由もない。
「……そうね」
向日葵の前で先程の様にくるりと回り、士道へと体を向けた幽香は一拍置いて言い放った。
「私は『妖怪』よ」
「!妖怪…あの河童とか鬼とかで有名な?」
「まぁ、その括りで合っているわ」
士道の思い浮かべた妖怪と幽香の言っている妖怪に齟齬がないようだ。
妖怪。
それは昔から日本人に畏れられてきた怪異、異形。人を化かす者、驚かせる者、食う者など多種多様であり、時には無害な者、有益な者もいるらしい。だが、非科学的なもので今では全くと言っていいほど信じられてはいない。逆に、妖怪は存在すると言っている者がいたら普通は正気を疑われるであろう。
自分のことを妖怪だと言っている女性が目の前にいる。普通なら彼女を可哀想な目で見るだろう。そう、
士道はこれまで精霊という非科学的なものを何人も見てきた(と言うより救ってきた)。それならば妖怪がいても不思議ではない。それに、彼女が妖怪であるならば美しすぎるその容姿や最初に対面した時の威圧感、どこからともなくティーセットを取り出したのも納得できる。そのせいか、士道は幽香が妖怪だとすんなりに受け止めることができた。
「そうか、妖怪か…」
「あら、士道は私が妖怪だと知って驚かないの?大体の人間は驚いて逃げてくのだけれど」
意外だわ、と呟く幽香。その言葉に士道は頭を掻きながら口元を緩ました。
「俺は何度も精霊を見てるから耐性が付いちゃったのかもな」
「精霊…?妖精みたいなものかしら?」
妖精、とまた新しい単語が出てきた。これは話していたらキリがないだろう。そう思った士道はその話を次に会う時へと持ち越そうとした。
「それは話すと長くなるからまた次の機会に話すよ」
「次の機会なんてあるかしら」
「あるさ、俺はまた此処へ来る。幽香さんに美味しいハーブティーを入れてもらう約束があるからな」
呆気に取られてしまった幽香だが、すぐに気を取り直した。
「……そうだったわね。茶請けの菓子でも持ってきなさい」
「おう。いいのを持ってくるよ」
一旦会話が途切れるが、すぐに士道が質問をかける。
「幽香さんは自分の事を妖怪って言ってけど、なんて種族の妖怪なんだ?」
「私に妖怪の種族なんてないわ。私は、『風見幽香』は私だけ、同じ種族なんていない単一種なのよ。強いて言うなら、花が好きな妖怪とでも言っておくわ」
「聞いて悪かった」
士道はあまり聞いてはいけない事だったと己の失言に後悔する。周りには同じ種族同士がいる中にぽつんと1人(妖怪)だけいるのはどれだけ辛かっただろうか、そしてその事を思い出して話すのも辛かっただろう、幽香に悪いことをしてしまったと士道は謝罪した。
だが、
「なんで謝るのよ?…ああ、私が単一種だから?私は私だけで良かったと思っているわ」
「へ…?なんでだよ?」
幽香は士道が考えていたことなど微塵も考えていなかったようだ。つまり謝り損である。
「だって私が何人もいたとしても、殺し合いが始まるだろうし」
「なッ…!?何でそんな事するんだよ!?」
士道には幽香が言ってい事が理解出来なかった。
「理解できないって顔をするのは無理もないわ。私は妖怪、士道は…人間だからね、価値観が違うのよ。人間と猿じゃ価値観が絶対違うでしょう?それと同じよ」
「それは--」
そう言われて士道が思い出したのは狂三だった。
彼女らを思い浮かべてしまった事で、幽香の言葉を否定することが出来なかった。
「分かったかしら?」
「……ああ」
「それならもう帰りなさいな。私もやることがあるのよ」
幽香はしっしっと追い払う仕草で士道が帰ることを催促した。だが士道は耳を貸さずに幽香を見つめる。
「早く帰りなさいって--」
「やる事って元の場所に戻る方法を探すことだろ?」
その様子に腹に据えかねた幽香は士道を殴ろうとするが、その拳は士道の言葉によって顎を撃ち抜くすんでのところで止まった。
「……何故そう思ったのかしら?」
「勘だ」
「は?」
「勘」
「………」
士道の答えに呆れた幽香はモノも言えなくなってしまい、ひまわり園に静寂が走った。しかし、すぐにその静寂は幽香の大きな溜息によって破られた。
「はぁぁぁ…。そうよ、私は私の畑に戻る方法を探しているのよ。ほら、もうこれで気が済んだでしょう?帰りなさい」
「それさ、俺に手伝わせてくれよ」
「は?手伝う?何を?」
「幽香さんの元いた所へ戻る方法を探すことをだよ」
「は?私1人じゃ帰る方法が見つからないって言ってるの?」
「違う。俺がただ手伝いたいだけだ」
「そう、もう勝手にしなさい」
「そうか!じゃあ、早速--」
ピリリリリリリリリ
士道が幽香の話し合いを始めようとした瞬間、携帯電話の着信音が響く。誰だこんな時に、と電話の画面を見ると琴里と書かれていた。士道は電話に出る。
「どうした琴里」
『やっと出たわね!どうしたじゃあ無いわよッ!電話に出ないと思ったら、何であなたはそんな所にいるのよ!?早く基地に戻ってきなさいッ!』
携帯電話から聞こえてきたのは鼓膜を破かんばかりの怒号だった。
「な、なにをそんなに怒ってるんだよ琴里。落ち着けよ」
『落ち着いてられるわけが無いでしょ?!いいから早く戻ってきなさい!』
「お、おい!」
通話を切られてしまってはどう仕様もない。掛け直したところで出てくれないだろう。つまるところ一度基地に帰らなせればならないという事だ。
「……すまん幽香さん。妹に呼ばれから一度帰ることになった」
「元気な妹ね。大事にしなさいよ」
「勿論。じゃあ、ハーブティー楽しみにしとくよ」
「来なくてもいいわよ」
「いいや来るさ」
「そう」
言葉を掛け合うと、士道は何かを思いついたかのように手をポンと叩き、自分の着ているコートを脱ぐと幽香に差し出した。
「何よこれ」
「寒そうだったから」
「絶対違う意味があるでしょ」
「バレたか。これを渡しとけば幽香さんと会うきっかけになるからさ」
「…一応貸してもらっておくわ」
「なら良かった」
そう言うと士道は出口へ向かって歩いていった。
幽香はその背中を見ながら士道には聞こえないような声で呟いた。
「変なヤツ…ふふっ」
コートにはまだ温もりが残っていた。
しどーくんやさしー!
自分が寒くても女の子にはコートを貸してあげれるフレンズなんだね!(時代遅れ)
この作品では単一種と書いてますが、幽香とか紫とかの一人一種族のことをなんて言うか分かる人がいれば教えて下さい!何でもしますから!(なんでもするとは言っていない)
投稿遅くなってすみません。次の話は少し早くなるかも?
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