帰りたい、でも帰れない天狗さんの日常   作:monochrome vision

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お久しぶりです。このまま行くと確実に失踪までを疾走しそうですわ。ま、いいか。
今回はのんびりと。椛登場です。


06 見回りという名の散歩

 

 

 

 

 

 

 家につくと同時に気が抜けたのか布団に倒れ込んで寝てしまったらしい。起きたら既に朝になっており、その朝日によって目覚めた。

 買い替えたことでふかふかとなった布団から出るが、今はもともと夏なために掛け布団も何もない。今日はのんびり新聞でも書いて過ごすつもりなので布団の上でぼんやりとしながらスマホを弄る。

 

 撮られた写真や動画を観返し、録音されたセリフを聞き流す。新聞は高校の頃に新聞部の助っ人して何度も書いていたので要領はわかるし、今回はネタも豊富で情報も不足していないから行き詰まることはないだろう。

 

 くすんだ色の湯呑みに妖術により生み出した水を入れて飲み干す。冷え切った水を生み出したのでこういった夏の日は妖術は便利なものだ。

 

 さて、新聞でも書き始めますかね。机に肘をついてペンを持ったところで部屋の扉がドンドンと叩かれて軋む。止めろ、唯でさえ古いんだ、そのまま壊れたらどうしてくれる。

 

 ため息を吐きながら扉のもとまで行き、小さく開けて目だけを出して外に出てみると、そこには大きな翼を持った天狗がいた。大天狗だ。

 

「すまんな、寝ていたか?」

「いえ…丁度起きたところですが……何か御用でしょうか?」

「うむ。山の見回りをしていた天狗が体調を崩してな…お主に代わりにしてほしいと思ってな。のんびり散歩気分でやってくれんか?」

「了解しました」

「すまんな、谷萩(やはぎ)。こういった仕事は下っ端に回ってしまうからな」

 

 俺が未だ下っ端の下っ端だというのはわかりきったことなので大天狗相手にも下手に出て命令を聞かなければならない。この大天狗は性格はいい方で気さくに部下に話しかける。俺みたいないてもいなくても変わらないようなやつ相手にもこうして話しかけ、最後に頭をわしゃわしゃと撫で回して去っていった。

 

 記憶からしても嫌いではないので大人しく言うことは聞いて山の見回りに向うことにした。別に見回りをしながら内容を考え、休憩がてら新聞を書けばいいだけだ。それに侵入者なら白狼天狗が見逃さないだろうし、俺も一応影を行使して見張っておく。

 

 着替えてから外に出るがやはり暑い…それでも山であるので涼しさは感じられ、アスファルト熱地獄と比べると全然ましだ。風の通らないコンクリートジャングル、太陽光で溶け始めるアスファルト、熱で歪むレールと電線、消えない陽炎。それに比べて山最高。髪を紐を使って後ろでまとめ、頭のサイズにあっていない大きな麦わら帽子を被れば気分はピクニック。

 

 木陰を縫うようにゆったりと山を進む。道なき道とは言え、草で塞がれたような小さな山ではなく、木によって作られたかのような巨大な山であるため歩く場所は確保されている。普段から誰かもここを歩いたりするのだろうし、獣や妖怪も歩くだろう。

 

 暑くなり、木陰で休んで影の机で新聞を書き、再び散歩を開始してまた休んで新聞を書いて……これを繰り返して行くと山の半分ほど歩いていた。未だ侵入者はない。

 

 文章が苦手な人用の半分の新聞は書けた。これは小説を書く感覚でかけたので楽しいものだ。そして大人用のきっちりとした内容と文章も頭の中で既にまとめていたので淡々と書き進めるだけで割と早く書き終えた。何が良かったって大自然に包まれながら書くことができたからだろう。

 

 自作の小説は幻想郷ではちょっと変わったラブコメチックな小説。今日の風景として岩に上体を乗せてぐでーっと寝そべっている熊の絵。まるでリラックマの熊を描くが、描き終わるまでぐでーっとしていた。毛皮が暑そうだ。

 

 その大人しいリラックマに乗って川へ行き、リラックマが魚を獲り始めるのを眺めつつ四コマを描き始める。ポンポンと飛んでくる丸々と太った大きな鮎や桜鱒。リアルリラックマは桜鱒を生で、俺は鮎を貰って内蔵を取り出して捌きそこら辺の木の串を洗ってから刺して焼く。火は妖力で出せばいいだけだ。

 

 パチパチと焼ける鮎と桜鱒を食うリラックマを傍らにのんびりと過ごす。

 ああ、いいなぁ……これだよこれ。夢にまで見たこの生活。これが続くなら、俺はもう帰れなくてもいいかもしれない。そして見回りの仕事を俺に回してもらってもかまわない。

 

 程よく焼けた鮎に齧りつくとパリッと皮が鳴って油が弾ける。普通の一般人だった俺が鮎になんか手を出せるはずもなく、天然モノなんて夢のまた夢。そして、その夢は今ここで叶った。

 

 焚火を囲う鮎を一枚写真を撮って満足。のんびりと素材本来の味を堪能しながら木陰で背中を大木に預ける。何もないって素敵。殺し合いなんて最低。

 大量に獲られた鮎をどんどん焼き、焼けた鮎を俺が食ってリラックマが食う。投げ渡すと器用に咥えて食べるのだ。それにしてもこの熊、なんて熊? まあいいか。

 

 というか襲ってこないのか…暑すぎてそれどころじゃないのか? 知らんけど。

 

 やがて鴉と幽霊、吸血鬼を題材にした4コマ漫画も描き終わり、後は印刷するだけになった。もう新聞が書き終われば此方のものだ。異様な速さで書き終わったが、余すことなく今回の異変について書き記した。流石にフランのことは書いていないが、博麗の巫女が乗り込んで主犯格と戦ったというところまでだ。

 

 改めて読み返してうんと一つ頷き、リラックマの目の前に広げて読ませてうんと頷いたのを見てから影の中に出来立てほやほやの新聞を収納しておく。ここで持ち歩いて何かあったら目も当てられん。泣く自信しかねぇよ。そしてなぜ読めた。

 

 もう一本と鮎を抜き取って食べ始めたところで一人の少女が木々から抜けて川へと出てきた。白い犬耳と尻尾、白い髪に整った顔立ち。何あの子可愛い。何がいいって、そりゃアレだ。美少女に犬耳と尻尾がセットされていたらそれはもう無条件で可愛いというものだろう。  

 

 その白狼天狗の少女は此方に気づいたらしく近づいてくる。いくら下っ端な俺とは言え白狼天狗に何か言われることは滅多に無いんだがな。幻想郷がどうなのかは知らないが、歴史から見ても白狼天狗の扱いは低く、人間相手にも働いていたとか。まぁ、見るからにここはそんなことはなさそうでは有る。

 

「あの…初めて見る方ですが、見回りをなさっているのですか?」

 

 なるほど、哨戒仲間は流石に覚えているのか、俺みたいな今日だけのやつが居ると気になったから来てみたのか。

 

「ああ、見回りを任されたが今日だけだ。いつもしているやつが体調を崩したらしいから大天狗が俺にやってくれとな」

「なら、こんなところでサボっててもいいんですか?」

「いいんだよ。大天狗からは散歩気分でのんびりやってくれと言われたし…人里の人間が滅多に妖怪の山に入ってくるわけないだろう? 来る前に知性の低い別の妖怪に襲われるだけだ」

「それもそうですが……」

 

 未だ納得していないのか口を小さく開いては何かを言おうとするが、気にすることなくリラックマと魚を食べている俺に何も言えなくなる。俺だけならわからないがそばに立派な熊がいることがわけわからなくて接し方に戸惑っているのだろう。

 

「それに……今は昼時だ。天狗の仕事は昼に飯を食う時間すら与えられないほどキツイものなのか?」

 

 新たに抜き取った鮎の刺さった串を白狼天狗の少女に放ると慌ててキャッチした。それを見てから再び俺の魚に齧りつくと、犬っ娘は小さく礼を言ってから傍に座って食べ始めた。

 

 この子も腹が減っていたのか、尻尾と耳は勝手に動いているようで満足いただけたようだ。

 俺は数匹食って腹は膨れたので残りの焼けている数匹は少女に全て譲った。よく焼けた魚の頭までバリバリと食べているところを見ると、やはり狼なんだなとわかる。流石に俺は頭も骨も食わん。喉と口の中が血だらけになりそうで怖い。

 

 暫くするとリラックマが目を覚ましてのそりと起き上がると、ゆっくりと何処かへ歩いていった。ネットで熊に襲われて食われた死体の写真とか見たことあるが、あのリラックマは本当にリラックスして近くにいたリラックマだったな。フィギュア化されたら買うレベルで可愛い。抱きまくら化を所望する。

 

 リラックマも去ったことだし、俺も散歩に戻るか。

 

「あ、もう行かれるのですか? それなら一緒に周りません?」

「いいのか? 俺は散歩みたいなものだが…」

「大丈夫です。何かあれば能力で分かりますし、正直、私ものんびり歩くだけだったので……」

 

 こいつ、最初に人のことサボりとか言ってたよな。やってることは俺と何ら変わらないじゃねぇか。もはや哨戒の任務というより本当に見回り兼散歩になっている。

 

「……好きにしろ」

「はい。遅くなりましたが、私は犬走椛です」

「あぁ……俺は谷萩蒼夜だ。で、犬走は「椛でいいです」…なら蒼夜でいい。椛はいつまで任務をしている?」

「えっと…酉の刻までですね」

 

 午後五時までか。後四時間もこの山だけを歩くと考えると面倒だが、この山は全てを探索し終えるのは数日を要するだろう。角ばった岩壁が見えるような山ではないので歩けるところまで歩くことができる。例えできなくても飛べばいいだけだ。

 

 取り敢えずこの河童のいない細い川を上流に向けて歩いて行くと、後ろから小走りで椛がやってきて横を歩く。仲間だからだろうが、こうも初対面の奴と仲良くできる椛のコミュ力に脱帽である。俺なら無理。オンラインでソロプレイは基本である。オンラインなのにオフラインと変わらないというのはなんなのだろうか。仕方ないね。

 

 のんびり一時間も無言で歩き、木が一段と太くなり、幹に苔が生えてくるような場所まで登ってくると夏を疑うくらい涼しくなるが、それでも心地よい程度だ。生い茂った葉により木陰ができて熱い日光は細い線になって射す程度となってきた。

 

 木々を抜け、小さな滝のようになっていてそこから静かに流れ落ちる水が見えると、髪を靡かせる位に強く心地よい風が吹いてくる。ここがこの川の起源で俺たちの散歩の終着点だろう。

 

「あー………あー…」

 

 吹いた風により麦わら帽子が飛んでいき、それを見上げて見送って、落ちて川に乗ってどんぶらこと運ばれるのを更に見送る。あー↑あー↓という感じだ。ついでに紐も解いておく。

 

 まあぶかぶかで頭と顔をすっぽり覆うほどであり、すぐにでも飛んでいきそうだったし、なによりボロかったので別に追う必要性も感じなかったために見送った。さらばだ、帽子よ。拾われるか引っかかるか、それまで少しばかり流れる桃の気分を味わうがよい。

 

「あらら…蒼夜さん、拾いに行かなくてもいいn…文さん?」

「ん? 誰か来たのか?」

 

 椛が何やら此方を見てそう呟いたので、俺もそれに習って後ろを振り返って見てみるが誰もいない。嘘、この子俺に見えない何かを認知している…! 第六感は流石に存在する感覚ではないので俺も支配できないぞ。どうやって見えない何かを見ればいいんですかね?

 

 俺の知覚情報からは何も得られないので椛に聞こうと思い、その場所からどけて隣に行って聞くことにした。しかし、椛は何故か俺の方を目を大きくして見つめていた。おいおい…まさか俺の肩に憑いてますよとかいうやつか…?

 

「どうした椛…俺の後ろに何か居るのか? 居るのなら教えてくれ。全力全壊をお見舞いしなければならん」

「ぁ…いえ、何もいませんよ!? 別に幽霊とかじゃないです。ええ、本当ですから妖力を収めましょう!」 

 

 なんだ、何もいないのか。既に迎撃するための妖力を手の上で放出し始めていたんだが、別に焦るほどのことでもないだろう。ちょっと手の周りの空間が軋んだだけじゃないか。

 

「ならなんだ。言っておくが、俺は男だからな」

「あ、はい。そうではなくて、知り合いに瓜二つだったので……蒼夜さんは切れ長の目で髪が少し長いですが、本人かと思いました。機嫌の悪い時にそっくりです」

「……俺はこれが普通だぞ?」

「分かってますよー。同じ天狗なら噂くらいになってそうですが、なんでですかね…?」

「…………………つい最近まで引き篭もりでしたが何か?」

「べ、別にそんな意味で言ったんじゃないです! だから尻尾引っ張らないで………わふんっ!?」

「あ~……」

 

 あ~↓

 

 ――バシャンッ

 

 なんかお前は地味で暗いやつだからどうせ誰にも気づかれないほどのヤツなんだろう(被害妄想)という心の声が聞こえた気がした(気のせい)ので、腹いせに尻尾を握って引っ張る。想像以上にもふもふで気持ちいいが、椛は驚いて飛び上がってしまった。

 

 そしてそのまま眼下の川に落ちていった。重そうな剣と盾を持っていたので暫く浮かんでこない。このまま死んでしまって事件になるかもしれない。親戚の警察官が死体遺棄された山の川が綺麗だったから、今度魚釣りにでも行ってのんびりしないかと言っていた。キンキンに冷えたビールを持っていくとも。勿論行きました。

 

「ぷはぁ!」

 

 残念、浮かんできた。大きく息をしているが……どうして美少女の濡れた姿はエロいのだろうか。濡れて頬に張り付く髪とぽたぽた落ちる水。張り付いて魅力的な体の線を見せ、豊満な胸を強調させる。エロい。

 

 そんな椛さんが水を含んだ妖力弾を投げてきたので仰け反るようにして避けると、上の枝に当って弾け、雨のように降ってくる。そして………

 

「道連れです!!!」

「うぉっ……」

 

 いつの間にか足元に椛が居て脚に抱きつくようにしてから再び川に飛び込んだ。自分だけ濡れるのが納得いかなかったから俺で巻き込んだみたいな……子供か。

 

 勢い良く川に叩き付けられて咄嗟に広げてしまった翼が大きく叩きつけられてメキッと音を立てた。まるで腹を水面に叩き付けながら飛び込んだときのような痛さ。顔面からもマジで痛い。

 

 そこそこの高さだったためか結構水の中を進んで、白い泡が上に上って消えていくと、髪を水に遊ばせ笑顔の椛が見えた。なんだかんだで夏の川に飛び込むなんてないからな。都会となればそんな機会は全くなくなり、大人になれば川の危険性や汚さ、寄生虫などに恐れて飛び込むなんて考えすら消えていく。

 

 今潜っている川は透明度が素晴らしく、綺麗な水で汚さなんて考えることもできない場所だ。火照った体を冷たい川に飛び込んで冷やす。童心に返ったかのような気分。そして大自然の中、川の冷たい水に存分に飛び込んで楽しめるとは…なんと心地よいことか。流石に気分が高揚します。

 

 水の中で見せる綺麗な椛の笑顔と今の状況、そして心地よさに顔が緩む。おそらく、幻想郷に来て、妖怪になってから初めて見せる心からの本心…純粋な笑顔なんじゃないだろうか。

 

 何やら顔を赤くした椛がばたばたとして、慌てて水面に浮上するのを微笑ましく思いながら水中で眺める。どうしたのだろうか。もしかしたら息が続かなくて苦しかったのかもしれないな。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「それにしても、気持ちよかったな」

「そうですね~。また行きませんか?」

「そうだな……エロ可愛い椛の姿も見えたし、いつでも呼んでくれ」

「あ、あれは事故です!!」

 

 見回りなんて無視して遊んだ俺達は、空が紅くなってきたので帰ることにした。濡れた衣服は妖力で吹き飛ばしてびしょ濡れではないようにはしてある。侵入者は影からもなんにも伝えられてこなかったので居なかったのだろう。

 

 遊んでいる途中で椛のスカートが紛失したり、大事な部分はギリギリ見えなかったが横乳ポロリ事件だったり……勿論、防水性能抜群のスマホで撮らせてもらった。慌てても無駄。消すなんてことはないんだから。

 まぁ、他にも色々椛の遊んでいるところや興味を持った椛に使い方を教えて逆に俺が撮られたことや……いい記念になった。待受はにとりから水の中でピースする笑顔の綺麗な椛に変更だ。

 

 きっと、この写真や他の写真を新聞に載せると大人気になって告白地獄へと……載せないけどな。

 

「んじゃ、俺の家はここだから」

「ここが蒼夜さんの……なんというか……端っこですね」

「別にボロくて小さいのは事実だから遠慮せずに言ってくれても構わんぞ? 言ったろう? 俺は下っ端も下っ端、雑魚は端に追いやられるのさ」

 

 椛の言った通り、俺の家は連なる天狗の里の家々の一番下の一番端……天狗止めて里から出ようかと迷うほどの場所だ。勿論、他の天狗も好き好んでここに来るわけないので人はおらず、静かなものだ。しかし別の山で家建てて住みたいレベル。まあ落ち着くからいいんだが。

 

「何か俺に用があればここに来てくれ。居ないときもあるだろうが……椛なら歓迎する」

「分かりました。それでは私もこれで……今日は楽しかったです」

「俺もだ」

 

 去っていく椛を見送ってから家に入る。河童印の機械で十数部の新聞を印刷してから家でものんびりすることにした。明日にでも和真や呉服屋、にとり達に持っていってみよう。

 

 

 

 

 

 




女顔で描写を考えるのが面倒だったので、適当に文に似ているということにしておきました。うん、流石私。超適当。

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