【SAO×AB】相似形の世界   作:鬱蝉

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生きてます。まだボスは先でした。


二十二話「参集(アセンブリ)」

2022年5月22日。

 

遂に第十層攻略の召集が掛かった。集合時刻は正午。場所は広場にあるオーディトリアム。 中は、大学の講堂を思わせるような造りになっていて、聴衆席にはパーティ毎に間隔を開けながらプレイヤー達が座っている。メンバーの欠員あれど前回の攻略より見た感じで人は減っていないようには思われた。ディアベルの指揮したプレイヤー達が間に合ったのか。

 

正午を一分ほど回り、大学教授よろしく講壇横の扉を開かれ、大ギルド《天魔衆》総元締・ディアベルと、彼の腹心、《アインクラッド解放隊(ALS)》リーダー・シンカー《ドラゴンナイツ・ブリゲード(DKB)》リーダー・リンドが入室した。

 

「皆、少々遅れてしまって申し訳ない。それじゃあ、ブリーフィングを始めようか」

 

手拍子を打ち鳴らしてディアベルが口を切った。

 

「皆には既に触れ回っている情報だと思うが、此度攻略する第十層フロアボスはβでも攻略し得なかった敵だ。今回も例の《攻略本》によってボスの最低限の情報は得られたが、著者の《アルゴ》というプレイヤーですら詳細な情報は得られなかったようだ。予め言っておくが、今回の攻略は、今までより最高にHARDになる」

 

ディアベルは包み隠さず告げる。会場の士気もやや落ち始めた。

 

「その所為か、今回は欠員が出てしまった。かといって別に責めるつもりなんて毛頭ない。命あってこそ、だからね。それで今回、俺からの頼みで数名の人に協力して貰って補充メンバーを集めてもらった。皆、来てくれ」

 

そうディアベルが呼びかけると、先程彼らが入ってきた扉から五人の男と女一人が一人ずつ入って来、ディアベルの横に並んだ。

 

「紹介しよう。左からクロード、ボツリヌス、テフテフ、モスキイト、エゾジカ、マーリアだ」

 

「なんかクロードとマーリア以外強そうな名前じゃないんだけど……」

 

ゆりがボソリと漏らす。

 

「ん〜でもネトゲ時代ってああいうふざけた名前多かったよね。僕が見た中で一番奇妙だったのは《××××××》とか《××××××××》とか――「大山、直ちにその口を閉じろ」――アッハイ」

 

ポロリと下ネタ発言をした大山の口を日向が箝する。やめてくれよ、女子もいるのに。でもゆりならそんくらいじゃ動じないか。

 

「ちょ、ちょちょ……お、おおおお、おお大山君?!な、何、そ、そのひ、卑猥なこと口走ってんのよっ!?」

 

うわ滅茶苦茶動揺してるよ、この人。

 

「俺も可能な限りプレイヤーを掻き集めてレベリングをさせたが、マージンに充分に達せたうち、攻略への参加を表してくれたのは彼らだけだった。余り貢献できずにすまない」

 

俺らが馬鹿やってるうちにディアベルの話は相当進んでいた。

 

「だけど、オトナシくんが別に攻略組としてステータス的に十二分に通用するメンバーを三人集めて来てくれた。悪いけど、その三人。紹介したいから前に出てきて貰えるかな」

 

と、ゆり・大山・松下五段に声がかかる。

 

「ほらお呼びだ。行ってこいよ」

 

「えぇ……、僕目立つのやだなぁ」

 

「つべこべ言わずに、ほら行くわよ」

 

「おう、参ろうか」

 

そう言ってゴタゴタしつつ三人が講壇上に登る。

 

「それでは紹介しよう。左から《ユリ》さんに《オーヤマ》君、それに《ゴダン》君だ」

 

「おー、皆見事に本名プレイだな」

 

ディアベルの紹介を受け、日向が今更なことを呟いた。

 

「そうだな。でも今も同じ名前とは限らない。てか、それが普通だぜ」

 

「そういやあいつらの今の名前聞いてねぇな。やっぱ何かしら前の名前と似てるんだろうか。俺たちみたいに」

 

「さぁ、どうだろうな。あとで聞いてみてもいいだろう」

 

そんな雑談を交わしつつ、ディアベルの紹介に耳を傾ける。聴衆たるプレイヤーは、このゲームじゃ珍しい若年の女性プレイヤーに湧き、若干の士気を取り戻したようだった。

 

「それじゃあユリさん。皆に何か一言、いいかな?」

 

「ええ、勿論」

 

そう言ってゆりはディアベルからマイク(のような拡声器的な機能のアイテム)を受け取った。で、開口一番。

 

「どうもユリです。皆!安心して私のオペレーションにかかればフロアボスだろうがなんだろうが、赤子の手を捻るようなものよ!」

 

そんなことを言ってのけた。余りにも突飛な発言だ。盛り上がり気味だったプレイヤー達も一同静まり返り、何だか変な空気が流れた。

 

「おいおいゆりっぺぇ、いつものノリでやり過ぎだろ……」

 

日向が呆れたように呟いた。

 

一方、壇上のディアベルは、「え、この空気どうしよう」みたいな感じで一瞬硬着した後、とりあえず拍手を送るという大人な対応を見せた。他のプレイヤーもとりあえずで彼に続いて拍手を送る。ゆりはその中で満足気に頷くと、ほいっ、大山にマイクごとその場の空気を丸投げした。その後、漂った微妙な雰囲気に大山が涙目必至だったのは言うまでもない。

 

 

 

その後、新たなメンバーの紹介がぐだぐだといった感じで終了し、ようやく本題のフロアボス攻略作戦会議となる。ディアベルは講堂正面の壁に作戦概要を記した紙を固定し、金属棒で指し示しながら作戦説明を行う。

 

このフロアの迷宮区は《千蛇城》と呼ばれる。もう名前からどんな所かは推察できるが、蛇系統のMobが殆どを占める。その中でも《オロチ・エリートガード》というカタナ使いMobは群を抜いて強い。キリトもそう語っていた。《オロチ・エリートガード》の使うカタナ系ソードスキル《烈風》は視認も難しい高速の連撃で相手を切り裂くという第十層のような序盤層では有り得ないほどの強力無比なスキルである。加えて今回のボス《オロチ・ザ・マスターフェンサー》に関しては、《攻略本》にすら僅かな基本攻撃パターンしか記されておらず、最後に著者の手によって《非常に危険!》と明記されている程だ。そして分かっているだけのボスの情報だが、装備は、鎧にカタナ。ソードスキルは、居合技の《流星》と高速三連斬り《電征》、跳躍からの回転落下斬り《彗星》だ。残念ながらパターン変化後の情報まではない。致し方ないことではあるが。

 

「《オロチ・ザ・マスターフェンサー》は今までのボスと違ってカタナという高速連撃に特化した武器を用いる。これは非常に厄介だ。最悪、AGIが一定レベル以上で無ければ、ボスの足元にすら近寄らせて貰えないし、大振りの攻撃すら躱せない可能性がある。実際、迷宮区派遣隊の報告では、道中の《オロチ・エリートガード》ですらサシで闘り合うのには無理があった。二人でもまだ押し負けた。三人でやっと拮抗した、というぐらいだ。フロアボス攻略は明日の午後からを予定している。詳細は追って連絡させてもらう。皆、各々準備をしておくように」

 

そう締めてディアベルは手をパンと一鳴らし。

 

「これ以上、今回のボスに関して特筆して言うことはないかな。要領は今までと同じで構わない。それじゃあ各班編成に入ろうか」

 

俺らは来たるボス攻略のための綿密な戦術的配置の計画をした後、各自解散した。

 

 

 

2022年5月23日午後12時24分。

 

迷宮区前には既に全プレイヤーが勢揃っていた。ここからは未知の領域、自然、プレイヤー間にもスパークめいた緊張が迸る。

 

迷宮区道中突破に関して、ディアベルは一切の出し惜しみなく、レベル上位の所謂キリアスコンビみたいな奴らを前面に押し出した陣形をとらせている。道中のオロチは凶悪的に強力なMobで生半可なステと技術でかかると想像以上に手間取る。これは無駄な体力の損耗を防ぐ最善の手だと思う。実はその中に、俺と日向がいたりする。

 

「これから第十層攻略を開始する!これ以降の層は情報量も格段に減り、攻略の難度は跳ね上がる!でも冷静な戦術的対応と結束力さえあれば切り抜けられない難所はない!皆、はじまりの街で怯えているプレイヤーのためにも早くこんな世界を解放してやろう!」

 

ディアベルの進軍開始の音頭に、総勢68人のプレイヤーの鯨波(とき)が上がった。

 

 




4年前に書いた文章を振り返ってみると、なかなかに稚拙で悲しい。推敲する時間があまりないのでまた投稿は遅れます。

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