【SAO×AB】相似形の世界   作:鬱蝉

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だらーっとしていたらいつの間にか1ヶ月。
もう、だれてきはじめた……
暑い、怠い、黄金週間終わらないで……


十五話「地精の王(コボルトロード)」

光源が、松明の仄明かりしかない迷宮区内においては視界範囲の狭さがプレイヤーの恐怖を助長する。故に経験値が高い=場慣れしているプレイヤー達の責任は大きい。

 

俺達のパーティーは一番後ろに置かれているため、後方から襲ってくるモンスターへの対処を任ぜられている。

 

迷宮区中途階層でPopするモンスターは《ルイン・コボルド・センチネル》と呼ばれるものである。ユニット単体であれば、プレイヤー一人でも撃破することに難はないが、必ず集団でPopするため、こちらも集団で臨まねば物量で押されてしまう。

 

基本的に俺達のパーティーの方がレベルや個人の練度が高く、俺と日向の二人だけでも捌くことができるのだが(現にパーティーメンバーの四人も俺達に任せきりでいる)、このキバオウという男、何かと俺に突っかかりたいのか、俺達が適当な所までHPを削ったときに横入りで攻撃を仕掛け、撃破ボーナスをかっさらっていくのだ。

 

まぁ、俺達としても《センチネル》ではさほど経験値上昇率も良くないので特に何も言わないでいる。

 

そして、ボス部屋前まで辿り着いた。ボス部屋前には広めの空間が形成されており、ボス部屋自体とはケルト神話めいた装飾が彫刻であしらわれた厳かな鉄扉で隔離されている。

 

「ボス攻略の前に、装備はOK?必要最低限のPotは持った?HP残量は大丈夫?二割以上削れていたら必ず飲んでおくんだ。問題ないね?」

 

ディアベルは確認をとる。プレイヤーは無言の肯定。

 

「じゃあ皆!生きて帰るぞッ!」

 

先程と打って変わって声は発せられない。だが一瞬にして燃え上がる空気。それは音無き鬨である。

 

ボス部屋へ続く扉が、金属の軋む音と共に開かれる。その奥からオーボエのような重厚な音を伴い、冷気が流れ込んできた。エアリード楽器めいた空気の振動音がまるで怪物の呻き声のようで、嗚呼、これは地獄の門のようだ。と直感的に思った。

 

――この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。

 

まずは、この地獄を抜け出でねば。

 

ボス部屋にプレイヤー48人が全員収まると、扉は軋みを上げて再び閉じられた。部屋の中は暗黒。視界は絶無に等しい。

 

ボッと手前から奥へ向かって壁面に設えられた松明の火が灯されていく。その明かりは四つの影を徐々に浮かび上がらせた。

 

四つのうち三つは《センチネル》。しかし、もう一つは未だ見たことのない巨躯。やがて部屋全周を取り囲むように全ての松明が点火され、巨躯の姿を明瞭にする。当然コボルドであった。

 

フィールドボス《タフ・ザ・コボルドグラディエイター》もなかなかの巨体の持ち主であったが、このコボルドはその1.5倍ほど大きい。身体的特徴は《グラディエイター》と体高を除き、さして大差はなかった。

 

防具は《グラディエイター》の物より華美な鎧とバックラー。武装はアックス。アックスの柄には装飾が施され、刃には紋章が刻印されている。見るからに切れ味は悪そうだが、この手の武器は切れ味で《斬る》というより自重で《叩き斬る》ことに重きを置いているため、何ら問題はない。似たような武器に中国の青龍偃月刀や斬馬刀がある。

 

ボスの視覚情報が明らかなるものとなると、視界に移るボスの頭上にHPバー四段と、その名前が表示される。

 

――《Gill Fang The Kobold Load》。

 

《コボルドロード》はズシンと大揺れを起こしながら歩み寄ると、一吼え。

 

空間が亀裂が入るかというほどに振動し、まるで超音波射出器を肉体に直接当てられたようだ。現実世界なら、まず間違いなく鼓膜が破れている。

 

咆哮の最中、まるで合図を受け取ったように《センチネル》が動き出す。攻略の情報が正しければ、この《センチネル》は同時に三体まで倒しても倒しても際限なくPopするのだ。一人でも倒せるモンスターとはいえ、こちらにも人員を割かねばならぬのは否めない。

 

ディアベルの采配によって、比較的高レベルの俺達は対ボスの命が与えられている。

 

「俺の班とA,B,D班はボス削り、D~F班は取り巻きの排除、H班は後方での回復(ヒール)だッ!皆一斉に動けえッ」

 

ディアベルからの指示が下り、プレイヤーは一斉に各々の標的に殺到する。

俺ら含む対《コボルドロード》の班は先手必勝とばかりに奴の脚に群がり、通常攻撃・ソードスキルにて幾多の刀傷、刺突孔、打撃痕を刻みつける。

 

ソードスキルの硬直が解けると同時、一定の被ダメージ量を満たしてか、《コボルドロード》は鬱陶しい蚊を薙ぎ払うかのように右脚を大きく振り回す。俺達はその直前に攻撃の届く範囲外に飛び退く。

 

《コボルドロード》は左脚に群がっていたプレイヤーにも蹴りを加えようとするも彼らも既に範囲外へ逃れている。その後、システム的ルーチンに従い、踏みつけ攻撃(スタンピング)を繰り出してきたが、その頃には既にプレイヤーはある程度の距離をとって避難済み。徒労である。これもプレイヤー・アルゴの攻略本あってである。

 

「斧の振り下ろし、来るぞッ!」

 

ディアベルの声が飛び、攻撃線上のプレイヤーはすかさず横っ飛び。《コボルドロード》の斬撃は虚しく空を斬り、床に突き刺さる。

 

「一時硬直に入ったッ!囲んで叩くぞ!」

 

またもディアベルの指示が飛び、俺達は無防備な姿を晒した奴の肉体にいっそうのダメージを与える。

 

「音無!もしかしたら、もしかしなくても、これは容易くボスを倒せるんじゃあないのか?」

 

「油断は禁物だ、日向」

 

俺は隣で作業をこなす日向と申し訳程度の会話を交わし、再び自分の作業に没頭する。

 

「撤退!」

 

再びディアベルの指示が飛ぶ。技後硬直から解けた俺は刹那をも待たずバックで飛び退る。

 

「音無ッ!」

 

日向の喚きが上がった。

 

「どうした!」

 

俺は日向に視線を呉れると、日向は《コボルトロード》の足元から動いていなかった。

 

いや、動けなかった。

 

「馬鹿野郎!あれほど硬直のことを考えろと……」

 

物理でしか殴れない脳筋は野田だけで十分だっつの!

 

俺は一瞬の刻も待たず、迷いなく、躊躇なく、手を伸ばし、日向に飛びついた。しかし、それより早く日向の首根っこに腕が伸び、ぐえっと呻く日向をかっさらった後、《コボルトロード》の踏みつけ攻撃(スタンピング)の下る寸前で撤退に成功した。その腕の主は野武士然とした青年《クライン》である。

 

「クラインか……助かった」

 

俺は握りつぶされていた心臓が解放されたように安堵の息を吐いた。

 

「いいってことよ。同じパーティーメンバーだろ?」

 

クラインは快活に笑う。

 

「すまない。この恩はいつかしよう……ほら、日向も礼を言え」

 

「お、おう、ありがとよ」

 

「いいって、いいって!そんな大げさな」

 

クラインは後頭部をぽりぽりと掻いて謙遜する。

 

「大丈夫か!?一人、取り残されたように見えたが」

 

数名のプレイヤーを挟んだ先からディアベルの声が聞こえた。

 

「無事撤退できました、こちらは大丈夫です!」

 

「そうか、それは良かった!」

 

安否確認の会話を済ませると、再度、斧攻撃回避の指示がボス部屋に響いた。

 




戦闘シーンの着地点が見つからない。

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