貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです 作:カルメンmk2
今回は捏造設定が多数出ます。ここ、かみ合わないのでは? という点を見つけた方はお知らせください。
ダンジョンの入り口から歩いてほんの僅かな位置。おおよそ、歩いて2~3分ほどの距離だろう。奥へ奥へと進もうとする他派閥の連中を横目に二人は堅実に進めることとしていた。
提案したのはもちろん、爺のような口調の青年、永嗣であり、兎のような見た目の白髪頭、ベルはどんどん進みましょうと主張した。それを一蹴し、極々浅い部分でモンスターを調べることにしたのである。
―――
予想外の強敵が出現し全滅した。
ギルドで聞いた上層付近での出現モンスターはコボルド、ゴブリン、ラット、ウルフの4種。ウルフについては3層目付近からのモンスターだが、上の階層に上ってくることもある。その動きは俊敏であり、名前こそウルフだが、地上で生息する種とは段違い顎力をもち、生半可な革鎧など噛みちぎるぐらいの力を持つのだが、本当の恐ろしさは必ず集団で行動している点だ。
迷宮の表層部では、意図的なものでない限りはモンスターが3匹以上の集団になることはない。3階層から集団化が始まり、本格的な多種の大集団になるのは10階層以降から。
しかし、ウルフに至っては10匹以上の集団で行動する。一体一体は顎力に気をつければ雑魚でしか無い。金属鎧を貫通するほどの鋭さはないが、集団化することで貪られるようにして食いちぎりに来る。迂闊に進むのは馬鹿のすることで、多少なりとも連携を煮詰めるため、何時でも撤退できる位置で連携訓練を行うのが、大手ファミリアの基本方針である。
二人は、大手と同じ方針に行き着いていたのだ。伊達に戦争帰りの爺が居るわけではない。
――――実は、大手とは一部違う部分があるのだが………。
「他の冒険者が戦っている相手には手を出してはならんのか」
「横槍はダメだって、エイナさんが言ってました。決まり事でもないそうですけど、暗黙のルールだて…………」
「ふむ……………………面倒が起きるよりはええか」
――――とはいえ、あまり出てこないの。
もっとわんさか出てくるかと思っていたがこれでは拍子抜けだと、永嗣は思った。雪崩のごとく攻め入り、雲霞の如く湧くのかと思っていたが想定よりも遥かに少ない。これでは稼ぎが無い。
「もう少し奥に行こうか」
「モンスター、来ませんしね」
人通りが多いということは、現れた先から狩られていくということで、実入りは少ない。もっと稼ぎたいなら奥へ行け、と迷宮が誘っているとも言えよう。
大手はその点も考え、1階層ではなく、2階層あたりで陣取り、
注意は払いつつ、戦いかたを教えていると待望の瞬間が来た。
ぴきぴき、ばきばきと堅いものを割るような音が二人の前後に発生した。出処を睨むと、緑色の肌をした子供程度の大きさのゴブリンと犬を二足歩行にしたコボルドが現れた。
「体躯の大きい犬顔は儂が殺る。お前はゴブリンじゃ」
「後ろは任せます!」
「任された」
結果は言うまでもなく、瞬殺であったと言っておこう。
コボルドを一太刀で斬り捨て、ベルの戦いを観察すること数十秒。一対一で対峙するモンスターに、初めは恐怖心を拭いきれなかったようだが振り上げられた一撃を避けてからは一転、攻めに転じてすぐに倒してしまった。
「これが恩恵………!」
「及第点じゃの」
持っていたショートソードを一閃し、ゴブリンを力づくで両断したベルは自分の力がこれほどまでとはと思うほどだった。ゴブリンは小さい体躯ながら、その腕力は大人ほどもある。迷宮外のゴブリンの話なのだが、ふつうはゴブリンが出たとなれば村の男たちが武器をもって討伐しに行くのが通例だ。
本当は、ゴブリンの物量が恐ろしい―――わけではなく、迷宮の外、つまりは地上に出たモンスターは総じて賢くなっていることから、集団で事に当たるというセオリーが出来ているだけだ。
「倒せました! 大人が大勢で倒すような相手を僕だけで………!」
「外のよりは強いらしいからの。まあ、その点ではお前さんのほうが強いんじゃろ」
――単独で挑んだら、苦戦したじゃろうがの。
永嗣はそのことは言わなかった。初めて冒険者らしいことをしたのだ。その余韻に水を差しては本人も気分は良くはない。
そしてベルが急に駆け出す。
「神様に報告してきますっ」
「たわけぃ!」
「すねぇッ!!?」
そんなことをこの爺が許すはずもない。駆け出そうとするベルの脛を強かに打ち据える。
うめき声を上げ、脛を抱えて悶絶する彼を見下ろしながら、叱りつける。
「まだ一体しか倒しておらんのに帰ってどうする。気持ちもわからんでもないが、呆れられるぞ」
「はっ!?」
「敵の弱さもわかった。であれば、ここは稼いでいこうぞ」
「その前に言うことありますよね………!!」
脛を叩かれ、涙目で睨んでくるベルを無視し、壁から出てきたゴブリンの脛をすくい上げるように両断する。とどめを刺さずにベルへ向き直り、にこりと笑う。
「こっちのほうがよかったか?」
「鞘でよろしかったです!!」
「それでよい」
これもベルのため、と儂は心を鬼にしているのじゃよ、と嘯く永嗣に絶対ウソだぁ、と半ば諦め気味に呟くベル。
しかしながら、鉄火場での経験のないベルを守るように、永嗣は周囲に気を向けている。
それは間合いともいわれるものだ。達人や死線をくぐり抜けて生き残る者たちに自然と宿る間合いの領域。更に昇華すれば結界と呼び、極みに至れば聖域と謳われる。
迷宮はモンスターを生み出す。その生み出し方―――というより、その出現場所には一部を除いて規則性など存在しない。音を頼りに察知するか、すでに現れているモンスターの足音や気配を感じる他無い―――と思ったのだが――――
(…………………………明らかに意識の向けていない方向に出るのぅ)
余裕のある時だからこそ、様々なことを試してみる。重要なことだ。
己の聖域を意図して変形させ、注意の向いていない隙間を作り出すとそこに生まれてくるモンスターが存在する。これは偶然か、それとも意図したものか。迷宮は生きていて、その最奥に行かせぬよう、冒険者たちを阻むという。
神々は告げた。
―――迷宮は神を憎んでいる。憎悪している。根絶やしにしたいと思っている。それ故に、神々の愛する子どもたちを滅ぼさんとモンスターを無限に生み出し、地上へと向かわせる。
―――そして自らの胎内に神々の恩恵を受けし眷属たちが入れば、それを廃滅せしめんと尖兵を生み出して来る。
―――愛しき子どもたちよ。迷宮は………………ダンジョンは生きているのだ。確かに生きているのだ。
「……………虎穴に入らずんば虎子を得ず、か」
「脛痛いです」
「気を緩めるな。来るぞ」
「まだ痛いのに……………!!」
最早、八つ当たりと言わんばかりにベルはモンスターへと肉薄していく。
血しぶきを飛び散らしながら、煌めく剣閃はその数だけモンスターは屠られていく。あの連中が持っていたショートソードはそれなりに質が良いらしい。刃毀れする様子はないらしく、ベルは次々と現れるモンスターを手に掛ける。
「………………………これで7匹――――いや、8匹目か」
「まだまだぁああ!」
「9.10.11…………………」
「ちょいさぁあああ!!」
「12,13.14」
「とぉおりゃぁああああ!!!」
「15,16――――ちょいと多すぎやしないか?」
16匹のモンスター、ついさっき17に増えたわけだが多すぎではないだろうか?
倒されたモンスターは体が残っているものもあれば、灰となって消え去っているものもある。残っている方も徐々に灰になっているわけだから、死体が残ることはないのだろう。
とも思っていれば、ゴブリンの死体の後に、怪しく光る石と牙らしきものが残っている。石は魔石で、牙はドロップ品というものだ。
魔石はモンスターを倒せば必ず手に入る物で、強さに応じて純度と大きさが変わり、深層のものほど濃く、大きくなり価値が高くなる。より多くの稼ぎが欲しいのなら深く潜るか長時間に渡って潜り続けるほか無い。
「これでぇえええ!!!」
「24……………これぐらいでええかの。ベル!」
「次ぃいい!!」
「冷静にならんか。潮ぞ!」
「うおおおおお―――わかりましたから剣を向けないでっ!!?」
「鬱憤を晴らしたいのも、酔いしれたいのもわかるが………………潮を間違えるでないぞ」
見た目で入団拒否されていたのが、相当に不満だったのだ。それがモンスターを狩ることで表面に出たのだろう。見立てでは、この子は弱い者いじめを是とするような腐った人間ではないはずだ。
「晴れたか?」
「え、ええ。一応…………もう少し、戦いたいんですけど………ダメですか?」
「んん? ………………アレだけ倒して何もないのか?」
「もっと
……………………………見立てが間違っていたのじゃろうか?
「儂は………………………食指が動かん。コボルドを斬って、この辺りのでは、さした経験になどならんわい」
「僕はギリギリでしたよ! 武器のおかげで頑張れましたけど」
「そうか。ならば、もう少し丁寧に扱え。攻撃も剣で受けておると罅が入る。お前さんは軽いから、受けるよりも避けるか流すかするといい」
「できますかね?」
「できるようにするんじゃよ」
眉間に皺を寄せ、避けるか受け流す、と呟くベルに永嗣は自分も年を取ったかと、彼の本質を測り違えたとことを猛省する。
本当は大分違うのだが、これも人間ゆえのすれ違いと言うほか無い。
「では退こうか。帰りは儂が殺るから、身を守ることだけ考えておけい」
「魔石とドロップ品の回収は任せて下さい」
「任せたぞ」
「全部で7900ヴァリス。装備代を差し引いて6900だ」
「ろ、6900ヴァリス……………!!」
あの後、帰り道で現れるモンスターを25匹ほど斬り、ギルドの換金所にて魔石とドロップ品を金に変えているのだが、永嗣はこの世界のレートについては全くの無知である。隣のベルが唖然としているところを見ると少なくはないようだが永嗣としては命の危険に―――晒されてはいないものの、夕暮れに近づくぐらいに潜っていてコレっぽっちかと思ってしまう。
「随分と少ないの」
「シグレさん! 大金ですよ!?」
「そうか? 6900ヴァリスとやらが、そんなにも大金とは思えんが………………」
「なんだい、兄ちゃん。物々交換が主流の村から来たのかい?」
永嗣の発言に、心当たりがありそうな受付の男がそう問いた。
「似たようなものじゃよ」
「なら仕方ないな。ヴァリスってのは全世界共通の通貨のことだ。で、普通の家庭で―――」
「おい! 早くどけよ!!」
「ったく……………わかったから静かにしてろ。すまないね、そっちの坊主の担当に教えてもらってくれ。――――また、ソーマファミリアの連中かよ………」
後ろに居た男が今にも暴れだしそうなほど興奮していた。受付は、二人に詫びを入れ、そのソーマファミリアの冒険者の鑑定作業に入る。
血走った目がこちらを睨みつけるのだが、焦点が定まっていない。中毒症状でも起きているのかと思い、そんな男に圧されるベルを庇うように促して、教会への帰路につく。
「悪いことしちゃいましたね」
「受付は人の良さそうなヤツじゃったがな。で、ヴァリスについて教えてはくれんか?」
「エイナさん………僕の担当の人に聞いたほうがいいって…………」
「情報収集じゃよ。どうなんじゃ?」
「はぁ……………えっと、そこにある―――というか、林檎買ってましたよね?」
「まあの。ただ、相場がわからんから、適当に多く渡しただけじゃよ。あと、貨幣経済についても知っておる」
「なのにヴァリスは知らないんですか?」
「はるか遠い異国の地だからの。交流自体がないのだ」
普通は行くも帰るもできないのだから、間違いではない。
「わかりました。ええっと………………例えば、そこのじゃが丸―――って、神様!?」
「ベルくん!! それにシグレ君も!! 怪我はないかい?」
例えで出そうとしたじゃが丸の出店に、ヘスティアがエプロンを着けて売り子をしていた。まぁ、カツカツなのじゃから助かる。
すると、ヘスティアは店の主人だろうか? 妙齢の女性に上がっていいかと聞いた。店主は、もう閉めるからかまわないと告げると、永嗣はベルについでに教えがてら買ってやれと囁く。こちらの都合で閉めさせてしまうのだから、最低限の礼儀だけは払わなねばならない。
「じゃが丸くんを残っている分ください」
「お! わかってるじゃあないか。30個で900ヴァリスだよ。こっちのふかし芋はサービスだ」
「ありがとうございます!あ、これが100ヴァリス硬貨です」
鉄色の神殿の模様が象られた四角形の硬貨を見せ、それを渡す。代わりにおまけ付きのじゃが丸くんを貰い、三人は家路につく。
「で、こっちが10ヴァリス硬貨で、これより下のはないです」
「銅でできているのか? 形も違うの」
「それは昔偽造した事件があったからだよ。普段使われるのは10000ヴァリス硬貨までさ。それ以上はオラリオ以外で流通しているのはあまり聞かないね。あ、でもラキアとかも使うから、無いってわけじゃないかな」
10ヴァリス硬貨は三角形の銅、1000ヴァリスは銀の五角形、10000ヴァリスは禁の円形だ。10000ヴァリスに至っては、冒険者か商人ぐらいしか頻繁に使うことがないとのこと。また、それより上の硬貨も存在し、すべて円形なのだが材質が違うらしい。
「今は10000ヴァリスまで覚えておけばいいさ。ゆくゆくはそれ以上の硬貨も手に取りたいけどね」
「遠いし、俗な夢よの」
「貧乏は辛いんだよ」
「そうですね。薪や魔石灯もタダじゃないですから」
しみじみと、金で回る世界の辛さにため息をつく一同であった。
今回の話は二人の世界観の違いを意識しております。モンスターに対する意識の違いとか、人に対する違いとかですね。
では、解説です。
『時雨永嗣』
表層では敵など存在せず、気を抜かぬように斬り捨てていた。ベルとの命へのギャップに観察眼も衰えたかと思ったが、実際は違っているのをまだ気づいていない。
「数ばかりで、肩慣らしにもならん」
『ベル・クラネル』
迷宮初挑戦で、良い武器のこともあってか調子に乗り始めている。武器が人を殺す典型例になりかけているが、相方は痛い目を見るのも経験として無逃している。
農家の子供であっただけに、人間でない命を奪うことに対しては忌避はない。
「今度は一人で潜ろうかな?」
『ヘスティア』
バイトなう。
「扱いがひどいよ!?」
『二人の違い』
職業の分別、何でも手に入る時代に生きた主人公と、社会契約説すら満足に発達していない自給自足の時代のベルとの差異。それは命を奪うことについての忌避で、ベルは動物の命を食べる目的に関しては手段はいかんとして、奪うことに対し拒否感はない。祖父母が存命の人は、昔は鳥を潰して食ったということも聞いたことがあるだろう。
また、モンスターも倒さねばならない存在と認識しているので相当に下劣な手段でない限りはなんとも思わない。人ではないためである。
逆に主人公は人間を殺すことに忌避は無く、モンスターを殲滅するのに率先して斬ろうとは思わない。逃げる方向にもよるが、無用な追撃が地獄へと変貌することを知っているためである。
『
バベルの地下にある広大な地下迷宮のこと。神を拒絶し、その眷属が中に入り込めば廃滅しようと尖兵であるモンスターを生み出して攻撃する。
モンスターのためにあるような場所で、さまざま役割を持つ大部屋が存在する。また、壁面には光源となるコケかキノコのようなものが自生していて、中は昼と同じぐらいに明るい―――ところもあれば、新月の夜の如く暗闇の部分もある。
また、ダンジョンは生きており、急に地形を変えることもあるが暫く経つと元に戻る。
『モンスター』
迷宮が生み出す化け物たち。成体として生まれるのが殆どで壁や床、天井などから破砕音と共に生まれる。
深層に行けば行くほどに強くなり、一部には共食いのようなことをして強くなった強化種もいる。
倒すと例外なく灰になるが、その速度もまちまちである。
『ウルフ』
当小説のオリジナルモンスター。3層目から出現し、個体としてはゴブリンよりも素早い程度で、1対1なら負けることはほぼない。しかし、このモンスターは群れで必ず行動しており、初心者は初めて集団戦を強いられる。潜りたての冒険者の登竜門の一つである。
『魔石とドロップ品』
魔石はモンスターの核ともいえる部分であり、冒険者はこれを求めて迷宮へと潜る。換金対象だが、用途では何かしらの触媒にもなる。深ければ深いほど大きく、濃くなる。また、どんなモンスターでもこの魔石を砕けば必ず倒せるが、その際は魔石が破損するため価値が極端に下がる。
ドロップ品は、低確率で落とすモンスターの一部。灰にならず、その部分だけ残るが、戦闘中に傷がつく場合もあるため値の上下が酷かったりする。深層のは滅多に出回らないため、多少の損傷も無視して取引される。
『換金所』
すべてのギルドに存在する。ギルドの発布する適正価格に基づいて監査するため、安くもならず高くもならない。出だしや特定の商業系ファミリアにつてがない場合はこちらを利用すべきである。
『ヴァリス』
世界共通の通貨単位。一般的には10000ヴァリスまでが多く流通し、それ以上は国家間との取引でしか見ることは出来ない。
10000ヴァリス硬貨以上は全て形が同じだが、材質が違う。これより低い価値の硬貨は五角形、四角形、三角形となっている。
かつて偽造を行った集団がいたため、偽造してもその手間賃を考えれば割に合わないようにするため変わったという。また、10000ヴァリス以上の硬貨の材質はプラチナ、ミスリル、アダマンタイトとなる。