貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです   作:カルメンmk2

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 活動報告にて、次回予告風のネタを展開中です。あと、この小説の神々の設定は捏造やらオリジナルがかなり含まれております。原作とは似て非なるものとお思いください。




 今回はあとがきがないよ! そして、次回はようやくのぉ………………!



H29/01/14 誤字を発見。修正いたしました


女神、兎、爺、家族になる

「まったくもう!」

 

 

 ぷりぷりと頬を膨らませて怒る童女こと、女神ヘスティアの後を追いていく永嗣とベル。

 ベルに至っては、神を怒らせてしまったと恨みがましそうな目で永嗣を伺い、当の本人はヘスティアをじっと見つめながら我関せずと歩く。

 当人が何を考えているのか? それはというと――

 

 

(なんというか…………痴女じゃな)

 

 

 ヘスティアの後ろ姿。神―――いや、女神とはこういうものなのか、彼女はその体格に似合わない豊満さを強調するようなドレスを着ている。前を歩く彼女がのしのしと歩けば、不相応なサイズの乳房の横が振り上げられる腕の隙間。つまりは腋のあたりから見えるのだ。

 正面から見ればド迫力の絵面が見えるかもしれない、ばるんばるんと揺れるソレを見て、何も頓着しないところを見るとどうしても痴女の類ではないかと思ってしまう。

 

 ただ、すれ違う人間は基本的に触らぬ神に祟りなしといったようで、彼女の揺れるソレを不埒な目で見てはいない。永嗣自身、妻によって一度ボロボロに―――徹底的に絞られているため、そのような邪なことは考えない。彼は妻である彼女を心から愛しているのだ。

 

 さらに、見た目が童女のようで、そちら方面の性癖がない彼は欲情などしない。肉付きのいい尻がふりふりと前を歩いていても、彼の息子は一切の反応すら見せない。代わりに、彼の隣を歩くこのムッツリ兎は揺れるソレとフリフリするアレを凝視し、赤面している。そんな兎を見て、若いなぁ、と100年以上前の青春時代に想いを馳せるのであった。

 簡単に言うと、この爺は枯れている。

 

 

(いくら暖かいとはいえ、そんなに背中を丸出しにしたら寒いじゃろ)

 

 

 もう一度言おう。この爺は枯れていると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾ばくか歩き続けていくと、二人と一柱――この場合は三人のほうがいいのか? 兎角、彼らは裏通りを貫け、入り組む裏町を超えて一つの廃教会に辿り着いた。

 中に入れば案の定、汚れ放題の廃れ放題。というよりも屋根には穴が開いていて、教壇に差し込む光がなんとも幻想的のような気がしないでもないような………と、いうことだ。

 

 

「…………(唖然)」

「うぅむ……」

「こ、これでも最初よりは綺麗になったんだよ?!」

 

 

 これが? どっちかというと――――

 

 

「隅に瓦礫を置いただけではないかの?」

「神様って、フォークとナイフより重いものが持てないんだ」

「たわけぃ!!」

「ぴぎゃ!?」

 

 

 目をそらし、吹けてもいない口笛で場を濁そうとするヘスティアに永嗣の空手チョップが炸裂する。一応、神だからか手加減はしたようだ。猪の背骨をへし折れるぐらいの力で振るわれるはずのそれは、まるでマンガのタンコブのようなものをヘスティアの頭頂部に生み出しただけなのだから。

 

 

「ぶ、ぶったね? ウラノスにもぶたれたことないのに!」

「こっちのほうがええか? ん?」

「いえ結構です!―――――――この子ども、容赦がないよ……」

「ん?」

「ぴぃっ!?」

 

 

 別に叩き切るつもりではない、と彼は後言った。単に、自分のぐうたらさを認めず、居直ろうとするから腰に手が回っただけの事。決して、抜こうとはしていない。してはいないのだと、イイ笑顔で語ったという。

 冗談があまり通じなかったのか?

 否である。この瞬間、この二人と一柱――――――もう面倒だから三人にしよう。この三人の中のヒエラルキーが決まった瞬間でもあった。

 

 

「神とはいえ、女子じゃろう? 戸締りも碌に機能しておらん野ざらしみたいなここで、寝るのはいただけん」

「いや、神に対して不埒なことをする輩は居ないよ?」

「儂が叩いたのは?」

「神罰を与えるさ!」

「次は頬を叩くぞ」

「ごめんなさい」

 

 

 この時、永嗣は確信した。この女神は調子に乗るとつけあがるタイプの駄目な女だと。つまり、駄女神であるとッ! 生前、他人に礼儀礼節を重んじる武の道を教えていたのも(あだ)となった。主にヘスティアにとってだが。

 この駄女神の生活習慣を治さねばならない。心にそう誓ったのだ。

 

 

「でも、寝泊りはここじゃないよ」

「奥の居住区かの?」

「ふっふっふー。奥の居住区じゃないさ」

 

 

 そう不遜な笑い声とデカ乳を張りながら、彼女は教壇の後ろ。使い減らされた燭台と故の知らぬ女神の彫像が祀られた台座の飾りを押した。ゴゴゴ。と重い音を響かせ、台座が後ろへと下がっていき、そこには何度かいじくられたような痕跡を残す床板が現れた。ベルは地響きで舞い落ちら埃やら塵やらでせき込んでいるのはご愛敬。

 

 ヘスティアはここさ! と床板に偽装していた取っ手をはずし、引き上げた。ナイフとフォークより重いじゃろそれ、と思った恐れを知らぬ爺がいたとかいなかったとか。

 

 板が引き起こされると、石造りの階段が姿を見せた。暗く、差し込む光もその奥には届かぬようで地獄へ続いていそうな不気味さを醸し出す。ヘスティアは祭壇の上にあった燭台を掴み、どこからか取り出した火打ち石のようなもので火を点けた。

 

 

「さぁ、この下さ。秘密基地っぽくていいだろう?」

「か、隠れ家っぽくって素敵です!」

「童心をくすぐるのぉ」

 

 

 そうだろう、そうだろうとヘスティアを先頭に降りていく。次にベル、永嗣と続き、ヘスティアに隠し戸を閉めてくれと言われ、中程まで進んでいたのに戻って閉めに行く。意趣返しなのは明らかだ。

 だが、永嗣は珍しくどうとも言わなかった。彼も楽しんでいたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが僕の家―――つまり、ファミリアの本拠地(ホーム)さ!」

 

 

 じゃじゃーん! 変な効果音とともに、ヘスティアは生活臭溢れる自らの拠点。もしかしたら、三人の拠点になるかもしれないそこを紹介した。

 お世辞にも綺麗とはいえないが、それでも自分以外が生活しているその香りは、永嗣とベルを一抹の郷愁を思い出させた。

 永嗣は亡き妻が居たあの頃を。

 ベルは亡き祖父が居たあの頃を。

 自分以外の匂いがするということは、自分以外がそこに存在する。独りではないと実感できることなのだ。それに伊達に竈と慈愛の女神と言うだけのことはある。彼女の甘い香りは二人を包むように、心に潜む暗い部分に触ってみせたのだ。

 

 

「―――ええのぅ」

「本当ですね」

「そ、そうかい? そこまで喜んでもらえるのは嬉しいよ」

 

 

 もじもじと恥ずかしそうにするヘスティア。しかし、その表情には緊張感が漂っていた。

 

 

「そ、それでね! こんな狭くて、薄暗い、貧乏なファミリアなんだ」

「さよか」

「他に人は居ないんですか?」

「うん。ベル君が聞いていたとおり、僕はまだ眷属がいないんだ。すっごい零細で弱小なんだ」

 

 

 冒険者を夢見る者たちは豪華絢爛、あるいは有名所や明らかに強そうであったり美しい神のもとへ行きたがる。

 ヘスティアの誘いを受け、この隠し部屋まで来た者は一人もいない。皆、廃教会を見て理由をつけて去ってしまうのだ。だから彼女は怖い。この二人もそうではないかと。

 ベルは魂も綺麗で、無垢で穢れを知らない子だ。一目惚れと言ってもいい。

 永嗣は月のような冷たい印象を持つ魂をしている。でも、その中には極東にあるサクラという木々が包むように存在する。

 二人共、悪い子ではない。一人は地獄を知っている。二人は孤独を知っている。でも、愛を知っている。愛に守られている。

 だから決して、彼らは悪い子ではない。

 ――――だから………………………彼らには家族になって欲しいとヘスティアは神でありながら願ってしまう。

 

 

「貧乏で…………君たちが夢見るような………求める名声や生活ができるとはいえないんだ。でも……………でも、それでもよければ―――――僕の家族になってくれないかい?」

 

 

 ぎゅっと目をつむって、ヘスティアは自らの願いを伝えた。傲岸不遜。傲慢で、超越者で、完璧なる神にあるまじき嘆願(ねがい)。ここにあの神がいれば、ここぞとばかりにバカにしてくるだろうし、変な同情だって抱かせるだろう。それでもいい。彼らに出会ったのは、神界にいる本来の神々ですら好きにできない、運命のような気がしてならない。

 

 耳の痛くなるような沈黙が、ヘスティアの恐怖を煽る。失望しただろうか。叫べぬ怒りを我慢して震えているのだろうか。

 恐る恐る顔を上げると、二人は笑顔だった。

 

 

「もちろんですよ、神様。むしろ、ここに入りたいです。家族になりたいです」

「居心地がいいことは重要じゃて。ゆるりと休まる場所は、ここ以外じゃあ一つしか知らぬよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神とは完璧である。生まれた瞬間より、彼らは完成しており、己の司る権能を存分に使いこなせる。

 それ故に、彼らには成長というものが存在しない。生まれた時点―――意識を得た瞬間に彼らはすでに完璧だ。親はいない。父も母も祖父も祖母も居ない。友は居ても、家族は居ない。

 

 神々は下界を見ては、不完全で未熟で醜いニンゲンを嘲笑する。無駄ばかりだと。非効率的だと。惨めだと。

 短命な彼らを見て、永久を持つ神々はそう嘲笑う。

 

 そして気づく。完全無欠の我々が持たぬものをニンゲンは持っていると。完全(神々)ですら持たぬものを不完全(ニンゲン)が持っていると。

 

 だからこそ、彼らはファミリアを作る。ニンゲンが羨ましいから。家族という存在を味わいたいと願うから。神々は羨望し、嫉妬し、そして降り立ってきた。

 

 ヘスティアは運が良かった。何十年、何百年かけて得るような家族(うんめい)を彼女はたった数年で手に入れられた。これはまさしく、出会うべくして導かれた運命なのであった。


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