貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです 作:カルメンmk2
皆さまどうもお久しぶりです。
いきなりですみませんが、しばしの間、後書き解説は無しとさせていただきます。
個人的な問題ですが、そこまで執筆に力がそそげなくなっております。
手前勝手で申し訳ありません。
なお、TV版アポクリファをちょろちょろと見ているので、そちらの描写も参考にさせていただいております。
具体的にはジャックの得物とかですね。
―――武道………いや、戦うということにおいて一定の領域に達した者達は皆共通点を持っている。
「また消えた……!」
―――気配による察知能力だ。
いわゆる、ピリピリとした感じや寒気を感じる。あるいは一手先が見えるなどのことだ。
剣士を自負する
本来なら捉えられぬはずの
いや、初動の察知ができないのである。
撃ち合う
「姿も見えません!」
襲い来る影は、確かに姿形も見たはずなのに次の瞬間にはあやふやとなっている。
一度でも視界から消え去ると気配すら消えるのだ。
この異常な濃霧も一役買っている。
「退くべきです」
「道は分かるか?」
「多分わかります」
敵は濃霧の中から出現する。真白い霧を引き連れて、まるで遊ぶかのように襲い掛かってくる。
これが厄介だった。今いる場所でも、ヒリヒリとするが引き攣れた濃霧に触れると熱湯でも浴びせられたかのように赤く腫れ、傷口を金ダワシで力いっぱい擦られる痛みが走る。
引き攣れた霧はすぐに薄くなるが追撃しようにも、敵は濃霧の中へと消えてしまうのだからそれもできない。
あの中に入り込めばさぞ愉快なことが起きてしまうだろう。
しかし、この狩場から逃げるには負傷を覚悟するほかない。
痛いから殺されるのを持して待つのと、負傷してでも生き残るのなら後者を選ぶべきだ。
「マント持ってくればよかった……!!」
「無いものねだりをするな!!」
こうして二人の逃避行は幕を開けたのであった。
――――――――――――――――――――
―――白髪の少女、瞳の色が
子供が着るにはすこし問題がありそうな、水着と見間違う服装の少女の白い肌に、二人が負ったような傷は見えない。
それもそのはず、この霧を生み出しているのは彼女自身なのだから。
「あっちに行くんだ」
舌足らずというか、邪悪さの欠片もない声色で逃げていく二人を眺める。
大人のほうは少し強いけど小さい方はそこまで強くない。あれぐらいなら仕留められる―――けど………。
「お姉ちゃんは殺しちゃダメって言ってたっけ? どうだったかな?」
別の私が聞いていたのかもしれないし、今の私が聞いていたのかもしれない。あるいは私たちが聞いていたのかもしれないし、私たちは聞いていないのかもしれない。
となると、怒られるのは嫌だから
「あ、追いかけないと」
もう霧の範囲から出ようとしている。
ダンジョンの中だと、街の複数の区画ごと覆える霧でも、効果範囲が著しく低下する。
反面、霧が発生している限りダンジョンを傷つけているようでモンスターは生まれない。外から入ってくればこの階層のモンスターは近づく前に爛れて死に絶える。
冒険者なら弱ければあからさまに怪しいところには近寄らないし、お姉ちゃんの言ってた一級冒険者も余ほど暇じゃない限り討伐になんか乗り出さない。お姉ちゃんが討伐の情報を持ってきてくれるから隠れているのが大きいけど……。
「鬼ごっこも好き。かくれんぼも好きだよっ」
―――今度はどれぐらい遊べるかな?
――――――――――――――――――――
走れども走れども、霧の中から出られる気配がない。
このままここに居座っていたら、溶かされて死んでしまうのではないかと思うぐらいに熱い、と永嗣はベルの記憶を頼りに走る。
一寸先は闇ならぬ、一寸先は白い霧の中でうっすらと見える彼の顔を盗み見れば必死なのがわかる。
「こっぢ、でず!!」
「おヴ」
口を覆っていても、呼吸すれば喉に肺と、霧は入り込んでくる。
正直言って喋ることすら苦痛でしかないが、ベルはこちらを安心させようと要所要所で声をかけてくれる。
こっちだ! あっちです!そのまま真っすぐ!次は右!
辛くても、彼は仲間を励ますために声を上げる。
どれだけ走ったのだろうか。
普段なら疲れもしないし息切れもしないこの行動も、明確な死に追われる立場となったとたんにがらりと変わる。
一寸先の霧の向こうから刃が飛んで来たらどうしよう?
気が付いたら自分の体を見上げることになっていたらどうしよう?
恐怖が心を圧し潰そうとする。
圧し潰されないようにと心の中で吠え叫ぶ。
「見つけたよ?」
―――――――――――――――――――――
他の
とても足が速いんだね! 追いかけっこ楽しかったよ!
「それはどうも」
「でもね?」
追いかけっこはここでお終い。
あのお姉さんが来ちゃうからね。
「お姉ちゃんから言われているから大丈夫だよ。殺しちゃいけないんだって。動けなくして置いていくだけだよ」
「ここでそれは死ねって言うのと同じだが?」
「運が良ければ誰かが助けてくれるよ? 殺したら誰も助けてくれないもん」
狸みたいなオジサンも動けなくなったら騒いでたなー。
この人たちはどんな風に叫ぶんだろ?
やっちゃおうか?
「運がよかったらまわ遊ぼ」
「逃げろっ!!」
あー、また行っちゃった。
けど、今度の鬼ごっこは――――
「あはっ!」
投げナイフもあるんだよ?
―――――――――――――――――――
追うのと追われるの、やりたいならどちらがいいかと聞かれれば、大概の答えは『追う側』と答えが返ってくるだろう。
さらに追う側が絶対的に有利といった条件も盛り込めば、余程のマゾヒストか自信過剰か、あるいは本物でない限り追われる側を選ぶ道理はない。
二人は必然的に追われる側になった。追ってくるのはあの不気味な幼女。
時折、彼女の声が複数に重なって聞こえたり、少女の姿であるのに少年の声がしていたり、少年のような言葉遣いなのに少女のような仕草をしてくる不可思議な子供だ。
とはいえ、覚えているのはここまでだったりする。
いや、今自分が何を思い出していたのかも思い出せない。
追ってくる存在について、何も憶えていないのだ。
これはマズイ。
この思考そのものが二度目だというのはわかっているが……。
「壁を背に戦えば……」
「逆に逃げ道が無くなる。それより背中合わせにやった方がいいだろ」
「ですね。―――っと! 手足を狙ってきているのが幸いかなッ!!」
やはり相手はこちらが見えているのだろう。的確に狙ってくる。
弾いたナイフを横目で見れば、様々な形状のものが壁や地面に散乱していた。
ひし形のもあれば、オーソドックスな手持ちの形もある。
一つ、疑問があるとすれば全くもって統一性が無いことだろう。
とはいえ、そのようなことは些事だ。投げナイフの一投一投が予想よりも重い。
わずかだが手を痺れさせるほどに強いのだ。
「さてどうしましょうか」
「攻めるにしてもな」
どうしようもない。
運を天に任せて、死なないことを祈りつつ半殺しにされるか……。
あるいは超素晴らしいエジソンもびっくりの逆転閃きによるどんでん返しで無事に帰れるか。
「――――ないな。絶対にない」
一か八か……――――?
「シグレさん!」
「んぶぅ?!」
霧がこちらへと迫ってきていた。
しかし一つ違うのは進行方向から迫ってきていたということだ。
ベルが口を押えてくれて、焼け付くように痛い目を潤ませつつ視線で返事をする。
片手でも防げる可能性はあり、返り討ちにできることも不可能ではない。
――来るなら来てみろ……!
覚悟を決めて身構えていると霧は二人を超えて、もと来た方向へと遠ざかっていく。
「………」
「………」
――助かった………。
どういうわけか、襲撃者は去っていったのだ。
二人は無言で霧の去っていった方向を凝視する。
再び来るのではないか? そうする前に逃げるべきではないか?
もしかして罠ではないか?
「――――――退こう」
「そう、ですね」
満身創痍に近いこの体をどうにかしたい。
二人はそれだけを考え、時間にしても1時間に満たないこの一時はダンジョンに挑み続けるという選択肢を形も残さず砕きつくしていた。
―――――――――――――――――――――
唐突ではあるが弓矢というもの聞くに、思いつくことは何だろうか?
大概はアーチェリーや弓道といったスポーツ、武道で行うものだと考えるだろう。
ミリタリーが好きなら、槍より強く、そして銃火器の登場で駆逐された旧時代の兵器と思うかもしれない。
なぜなら、どれほどの
弓を使うのは余程の状況下に陥っているか、それぐらいしか用意できないほど貧相なだけだろう。もしくは趣味ともいえるかもしれない。
もちろん、弓は銃よりも静粛であり、手先が器用ならそこらの物で製作もできるだろう。
―――――だが、もしも………。
「ッ……! しつこいねっ!!」
「狩人だからな……!」
まるで軽機関銃よりも連射速度があり、音速に匹敵する矢を悠々とたたき出し、下手な狙撃銃よりも長い射程を持っていたら?
正直に言えば…………下手な対物ライフルよりも遥かに恐ろしい兵器と化すだろう。
いや、そもそも比べることそのものが無礼極まりないことだ。
―――人智から逸脱したものを
「私は忠告したはずだ。縁を切れ、と」
「やだよ。どうしてそんなこと言うのさ」
「あの者は碌でもない。一線は越えていないがそのうち超えるだろう」
「………あの金髪の人に言われたみたいに?」
「然り。奴をお前の
弓使い、麗しい碧、己を狩人というには装いが洒落ている彼女は以前にヘスティアに
古めかしい言葉遣いで、すぐに霧に隠れる物騒な幼女を
幼女は
現に、先ほどまで幼女から逃げ回っていたあの二人は死に物狂いで躱し、受け止め、弾いて、撤退を優先させていた。霧に隠れられるたびに居場所を見失い、己が誰と―――いや、ナニと戦っているのかわからない状況下でよくやったと言えよう。
まあ、死んだのならその程度だったという感情しか持ち合わせないが安寧の場所たる家を穿ち砕いた手前、如何に現実主義かつ弱肉強食こそ真理だと悟るアタランテでも、矢の2.3本は援護してやってもいいと思う。
―――――――できれば、自らの主神であるアルテミスと親交のあるヘスティアに庇い建てをしてほしいという打算がないわけではない。
だって、オリュンポスの神々って恐ろしくて碌でもないのが殆どだからね!
「お姉ちゃんは子供だよ?」
「見た目はな。しかし、
アタランテはそう言って、
幼女の顔が酷薄に歪む。子供の持つ純粋無垢な残酷さがむき出しになる。
「真名で呼ぶのはマナー違反だって、金髪のお姉ちゃんが言ってたよ。忘れちゃったのかな」
「いや、そろそろ言っておいた方がいいと神託がな? ああ、アルテミス様。御身まで出てくると厄介なことになるので自重くださいませ!!?」
「……………ごめんね?」
「うん。私、がんばる」
狩人だって泣きたい時がある。
主に進行していた女神がスウィィイィィイツ系だったと知ってしまったときとか。
視界がぼやけてきちゃったよ(涙)。
じゃあ気を取り直して戦闘を―――なんて空気でもない。
ちょっと半泣きの“うるわし の あたらんて”だが、相手が撤退も選択していて自分もコンディションが悪い―――この場合は悪化した―――中で戦闘を続けようとするほど武人気質ではない。
不利になったら逃げる、隠れる、隙を見て殺せるなら殺す。
プライドで腹は脹れねーんだよ。
「宝具を解除してもらえるか? もう今日は追わぬよ」
「いいよ。私たちもつまんなくなちゃった」
二人を中心に停滞していた霧が晴れていく。
そうなる前に、出会う前に去らなければならない。
「もう一度言うがあの小人とは縁を切ることだ」
「やだ! お姉ちゃん、泣いてたんだもん。捨てられて泣いてたよ」
「……………次は私だけではない。
「それでもだよ。それに私たちは女の人に強いよ。ジャック・ザ・リッパーだからね」
忘れて等おらぬよ、と残してアタランテは撤退した。
彼女の俊足を捉え切れる冒険者はこんな低階層で留まったりはしない。
誰かの報告で運悪く調査に出向いていたら………というのなら話は別だろうが、それは小説のような展開には至らなかったと残しておこう。
――――――――――――――――――――
そして、幼女――ジャックは姉と慕う彼女の元………リリルカ・アーデのもとへと帰る。
ダンジョンでは気配遮断により、いかなる時も張り詰めている冒険者の間を軽々とすり抜け、街へと出れば露店から果物をくすねていく。
亡霊であるはずの自分が受肉した関係上、食事は必要なのだから仕方がない。また、盗んでいるのではなく永遠に借りているだけなのだ。
―――と、
すれ違いざまに今まで数多の女性を
横道を三つぐらい通り過ぎるとさっきの女の人が地面を血眼で見回し、怪しそうな人に喧嘩を吹っ掛けているのを無視して、スラムへと通じる道に潜り込んでいった。