貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです 作:カルメンmk2
今回も捏造設定がバンバン出ますのでお気を付けください。
そして、お気に入り1100突破ありがとうございます!
気安くは話しかけられるが鬱陶しい連れと
元の世界なら職質をかけられるような男たちが、少年のように目を輝かせ、ショーウインドウの武器を見つめているのだ。
(武器を見て、何時かそれを持ちたいと夢を見る。これが少年少女なら絵になるがの)
誰も華も何もない連中を見たって、得などはない。これがもう少し若ければ、夢見る若者で済ませられるがオッサン共では話にならない。
品質はいいのだが、どれもこれも実用性よりも見た目を重視するような作りで永嗣はそれが気に入らなかった。
(アレではまともに力も伝わらず、華美過ぎて目立つだろう。かと思えば、より実戦的で質素な造りの武器が置いてある。
例えば、稲妻を模したような黄金色に輝く剣。鉤状であったり直剣や曲刀ともいえる部位が見られるのだが、複数種の武装を使えるものが果たしているのだろうか。
よしんば居たとして、あの鋭角に曲がる部分で切っ先の衝撃を受けきれるのだろうか。少なくとも、自分には無理そうである。
「ふぅむ………そこにこの値段か」
立ち止まり、ショーウインドウの向こうにある武器の数々を眺める。どれもこれも50万以上を超えていて、自分には手が出せない。貸しを作ってでもフィンを助けておけばよかったかと思ってしまう。
それほどに、今の自分の懐具合は寂しかった。ヘスティアファミリア全体に言えることではあるが。
まぁ、武器は全て手作りな上、材料も命懸けで採ってくるものがざらである。この値段を恒常的に払えない連中は冒険者として上には上がれないということだろう。
再び歩き始めると、店前に刀が置いてある店を見つけた。
拵えも鍔も握りも雅な美術刀である。隣には一切の飾り気のない黒鞘に錆止め等を施したであろう最低限の処理をした鍔と、目釘を抜かれて刀身すべてが晒されたものがある。
間違いない。これは業物だ。
「ほっほぅ! 値段は…………………4000万ヴァリス?」
買えないな。手持ちの万倍越えである。これは無理だ。
しかし、欲しい。これは欲しい!
「中を見ればもっとあるか?」
そう呟くと、誘蛾灯に誘われた羽虫のように、永嗣は店に踏み込んだ。
踏み込んでみれば、そこは刀を求める者にとって、パラダイスのような空間であった。あるもの全てが刀や薙刀、和弓などの極東の武器たちである。
「おお………!」
早速と、近くに陳列していた刀を抜いてみる―――としたのだが、鍔と鞘が紐でつながっており、鯉口を僅かに切るぐらいしかできない。
それでも、刀身の根元を見る限り、相当な逸品だ。
「抜いてみたい………! すまんがこれを抜いても構わんか!?」
「あいよ。ちょっと待ちな」
気怠げな少女が番台から立ち、ぽてぽてとやってきた。徐に紐へ指をすべらせると何もなかったかのように紐が消えた。
それを見るやいなや、遠慮の欠片もなく刀を抜き放つ。
乱れ刃、平造り、腰反り、渦目調、黒地―――良いものだ。材質に至っては、失伝されたといわれるダマスカス鋼だろう。刀………………特に日本刀にもっとも適していると云われる金属だ。
粘り強く、硬く、それでいて靭やかである。現代科学で再現されたものとは違い、これはウーツ鋼のほうだろうか? だとすれば、これだけの値の価値はある。
「気に入った?」
「おう。儂の知る限り、この鋼の製法は失伝している。模造はあれど、このような出来ではなかった」
「ふーん。お兄さん、レベルは?」
「1じゃよ」
「わかった。でも、貴方に売る刀はない。他所へ行って」
呆気にとられて、持っていた刀を奪われてそのまま元の状態に戻されてしまった。
何故に売らないのか!!? 詰め寄るも、まるで相手にもされない。
「待ってくれ! 金なら必ず用意しよう、必ずだ!」
「貴方で500人目だよ、その台詞」
「ぬぬぬ……………何故売らんのだ?」
「レベル1の腕なんてたかが知れているから。私は、自分の
それは拒絶だった。
「冒険者なんてクズばかりだ。どいつもこいつも――――反吐が出る………!」
「クズばかり、な」
「そうだよ。花瓶だけが立派になって、活けた花は雑草ばかり。野に咲く花のような強さはなく、丁寧に育てられた蘭のように気品さがない。私の鍛つ武器と格が合わないんだ」
「なるほど。それは儂も思うところよの」
「そうやって関心を買おうとするのもいっぱいいたよ。だから帰って。欲しいなら、私の主神の許しかきちんとレベルアップしてその上で見定めさせてもらう」
取り付く島もなかった。永嗣は店主によって、外へと追い出されてしまった。
入るときは刀に見惚れて見ていなかったが、その構えは極東風―――いわゆる和風の店構えである。扉の屋根には【工房・正村】の文字。
「工房・正村――――しかと覚えたぞ」
「ようやく見つけたよ。さっきはよくも見捨ててくれたね…………!」
「ちっ!」
「舌打ちするんじゃないよ。まったく……………なんだ、彼女の武器に惚れ込んだのかい?」
「! 知っておるのか」
「それはね。彼女はヘファイストスファミリアの三番手、極東の武器を作るに関しては団長すら凌駕する鍛冶師だよ。ただ…………わかるだろ?」
「相手にもしてもらえんよ。欲しかったのだがなぁ」
「僕が証人になろうか? 無論、借りにするけどね」
「返済が怖いから遠慮しよう」
それ残念だ、とフィンはこの先に行くか? と促してくる。しかし、あの話を聞けば有象無象でしかない刀にときめくこともないだろうと断った。
この無聊をどうしようかと悩んでいると、一人の青年が話しかけてきた。
「あの、トーリの店に行ったんですか?」
「そうじゃよ。取り付く島もなかったわ」
「そうですか――って、
「有名人は困るね。その通り、勇者さ。それで君は?」
「あ、ああすみません! 自分はヴェルフ。ヴェルフ・クロッゾっていいます」
「クロッゾ?」
「知っているのか、フィン」
「なんだいそのフレーズ?」
クロッゾの名に反応したフィンに、ヴェルフと名乗った赤毛の青年は何かに耐えるように体を強張らせた。
フィン曰く、クロッゾとは魔剣を鍛つことで有名な鍛冶貴族
誇張表現かもしれないな、と思っていたがフィンの顔は真面目だ。それには理由があった。
クロッゾはラキア王国の貴族となり、鍛たれる魔剣はラキアの栄華を飾った。魔剣による度重なる侵攻は常勝を与え、その果てにエルフの国へと手を伸ばした。
もはや数少ない精霊たちが住まうその森を、魔剣は火の海に変え、神話に残る炎獄を顕現させた。
だが、それに怒り狂った精霊たちは力を振り絞り、すべての魔剣を破壊したのだという。それは呪いともいえるもので、クロッゾの家系に代々伝わった魔剣を鍛つ力を奪ったのだと。
「リヴェリアから聞いたからね。間違いない。うちにはエルフが多いから」
「実際見た人間がおった、というわけか。で、クロッゾ君。君は―――」
「その、クロッゾって呼ぶのはやめてください。自分は…………その名前が嫌いなんです」
「すまないね。立ち話もなんだ。どこか落ち着ける場所で話そうじゃないか。君もいいかい?」
「構わんよ。ヴェルフ君もよいじゃろ?」
「すみません。気を使わせて」
「年長者だし、何より君の先輩でもある。ありがとうのほうが嬉しいかな」
「す―――いえ、ありがとうございます」
「素直でよろしい」
「せんぱーい! あの武器買ってくださーい」
「迷宮に行ってモンスター狩ってろ」
「酷いの。ケチだの。そうは思わんか? 見た目にそぐうぐらい狭量じゃぞ、この中年オヤジ」
「あ、ええっと……」
「耳を貸さなくていいよ。君には奢るつもりが無くなったよ」
「ごめんなさい」
所変わり、豊饒の女主人。人が居るのにここでするのかと思いきや、一番奥のひっそりとしたスペースに通された。
少し気になるのは、どうにもテーブルや新調された扉や窓のあたりから殺気を感じるのはいただけない。報復かと思いきや、フィンは疲れた様子で気にしなくていいと、ため息交じりに答えた。
「はぁ……………じゃあ、ヴェルフ君。用事って何かな」
「あ、はい。そちらの…………えっと……」
「時雨永嗣じゃよ」
「シグレさんがトーリ――――あの工房・正村の店主なんですけど、そこから出てきたのを見まして」
「君のガールフレンドなのかな?」
「違いますよ。はぶられ仲間でして………刀を売ったのかなって」
「売ってもらえんかったよ。帰り際も見たが、あそこに置いてあるのが至上じゃな。見た後だと、良い刀も鈍らにしか見えぬ」
――――ああ、しかし……うーん……。永嗣は言葉を選ぶように呻り始める。
腕を組み、眉間にしわを寄せて呻った末、口を開く。
「良い刀じゃが、入ったばっかりの者が鍛った刀には劣っていたな」
「新人に劣る? 彼女は紛れもない
「熱意じゃよ。全身全霊で鍛ってないのじゃ。それでなお、他との差が付き過ぎているわけだが…………業物なんじゃよなぁ」
「仕方ないと思います」
「んん?」
ヴェルフは神妙な面持ちで切り出した。トーリは悩んでいるのだと。
「正直、自分が言える立場じゃないですが冒険者に辟易しているんだと思います。トーリの求める水準に達していないって、本人も言ってましたから」
「格が足りないというやつか? だとしてもな」
「優れた名匠は一目で見抜くというけど…………買いかぶり過ぎでは?」
「いやいや。あの輝きと滲み出る気配は紛れもなく業物じゃよ。かつて見た最上大業物にも劣らぬほどだ」
「そのディムナ団長とシグレさんは何を話して……?」
「団長はいらないよ。団員でもないからね。率直に言うと、彼はレベル1でレベル6の腕を斬り落とすぐらいの実力者だよ。噂は知らないかい?」
「全く。てか、そんなにすごい腕前だったんですか!?」
信じられないものを見るような目で、永嗣を凝視するヴェルフ。別に誇るわけでもなく、斬れたから斬ろうとしただけだと言えば、今度は変なものを見る目に変わった。
フィンは笑みを崩さずに、これは好機だと認識した。かの名匠の武器を用意できれば、少なくとも協力は得られるだろう。物で釣るのはいただけないのだが、さらに深く潜るためには彼のような戦力を防衛戦力として手元に置いておきたいところだ。
「当たれるのであれば、斬れる。普通の事じゃろ」
『『『『いや、それはない』』』』
店にいた他の客も混じっての否定に、ぬぅ! とむくれる永嗣。その理屈が通るなら、レベルなど関係ないだろうとヴェルフは思った。
「その腕前、トーリに見せてやってくれませんか!」
「あれは拗らせ気味じゃろ? 多分、何かにつけて断られるのが関の山じゃろうよ」
「ですけど!」
「見せたところで、当人が認めるつもりもなければ意味はないよ。フィン、謀りもほどほどにな」
「なんだ。わかってたのかい」
「勘じゃよ」
こういう輩に借りを作るのは、よっぽど厄介事でなければ問題はないのだが、ものによっては不味い事になる。
―――――まぁ、借りはできているようだが…………………。
「余計なもんまで作りたくはない」
「ホント、うちに改宗しないかい? 武器もついてくるよ?」
「くどいぞ」
「あの、いいですか?」
「おう、すまんすまん。しかしだ。あのトーリという少女………何故、頑なに未熟者を拒む?」
「それは―――」
陽は落ちて、魔石灯の光が道を照らす時刻。ヴェルフと別れた二人は昼間と変わらない足取りで夜の街を歩いていた。
フィンは武器を持っていない剣士はパスタのないパスタ料理だと言い切り、永嗣の護衛を兼ねて廃教会の方へと歩いている。言葉は少なく、しかし、何か迷っているという雰囲気でもない。
ヴェルフに聞かされたトーリの苦悩など、二人にとってはよくある類のもの。現実と理想の差に打ちひしがれようとしているものだ。
「君はどうする?」
「ふむ。借りで頼む」
「利子付きで返済してね」
「いずれなー。あと、気をつけての」
「ああ。君もね」
――――存外、彼は厄介ごとの種なのかもしれない。
その後ろ姿に対して思ったことであった。どちらをとるべきか? ロキファミリアにとって最も利益になることは何だろうか?
「君たちはどう思う?」
「――――邪魔をするな」
「それが答えかい? んー………そうだね、どうしようか」
魔石灯の灯りすら差し込まない暗がりから、アーメットと呼ばれる顔を半分隠すほど大きい兜を被る冒険者たちが現れた。
黒と紫で統一されたその装備は大きさは違えど、形状は一致している。違うのは種族と得物ぐらいだろう。
「予想より、随分と厄介なんだね。彼は」
「ならば手を引け、勇者……それが互いにとっての利益になる」
「利益ね……………利益、利益、利益…………うーん。利益かー」
困ったな。実に困った。どうしようか。どちらにしようか。さてさて、どうしようか。
呟きでしかないその声も、夜の静けさと冒険者の聴力をもってすれば通常の会話と同じぐらいには明瞭に聞こえる。フィンが腕を組み、つま先でとんとんと地面を踏み鳴らす音が続く。
「どちらをとっても利益なんて似たようなものじゃないかな」
口は嗤っている。目尻も落ちていて、優しく問いかけるようにフィンは言葉を紡いだ。しかし、目は笑っていなかった。
物分かりの無いフィンに苛立ちが募ったのか、彼らは武器を構えた。そして駆けた。
――――そうして失敗した。
「んなぁッ!?」
「躾のなっていない犬だね」
無手であるフィンに彼らは襲い掛かった。たとえレベル6でも、獲物もなく、防具もなく、ましてレベル4が6人でかかれば斃せる筈だと。だが、しかし―――
「装備がない。数で勝っている。だったら殺せる?」
その手には槍が握られていた。見聞きし美しい槍ではない。長い筒の先に刃の穂先が付いた、文字通りの槍。節目らしきものが竹と呼ばれる食部に似ていた。
「はっはっは――――勇者をなめるなよ、クソガキども」
ぱぁん! と空気を叩く音が響いた。何のことはない。単に、槍を振っただけだ。
フィンの顔から笑みは消えていた。浮かんでいるのは、彼らへの呆れと無関心という侮蔑だけ。
「君らのように狙ってきたのは大勢いる。一度酷い目にもあったからね。だから、ほら」
袖の中から手に持つ槍とは全く似ない筒が出てきた。しかし、それを振れば槍状の物体となる。仕込み武器だ。
刃なんでない、言うなれば針を槍のサイズまで巨大化したもの。それは黒く、月光にも反射しないぐらいに黒かった。
「古参連中は必ず武器を隠し持っているんだよ。ああ、そんなことを言って大丈夫なのかって? それは問題ない。なんら問題はない。全くもって問題にもならない」
フィンは石畳を踏みしめた。
冒険者たちは今更になって理解した。なぜ、
「私怨結構。復讐結構。憂さ晴らし結構。主神への忠誠も結構だ。でも、誰も君たちを褒めることはない」
一陣の風が冒険者たちの間を通り抜けた。リーダー格でもあるそれは咄嗟に武器を盾にし、他は皆、心臓に穴を開けられ、頸は真一文字に切り裂かれていた。
死んだ仲間に気を取られ、即座に離脱を図るべきだと視線を潜り抜けたそれはわき目も降らずに逃げ出した。
「死んでしまうのだからね」
死はそれを逃がさなかった。それだけの……オラリオではよくある抗争の一幕として、彼らは数字となった。ことの全てを知る月は何も言わなかった。告げる口もないのだから……。
英雄には相応の武器が必要だとは思わないかね? と、カルメンです。
オリジナル設定が多々出ておりますが、これも二次創作の醍醐味です。ご容赦のほどを。
では、解説行こうか。
『時雨永嗣』
冒険者連中にはある程度知られているが、鍛冶師などの職人連中にはあまり知られていない。工房・正村の出会いは、彼に生涯の相棒を得るきっかけとなるのだろうか?
「ええのう。ええのう。ええ刀だのう」
『フィン・ディムナ』
あわよくば、改宗させようと画策するも、その程度で改宗する位ならと結論付けたショタオヤジ。年齢は40越えです。
過去、強襲されて酷い目に遭ったことを教訓に、ファミリアの団員全員に暗器や隠し武器といったものを携帯を義務付けた。
襲撃者の存在は永嗣も気付いていたと確信しており、貸しを作るために彼らは犠牲になったのである。理由としては、一緒に潜ることができ、かつ、未知の可能性を持つ彼らのほうが猛者より利用できると判断したため。
「丁寧に、優しく、手短に仕留めるだけさ」
『ヴェルフ・クロッゾ』
魔剣貴族、鍛冶貴族、呪われた血族。称賛よりも侮蔑の呼び名が多いクロッゾの家系の一人。何かしらの秘密があるらしい。
「俺は魔剣が嫌いです。だから、鍛たない。鍛つつもりもない」
『正村トーリ』
工房・正村の主。その腕は極東の武器に限定すれば団長の椿・コルブランドを凌駕する。しかし、冒険者たちのステイタス主義に辟易している。
4レベル以下お断りなのは、このあたりが分水嶺となるため。ステイタスだけでは超えられない壁を実感する頃合いだとか。
反面、業を修める者には相応の素材で作った逸品を提供する面もある。
「冒険者、技も知らねば、獣なり」
『襲撃者たち』
レベル4の上位の冒険者たち。黒と紫の装備に身を包んでおり、その統一性と装備の質からかなりの規模のファミリアと推測される。
身の程知らずにも、フィンに挑み、全員返り討ちに遭った。台詞をつける価値もなし。
『工房・正村』
偏屈な店主が営む極東の装備専門の店。素晴らしい出来のものばかりだが、売上自体は非常に低いため、初心者たちが中心となる通路に店を構える。
永嗣の取った刀は黒地に金の渦模様の入った刀。見た目は汚いと思うだろうが、加賀友禅や漆器にまぶされた金色を想像できるとして、永嗣は美しいと評価した。
店内で一番高い武器は1億ヴァリスの野太刀・縁切り丸である。