貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです   作:カルメンmk2

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 皆、FGOはやってるかい? アベンジャーが来ましたよ、私のところにね。新宿のアーチャー来てくれよー!!


 ムメーの項目が無かったので追加いたしました。

 遅ればせながら、お気に入り1000突破ありがとうございます!


*ラウルのファミリーネームが間違っていましたので、修正いたしました。
*後書きの解説にて、個人のセリフを追加いたしました。


女神、鍛冶神と会うことを決意する

 昨夜の騒動が嘘のように、ヘスティアファミリアの超絶問題児こと永嗣はぬるりと寝床から出てきた。

 今まで寝ていたと? それは違う。ようやく帰ってこれて、少しの睡眠ののち、起こされたのだ。

 

 何せ、もうそろそろ昼時という時間まで、豊饒の女主人の清掃を行っていたのだ。やったのは自分達じゃないはずなのに後始末を押し付けられるとは、おのれ汚物(ポプルス)許すまじ! などとほざくが、喧嘩を売らねばそうならなかったのも事実。

 店主であるミアの立場を鑑みれば、当人に責を負わせるのは当然のことだが生憎と飲食業を生業とする商売人である。元の世界であれば居るだけで保健所を呼び出すような輩に掃除などさせられるはずもない。もちろん、壊した扉の代金や道の清掃費用は、向こうのファミリアに支払わせる。例え、半ば脱退気味の所属ファミリアの主神に頼ってでもだ。

 

 そんなこと、永嗣とベルが知る由もないのは悲しいことだが、出禁をくらわされなかったところを見れば、二人の責任ではないし、掃除もしたのだからということだろう。ちゃっかり、ヘスティアが朝食を頂いていたことについては、何時か復讐すると誓っていたのは秘密である。二人の秘密である。

 

 

「はぁ…………」

 

 

 腹も空いているのだが、外の様子が煩わしくて出てもいけない。そう、昨夜の大立ち回りが神々(ひまじん)に知れ渡ったのだ。

 ヘスティアが大嫌いな―――主に個人的な理由でのことだが、ロキは決して助けない。ロキファミリア自体、ベルの意思表明の時点で落着となっているからだ。で、あるならば事態を回収させるために改宗(コンバージョン)しろと言うに決まっている。おや、上手くはないか?上手くない?そうか………。

 

 まぁ、あと一つあるとすれば刀を朽ちしさせてしまったことだ。

 剣士にとって、得物である剣は己の現身で、力量の見えるものだと思っている。それを朽ち果てさせたのだから、自分はまだまだと。未熟者だと喧伝しているようなことだ。

 

 この世界において、レベル1がレベル6に大きな傷を負わせること自体がありえぬし、まさしく偉業ともいえるものだが、この男には関係ない。武器を折ること自体、壊すこと自体が未熟の証明なのである。

 

 

「表面が汚ければ中身も汚いということ。いや、しかし本当に朽ちてしまった」

 

 

 切っ先一尺ほどの部分でしか斬らなかったというのに、この刀はすでに半ばまで錆びてきている。買ったばかりの服などとうに穴だらけで捨ててしまったが、皮膚には影響がないというのは、自浄作用のある物体には効きづらいということだろうか。

 そして、最後の腕をくっつけたアレ………切り落とした断面が普通の色ではなかったことから、なんだろうかと思っていたが――――

 

 

「高い防御力と武器破壊能力、自己治癒力。戦車か」

 

 

 ゲームで言うなら壁役(タンク)と呼ばれる役割。永嗣からすれば歩兵を隠して進軍する主力戦車。並大抵の攻撃ではびくともせず、武器を当てれば武器が壊れ、四肢の欠損すらくっつければ元通りとふざけているとしかいえない。

 

 

「うぅむ、そうか。斬ってもくっつくか。そうか、そうなのか」

 

 

 近接職なら忌避する存在。戦いたくない相手だが、彼の理からすればそれは違う。

 

 

「武器を朽ちさせる力を持つ者を斬り捨て、武器を朽ち果てさせぬ……………斬り甲斐(やりがい)がある」

 

 

 超えるべき対象として、獲物としてしか見ない。沈んだ気分も、己の未熟を露見させたのであれば、未熟を治すまでのことだと前向きになる。

 されど、今は刀を供養して、新しい刀を探そう。永嗣は前向きに行動することにしたのだった。

 

 今一度言うが、彼の行いは偉業の類である。されど、ステイタスを更新してもレベルは上がらなかった。

 それはつまり、あの程度は偉業でも何でもないということである。

 

 当たれば斬れる。故に、如何にして当てるか?

 

 ある意味で、一番恐ろしいのは技でも武器でもない。それを行えるだけの技量を十全に備えていることなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でベルは、こってりとアドバイザーのエイナに絞られた後であった。美人が怒るととても怖い。亡き祖父が寝言で、そこ出るとこ! 入れるとこじゃなアッーーー!! と飛び起きた思い出が蘇っていた。どこに入れようとしたのだろうか?

 おや、話がそれてしまった。

 つまり、ベルはげっそりしながら迷宮(ダンジョン)へ向かっている。始まりの道と呼ばれる大きな噴水と広いバベルへと向かう広大な一本道。多くの冒険者が金や名声を求めて地獄へとまっしぐらな地獄への道。この中の何人かは生きて空の陽を二度と拝むことは出来ぬと、どこかの吟遊詩人は嘲弄した。

 

 それはつゆ知らず、ベルは疲れた体を引きずりながらも迷宮に向かう。割と財政難でヤバイからだ。どれぐらいヤバイかというと、マジでヤバイ。本当にマジでヤバイ。

 折れたショートソードは教会に置いてきた。持っているのは頼りない数打ちの短剣、ナイフと呼ばれるぐらい短いもの。見ても持っても解るぐらい、質が低い。

 

 

(5階層まではやめよう。2層ぐらいで資金集めだ)

 

 

 昨晩の戦いを共に掃除していたエルフの女性から聞いている。

 正直、自分のすぐそばにそんなすごい人が居るとは思わなかった。強いのは分かっていたが、あれほどまでに強いとは思わなかった。

 

 

(鍛錬かぁ………………どんなのだろ? 前にやったみたいのかな)

 

 

 冒険者に成る前に少しだけ行った素振り。アレであそこまで強くなれるのだろうか? ステイタスでは僕のほうが今では上になっている。彼のステイタスはまるで上がっていない。上がっていると言えば上がっているが、それは駆け出しの範囲でしかない。

 

 

(強くなれれば…………・アイズさんやシグレさんのところまで――――いや、隣に立てるのかな?)

 

 

 掃除をしたエルフとはまた違う、とても美人で気品あふれるエルフの人に言われた志を持ち続けること。そして生き残ること。英雄とはそういうもの。

 

 

(だから、自分の力で生き残らなきゃならない。心も体も強くなろう)

 

 

 背中の恩恵がジワリと熱を帯びている気がした。それはつまり、神様だって応援しているってことだ。

 

 ベルはそうして、長い奈落へと通じる螺旋階段を下りて迷宮へと降り立った。少し進んで道をそれれば、コボルドが姿を現した。

 

 

「行くぞっ!!」

 

 

 ナイフを構えて突撃する。伝え聞いた昨日の仲間の動きを模倣するように、ベルはモンスターとの距離を縮めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でヘスティアはロキに呼び出されていた。彼女がよく密談の時に使う静謐なレストランだ。

 もちろん、彼女に金などない。ロキに話せないと先に釘を刺したが、この店には席のチャージ料があると言われ、その額も頭の痛くなる値だった。

 嫌な笑みを浮かべて、等価交換や。全部聞こうとは思ってない、ただ、あの坊主に何をしたのか………言ってみ?

 ヘスティアは後日、彼に謝った。そしてそのうえでこう弁明した。全ては貧乏なのが悪いのだと。

 

 

「先に言うけど、僕は神の力(アルカナム)なんて使ってないよ」

「ホントか? レベル1がレベル6の腕を切り落としたんやで?」

「ホントのことさ。アレは自分自身の力量だって、本人も言っていた。スキルやアビリティは開示できないけど、彼のステイタスは駆け出しの冒険者程度でしかないよ」

「…………………マジやな」

「だろ?」

 

 

 ちゃんと断りを入れてある。ロキに君のステイタスを見せると。そして彼はそれを了承した。

 

 

「許可はとったんか?」

「もちろんさ。その上であの子は―――」

 

 

 自分の情報を開示したら不利になる? 何をいまさら。儂の動きも技も、どんな勝ち方をしたのかも全部知られたうえで、生涯においてただの一度も負けはしなんだ。

 

 

「知られたところで、相手が避けられなければ無駄の徒労。封じようとすれば、それを躱して当てるまで―――だってさ」

「…………………それなりに地上に長いこと居るけど、なんちゅうか不遜やな」

「それを実行できそうだからすごいけどね」

「そうかい。ああー、なんでうちのところに来てくれんかったんや!! こんな面白い子なんて、早々おらんのにッ!」

 

 

 何も知らなかったが、逃した魚は大きいものだ。事実、門番たちの独断で彼らを追い払っていたのだから。それがロキや幹部勢に知らされることはなかった。お零れに肖ろうとしている不審な男と弱弱しい田舎者。ロキファミリアのネームバリューとは所属しているだけで様々な恩恵を味わえるのだ。

 したがって、門番に非はない。団長に相談しなかった、という非難は、そも主力が遠征中のためできるわけがないのだ。

 

 

「改宗とか、考えてへんのか? なんなら、移籍費とかも支払うで?」

「舐めたこと言ってると、その無乳を抉れ乳にするぞ?」

「無乳やない、つつましいんや!!」

「ん? つ、つまめない!? だって?」

「むきぃ!!!」

「むきゃー!!」

 

 

 ―――と、女神が争い始めたため、なんの陰もなく、隣で護衛がてらに同席していたフィンは書き写されたステイタスを手に取って眺めていた。

 

 

(スキルが怪しいのは前提として……………新人の域を脱していないのは確かだ。だが、ありえるのか?)

 

 

 レベル6を手玉に取ったというのに、全体で100も上がっていない。

 いや、これがレベル2になった、というのであれば納得できる。レベルが上がればステイタスはI()から始まるからだ。

 

 

(アイズの言っていた四つの剣…………これがスキルによるものではないだろうか)

 

 

 ムメーに聞きたいが、彼は決して話そうとはしないだろう。かと言って、昨日の今日で訪ねて行っても、面倒なことになる。この都市は神々の暇つぶしをするための遊技場だ。絶対にいる。砂糖菓子に群がる蟻の如く、暇神が周囲をたむろしているだろう。

 

 となれば、別の方法でアプローチをかけるべきだろうか?

 ふと、フィンはあることを思い出した。そうだ、彼は冒険者であり剣士でもある。今の彼には足りないものがある。

 

 

「ロキ!」

「「なんや!?」

「僕はここでお暇するよ。代わりは呼ぶから」

「ちょ、小人族(パルゥム)君! この猛獣を引き取っていくんだっ」

「申し訳ない神ヘスティア。ことは一刻を争うのです―――――ティオネ!」

「はい! 団長!!」

「「ええー………………」」

 

 

 フィンが叫ぶと、褐色のアマゾネス姉妹の分厚いほうことティオネ・ヒリュテがテーブルの下から顔をのぞかせた。

 そのような場所に居るとも思わなかったフィンも、なんで居るのだと驚く女神たちも。思うことはこれ一つ。

 

 

(((うわぁ…………)))

 

 

 ドン引きだったのである。

 そう思われているなどはつゆ知らず、ティオネは元気よくフィンに抱き着こうとした。

 

 

「ステイ!」

「はい! 待ちますっ」

 

 

 忠犬のようにぴたりと止まるティオネに、またも女神たちは調教されてるんじゃ、とフィンは侮蔑を、ティオネには引くほどの恐ろしさを抱く。

 何のことはない。フィンがティオネの扱い方を覚えただけだ。彼は未だに童貞である。童帝である。

 

 フィンはティオネの頬に手を添えた。撫でるように顎へと引いていき、手が離れると艶やかな声でティオネが、あっ……、と名残惜しそうに声を出す。

 

 

「ロキの警護を頼むよ。いいね?」

「は、はい……」

「よろしい。くれぐれも神ヘスティアに粗相の無いようにね」

「わかりました」

「じゃあ、僕はバベルへ向かうよ。色々と打ち合わせもあるからね」

 

 

 返事も待たずにフィンは足早に去っていった。

 それを見送るティオネといえば、某有名なポーズである恍惚なヤンデレポーズなるものをしていた。下半身をもぞもぞさせている点からすると、R-18相当な状態かもしれない。というか、どこにそんなことになってしまう要素があったのだろうか。

 

 

「――――神ヘスティア」

「ひゃい?!」

「団長のため、教えてくれますよね?」

 

 

 それは笑顔と呼ぶには目は笑っておらず、脅迫と言うには例えが陳腐すぎた。それはまさに―――

 

 ―――秘密を守って死ぬか、喋って生きながらえるか………………………わかるだろう?

 

 やっぱり脅迫のたぐいでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそして、所は何度も変わってロキファミリアの本拠地(ホーム)こと黄昏の館。館というにはあまりに立派な城とも言えるこの館。一番高い塔の頂天には道化師の旗が風に靡いている。

 中では昨晩のことで持ちきりだった。ムメーは自分への追求が酷いだろうとすでに古巣へと逃げていた。

 冒険者とはいえ、噂のたぐいは大好きである。つまり、件の話を聞きたい。だが、ベートは不機嫌だし、アイズは超越的でわからない。

 然るに彼女、ティオナ・ヒリュテに白羽の矢が立つのは必然であった。

 

 

「流れるように疫病男の腕を避け、その人はすれ違いざまに打ち据え続けたの。得物が朽ちかければ急所へと投げつけ、腕で顔を守れば新たな得物を持って立ちはだかる」

「武器は抜かなかったんですか?」

「彼の武器は攻撃には一切使わなかったの。ただ、武器を調達するときに振るうだけ、何度も何度も繰り返すうち、疫病男は顔から余裕が消えたわ」

 

 

 アマゾネスのティオナは、その好戦的な種族に見合わず、読書が好きだった。特に英雄譚が好きで、黄昏の館の書庫の一角を占めるソレは彼女の私物であったりする。色んな人に読んでもらいたいと置いているが生憎と冒険者になるのは大人ばかり。英雄譚を読むような純真さは失われた年齢だ。

 ティオナの話は続く。

 

 

「動きを束縛するように辺りに撒き散らせ始めた垢は徐々に彼を捉えようとしていた。でも、そんな目論見は通じなかった」

「跳んだんですか?!」

「違うよ。彼は得物を振るって風を起こしたの。土煙が起きるぐらいの風。それは確かに、地面にばら撒かれた垢を巻き込んで退路を作って、何度目かの肉薄をしたの」

「魔法まで使えるのか?」

「アイズさんみたいに? そんな馬鹿な」

「ムメーは単純に剣を振っただけだって。そして、彼はここで初めて構えを見せた!」

 

 

 案外上手かったようで、聞いている誰もが唾をのむ。ティオナは彼が見せた構えを再現し叫んだ。

 

 

「秘剣・鷹の爪ッ! 次の瞬間、疫病男の右腕が宙を舞い、地面に落ちたの」

『おぉおおおお…………!』

「その太刀筋は見えなかった。まぁ、ムメーを問い詰めていたからなんだけど、見ていたアイズと秘密を知るムメーは四つの剣があったということだけは本当みたい」

 

 

 あとは、判事が横やり入れて有耶無耶になっちゃった、と語りを終えた。

 そんなのがいるのか? いや、スキルじゃないか? でもムメーさんがいるし………。

 聴衆の憶測は語り部を無視して飛び交う。実際、ティオナもよくわからなかった。だけど、前例があるのは事実だった。

 

 

(ベートもムメーに倒されちゃってるからね。でも、あの時はレベル3とレベル5だったけど)

 

 

 これがベートとムメーと同様のレベルであれば関心を寄せることは――――まぁ、少ないだろう。レベルが上がるということはそれだけ何かしらのスキルが発現する可能性があるということ。それだけ戦い続けていたということだ。レフィーヤがレベル3でありながら火力だけはレベル6のリヴェリア以上なのだ。スキルという存在は格上ですら条件次第で圧倒する。

 しかし、彼はレベル1でつい最近――――ロキ曰く、ここ数日で冒険者になったばかりのひよっこだと彼らの主神の言葉から推測している。

 

 

(ひたすらに剣を振り続け、狂っているとしか思えないような信念の果てに辿り着いた存在……………まるで英雄に剣を教えたお爺ちゃんみたい)

 

 

 故郷をドラゴンに滅ぼされ、復讐のために力を求めた英雄。彼が出会ったのはドラゴンを斬ったと噂の老剣士。教えを乞うも断られ、教えてほしければドラゴンの肉を持って来いと無理難題を言われた話だ。

 

 

(肉を得るにはドラゴンを倒さなきゃならない。でも、ドラゴンを倒すために教えを乞いたい。堂々巡りの無理難題も知恵と勇気と出会った仲間たちでドラゴンを倒しちゃうんだよね)

 

 

 一人で戦ってはいけない。君と志を共にする仲間もいれば、支え合う仲間もいる。大切なものを見つけなさい、復讐心のみで生きるのはやめなさい。そう締めくくられた物語だったはずだ。

 

 

「――――――――結局あのお爺ちゃんはドラゴンを倒せるのかな? どうだったんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酷い目にあった、とヘスティアは芯から疲れた様子でロキファミリアの子とともに廃教会へ向かっていた。ポプヌスの所属するファミリアがどんなものか。ロキは知っているがゆえに、ファミリアの意匠を施したマントをはためかすラウル・ノールドを護衛代わりとして用意していた。

 これはラウルが自分の装備更新のため、魔石をちょろまかしていた罰とヘスティアに恩を売りつけるものでもある。変なところで義理堅いヘスティアなら、いざという時のためにも売っておいたほうが良いだろうとの判断だ。

 

 

「お疲れ様っす」

「ありがとう人族(ヒューマン)君。君のところの女の子はパワフルだね」

「アマゾネスっすからね。団長第一主義だし」

「なるほど」

 

 

 気さくに話しかけられるラウルに、ヘスティアは性悪(ロキ)のところにも善人は存在するだねぇ、と口には出さずに心の中で呟いていた。

 

 

「このまま本拠地に直行で?」

「うん。迷惑かけちゃってごめんね。ほら……………ねぇ?」

「ははは。有名税ってヤツっすよ」

 

 

 そんな税金、カツカツなんだから払えないよー、とため息とともに吐き出した。

 路地裏、曲がり角、軒下、屋根上、茂みの中、木の葉の中。

 今やヘスティアファミリアは暇神どもの目の前に突如として現れたデザートだった。どいつもこいつもちょっかいかけようと虎視眈々としているが、ロキファミリアの団員が側にいる。マントに施された道化師の意匠が暇神どもを躊躇させていた。

 ロキから命ぜられた任務。ヘスティアと手を組んでいると牽制せよというもの。そして―――

 

 

「シグレって人はどんな人なんすか?」

 

 

 シグレエイジという冒険者について探りを入れろというもの。次期、遠征部隊の指揮官として腹芸を覚えてこいとのことだ。

 

 

「んー………………お爺ちゃんかな。僕には縁遠いけどね」

「はぁ………?」

「実直で優しいけど、世の中の酸いも甘いも知っているよ。だから、ズレちゃってるんだろうね」

「ズレてる?」

「殺すことに躊躇を覚えないってことさ。理性もある、条理不条理もわかる」

 

 

 それは単なる危険人物ではなかろうか?

 否と、ヘスティアは答えた。

 

 

「優しいから……………性根が腐ってないから、被害が増える前に、手からこぼれ落ちる前に。イラナイモノ切り捨てるべきと割り切っちゃったんだよ」

「被害が増える前に…………」

「守れないことが多々あることを知ってしまったんだろう。彼は強い。その強さがあってなお、救えなかったんだ。掬えなかったんだ」

 

 

 とっても悲しいことさ。冷たい世界に晒されすぎたんだ。あるいは頑なすぎた、優しすぎた。それが仇となった。本人に聞かないとわからないけどね。

 

 

「て、ところかな。ロキに報告すると良いよ」

「―――――気づいていたんすか?」

「ロキが僕を善意で助けることなんて無いよ。あるのは利用価値と打算だけさ。いや、ほんの少しの憐憫や罪悪感もあるかな」

 

 

 にこりと笑うヘスティアにラウルは底知れぬナニカを感じる。

 童女の姿をしていても、これは畏怖すべき神々の一人なのだ。神算鬼謀とはこのことか。

 

 

持つもの(巨乳)持たざるもの(無乳)の確執わ別だけどね!!」

「折角の雰囲気が台無しっす!!?」

「はっはっはっは! そんな難しいこと考えたくもないのだよ、チミィ………!」

「この行き場のない尊敬の念はどうすれば…………………………!」

「遠慮なく、僕に向けたまえ。ほらほら!」

「あ、1500ヴァリスです」

「微妙に高いね!?」

 

 

 コントはここまでにして、ラウルは切り出した。こうなれば直接聞こう。

 

 

「ずばり、今後は?」

「そうだねぇ……………気が重いけど、友神を頼ってみるよ」

「友神っすか。ヘファイストス様?」

「さあ? っと、ここまででいいよ」

 

 

 気づけば廃教会の前。荒れ果てた教会は主たちの帰りを朽ちながらも待っていた。

 想像以上の荒れ果てっぷりに言葉が出ないラウルを尻目に、ヘスティアは立て付けが悪いどころか、傾いて中まで見えるその扉をどかした。

 

 

「気をつけてね。最近は冒険者を狙った通り魔も出るようだから」

「あ、はい。では、失礼するっす」

「ばいばーい」

 

 

 ヘスティアを見送って、ラウルは帰路へとついた。このことを言うべきか、言わぬべきか。どうしたかはラウルしか知らないのだった。




 誤字・脱字報告および感想・ご指摘待ってます。
 といふわけで解説いきますよ。ぱぱっとやります。


『時雨永嗣』
 その強さ、レベル1にしてレベル6に手傷を負わせるという規格外。恩恵なしで戦う場合、オラリオにおいては一部を除いて紛れもない最強である。
 もはや、一つの剣士の極致と謳われるほど。剣を壊す剣士など半人前以下というなど、武器は消耗品と割り切る冒険者とは反りは合わないのだろう。
 「斬り方を知っている。相手は実体がある。斬れぬ訳がない」


『ベル・クラネル』
 隣に立つ仲間がものすごい存在と今更になって気づいた。リヴェリアの励ましにより、その志は失わなかった。
 数打ちのナイフが主武器となったが、砕けたショートソードは戒めとして置いておこうと思っているだとか。
 「ナマ言ってすんませんでしたー!」


『ヘスティア』
 大切な家族が人間的に成長していく姿が嬉しいと心から思うこの頃。貧乏な自分ができるのは、さる友神に何としてでも彼らに必要なものを作ってくれるよう頼むしか無いと心に決めた。
 「ヘファイストスももう怒ってないよね?」


『ロキ』
 ヘスティアの子どもが気になるが、とりあえず様子見をしようと考えている。フィンからの推薦で、ラウルのためにもと密偵の任務を与えた。
 「門番、おまえら正座な?」


『フィン・ディムナ』
 何時か来るべき遠征に備え、永嗣も戦力として取り込もうと恩を売りに行った。
 最近、ティオネの扱いが雑になってきたと団員から言われ、膝をついたのは内緒の話ww
 「いやアレだよ。僕は団員を大切に思ってるから。メンドクセェなんて思ってないよ?」


『ティオネ・ヒリュテ』
 どっちが姉かわからない? 姉の【ネ】がついているほうと覚えるか、分厚い方と覚えるほうがいい。
 最近、スキルに【ダイテンシキヨヒメ】というものが発現しているとか。
 「キヨヒー先輩流石です」


『ティオナ・ヒリュテ』
 薄い方。言うと怒る。てか、殺される。
 好戦的かつ性欲旺盛なアマゾネスには珍しく、恋もしたことがなければ読書が好きだという変わり者。多くの英雄譚を読んでいたためか語り部として結構な腕前を持つ。本を読んでいるから知能が高いというわけではないの体現者。
 「好きなのはアルゴノゥトかな。最近は運命の夜って創作小説も読んでいるよ」


『ベート・ローガ』
 以前は弱者を見下すような言動が多い人物だったが、自分よりも格下のムメーに何度も負けるうちにレベルが全てではないと気づいた数少ない冒険者の一人。
 諦めた者を唾棄し、抵抗するものを認めるといったツンデレくん。
 「アレだ。戦いってのは負けを認めなければ終わってねーんだ」


『ラウル・ノールド』
 ロキファミリア期待の冒険者の一人。団長から次期遠征部隊の隊長として期待される。それは伊達でもなく、全体を見渡せる広い視野を持ち、自分でも考えられるまさに指揮官型の冒険者。
 ただし、詰めが甘いことがあるらしく、魔石の件はその典型例である。そして作者に名前を間違えられていた被害者でもある。
 「ひどい!」


『アイズ・ヴァレンシュタイン』
 レベル5の人族の少女。人形のように均整の取れた美しさを持つが、表情があまり変わらないのが玉に瑕。
 同じ剣士である永嗣に興味津々で、ムメーの発現から頭打ちの自分に何かを教示してほしいと思っている。
 ベルについては、面と向かってああ言われたのを思い出して、一人真っ赤になっていた。
 「//////」


『リヴェリア・リヨス・アールヴ』
 可愛い娘に春が来たかもしれない、と顔がほころぶロキファミリアのおかん。ハイエルフというエルフの王族だが、世界中を旅しているうちにオラリオへ流れ着いた。
 オラリオでは最強の魔法使いといわれる。
 「確かに私は二百超えのエルフだが、行き遅れではないッ!!」


『ムメー』
 仲間の追及が煩わしいので、昔の古巣とやらに逃亡している。
 その特異性はロキファミリア内部でも秘匿されており、幹部勢以外は知らない。しかし、その本来の能力は誰も知らない。
 レベル3にしてベートを容易く撃破しており、当人の実力はレベル5以上かつ条件次第ではレベル6も完封できると言われている。
 なお、二つ名は【赤マント】だとか。
 「早々、負けはせんよ」


『リュー・リオン』
 認めた異性以外の異性に肌を触れられるのを禁忌とするエルフにもれず、彼女もそうだったのだが自分にさらりと触れ、かつ嫌らしさが無かったことから、かつての友人の言葉を思い出しているご様子。
 「―――(ボッ////)


『ポプヌス』
 【疫病男】の二つ名の通り、非常にひたすらに全くもって不衛生な人族最強の冒険者。人族では唯一のレベル6であり、彼の来歴からすれば当然のことである。
 スキルの【汚れた光】は変化前のスキルからすれば皮肉とも言えるものだったりする。
 伸ばす発音がカタカナになるのが特徴。【―――だゼェ】のように。
 元ネタはドラゴンボールのバクテリアン。
 「これが俺のフレグラス」


『ハルバルス』
 判事、仲介人、仲裁屋、鉄面皮などと云われるギルドの職員。例外的にウラノスから恩恵を授かっているらしく、彼の懐刀といわれている。
 冒険者からの印象は最悪だが、一般人からの評判は良い。
 「仕事中ですので」

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