貴方は英雄ですか? いえいえ。まだ一般ぴーぽーです   作:カルメンmk2

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 お待ちかねのあの男が登場。それと、今回はキャラ崩壊がありますので、あしからず。

 以降、FGOに召喚された場合の主人公。


「ねぇ、あの二人って」
「ん? ああ、アサシンとバーサーカーのことか? よく、ああして囲碁や将棋を指しているよ」
「二人ともすごい達人―――というか、化け物なんだけど? 空位に達しているとか………え? アサシンが小次郎? いやいやいや! アレが小次郎なわけがない。だって、あんなに強くなかったわよ!?」
「仕方あるまい。NOUMINと逸般人だからな」


爺と鍛冶神、道化の眷属を交えて

 応接室に入ってから二度ほど、壁掛けの大時計がなった頃。赤い髪の男装の麗人が先ほど案内した者とともにやってきた。

 麗人は燃えるように艶やかな赤髪も印象的だが、それ以上に顔の右側を大きく隠すような眼帯のインパクトが強かった。スタイルは服の上から見ても解るほどに良い。身長も女性にしては高いだろう。

 案内は彼女に一礼すると部屋を出て行った。

 

 

「久しぶりだね、ヘファイストス!」

「ホントね。……………見栄じゃなかったようね」

 

 

 赤髪の麗人――ヘファイストスは永嗣を見てそう言った。どうやら、ヘスティアを追い出して間もなく、眷属を二人も手に入れたことが信じられなかったらしい。

 

 

「信用されてませんでしたかな」

「日頃の行いよ。食う・寝る・暇をつぶすの日常だもの」

「それはいけませんな。こちらでしっかりと躾けますゆえ」

「頼むわ」

「僕は子供扱いなのかい!?」

「「何をいまさら」」

「初対面で息が合いすぎだよ!!」

 

 

 似たような匂いを感じているせいか、二人はとても息があった。主に駄女神(ヘスティア)という名の主神(ゆうじん)についてだ。

 きょえーっと、威嚇してくるヘスティアを無視して、永嗣は件の品を見せる。

 

 

「こちらです」

「―――――どこかの冒険者が作った剣ね。…………鋳造品じゃなく、鍛造品で作られてるわ。出所は?」

「この都市に来る前に兵士崩れの山賊と殺り合いましてな。何分、路銀も底を尽いていた故、奪ったわけです」

「山賊は? 仕留めたのよね?」

「ええ。何か問題でも?」

「特にないわ。……………でも、兵士崩れ(・・・・)って言ったわよね?」

「その通りですな」

「貴方、初めて冒険者になったのでしょう?」

「なるほど。冒険者で無いものが、どうして冒険者を倒せるのか…………ですな」

「話が早くて助かるわ」

 

 

 にっこり、と騙すのは許さないと言わんばかりに肘掛けに肘を置いて、頬杖を突きながらこちらに笑いかける。彼女とて神である。面白い物や珍しいものには目がない。

 それが、世界の不文律たる冒険者と非冒険者のアドバンテージを覆していたのならなおさらだ。

 

 

「さして強くなかったからですな」

「それで片付けれるほど、恩恵って軽くないわよ?」

「逆に、どうして冒険者と思われるので? 国ならいくつもあるでしょう」

「このあたりの国と言えば、海洋都市の私兵団かラキア王国の兵士。あとは魔導国家の防衛隊ぐらいなものよ。場所も気になるけど……………何よりも」

 

 

 そう言って、ヘファイストスは徐に剣を取った。そして剣の鯉口の部分にある掠れた紋章を指さした。

 

 

「これはクロッゾ家直轄の工房で作られた証よ。すり減っているけど、解るもの」

「クロッゾ…………魔剣を作れたとか言う……」

「昔はね。で、彼らが拠点を構えているのはラキア王国なの。ラキアの軍人や関係者はみんな、冒険者なのよ」

「なるほどなるほど。だから、どうして冒険者殺せたのか吐け、と」

「そんな強くは言ってないわ。教えてくださらないって頼んでいるの」

 

 

 ヘファイストスは笑みを崩さない。それはラキアの冒険者を殺して奪った盗品だとギルドに垂れ込むと脅しかけている。

 そうされたくなければ教えろ。無言の笑みの圧力は治まらない。

 ヘスティアがわたわたと焦りはじめると、永嗣は口を開いた。

 

 

「何のことも無し。首を刎ねれば殺せる。心臓を穿てば殺せる。ただそれだけのこと」

「身体能力自体が違うわ。避けられるし、避けられない。そうではなくて?」

「攻撃が届くというのは、向こうもこちらも同じことでしょう。であれば、後の先を取ればよい」

「その後の先にいけないのが普通なの」

「そうですか。では、どいつもこいつも素人でしょうな」

「……………うちの子たちのことも含めて、かしら? その意味は解ってるわよね」

「そう聞こえませんでしたかな?」

 

 

 ヘファイストスは神威を解放した。不遜なこの痴れ者に立場の違いを解らせるために。

 しかし、その試みは敵わなかった。永嗣にはそんなものは通用しなかったのだ。

 

 平然と、目を瞑り、何の事も無げに座る永嗣を見て、ヘスティアもヘファイストスも言葉を失った。やせ我慢をしているわけでもなく、神威を感じぬほどに鈍いわけでもない。神威を感じ取ったうえで、この男はどうとも思っていないのだ。

 

 これ以上は無意味だとヘファイストスが 判断し神威を収めた後、彼女の眷属と他に一人が応接室へと乱入してきた。

 

 

「主神殿!!」

「ッ…………」

 

 

 さらしを巻いた小柄な眼帯少女。そして薄汚れてはいるが、それ以外は何もない紅い衣の白髪男。

 少女はヘファイストスを庇うように二人に立ちはだかり、白髪男はヘスティアを抱きかかえて後退した永嗣を凝視していた。

 

 

「神ヘスティア! 主神様が神威を使うとは何事か!?」

「うぇっ、僕に聞くのかい!?」

「そこの男が関係しておるのだろう! 隣にいる貴方に所縁ある者ではないか!!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて! これはちょっとした行き違いというか―――シグレ君!?」

 

 

 動かぬ眷属と、見知らぬ白髪頭の男。互いに見つめ合い、やがては戦闘態勢に入り始めている。脅すつもりで放った神威がこのような事態を起こすとは、ヘファイストスも思うまい。彼女のファミリアの団長である、小柄な少女もヘファイストスを庇うように立ちはだかるが、彼らはこっちを完全に無視している。

 

 

「―――――似ておるの。お前は誰ぞ?」

「生憎、私は君を知らないし、知るつもりもない。自ら地獄に行くような愚か者を私は知らないな。一人を除いて」

「儂の質問に答えろ。貴様の姿、声、立ち方………似すぎておる。されど気配は似ておらん。誰ぞ? お前はなんぞ?」

「知らないといった」

「ならば、お前はなんぞ? 人だが人で非ず」

「―――――――君の同類だ。いずれ君もそうなる。そうなるのを選んだ答えの結果の一つだ」

「ほう…………」

 

 

 この場にいる部外者は理解できなかった。彼らが何を言っているのか理解が出来なかった―――ただ一人を除いて。

 ヘスティアは永嗣のステイタスに出ていた種族の欄を思い出していた。

 【半英霊】…………それが彼の種族だ。そして目の前の白髪の男はいずれ、と言った。であるならば―――

 

 

(彼は…………英霊? 英雄なのか!? でも、あんな格好の英雄が存在()たなんて知らないぞ?)

 

 

 神の能力をもってして、この白髪の男は嘘をついていないと保証できる。神に嘘はつけない。子ども嘘なんて、神々には効かないからだ。

 そう思うと、ヘファイストスの態度に疑問が浮かぶ。

 

 

(ヘファイストスは温厚な優しい女神のはずなのに…………どうして神威なんて使ったんだ?)

 

 

 友神の暴挙で、混沌と化した現状。彼女の考えはヘスティアには解らなかった。

 それもそうだ。ヘスティアは優しいのだ。その上、眷属が見つからないと焦り、ようやく見つかった眷属が一癖もありそうな男だったのだ。

 

 ヘファイストスは何も変わらない。変わってなどいない。世間知らずの友神に、人の命をどうとも思わない(・・・・・・・・・・・)悪魔がそばにいるのだ。奴が大切な友神に何らかの影響を与えるかもしれない。

 だから、彼女は神威で威圧した。どんな大悪党も神には逆らわず、その裁定を受け入れた。今回も同じで、この剣をどうやって入手したのか聞き出そうとした。結果はご覧の有様だ。

 

 

「(ここが潮時ね)そこまででいいわ、ムメー」

「ムメー?」

「私の名だよ。こんな特異な名の知り合いが居たのかね?」

「…………おらんかったな。そうか……」

「わかればいい。神ヘファイストス。出しゃばり過ぎたようだ。すまない」

「別にいいわよ。椿も抑えなさい。貴方もね」

 

 

 しかし、主神様! と抗議の声を上げる椿と呼ばれた少女は、ヘファイストスの一睨みで借りてきた猫のように大人しくなった。永嗣もその気も失せたのか、戦意を抑えヘスティアを離した。

 不安げにこちらを双方を行き来するヘスティアの瞳に、永嗣は罪悪感から謝罪した。

 

 

「すまんの。険悪な雰囲気にしてしまった」

「いや……気にしなくていいよ。ヘファイストス、すまないけどこの話はなかったことにしよう。どちらも不幸になるだけだよ」

「馬鹿言わないで、ヘスティア。神に嘘はつけない。山賊に扮していたのであればオラリオに攻め込む下調べをしていたのでしょう。それを未然に防いだと判断します。でも―――――――」

 

 

 永嗣を指差し、ヘファイストスは険のこもった声で通告した。

 

 

「私の大切な友神を泣かせたら………………タダじゃおかないわ」

「そんなつもりなど無いよ。女を泣かせる時と場合は決まっておるからの」

「巫山戯ないで。そうとなれば、私情で貴方を殺すわ」

「おお、怖や怖や。………………肝に銘じておこう」

「……………………………剣の買取価格は………………13000ヴァリスね。このままじゃ売れないから、その処理費用が引かれているわ」

「構わぬよ。処理できればそれでいい」

「ふん………………椿、他の子に用意させて」

「承知した。妙な気は起こすな、新入り」

「ほっほっほ」

「チッ……………おい―――」

 

 

 椿は外に顔だけ出し、他の眷属に金を持ってくるように命じた。彼女にとって、温厚な主神をここまで不快にさせる存在というのは久しぶりだった。

 されど、過去、勢力を傘にしていた連中もここまでの不快極まるという顔にはならなかったはずだ。それ故に、この無礼な男は相当のことをしたのだと、椿は判断していた。

 

 

「―――そうか、頼むぞ。受け渡しは外でよろしいですか?」

「じゃあ、ブツはここに置いておくぞ」

「そうして頂戴。じゃ、外で渡すわ」

 

 

 さっさと終わらせたい。こいつの姿も見たくない、と視線も合わせようとしないヘファイストスと、どうでもよさそうにする永嗣。

 椿が永嗣を先に出し、後に椿とムメーが続いていく。応接室にはヘスティアとヘファイストスの二人だけ。

 少し、居心地の悪いヘスティアは自分も出ていこうとするとヘファイストスが(おもむろ)に使われる気配もなかった灰皿をひっくり返した。

 

 

「灰皿なんかひっくり返して、何をしてるんだい?」

「遮音したのよ。外に聞こえないようにね」

 

 

 大手のファミリアとは、何分、隠し事がつきまとう。聞かれては困ることや見られてはいけないものなど両手両足の指以上に存在するのだ。

 この灰皿は、そんな大手のファミリア用に秘密裏に製造された魔道具の一つである。この中では魔法を放とうと物を伝わる衝撃以外は外に漏らさない。

 

 

「ヘスティア…………神友(しんゆう)として忠告するわ。あの男と縁を切ったほうがいい」

「……………………どういうこと?」

「言ったとおりよ。私も初めてだけど………………アレはダメだわ。視界に入れるだけでも不快感が止まらない。なんというか………………………何かしらの前提が違うのよ」

「あやふやすぎるよ! それに悪い子じゃないよ!」

「貴女はそうでも、他の短気なやつならどうするの? 戦争遊戯(ウォーゲーム)を仕掛けられるかもしれない。もう一人の眷属が襲われるかもしれない。もう一度言うわ。アレとは縁を切りなさい。それが忠告よ」

「………………………家族を捨てれるわけないじゃないか」

「――――――――そう…………なら、何も言わないわ」

「ヘファイストスっ!」

「ごめんなさい。少し、一人にさせて」

 

 

 ヘスティアは応接室から追い出されてしまった。神友のあんな顔は見たことがなかった。自分はどこかで選択を間違えたのか? ヘスティアの心の中は何かしらの悪い予感が渦巻いていた。

 彼女との友好に何かしらの亀裂を入れた張本人は廊下でブスっと待っていた。

 いつも通り、先程のことなどなんのことやらと言わんばかりに険悪な雰囲気になっている。さっき迄が気に食わないやつに出会ったぐらいだとすれば、今は親の敵を見つけてしまったかのようにだ。

 

 

「シグレ君……………君ってやつは…………」

「儂ぁ、何もしておらんよ。こっちの嬢ちゃんが噛み付いてきているだけじゃ」

「キャラが被っておるからその口調はやめい! お主、主神様に何をしでかした? あのように荒ぶるなど初めてじゃぞ」

「何度も言うが、いちゃもんつけてきて儂が事実を言っただけじゃよ。そしたら今に至るだけじゃい」

「むぅ……………信じられん。主神様はそこまで狭量でないはず」

「神ヘファイストスはヘスティアが大事なのだろうな」

 

 

 ムメーが腕を組みながらヘスティアを見る。

 

 

「神ヘスティアに悪い虫がついているとでも思ったのだろう。盗人かあるいは…………大切な者がそんな輩と関わりがあるのなら、無理にでも止めようとするのが普通だ」

「正当防衛じゃよ。早々、死にたくはないからの」

「君ほどの実力なら逃げ切れたのではないかね?」

「四六時中、付きまとわれるよりいいじゃろ?」

 

 

 ため息とともに、ムメーは腕を解いた。

 丁度よいタイミングで、金を持ってやってきた。ヘファイストスの眷属がキョトンとした顔で一同を見ている。椿に、視線で何があったのか訪ねたいようだが、その椿も難しい顔で唸っているのでどうにもできない。

 見かねたムメーが椿を肘で小突く。

 

 

「ん? おお、持ってきてくれたか」

「査定の13000ヴァリスです。あの、ヘファイストス様は………?」

「ヘファイストスはちょっと一人にしてほしいんだって。少し、トラブちゃってね」

「はぁ…………?」

「とりあえず。13000ヴァリス、確かに渡したぞ。早々に去るといい」

「言われんでもそうするわい」

「私も失礼する。遠征組がもうそろそろ帰ってくるのでね。色々と準備が必要だ」

「装備の件は承ったぞ。どれぐらいかは現物次第じゃ」

「頼む」

「頼まれた」

 

 

 短い打ち合わせの後、ムメーは早々に去っていった二人を追いかけるように出ていく。残された椿は、応接室に引きこもったままのヘファイストスに気が気でない状態だ。

 覗くべきか、覗かぬべきか。敬愛する主神が心配だが、同時に神の不興を買うとなると二の足を踏んでしまう。

 そう考えると、あの男は威風堂々たる姿であった。穀潰しのファミリアの一員なのだから、大して強くはないだろうが、胆力だけは一級冒険者以上なのかもしれないな、と椿は小さく笑った。

 

 

「団長?」

「なんでもない。……………………主神様はそっとしておこう。色々とあったようだ」

「わかりました。ロキファミリアの装備の件とは?」

「神ゴブニュらが現実逃避しておってな。そのしわ寄せが来るかもしれないということだ」

「―――ああ、大切断ですか」

「うむ。大切断だ」

 

 

 腕が鳴るのぅ! と楽しそうにする椿とは対照に、うんざりした顔の団員。大切断の要求する無駄に手間のかかる武装を、ゴブニュファミリアに入団した知人から酒の席で聞かされているのだ。

 しばらく帰れないかな。彼のつぶやきは誰に聞かれることなく薄れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人は足取り重く、二人は何ともなく、一人に合わせて歩調を緩めている。そんな三人はバベルから出るところで別れることになる。

 去り際、ムメーは永嗣に向かってこう告げた。

 

 

「ところで、シグレ………だったか? マタ・ハリから言われた場所には行ったのか?」

「なんじゃ、知り合いか? 昨日の今日で行くわけないじゃろう」

「賢明な判断だ。しかし、必ず行きたまえ。必ずな」

「―――善処しようかの」

「善処したまえ。その言葉は好きではないがな」

 

 

 彼は二人と別れ、所属するファミリアの本拠に向かっていった。

 するとヘスティアが、マタ・ハリについて聞かれた。永嗣は住所を書いた紙を渡してきて、そこへ行けと言われている。それと自分の担当からもだ、と。

 

 

「それってどこだい?」

「紙は教会に置いてあるから、そこに行かなければわからん」

「ふーん……………ギルドの職員なら大丈夫かな?」

「さぁ? それより、これだけあれば服の一着や二着は買えるか?」

「冒険者用でなければ買えるよ。アレは特別頑丈にできているからね」

「なら、二着ほど買おう。残りは食材と貯蓄じゃ」

「えー! 美味しいもの食べに行こうよッ」

「ダメじゃ。もったいない」

 

 

 ぶーたれるヘスティアを引き連れ、永嗣は市場へと向かっていく。人の好さそうにしている彼を見て、ヘスティアはなおのこと、ヘファイストスの忠告の真意がわからなくなっていた。

 機嫌が悪い時に我が儘を言われれば、多少は掴めるかとも思ったがその兆しはない。幼子を安保(あやす)かのようにしてくるのは神の威厳を損なうものだが―――

 

 

「ミートパイでも作るか。安いし」

「マーベラスだよ。実にマーベラスだ」

 

 

 素晴らしい家族だ。家族を悪く言うなんて、ヘファイストスも困ったものだ。

 別に、お肉たっぷりのミートパイに買収されたわけではない。女神の鉄壁の護りはミートパイ程度では揺るぎもしない。あ、梨のタルトも追加だとぅ!? 最早、我が防衛は総崩れなり! 城を明け渡すほかあるまい!

 

 

「…………一人百面相して何をしておるんじゃ?」

「くおおお…………投タルト機の猛攻がぁ……」

 

 

 結構ドン引きな永嗣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「主神様」

「ん…………あら! もうこんな時間?」

「はい。先ほど、ロキファミリアから使いが来ての。遠征部隊も帰還。詳しい話はゴブニュを交えてしたい、とのことだ」

「わかったわ。…………ねぇ、椿」

「なんじゃ?」

「どうして私がアレに敵意を剥きだしたか…………聞かないの?」

「主神様が言いたくなければ言わないでよいと思っている。眷属は神の言うことを聞くものじゃろ」

「―――――そうね。でも、アレが来たとしても客として扱いなさい。私たちは武器を作り、それで富と名声を得ている。好き嫌いでそれを汚してはならないわ」

 

 

 専用の武器を鍛つなら別だが、売買については分別がついていることをホッとする椿。

 しかし、彼女は一瞬の逡巡の後、ヘファイストスが寝転がっていたソファの対面にどっかりと腰を落とした。

 

 

「承知した。…………やはり聞いてもよろしいか?」

「………ヘスティアにも言ったけど、なんというか………気に入らないのよ。どの顔をしてここに来たとか、今更何なんだって感じかしら」

 

 

 気だるげに答えるヘファイストスも、この不快感の原因を答えられない。子どもたちは皆、平等に接しようと心がけているのに、アレに対してはそうとは思えない。

 顔も見たくない。声も聴きたくない。視界に入れたくない。

 ヘファイストスにはわからなかった。この渦巻く環状が不快なものという他、当てはまるものなど彼女には皆目見当もつかなかった。

 

 

「ホント、なんでかしらね」

 

 

 魔石灯の明かりですら、今の自分には鬱陶しいと彼女は顔をその綺麗な腕で隠したのだった。





 もうそろそろ、処刑BGMを考えなければいけない時間となってまいりました。何がいいと思う?(ゲス笑

 色々とオリジナルな流れとなっておりますが、主人公が関わらない範囲は原作通りですので、次回をお楽しみにっ!

 それでは解説行くぞー、席に着け。


『時雨永嗣』
 神威の効かない、前代未聞の男。そも、神という存在に懐疑的であるが故にか?
 いきなり脅しをかけてきたヘファイストスに無礼だが、組織の長としては当然のことと割り切っている。
 また、ムメーなる男が気になっている。
 「あのムメーという男…………色と気配以外はそっくりなんだがのぅ」

『ヘスティア』
 ヘファイストスとの関係が悪化するのではないかと戦々恐々としているが、ミートパイと梨のタルトによってそれらを忘れた女神。
 永嗣は悪い子ではないと直感で感じているが、あまりにも感覚的なために説明できないでいる。
 「時として神々も食べ物で絆を忘れることがある。なぜなら、惜しいものを食べたいからさ!」

『ヘファイストス』
 原作では、どこぞの淫乱や貧乳と違い、マジ女神と言われるような女神。ただし、ヘスティアにはオカン気質を見せる。
 何故だかわからないが永嗣が嫌い―――嫌悪感を抱いてしまうらしく、本人としても謎である。ただし、今話の描写外で帯びている刀を見た辺りかららしい。
 「なぜかしら?」

『椿・コルブランド』
 ヘファイストスファミリアの団長で、ハーフドワーフの少女。年齢的には女性だがドワーフの血筋のためか背が低く見られ、名前からわかる通り幼く見える極東人の地も相成って少女と言われる。
 オラリオでは数少ないマスタースミスであり、一級冒険者たちの武器を鍛つなど、彼女に武器を作ってもらえるのはすごいことである。
 「楽しみじゃのう。いい素材も持ってくるだろうから、腕が鳴るわ!」

『ムメー』
 赤い外套に黒のインナー。逆立った白髪の短髪で、浅黒い肌の男。かつての誰かに色以外はそっくりと言われたり、当の本人も永嗣とは浅からぬ因縁があるようだ。
 また、武装のほとんど喪失しているロキファミリアの大事をゴブニュやヘファイストスに告げに単騎で迷宮を走破していることから相当の実力者だと思われる。
 「余計な詮索は命を捨てると同義だ。うむ。察しが早くて助かるよ」

『クロッゾ家の紋章』
 かつては魔剣鍛冶として貴族になるほど栄えたが、今は没落し、かつての栄光を求める一族。その一族が仕切るラキア最大兵廠にて生産される装備に刻印されるもの。
 必然的に、この紋章を持つならラキアに関係する存在である。

『遮音の魔道具』
 一部の道具作成系ファミリアが開発した閉鎖空間を完全な密室に変える魔道具。大手のファミリアには必ずあると言っても過言ではなく、彼らが会合する店などにもこの魔道具の改良型が置かれている。

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