ユー君
アイちゃん
お兄さん
バレー部ちゃん
指を動かす動力……それはひとえにアイちゃんの可愛さ故。
という冗談でもない冗談は置いておいて、感想の返事にも書きましたがラブコメというものは初めてなので、基本的に思いつくシチュエーションをそのまま書いています。
ちゃんとラブコメできているか、アイちゃんの可愛さを引き出せているか、色々と考えながら執筆しております。
「俺も君たちみたいな青春時代が送りたかったなぁ」
「……切実ですねお兄さん」
「まだ大丈夫ですよ! きっといい人が見つかります!」
新たな朝はお兄さんの切ない言葉から始まった。
例によって例の如く満員に近い電車の中、俺とアイ、そして最近知り合ったお兄さんは端っこの方に固まっていた。三人でそれぞれ話題を振りながら会話をしていた中、俺とアイを中心に学校の話になり、お兄さんは学生時代どんな青春を送ったのか気になったアイが質問をしたのだ。
『彼女さんはいたんですか?』
と。
それに返ってきたお兄さんの返事はいないというものだった。彼女を作ることに関しては社会人になり会社に入ると出会いが多くなりそれに期待していたみたいだが、今は会社の社畜よろしく恋愛なんてする暇もないほどに仕事に追われているらしい。話の中から伝わってくるお兄さんの負のオーラ、気のせいか禍々しい黒い色が見える気がする。そんなお兄さんの様子を見て俺とアイは二度とこの質問はしてはいけないと誓うのだった。
「部長は怖い人でね、小さなミスもすぐ怒鳴り散らすんだよね。あぁでも最近少し丸くなったかな、何があったのかは知らないけどね」
「ふむふむ、どこかでストレス発散してるんでしょうかね」
「さあどうだろうねぇ、プライベートまで話すことはあまりしないから」
う~ん、やっぱり会社という枠組みに入る以上上司とそういったこともあるのか。
いやはやお兄さんの話は本当に新鮮で楽しい。まあ聞く側で社会人を経験していない学生だからこのような意見を持つのだろうけど、今現実にそんな社会人人生を送っているお兄さんからすればたまったものではないか。
それからお兄さんは今日提出する書類があるらしく確認のため会話から外れることになった。
お兄さんが会話から外れたことで必然と言葉を交わすのは俺とアイの二人、そんな中アイがスマホの映像で見せたいものがあるらしく取り出した。
「……見ずらい」
「まあ狭いし揺れるからな」
手元に持ったスマホの映像を俺に見せようとしたのだが、電車に乗っているせいか手が震えて画面が見ずらい。
そんな中どうしたものかと考えるアイだったが、何かを思いついたのか若干恥ずかしそうにしながら上目遣いで俺を見上げてきた。どうして何かを思いついて恥ずかしそうにするのか俺には理解できなかったが、次のアイの行動でその答えを俺は知った。
「……こうすれば見えるよね?」
「……それは予想外だわ」
思わず口に出てしまった。
アイが行った行動、それは俺と密着していることで形を変えているアイ自身の胸の上にスマホを置くという行為だ。まあ確かにその胸を台にすることで俺の位置から見えやすくはなるけども、流石にこれは予想外だった。大事なことなので二回言っておく。
「……恥ずかしいねちょっと」
「……あぁ」
はにかむアイが可愛い……じゃなくて。
俺はこの状況どうすればいいんだ。スマホを見るということは必然的にアイの豊満な胸を直視することに等しいので何とも言えない、かといって視線を上に上げればアイが上目遣いで見つめてくるという構図……あかん、この構図はあかん。あと心なしかアイが更に密着してきているような気がする。だってその証拠にさっきよりもむにゅりと胸が歪んでいるのだから。
それから暫くそんな時間が続いて俺たちは目的の駅に着き電車から降りた。
アイが見せたがっていた動画の感想? そんなもんは自分の理性と戦うのに必死で記憶に残っちゃいない。
「まさか電車の中で幼馴染がたわわチャレンジをしてくるとは思わなかった」
「い、言わないでってば! でも……どうだった?」
「何が?」
「その……私の胸の感触……」
「……柔らかかった」
「そ、そう……」
ぎこちなく会話をする俺たちを不思議そうに見る目を多く感じた気がするが、生憎と今の俺とアイにそれを気に掛ける暇なんてないのだった。
電車でお兄さんと出会い、幼馴染にはたわわチャレンジというご褒美をもらい、学校に着いて席に座るといつもと同じBGMが耳に届く。
「おぉ、今日も良い弾力ですなぁ」
「ちょ、ちょっともうやめ……あん……ぅあ……っ!」
胸を揉むバレー部ちゃんと揉まれるアイの声である。
というかバレー部ちゃんは本当に毎日アイの胸を揉んでいるが飽きないな。二人の行為を見て顔を赤くしている男子に一睨みしてバレー部ちゃんを引き剥がす。
「お前はいい加減それやめろって」
「いや、私からそれ取ったら何が残るの?」
「……………」
「……私がいけないって自覚はあるんだけど、そこで無言になられるのは傷つくわ」
それはすまん。
でもバレー部ちゃんって基本アイにセクハラしてる所しか印象が……あれ、マジでバレー部ちゃんに対する印象がそれしかない。いやいや、バレー部ちゃんにもきっともっとマシな所があるはずだ。頭を振り絞って思い出すんだ……あれ、マジで出てこない。
「声に出てるよ! 流石にひどすぎでしょ! そう思うよね!?」
「……ユー君の言う通りかなぁ」
「ちょっと!?」
珍しくバレー部ちゃんが沈んだ瞬間である。
それから先生が来て朝礼が始まり、一限目が始まったのだが今回担当の先生がお休みと言うことで自習となった。騒がしくしないのであれば隣の席、或いは後ろや前の席の生徒と話しながら勉強に取り組んでもいいということになったので、ごく自然な流れで隣の席のアイが机を引っ付けてきた。
お互い分からない所は聞きあうのだが、その度に近くに来るアイの甘い香りが鼻をくすぐってしまう。とはいえ意識しているのは俺だけでなくアイも同じようで少しばかり照れている。
「……?」
「……(ニヤニヤ)」
視線を感じて後ろを見ればバレー部ちゃんがニヤニヤ笑っていた。
面白いものはなんもねえぞ、そう視線で伝えていた俺の頬に優しくプスッとシャーペンが当たる。何かと思い視線を向けるとアイがちょっとだけ不機嫌そうに頬を膨らませていた。俺はそんなアイを見て苦笑一つ、アイはそれが少し気に入らなかったのかチクチクとシャーペンを突き続けてくる。
アイが抱える気持ちはおそらく嫉妬、それはずっと傍にいたからこそ分かるもの。
『今は私と一緒に勉強してるの。余所見しないで』
アイの目はそう言っているようで、そんなアイが本当に可愛らしく思えて仕方ない。
ペンを握る手とは別の空いた手でアイの空いている手を握る。左利きの俺、右利きのアイだからこそ繋がることのできる手と手。
「あ……ふふ」
一瞬びっくりしたようだったがすぐに笑顔が咲いた。
そんなアイの表情を見て勉強を本格的に再開しようと手を離そうとしたのだが、離さないと言わんばかりに強く握られた。今度は俺の方が驚いてアイに視線を向けるのだが、アイはすでに視線をノートに移して文字を書いている。けれどもその横顔は少し赤くなっていて照れているというのはよく分かった。
アイの様子に小さく笑みが零れ視線をノートに移したその時、アイがノートを滑らせるように俺の机へと侵入させた。そのノートの端には小さく“嫌?”と女の子特有の丸っこい字が書かれていた。
それを見て俺が書いた文字はこうである。
“嫌じゃないよ”
そう返した文字を見てさらに強くなった握るアイの手の力。
学校の授業の時間だというのに今日はとっても甘酸っぱい不思議な時間。たまには悪くないなと、視線が絡み合ったアイと一緒に笑い合うのだった。
もちろん、その一限目の後の休憩時間にバレー部ちゃんがからかってくるのもお約束と言えばお約束なのだった。