ユー君
アイちゃん
後輩ちゃん
先輩さん
今度から前書きに登場人物を記載しておきましょうかね。
……はぁ。
青春っていいなぁ(白目
「……へぇ、この芸能人また出てきたのか」
外が暗闇に染まった23時頃、俺は自宅のリビングでテレビを見ながら寛いでいた。
姉さんが帰ってこないためアイの家で夕飯をご馳走になったが……うん、大変美味でございました。アイが最初は作っていたがお母さんも合流して本格的に調理開始。いやぁあの野菜炒めは最高に美味しかった。
『いつでもアイをもらってくれていいのよ?』
『そうなるとユー兄さん……う~ん、ユーお兄ちゃん……どれも捨てがたい呼び方だなぁ』
毎回俺がアイの家を訪れる度にされるやり取り、それによってアイが小さくなるのは相変わらずだった。
「……………」
それから静かにテレビを見ること数分後、来客を知らせるチャイムが響いた。
この時間帯で客が来ることはまずないので、ほぼ確実に姉が帰ってきたのだと予想ができた。ソファから立ち上がって玄関に向かいドアを開けると、そこにいたのはやっぱり姉ともう一人――先輩さんだった。
「やあユー君、こんばんは」
「どうもです先輩さん。毎度毎度姉をありがとうございます」
酒が入って足元が覚束ないであろう姉を支える先輩さんにお礼を言うと、むぅと口を尖らせた姉が口を開いた。
「もうユー君、まるで先輩がいないと私がダメみたいじゃないの~」
そう言ってるのが分からないのかこの姉は……。
というか相当酔っぱらっているな今日は。顔も赤いし何より酒の匂いが半端じゃない。姉自身も酒に弱いことは自覚しているはずなのだが、一度飲みだしたら止まらないのはひとえに酒の力なのだろう。こんな姉を見ると将来お酒には気を付けようと考える瞬間だ。
姉の靴を脱がして先輩さんの代わりに抱きとめ、そのままリビングのソファへと運ぶ。
ソファにグッタリと寝そべった姉の表情は天国にいるかのようにだらしないもの、俺や先輩さんがいるにも関わらず無防備だ。
そんな姉の姿を見た俺と先輩さんは二人揃ってため息を吐き、とりあえず先輩さんには座ってもらって冷蔵庫から水を取り出して差し出した。
「ありがとうユー君」
「いえ、相変わらず大した持て成しもできないですけど」
「こんな夜なんだ。そんな贅沢は言えないし言うつもりもないさ」
そう爽やかに言う先輩さんに自然と笑みが零れる。
姉をここまで連れてきてくれた先輩さんだがどうやらタクシーを待たせているようで、水を飲んだ先輩さんはすぐに帰るように玄関に向かう。姉さんを起こそうとしたが先輩さんがいいと言って俺だけが見送る形になった。わざわざ先輩に送ってもらった後輩である姉さんが起きないというのに、声を荒げるでもなく姉はそういうものなのだと受け止め理解している先輩さんは本当に優しい人だ。
「それじゃあねユー君。また今度ご飯でもいこうか、お姉さんも一緒に」
「あはは、ありがとうございます。その時は是非」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そういって先輩さんはタクシーに乗り帰っていった。
タクシーが見えなくなるまでその場にいた俺は家に戻り、とりあえず姉さんを起こさないといけない。別に寒い時期ではないが流石にリビングで寝て風邪を引かれても困る。
ソファで眠りこける姉さんの肩を揺らすと、寝ぼけてはいるのだろうが薄っすらと目を開けた。
「ほら姉さん起きなよ。ここじゃなくて部屋で寝なって」
「……ううん……お部屋連れてって~」
「……………」
抱いて~と言わんばかりに両手を広げる姉さんに二度目の溜息が出た。
まあ仕方ないかと思い腕を伸ばして姉さんを抱き上げようとしたその時、いきなりその腕を掴まれ引き寄せられる。咄嗟のことに踏ん張ることができずそのまま姉に追い被さる様に倒れこんでしまった。姉の持つ豊満な二つの胸の間に顔が導かれた。
「ふふふん♪ ユー君~♪」
「……ちょっと姉さん?」
「う~ん? な~に?」
甘く囁くようにそう言う姉さん、昔のように甘えたい衝動に駆られそうになるが俺ももういい年である。顔から直に伝わる天国の如く柔らかい感触は余すことなく堪能するがそれ以上のことはない。とはいえ酒が入った姉さんが絡み上戸になるというのはこういうことで、こうなった以上満足するまでこうさせておくのが一番手っ取り早い……決して感触を味わいたいからとかそんなつもりも微塵もない……ないったらない。
「大きくなったよねユー君」
「もう高校生だからね」
「うん。もう高校生……もうすぐ大人なんだよね」
優しく頭を撫でられる感覚がくすぐったくも居心地がいい。姉さんの胸元に顔を埋めていることで甘い匂いがする……でもやっぱり酒の匂いが所々で臭うのが全てを台無しにしていると言っても過言ではなかった。
ようやく満足したのか姉さんの拘束が弱まったことで俺は立ち上がり姉さんを抱き上げた。
首の裏に手を回してもらってそのまま向かうのは姉さんの部屋、ベッドに向かい姉さんを優しく下ろす。姉さんは少しだけ目が覚めてしまったのかパッチリとは行かないまでも大きく目を開けて口を開いた。
「ありがとうユー君」
「いいっていいって」
姉さんのお礼を受け取り、俺はそうだと続ける。
「姉さん明日朝辛いようなら弁当とかいいよ? コンビニで買うからさ」
何だかんだでもう夜も遅い、その上明日弁当を作るのに早く起きてもらうのは申し訳なかった。そう思ったからこそこんなことを言ったのだが、姉さんは笑顔でこう返してきた。
「そんな心配しないで大丈夫だよ。ユー君のお弁当を作るのも姉として私の楽しみでもあるんだから」
「……そっか。じゃあいつも通りお願いするよ」
「うん。任されました」
そう言って姉さんの瞼が段々降りてきた。
もうこうして会話するのも辛そうで今すぐにでも眠ってしまいそう。俺は部屋の電気を消して姉さんの部屋を出るのだった。
「おやすみ姉さん」
「おやすみなさいユー君」
背中に届いた姉さんの声を最後に入り口の扉が閉まった。
点いていたリビングの電気とテレビを消して自室に戻ると、ちょうどベッドの上に置かれていたスマホが着信を知らせていた。
慌てて手に取って誰からか確認するとアイからだった。
「もしもし?」
『あ、ユー君寝てたかな?』
姉を待っていたし今から寝る所だったと伝える。
それなら少しだけ話をしようということになった。思えばこうして寝る前にアイから電話が掛かってくることは珍しいことじゃない。どちらかと言えばずっと続いていた日常の一部である。
それから数分だけ他愛もない話をして、お互いにそろそろ寝ようかという時だった。
『そろそろ寝ようかな。ねえユー君、ユー君は寝るときどんなことを考えながら寝る?』
「どんなこと……か」
アイからの問いかけに少し言葉が詰まる。
いきなり唐突な問いかけであったのもあるが少し考えても答えが出てこなかったのもある。というか別に寝る前に考えることがあまりないのだ。気づけば寝て気づけば朝を迎えているものだから。
そう伝えるとアイは小さく笑って、次にこう続けてきた。
『私はね。ユー君のこと考えてるよ。また明日も、ユー君と一緒に楽しく過ごしたいなって』
不意打ちのように耳に響くアイの言葉。
正直くそ照れくさいのだが、ここで言葉に詰まるのもどうだと思った気がした。俺は少しだけアイをびっくりさせようかなと思いこう返すのだった。
「……そっか、じゃあ俺も今日からアイのことを考えながら寝ようかな」
『えっ!? あ、あの……ユー君?』
「今日もアイは可愛かったなぁとか、バレー部ちゃんの絡みは眼福だったなぁとか」
『か、かわっ!? というか眼福!?』
「……また今日みたいに、一緒に出掛けて楽しく過ごしたいなってな」
『あ……~っ!』
何やら悶える声が聞こえる。
なぜだか枕を抱きしめベッドの上で悶絶するアイの姿がこれでもかと想像できた。
「ははは、まあそろそろ寝ますかね」
『……そうだね。ユー君、おやすみなさい』
「あぁ、おやすみアイ」
こんな甘酸っぱい時間のことを青春とでも言うのだろうか。
1日が終わり始まるのはまた別の1日、でも一つだけ分かることは――明日は今日よりも、きっと楽しくて素晴らしい1日だということ。
絶対に来る明日という1日の期待、それを胸に秘めて今日という1日は終わるのだった。
「……………」
『……………』
「切らねえの?」
『ユー君こそ切らないの?』
「……………」
『……………』
「……はは、それじゃあせ~ので切るか」
『うん分かった。それじゃあ』
「『せ~の!』」
プツッ!
3000字という短さの中で、少しでも楽しみを届けられたらと思います。
そういえば11話で出た徳森さん……すごい可愛かったです(笑)