月曜日のたわわ〜幼馴染はとてもたわわです〜   作:とちおとめ

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先輩と後輩ちゃんは歩き出す

 初めての出会いはなんてことはない、会社に居れば何度でも目にする新入社員の挨拶だった。

 

『初めまして! 今日よりみなさんのお世話になります! よろしくお願いします!』

 

 元気な奴が入ってきたなと、当時の俺はそれだけを感じていた。社会の厳しさというのをまだ知らない、そんな無垢なイメージも抱いていたかな。とにかく最初の出会いは特に変わりはなく、俺は彼女――後輩に関して当たり前のことだが特別な何かを抱くことはなかった。

 とにかく礼儀正しい、おまけにスタイルも良く美人ということもあって後輩は男たちから注目されていた。仕事をする中で色々遊びの誘いであったり仕事の後のご飯だったりと、結構誘われてはいたが後輩がそれに頷くことはなかったのだ。とにかく彼女はガードが固かった。

 特に絡みはなかった……でもいつからだろうか、俺が後輩とよく話をするようになったのは。

 

『先輩! これ教えてください!』

 

 いつの間にか先輩と呼ばれるようになって、仕事に関して多くのことを頼られるようになった。

 後輩は物覚えが悪いとかそういうことはなく、一度教えればすぐにできるようになるほどには賢い……ただ物凄くドジっ子ではあったが。まあそのドジな部分も後輩のことを知っていけば知っていくほど、愛嬌というか可愛い部分というか……なんとなくそんな風に感じるようになっていたのだ。

 

『私思うんです。先輩と会えて、本当に良かったなって』

 

 ふとした時に、ドキッとするようなことも言ってくれて慌てたこともある。

 その都度何言ってんだとそっぽを向いて誤魔化したりしていたが、それが照れ隠しということにおそらく後輩は気付かなかっただろう。こんな誤解させるような言葉を言うくせに、後輩はとんでもなく鈍感なのだから。

 過去を振り返り後輩との出会いから今までのことを思い返せば、本当に後輩と過ごしたたくさんの記憶が蘇ってくる。その記憶は決して嫌なものではない、むしろ心地よく温かったものだ。会社で働くにあたり、特に代わり映えのないと思っていた日常に突如現れた変化を及ぼす存在……後輩の存在は俺の生活に間違いなく影響を与えた。

 

「……………」

 

 そしてそんな多くの時間を超えて訪れた今という瞬間、俺は後輩に告白をされた。

 

「……好きなんです。先輩のことが……好きで好きで仕方ないんです!」

 

 頬を真っ赤に染め、涙を浮かべながら後輩は俺に言葉を紡いだ。

 いきなりのことに頭が真っ白になってしまうほどの衝撃を受けたが、流石に聞き取れなかったからもう一度言ってくれとかそんな言葉を吐くつもりはない。告白というものは大なり小なり勇気というものがいる……後輩は勇気を振り絞って俺に好きだと伝えてくれた。

 後輩の気持ちは……あぁもう、正直に言おう。

 

 ――とても嬉しい。

 

 そう、俺も分かっている……ずっと前から俺もきっと好きだったのだろう。恋をしていたのだろう。目の前の彼女に、俺は間違いなく好きだという感情を抱いていた。

 今回のことに関して一つだけ残念だと思うのは、やっぱり告白は俺の方からしたかったということだろうか。結局それも変化を恐れたヘタレである俺の責任ではあるが、それでもやっぱり後輩に俺から気持ちを伝えたかった。

 

「……はぁ」

 

 小さなため息を一つ、他意はなかったが後輩にとって俺のため息は別の意味に見えたのかもしれない。

 

「あ……先輩……私……」

 

 ポロポロと涙を流す後輩の姿があった。

 別に俺はエスパーというわけではないが、どうしたことか後輩の心の動きがこれでもかとわかってしまったのだ。少しの誤解に悲しむ後輩の姿に、俺は場違いなものだが言いようのない愛おしさを感じた。だからこそ、本当の意味で気持ちを自覚し、後輩にはずっと笑っていてほしいと密かに思い続けている俺なのだ……後輩にそんな泣き顔をさせ続けたくなくて、俺は後輩に近づきその体をゆっくりと抱きしめた。

 

「っ!? せん……ぱい……?」

 

 震える体、同時に触れたことで体温を感じる後輩……俺は後輩の頭を撫でながら口を開く。

 

「俺から伝えたかったんだけどな。やっぱりこういう告白ってのは男からしないとダメだろ」

「……ふぇ!?」

 

 このご時世にふぇなんて驚き方をする奴がいるとは驚きである。けれどまあ、その反応はとても可愛かった。おかしいな、俺は心の中とはいえあまり恥ずかしいセリフを言う人間ではなかったはずなのだが、それほどに今の俺は後輩に対して愛情を感じているということか。

 後輩を抱きしめ少しだけ落ち着くのを待ち、そして俺は伝えるべきをことを口にするのだった。

 

「俺もお前が好きだよ。これからの人生、共に歩いてほしい……って、流石にこれは早かったかな」

「……っ!!」

 

 くしゃりと後輩の表情が歪み、次いで止めどなく涙が溢れてきた。後輩は間違いなく泣いている、泣いているというのにその顔はどうしようもないほどに緩み切っていて……本当に嬉しそうにはにかむ笑顔だった。

 

「早くなんかありません……私は全然バッチコイです! だから先輩、これからも私の傍に……今まで以上にいてくれますか?」

 

 その後輩の問いに俺は頷き改めて抱きしめるのだった。

 

「もちろんだ。約束する……お前も、俺の傍にいてくれるか?」

 

 俺の問いかけに後輩は強く頷き、更に俺を求めるように背中に回した腕に力を込めてきた。

 

「はい! 末永く、よろしくお願いしますね。先輩!」

 

 抱きしめられながら、俺を見上げる後輩の顔は今まで見たどんな笑顔よりも奇麗なものだった。この腕の中にある温もり、それを俺はこれからずっと抱きしめ続け離すことはしないだろう……それほどに俺は後輩のことが好きなのだから。

 

「ねえ先輩」

「うん? どうした?」

「……キス……してください」

「……あぁ」

 

 よく言う言葉だろうけど、後輩との初めてのキスは当然のことながら……涙の味がするのだった。お互いに触れ合うだけのキスだというのに、こんなにも心が満たされるのは生まれて初めての感覚だ。唇を離し、お互いに無言の時間が続く中ふと後輩が呟く。

 

「先輩、私……もっと先輩と触れ合いたいです。もっと、先輩を感じたいです。……ダメですか?」

 

 ……こんなことを言われてダメという男はいないと思う。

 けれど場所が場所だけに俺も踏ん切りが付かない……だってここは後輩の家だからな。ユー君がいつ帰ってくるかも分からないんだ。

 後輩の潤んだ瞳に見つめられながら俺は迷い続ける、そんな中俺のスマホが震えた。後輩に一つ声をかけ、確かめてみるとメッセージは後輩の弟であるユー君からだった。

 その内容はというと。

 

『まだ帰らないので、姉さんを頼みます』

 

 そんな短いものだった。

 あまりに都合の良すぎるタイミングに俺はびっくりするが、ここは一つユー君の言葉に甘えることにした。

 今日この日は俺にとって忘れられない日になるはず、何も代えがたい大切な宝物ができたそんな日なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、それじゃ行くとするか」

「うん。家に泊まる?」

「そうだなぁ。明日は休みだしお邪魔しようかね」

「えへへ、やった!」

 

 自宅の前でスマホをポケットにしまい、ユーはアイと共に歩き始めた。今回の出来事は本当に偶然で、帰ってきた瞬間にユーは告白現場に遭遇したのだ。そこからどうしようかととりあえずアイに連絡を入れ、アイも気になったのか野次馬根性全開で息を切らしながらユーに合流するのだった。

 正直姉とその好きな人である先輩の告白のことを盗み聞きするのは失礼かと思ったが、ユーにとって姉は大切な家族なのだ。故に気になってしまい玄関ではなくリビングの声が比較的聞こえる場所にアイと共に隠れ、そして告白の成り行きを見守っていたのだ。結果は姉の嬉しそうな表情で分かるように、上手くいったことでユーも肩の荷が下りた。後はまあ……そういう雰囲気になりそうだったので先輩に帰らない旨のメッセージを送ったというわけである。

 アイの家に向かうため、暗い夜道をユーはアイと腕を組んで歩く。

 流石に夜が遅いということもあって周りには人がいなく、静寂の空間が広がっている。そんな空間の中で、改めてユーは姉の幸せを嬉しく思い……そしてアイの存在を視界に入れる。好きな人と一緒にいられる、それは本当に素敵なことだとユーは改めて感じた。ジッと見ていたことが分かったのか、アイが気づき首を傾げてきた。

 

「どうしたの?」

 

 疑問を口にするのと同時に、人間は大体どうしたのかと表情にも表れる。けれども今、アイは確かに疑問を口にしたが表情はとても嬉しさに満ち溢れていた。その理由はなんてことはない、どんな小さな理由があったにせよアイはユーに見つめられたということが嬉しかったのだ。

 アイの笑顔は可愛くて、そして何よりユーにとっても心を満たしてくれる笑顔。ユーは思わず笑みを浮かべアイに囁くのだった。

 

「好きだよ。アイ」

 

 いつも伝えている言葉ではあるが、やはり言葉で伝えるということはとても素晴らしいことだ。嘘偽りのない心のからの言葉、それを聞いたアイがユーに返す言葉はもちろん、アイがいつもユーに対して抱く素直な言葉。

 

「私も好きだよ。ユー君」

 

 道のど真ん中だというのに、思わずユーがアイを抱きしめたのは言うまでもなかった。

 ユーの家からアイの家まではそんなにかからない、でも二人が家に着いたのはかなり時間が経ってからだった。家に着いたユーとアイを見て、アイの母親が頬に手を当てて「あらあらまあまあ」と楽しそうに呟く……まあそういうことがあったというわけだ。

 

 

 

 

「……うぅ、外でだなんて変態さんだよぉ」

「流石に済まなかった。でも一つだけ言わせてくれ、アイが可愛すぎるのがいけないんだ」

「もう!! ……ま、まあ私も思いっきり求めちゃったしおあいこだね」

「お姉ちゃんたち……何話してるの?」

「あなたもそのうち分かるようになるわ。でもやっぱりアイは私の娘だわぁ。私も若い頃は――」

 

 本日もアイの家は賑やかだ。




先輩と呼び更に敬語だと、どうしてもマシュが思い浮かぶ不思議。

マシュで思い浮かびましたが、ハーメルンにはFateの素晴らしい小説が多くて毎日読むのがやめられないですね。

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