GATE くうかんポケモン 彼の地にて、時空を越えて戦えり 作:00G
「古田、機関銃、ここ。東、小銃はここ」
桑原が隊員たちの配置と担当範囲を決めていき、隊員たちはその指示に従って動いていく。
伊丹が額を強打してからその後、伊丹たちは現在敵対関係である帝国の第三皇女ピニャ・コ・ラーダからイタリカの現状を伝えられた。
アルヌスの丘で戦った連合諸王国軍の敗残兵が盗賊となってこのイタリカに攻め込んできたということを聞いた伊丹はイタリカ防衛に協力することを決定した。
今の状態では本来の翼竜の鱗の換金が出来ない、という理由もあってのことで協力することになったのだ。
協力することになった伊丹たち第3偵察隊は先の戦闘で甚大な被害を受けた南門の防衛をすることになった。
だが、伊丹はピニャから決して良い感情で迎え入れられた訳ではない。
1ヶ月も続いている戦闘で、イタリカは疲弊しきっていた。
日に日に兵士の数が減り、士気も下がっていく。
そこに自衛隊という異国の軍隊が現れ、イタリカ防衛に協力してくれると言った。
使える物なら何でも使う。例えそれが異国の敵であっても。
一度破られた南門に配属させれば捨て駒としても利用できる。
そういう理由があってピニャは自衛隊を招き入れ、伊丹もその心意は察している。
「ねぇイタミぃ?どうしてあの皇女様に味方するのぉ?」
いつ来るかわからない盗賊を迎え撃つ準備をしている伊丹のもとに、ロゥリィが訊ねた。
「街の人を守るため、さ」
「本気で言ってるのぉ?」
伊丹の答えにロゥリィは破顔する。
伊丹たちにとって帝国は敵であるため、今こうして協力する理由などはまずない。
ピニャからの申し出も、頼み事というよりもはや命令だった。
その場にはロゥリィも同席しており、あまりの態度に部屋を出ていってやろうかと思ったほどだ。
それなのに伊丹は街の人を守るということに同意した。
「理由が気になるのか?」
伊丹は暗視装置を鉄帽――自衛隊が被るヘルメットのこと――に取り付けながら訊く。
しかし、うまく取り付けられずにいたため、ロゥリィは伊丹の代わりに鉄帽を持って伊丹が暗視装置を取り付けやすくなるように支える。
「エムロイは戦いの神。人を殺めることを否定しないわぁ。 でも、それだけに動機がとても重視されるのよぉ」
伊丹はロゥリィの質問に対して、唇を歪めながら答えた。
「ここの住民を守るため。それは嘘じゃない」
「ホントぉ?」
「もちろん。それにもう一つ、俺たちと喧嘩するより仲良くした方が得って、あのお姫様に理解してもらうためさ」
伊丹の答えを聞くと、ロゥリィは邪悪そうに微笑む。
「気に入った。気に入ったわぁそれ!」
あのお姫様の魂魄に恐怖を刻み込ませる。
自衛隊の力を余すことなく見せつけ、自分が対立しようとしている相手が計り知れない力を持っているということを知らしめる。
ロゥリィはひょいと南門の城壁に跳び上がり、ダンスの相手に挨拶するようにスカートを摘まんで頭を下げた。
「パンツ見えるぞ」
いつの間にかいた平猫が上を見上げながらポツリと呟く。
ビキリ、と空気が凍る。
ロゥリィはスカートの端を摘まんだまま銅像のようにピクリとも動かない。
いや、よく見ればプルプルと震えていた。
伊丹はそそくさとその場から静かに離れていった。
近くにいた他の自衛隊員たちも例外なく、伊丹に続くように一人、また一人と城壁から降りていく。
全員が城壁から降りると、城壁の上から爆音が響いた。
だが平猫を心配する者は今ここには誰一人もいなかった。
現段階で平猫の扱いはだいたいこんなもんである。
そして時間は経ち、辺りが夜闇に包まれた頃に戦況は大きく動いた。
暗闇に乗じて盗賊たちが攻めてきた。
だが、攻めてきたのは伊丹たちがいる南門ではなく、東門だった。
ピニャの思惑は外れ、自衛隊を捨て駒として使うことは外れたというわけだ。
さて、盗賊が攻めてこなかったため被害が一切なかった伊丹たちだったが少々別の問題が発生していた。
「ダメょ、ダメ、ダメなのぉ……このままじゃおかしくなっちゃうぅぅ!!」
ロゥリィが艶やかさを孕んだ声色で絶叫をあげたのだ。
彼女は戦いの神エムロイの使徒である。
戦いによって死んだ者たちの魂が彼女を通してエムロイのもとに召される。
その過程で、ロゥリィは媚薬に似た快感に襲われる。
戦いに身を任せば解消されるが、今南門で動かずにいることがロゥリィを更に苦しませた。
「伊丹、お前に訊くぞ」
快感に悶えるロゥリィの横で、平猫が伊丹に尋ねた。
「今この時もイタリカの民は死んでいっている。お前はどうするつもりだ?」
間抜け面の顔で伊丹の顔を真っ直ぐ見つめる平猫。
意外にも、平猫の目は間抜けな表情とは違い妙に真剣な雰囲気を醸し出していた。
伊丹の中では答えは出ていた。
「栗林!すまないが、ロゥリィについてやってくれ。 あと、富田二等陸曹と俺。この四人で東門へ行く。桑原曹長、後は頼む」
「ロゥリィ行くよ!少しの間辛抱して!」
伊丹の指示に従って各自が行動を開始し、栗林がロゥリィに声をかける。
だがロゥリィは媚薬に似た快感に襲われていたため我慢できず、栗林の肩を掴むとすぐに城壁から飛び降りて東門に向かって走り出した。
伊丹たちも急いで城壁下に停車させていた車に乗り込み、東門へと車を走らせた。
「ロゥリィのやつあんなにはしゃぎやがって。ぬううぅぅぅううぅぅん!!」
やれやれ、とため息を吐いたは唸り声をあげた。
ビキビキッ、とすごい音をたてながら変貌していった。
ずんぐりとした胴体からは筋肉が膨れ上がり丸太のように太くなった手足が生え、体長も50センチから1メートル90センチのマッチョマンへと変貌した。
さすがに平猫を見続けていた第3偵察隊の隊員たちもポカンと口を開けたまま立ち尽くす。
マッチョマンへと変貌した平猫はそんな隊員たちを無視して城壁から飛び降り、ズドンッと地響きをあげながら着地した。
「では、アデュー」
『パチン(ゝω・´☆)』と平猫はウインクを一つすると、土煙をあげながら東門へと爆走していった。
「…………伊丹隊長に報告するか?」
「…………平猫のことなんて今さらだろ」
「…………それもそうか」
現実逃避した隊員たちだった。
☆☆☆
「盗賊なら農村辺りを襲っていればいいんだ! 城市を陥そうとするとは、生意気な!」
ノーマは怒鳴りつつ、城壁を登ってくる盗賊を切りつける。
ピニャの指揮で盗賊はもう一度南側から攻めてくると予想して異世界からやって来たと思われるジエイタイなる軍を配属させた。
だが予想と反して、盗賊が攻めてきたのは東門。
これまでの盗賊との戦闘でイタリカの民兵たちの士気は下がりきっている。
加えて盗賊共は死ぬことをなんとも思っておらず、むしろ嬉しそうに笑いながら殺されに来ている。
戦う実力も、気迫も負けているイタリカの民たちは雪崩のように押し寄せてくる盗賊に次々と殺されていった。
城壁から矢を放っても、盗賊の中にいる精霊使いが風を操って矢を反らす。
終いには城門を開け放たれてしまい、中に盗賊が雪崩のように押し寄せてきてしまった。
ノーマは次々と城壁に上がってくる盗賊を相手に戦うが一向に数が減らない盗賊の相手はやはり厳しく、後ろから襲いかかってきた盗賊に背中を切られた。
ノーマはそちらに振り返り、襲いかかってきた盗賊を手に持った剣で切り殺したが次々と現れる盗賊に切られる。
そして、城壁から力なく崩れ落ちるようにして落下し、力尽きた。
城門内では、城門を越えた盗賊たちがこれまで殺してきたイタリカの住民たちの死体を柵の方に向かって乱暴に投げ捨てた。
さらにはその死体を蹴り上げ、罵倒を浴びせる始末。
柵の向こう側で見ているしかなかったイタリカの青年の一人が柵を飛び越え、それを止めようとする者と勢いにつられて飛び出す。
東門の守りは呆気なく崩れ落ちた。
「騎士ノーマ、討死!」
「……味方が脆すぎる。士気は上がっていたはずなのに……」
もはや茫然とした様子で、ノーマが殺されたことを知るピニャ。
今こうしている間にも、瞬く間に城門内で戦う民兵たちが命を落としていく。
もはや彼らにとっては絶望でしかなかった。
盗賊は笑いながら殺し、遺体を踏みつけ、虐殺を続ける。
もうお仕舞いだ。
そう思った時、楽しそうに笑う少女の声が聞こえてきた。
全員一瞬動きを止めてその笑い声が聞こえた方向へと首を動かすと、鈍い金属音と共に巨大なハルバートを軽々と担ぐ少女、ロゥリィが降りてきた。
突然現れた少女に視線を向ける。
の近くにいた盗賊の一人が手に持った鎖で繋がった鉄球を降り下ろす。
だがロゥリィは降り下ろされた鉄球を視線を合わせずに回避し、盗賊の頭部をハルバートで横殴りに吹き飛ばした。
盗賊が被っていた兜は殴られた箇所から砕け散った。
兜という頭部を守るものを破壊するほどの力で殴られたため、その盗賊の頭蓋骨は砕けているだろう。
仲間の一人がやられて警戒する盗賊たちだったが、ふと耳に何かが聞こえてきた。
歌。
女性の歌声と、ホルンによる音色が空に流れる。
なぜこんな場所に歌が流れているのだ?と盗賊が思った瞬間、盗賊たちを一筋の閃光が襲った。
城壁を貫き、城門内にいた盗賊たちを吹き飛ばした閃光の正体が水だということに気がつけるほど盗賊たちは落ち着いていない。
いきなりの攻撃に盗賊たちが慌てふためく中、ソイツは現れた。
白い翼を広げ、鋼鉄の軍団を引き連れ、女神の歌声に祝福されるかのように、白い竜が。
「●●●●●●●●●●●●!!」
その巨体を見せつけるかのごとく、パルキアは城門内に降り立ち咆哮をあげる。
盗賊たちはその咆哮に恐怖するわけでもなく、雄叫びをあげてパルキアへと突貫した。
パルキアは以外と恐怖感を覚えないんだな、と思ったがそれだけ。
城門外の盗賊を自衛隊が、城門内の盗賊をパルキアが排除する手筈になっているため、パルキアは足を振り上げ突貫してくる盗賊たちを踏み潰す。
踏み潰されずに済んだ盗賊たちはパルキアの体に手に持つ剣や槍を突き立てる。
しかし、刃がパルキアの体に突き刺さる瞬間、パルキアの回りにいた盗賊たちが弾き飛ばされるように吹き飛んだ。
理由は、パルキアの空間操作にある。
元々パルキアは空間を操るポケモン。
空間を弄くって斥力に似た力を発生させることなど朝飯前なのだ。
「パルキアぁ!」
足下から自分を呼ぶロゥリィの声がした。
チラリと目を向ければパルキアの胸元くらいの高さまでジャンプしているロゥリィがいた。
これはあれか。
飛ばせと言うことか。
パルキアは『たぶん合ってるよな?』と思いながら腕を振り上げ、叩くようにロゥリィへと振り抜く。
ロゥリィはタイミング良く足をパルキアの手の平に向け、不様に体を殴り付けられるようなことなく密集する盗賊たちのど真ん中に突っ込んだ。
亀の甲羅みたく盾を構える盗賊に向かって降り下ろされる無慈悲なハルバートの刃が、盾を紙切れのように容易く切り裂く。
おーおー物凄い切れ味。
ジュカインやカブトプスといったポケモンたちにも負けず劣らずの切れ味だ。
「弓兵!矢を放てぇ!」
盗賊の頭が弓を持つ盗賊たちに矢を放つよう命令を出す。
弓を持った者たちは一斉に暴れるパルキアとロゥリィに向けて矢を雨のようの降らす。
さらに、盗賊の中にいる精霊使いが矢に風の加護を付与させたことにより矢の貫通力が上げられる。
風の勢いに乗り、矢はパルキアとロゥリィへと向かう。
「術なんざ使ってんじゃねぇ!」
だが、矢はパルキアとロゥリィに届く前に怒号と共に吹き飛ばされた。
現れたのはムキムキマッチョマンな平猫。
着地と同時に地面を殴ることで発生させた衝撃波が、飛んでくる矢どころか近くにいた盗賊までもが吹き飛ばされる。
そして続けざまに虚空を殴り付けると衝撃波が弾丸のように発射され盗賊たちを空中に打ち上げる。
――さすがにあれは無いな
友だちのパルキアでもムキムキマッチョな平猫にはドン引きだった。
だがパルキアが盗賊に攻撃をやめる理由にはならず、桃色のエネルギー弾を飛ばしながら着実に盗賊を排除していった。
外では自衛隊のヘリが機銃やミサイル、搭乗している自衛隊の持つ銃による攻撃が行われ、城門内ではパルキア、ロゥリィ、マッスル平猫の化け物たちが猛威を振るう。
遅れてやって来た伊丹たちは『怪獣映画かよ……』とぼやく。
隊の中で演習や格闘訓練で無類の強さを誇ることから戦闘狂とまで言われる栗林でさえ『私の出番ないじゃん……』とがっかりした口調で呟いた。
だがパルキアたちに全て任せるというわけにもいかないので、後方から銃による援護射撃を行い盗賊を排除していった。
外でもボッカンボッカン戦闘ヘリが放つミサイルの爆音が、中ではパルキアとロゥリィと平猫が暴れる音が鳴り響き続ける。
ロゥリィと平猫は次々と襲いかかる盗賊たちを蹴散らし、パルキアは二人の攻撃の射程外の盗賊たちをエネルギー弾で排除していく。
もはや抵抗の意味もないほど徹底的なまでに攻撃が行われ、盗賊たちの勢いが急激に衰えていくことは民兵たちにも簡単にわかった。
『パルキア、門内の敵の殲滅を頼む』
「●●●●●●!!」
一瞬パルキアの上を飛んだヘリからスピーカーで指示を出されると、その指示に答えるようにパルキアは空に向かって咆哮をあげる。
そして、手の間に巨大な桃色のエネルギー弾を作り出し、城門外へと逃げようとする盗賊たちへと放たれた。
一度だけではなく、何度もエネルギー弾を作り出しては盗賊たちの姿が土煙で見えなくなるまで無数に発射し続けた。
ロゥリィと平猫は既にパルキアから離れていた。
パルキアはエネルギー弾を放つのを一旦中断すると、再び空間を弄くって土煙を強制的に晴らした。
そこには地面が抉れ、もはや人の形をしていない肉塊が無数に転がり、地獄絵図のような光景が広がっていた。
微かに動いている者たちもいるが、そのまま放っておけばいずれ息絶えるだろう。
外では喧しいほどに女神の歌声がこだまし、まだヘリによる攻撃が続いている。
だがパルキアは直接手を出さなくても良いだろうと、ヘリの攻撃が止むまで黙って空を見ることにした。
雲の形が時間の奴に似ていた。クソが。
一方で逆転の殺戮劇を目の当たりにしたピニャは、喉元に剣先を突き立てられているかのような恐怖を味わっていた。
ピニャが今までの人生の中で知っている空中の戦力といえば小型のワイバーン種に乗った騎士、竜騎兵である。
だが目の前で暴れているモノは竜騎兵なんかよりも生易しいものではなかった。
竜騎兵相手には弓矢や対空兵器を使うなどをして対処ができる。
しかし、今東門で暴れている白い竜と白い竜が率いる鋼鉄の天馬はその対処すら許さず、敵を滅する。
空に流れる女神の歌声も、ピニャにはもはや嘲笑にしか聞こえない。
白い竜にいたっては女神の歌声と、破壊の音を聞き入っているかのように空を見上げている。
人の思想では到底理解できない、竜の姿をした天災を目の当たりにしたピニャは自衛隊ヘリの攻撃が止むまで一歩も動くことが出来なかった。