GATE くうかんポケモン 彼の地にて、時空を越えて戦えり 作:00G
この作品がメインになることはないけど気が向いたら投稿します。
灰色の、何もない味気のない空間の中に、ソレはいた。
三枚二対の翼を持ち、真珠のような宝玉が埋め込まれた円盤状の盾、白い体に刺青のようにも見える紫色の模様を持つ化け物がいた。
ソレは瞑想するするかのようにただただ空間の中を漂っていた。
ソレは何か行っていたのか、ゆっくりと息を吐いて瞳を開けた。
ソレが行っていたことは空間の修復。
なにもしていなくても、空間というものは次第に綻び、崩れ、消滅していってしまう。
そうならないようにするのが、この灰色の空間にいるソレなのだがソレは何百年と続けてきたことを、さもつまらなさそうに行うと静かに息を吐いた。
ソレは何百年と続けた行動に嫌気がさす。
それが己の役目だと理解しているが、流石に飽きてくる。
それでも、ソレは己の役目に誇りを持っていた。
故に、何もない灰色の空間にただ一匹で存在しているのだ。
しかし、一度空間を修復すると滅多に空間は崩壊することはなくなる。
ソレはほぼ無意識で空間の異変に気づくことができるので、次の空間の崩壊まで眠ろうと体を丸める。
「……?」
もう眠る、というタイミングでソレは長い首を持ち上げて閉じていた瞳を開く。
ソレは感じ取った。
自身の管轄する空間の一つを勝手に弄くられた感覚を。
別の空間から来てはならぬ者たちがやって来たことを。
己の力が通じない異常な状態を。
――何者か知らないがその行為、万死に値する。
「●●●●●●●●●●●●●!!」
ソレは引き裂くような咆哮を轟かせると、灰色の空間に色鮮やかな穴が現れた。
ソレは翼を大きく広げ、その穴に飛び込んだ。
すべては空間の保持のため。
ソレは別空間からの侵入者を排除する。
ソレの名は『パルキア』。
空間を司る神である。
☆☆☆
夏の銀座。
そこは地獄と化していた。
太陽が高く昇るまっ昼間に突如として現れた巨大な建造物。
そこから現れた武装した人間やオークやゴブリン、豚人間といったファンタジーに登場する存在が、何の力もない者たちに突如として牙を剥いた。
馬に乗った騎士風の男は逃げる男性を切り殺す。
翼を生やした蜥蜴に跨がった男は手に持った槍で逃げる女を刺し殺す。
巨大なオークは棍棒で泣き叫ぶ子どもを殴り殺す。
地面を転がりながら移動する豚人間は嬉々とした声をあげながら目についた者たちを殺す。
一方的な虐殺。
一般人たちは抵抗することすら許されない。
誰かが思った。
これは夢だ。
誰かが絶望した。
もう終わりだ。
誰かが怒った。
子どもを返して。
誰かが願った。
助けて。
――●●●●●●●●●●!!
そして、神が現れた。
馬に乗った騎士が、羽蜥蜴に乗った男が、オークが、豚人間が、逃げ惑っていた者たちが、その声を聞いて動きを止め空を見上げた。
青空の中に、不自然な歪みがある。
その歪みから、白い巨体が姿を顕した。
純白の体に赤い瞳。
肩には美しく煌めく真珠のような宝玉が埋め込まれている。
ソレはズシンと轟音を轟かせながら地面に着地すると、赤い瞳をソレを取り囲む者たち全員に向ける。
ソレは肩の宝玉をより一層輝かせ右腕を持ち上げると、血の臭いに興奮してソレの存在を無視したオークや豚人間といった異形の群れに向かって振り下ろした。
両断。
異形の群れが、綺麗に、惚れ惚れするほど鮮やかに体を切り飛ばされた。
「●●●●●●●●●●●!!」
ソレは異国の者たちを威嚇するように咆哮をあげる。
その咆哮にたじろく異国の者たちだったが、それは最初だけ。
鼓舞するように雄叫びをあげると、ソレに向かって一斉に攻撃を仕掛けた。
「●●●●●●!」
ソレは明確な敵意を感じると、空に向かって再び咆哮を轟かせた。
それと同時に地面から土の杭が飛び出して馬ごと騎士風の男たちを打ち上げる。
直後、爆発。
騎士風の男たちは日本語ではない言葉で『噴火か!?』と驚いていた。
土の杭は次々と騎士風の男たちやオーク、ゴブリンといった異形を打ち上げ、爆発させて粉微塵にしていく。
普通なら天災とも見えるこの光景を目にしたら誰でも恐怖を抱くだろう。
だが、知るよしもないが建造物からやって来た者たちは建造物の先にある国では負け知らずの国の戦士たち。
彼らはこれまで死地をくぐり抜け、多くの屍の上に立ちながら勝利を納めてきた。
彼らの国で語られる龍種、特に炎龍と言われる存在よりも遥かに小さい
所詮、異国の蛮族が飼い慣らした生き物。我らが敗けるはずない。
そう鼓舞し、爆発する大地を切り抜けながらソレへと突き進んでいく。
だがソレはそんな騎士風の男たちを嘲笑うかのように、ふわりと羽を羽ばたかせることなく空中へと飛び上がった。
目標を失った突進することしかできない憐れな生物たちは、ソレが持つ純白の体に傷一つつけることもで来ず無惨にも土の杭に穿たれた。
空へ上がったソレは死んでいく地上の生物たちに目を向けることなく、キョロキョロと辺りを見渡すように首を動かしていた。
このような弱い生物を一々相手にするのは面倒。
さっさとこいつらがやって来る原因でもある空間の歪みを修正しにいかなければならない。
しかし、先程から顔の回りをチョロチョロと飛び回る羽蜥蜴がうざったくて仕方がない。
眼下の地上を見れば、別の所で好き勝手に蹂躙している侵入者たちが犇めいている。
虐殺を続ける者。
殺した相手の首を切り落として
浅はかな性欲を満たすために捕らえた女性を犯す者。
非常に、鬱陶しい。
「●●●●●●●●●●●●●!!!!」
ソレは今までとは比較にならないほどの咆哮を轟かせた。
空気が震え、大きな咆哮が衝撃波となって周囲のビル群の窓ガラスが次々と割れていく。
耳を塞いで爆音となった咆哮を耐えようと羽蜥蜴に乗った男たちだったが、なぜか
爆音と化した咆哮は音の凶器となって男たちの鼓膜を破壊し、頭蓋骨を砕いていく。
乗っていた羽蜥蜴も同様に、空中に縫い付けられたかのように動かず背中に乗せていた男たちと同じ運命を辿った。
地上で虐殺や強姦を行っていた者たちも例外ではなく、鼓膜が破壊されるということはなかったが羽蜥蜴に乗った男たちと同じように
ソレは動けぬ有象無象を一瞥すると、目的のものを探り当てその場所へと飛翔した。
空を飛べばあっという間に、目標である空間の歪みを見つけた。
空間の歪みといっても、それは巨大な門のような建造物。
ソレの体ならすっぽりと入ってしまいそうなほど巨大だ。
だがソレが抱いたことはそれだけ。
ソレは手の中にエネルギーを溜め、球体状のエネルギーを作り出した。
ソレは躊躇いなく球体を建造物目掛けて発射した。
球体が建造物に直撃すると球体は爆発し、それによって発生した爆煙が建造物を包み込む。
建造物を包み込む爆煙が球体の威力を物語っているが、ソレが煙に包まれる建造物に向ける目は厳しい。
次第に煙は晴れていき、建造物の姿を晒す。
しかし、建造物は全くの無傷。
欠けた場所さえ見つからないほど、憎たらしいくらい綺麗な白さを保っていた。
ソレは無傷の建造物が逆鱗に触れたのか、再びエネルギーを溜めて球体を放とうとした。
だが、今回の球体は一回目に放ったものよりも数倍大きなものだった。
一回目の球体がバスケットボールほどのサイズとするなら、二回目の球体はバランスボールくらいのサイズだろう。
比較のサイズなので、人間から見ればとてつもなく巨大なのだが。
ソレは巨大な球体を再び建造物に放つ。
さらにもう一度先程と同じ大きさの球体を作り出すと、その球体からさらに小さな球体を雨霰のように連続で発射した。
一際巨大な爆発が起こり、続けて無数の爆発が連続で発生する。
爆発の余波や流れ弾の影響で周囲のビルや道路が崩壊し、瓦礫があちこちに飛び散る。
一頻り球体を放ったソレはもう一度煙が晴れるのを待った。
そして、煙が晴れて現れたのはやはり無傷の建造物。
これほど攻撃しても壊れる兆候さえ見せない建造物に、ソレは今度こそ心の中を怒りの感情が支配した。
「●●●●●●●●●●●●●●!!」
怒りの感情が混じった咆哮を上げ、今度は肩の宝玉を輝かせ腕を振り上げた。
最初に使ったソレが持つ最大の技を使おうとしたが、遠くから空気を高速で叩くような音が聞こえてきた。
振り上げた腕を下ろし音が聞こえた咆哮に顔を向けると空を飛ぶ鋼鉄の塊が複数やって来た。
ソレは近づいてくる鋼鉄の塊目掛けて腕を振り下ろしてやろうかと一瞬考えたが、先に排除すべきなのはこの建造物であると判断して鋼鉄の塊は無視した。
だがそのせいで気が削がれたのか、ソレは肩の宝玉の輝きを消してグルルと唸りながら建造物を睨み付ける。
これだけ攻撃しても壊れる様子のない建造物を破壊するには普通の方法では通用しないのだろう。
そもそも、ソレの能力である空間の操作さえ全く通じない。
まるで頑丈な金庫。
爆発にさえ耐えきって中にあるものを守る金庫だ。
外からの衝撃は一切中に伝わらない。
ソレは考える。
どうすればこの建造物を破壊することができるのか。
どうすれば空間の歪みを修復できるのか。
と、ここでソレはふと思い付いた。
外から通用しなければ中から通用するようにすればいい、と。
暴論。
イカれているともとれるような考えだが、どのみちこの世界からの干渉は通じない。
なら向こうの世界から通じるよう動けばいい。
建造物の先に何がいるかわからない。
もしかしたら己よりも遥かに強い存在がいるかもしれない。
だがそれで恐れていては何が空間を司る神か。
ソレは二対の翼を大きく広げ、建造物の中へと飛び込んで日本から消えた。
こうして『銀座事件』と呼ばれるようになる騒動は、白い神が建造物の中に消えていくことで幕を閉じた。
後に世界が白い神の名前がパルキアと知り、建造物の先に広がる世界で再びパルキアと出会うことになるのを、世界はまだ知らない。