声を失った少年【完結】   作:熊0803

64 / 108
すみません、途中で投稿します。すぐに続きを継ぎ足すので、少しお待ちください。



56.声を無くした少年は、身を粉にして働く。

 結局、あれから相模の提案は可決されたらしい。

 

 ちゃんと聞いていれば、さっきみたいなこともできたんだろうが……陽乃さんのメールで頭が真っ白だった。

 

 対応できていれば……と思うが、致命的なミスとは、予期しないところで起こるものだからこそ致命的なのだ。

 

 

 影響はすぐに出た。

 

 

 委員会を欠席するものがちらほらと出たのだ。権力的には最高の相模の発言が、あの日いたものを通じて広がったらしい。

 

 とはいえ、事前に連絡を入れたり数十分の遅刻であったりと、完全にエスケープされるよりかはマシだった。

 

 当然残ったメンバーの負担は増し、変則的な人員の変化に俺も毎日スケジュールと仕事の調整に追われるはめに。

 

 有志団体の増加に伴う宣伝広報への協力場所の増加、予算関係の再算出と申請、割り振り、エトセトラエトセトラ。

 

 陽乃さん、マジでやらかしてくれた。俺への試練だかなんだか知らないが、一言文句言ってやりたいです、はい。

 

 まあ、俺の個人的な怒りはともかく、そんな感じで今の文実は回っていた。

 

「はい、先輩。新しく交渉した協力場所のリストです」

『助かる。そこに積んどいてくれ』

「はい」

 

 一年生の女子が持ってきたファイルを、すぐ横に積んであるちょっとした資料のタワーの上に置いてもらう。

 

 返答をする間も、文字通り目まぐるしく書類の文字を追っかける目と手は止まらず、次々と必要事項を書き込んだ。

 

 一枚完成すれば、右の書類の束に写して次の書類に目を通す。その動作を何度も機械的に繰り返す。

 

「あ、これお茶です。頑張ってください」

『ん、おう』

「いえいえー」

 

(比企谷先輩、真剣な顔だなぁ。入学初日に迷った時もこんな顔で職員室に案内してくれたっけ)

 

 その女子A(仮称)は、いつの間にかなくなっていたコップに温かいお茶を注ぐと、そそくさと自分の席に戻った。

 

 それを気にとめる暇もなく、最後の一枚まで書き上げるとファイルを閉じて隣に差し出す。

 

『雪ノ下、確認してくれ』

「わかったわ」

 

 隣でパソコンで作業をしていた雪ノ下は、パラパラとファイルの中身に目を通す。速読並みの速さだ。

 

 しかし、真剣な横顔から適当に呼んでいるわけではないのがわかる。彼女にはそれで十分なのだろう。

 

「……一年生の展示物の企画申請リスト、問題ないわ」

『そうか』

 

 雪ノ下に短く返して、次のファイルをとって表紙を開いた。うへえ、有志団体の使用機材申請か。 

 

 ちらっと横を見ると、まだファイルが四つくらい積んである。どれも分厚い、こりゃ骨が折れるな。

 

「私もやるわ」

 

 ちょっと嫌な顔をしていたら、立ち上がった雪ノ下が二つほどファイルを取っていった。そしてペンを片手に読みだす。

 

『おい、俺の仕事だぞ』

「あら、自分の仕事が終わっているのだから問題ないでしょう」

 

 目線を合わせずに淡々と言う雪ノ下に、ちょっと体を傾けてパソコンの中身を覗き込む。

 

 するとどうだ、本当にデータ入力が終わっているではないか。つい二十分くらい前に資料を渡したばかりのはずだ。

 

「仕事が早いのは、あなただけではないのよ」

『そうみたいだな』

 

 雪ノ下の能力は把握していたつもりだが、俺の予想より上だった。そういうことだろう。

 

「これは私がやっておくから、少し休みなさい。十五分後に再開よ」

『なら、お言葉に甘えさせてもらうかね』

 

 ペンを置いて、メガネを外した。そうすることで、仕事モードに特化していた精神が少し緩む。

 

 片方の手首を掴んで、グッと体を伸ばす。一時間以上座りっぱなしだったせいか、腰骨がコキキッと鳴った。

 

「随分と凝っている様子ね。ちゃんと横になって寝ているのかしら」

『そういや、昨日は机に突っ伏して寝てたな』

 

 確か、明日……じゃなくて、今日以降の一週間のスケジュール調整と体育館の使用についての書類をまとめてたのか。

 

 例のごとく化け物的な体力で難なく終わらせたものの、連日の予定変更でベッドに行くのも億劫になっていた。

 

「睡眠は仕事のパフォーマンスに関わるわ。しっかりと6時間以上、正しい姿勢で休息をとりなさい」

『別に、三日くらいは寝なくても平気なんだが』

 

 実際、そういうふうに俺の体はできている。

 

 抑制剤で制限されている今の状態でも、睡眠も食事も、短期間ならばカバーできる構造になっているのだ。

 

 こういう意味では、散々人の体をいじくり回してくれたあのクソ野郎には感謝……しなくていいか、別に。

 

 むしろ風邪で学校行事休めないし、ちょっとした骨折程度ならすぐ治るので、怪我でズル休みもできない。休みたいばっかだな。

 

「……私が心配なのよ」

 

 不意に、ぽしょりと小さな音で呟かれたその言葉は、俺を慮ったものだった。

 

 少しの嬉しさと、いらない気遣いをさせたという大きな罪悪感が心の奥から滲み出す。もっと頑張らなくては。

 

 しかし……何も働いているのは、俺や雪ノ下、欠けた人員の代わりに動いた執行部ばかりではない。

 

「ねね、これどうやるの?」

「んー? あ、それはここの項目見て……」

「あ、これできたから確認してくれませんか?」

「はいはーい」

 

 ちらっと会議室の一角を見る。そこでは一年、二年のリボンをつけた女子の委員が十数人集まって仕事をしていた。

 

 なんか見覚えある気がする彼女たちは、それぞれ別の担当部署にも関わらず、互いにやり方を教え合いながら一緒に仕事をしている。

 

 他の委員が遅れや欠席をする中、彼女たちはきっちり毎日来て仕事をしてくれるので非常にありがたかった。

 

 具体的に言うと、執行部の次に戦力になってる。やる気をなくしかけてる他の委員なんて目じゃない。

 

 まあ、それでも遅れた仕事を俺たちが潰しているあたり、この組織が半壊しているのは明らかなんだけどな。

 

「…………フゥ」

 

 

 

 多大な不安を感じながら、俺はため息と共に一度気分をスッキリさせるため、目を閉じて机に突っ伏した。

 

 

 

 ────

 

 

 

 やってもやっても増えるものってなーんだ。

 

 

 仕事⭐︎

 

 

 ……いかん、少し変なテンションになっていた。いよいよもって頭の方がヤバいかもしれない。

 

 

 相模の一件から二週間弱。

 

 

 たったそれだけの間に、さらに人は減った。しかしそれに反比例するように、仕事量は増加の一途をたどっている。

 

 陽乃さんの連れてきた団体が引き金になったのか、他の団体の参加も増えたのだ。結果、仕事が山のようにできた。

 

 かく言う俺も今、当日のスタッフの注意事項や配置場所のレジュメと議事録を並行して作っているところである。

 

 だというのに、カタカタと凍えそうな音でPCを叩く音が反響する教室内には、俺たち運営側を除いて十五人もいない。

 

 しかもここにいるうちの半数以上が例の女子軍団だというのだ。最近じゃ、家にまで仕事を持ち帰るのが日課になりつつある。

 

 そこに普段の学校の授業の予習、復習に家事もこなさなければならない。まさに全力労働だった。

 

 最後にろくに寝たのいつだっけ?4日目?もうそれすら覚えてない。

 

「今週の議事録はできたかしら」

『ほらよ、持ってけドロボー』

 

 ちょうど出来上がったデータを雪ノ下の使っているパソコンに送る。これで一つ厄介な仕事が終わった。

 

「あの、副会長補佐さん」

 

 さてレジュメを仕上げようとしたその矢先、ためらいがちな声が頭上からかけられた。

 

 PCの画面に釘付けだった目線を上げると、同学年らしき女子が申し訳なさそうな顔でクリップ留めされた紙束を差し出す。

 

「これ、新しく入った有志団体の報告書なんですけど……」

 

 おっと、疲労で頭のネジが緩んだと思った矢先に新しい仕事が舞い込んだぞ。

 

 嫌な顔をしたいところだが、そんな顔をされては受け取らないわけにもいかないので、なんとか笑って受け取る。

 

 終始申し訳なさそうな顔の女子が離れていき、俺は乱雑に積み上げた書類の上に受け取ったものを置いて──

 

 

 

 バサバサッ!

 

 

 

 不意に、大きな音が会議室にこだました。

 

「…………?」

 

 ふと、自分の手元を見る。

 

 すると、紙束を持った形で指が停止した右腕の肘先が、不安定だった書類の山を半ばから抉っていた。

 

 消えた上半分の書類が床に落ちたと気付くまで、たっぷり三十秒。周りの目線が集まっているのを感じるまで、さらに一分。

 

「えっと、比企谷君?大丈夫?」

 

 近くにいた城廻先輩が、心配そうな顔で問いかけてきた。それで我に返って、立ち上がると散らばった書類を拾う。

 

 しかし、どうしてか視界がぼやけてうまく掴めない。数度頭を振るとクリアになるが、指の感覚が妙に曖昧だ。

 

「手伝うわ」

 

 そんな俺を見かねたか、雪ノ下も立ち上がってこちら側に来ると、拾うのを助けてくれる。

 

 また申し訳なさを感じながらも、時間短縮の効率を考えて何も言わずに溢れたものを拾い集めた。

 

『すまん』

「いいのよ」

 

 雪ノ下から書類を受け取って、山の上に置き直すと席に着いて仕事を再開する。こんなことで時間をロスしている場合じゃない。

 

「…………」

 

 その時完全に仕事に没頭していた俺は、雪ノ下の訝しげな目に気づかなかった。

 

 それから少しして、なぜか俺を見下ろしていた雪ノ下が着席したところでドアがノックされる。

 

「どうぞー」

 

 城廻先輩が声をかけると、「失礼します」といって誰かが入ってきた。また新しい仕事が運ばれてきたか。

 

「有志の申し込み書類、提出に来たんだけど……」

 

 なんだか今朝から調子の悪い耳で聞き取った誰かさんの言葉に、PCから目をそらさず右奥を指し示す。

 

「……ありがとう」

 

 誰かさんはなぜか一拍置いた後、申し込みに向かった。なるべく他で対応できるところは任せたい。

 

「仕事、平気か?」

 

 レジュメを作り終え、クラスや部活の出展の書類を見ていると、さっきの誰かさんが話しかけてきた。

 

 なんでまだいるんだよと顔を上げると、そこには苦笑いフェイスの葉山。一気に相手をする気が失せる。

 

「ちょ、おい、流石に無視はしないでくれよ」

 

 あげた顔をノーモーションで戻そうとすると、慌てた様子で葉山に止められた。構ってちゃんかよ。

 

『何の用だ。用事がないなら帰れ、仕事中だ』

「いや、書類の審査待ちだよ。不備がないか確認するって」

『そうか。なら茶でも飲んで待ってろ』

 

 短く応答して、書類のチェックに移る。チッ、また目が霞む。

 

「……大丈夫か?」

 

 なんとか目を通して書類に書き込みをすると、いきなり葉山が心配するような声で言ってきた。

 

『今の所、進行に支障はないが』

「そうは言っても、かなり人が減ってるだろ。見た所、かなり仕事をやる人が偏っているようだけど」

 

 さっきからなんなんだよこいつ。こっちは目の前の仕事をしらみつぶしにするのに忙しいっていうのに。

 

 思わず文句の一つでも言おうとしたその時、またドアがノックされる。城廻先輩が返事をすれば、プリント片手に入室してきた。

 

 ああもう、今日は特に来客が多いな。葉山も持ってきた、申し込みの期限日が近いからだろう。

 

 それは時間が進むごとに一人、また一人と増えていき、対応する人数が少ないのでてんやわんやし始める。

 

「…………」

 

 はぁ、とため息をついてペンを置いた。仕方がない、俺も対応に回ろう。

 

『おい──』

「ああ、有志団体の申し込みはあっちだよ」

 

 そうして、迷子になりかけていた申請者に声をかけようとした途端。葉山が割り込んで話しかけた。

 

 困り顔だった一年生らしき女子は、爽やかな笑顔で頷く葉山に、助かったと言わんばかりの顔をして頭を下げた。

 

 小走りで申し込みの窓口にいく女子を見送る葉山に、俺は目を細めて問いかける。

 

『どういうつもりだ?』

「どうも何も、暇だから手伝うってだけだ。そっちも人手は多いほうがいいだろ?」

 

 振り返った葉山は、至極まっとうな理由を述べた。

 

 確かに人手は欲しい。この会議室は本来いるべき奴らの仕事の()()()()を俺が片付けることで機能している。

 

 葉山ならば、その高いコミュ力を使ってうまく捌くこともできるだろう。人材としてはうってつけだ。

 

『じゃあ、有志のだけ頼む』

「任せてくれ」

『雪ノ下も、それでいいか』

「え、ええ」

 

 なんでか少し目を見張っている雪ノ下の許可も出たところで、葉山に対応の一部を丸投げすることにした。

 

 

 

(あの比企谷くんが、葉山くんに頼る……いえ、任せるというべきかしら。薄々感じていたけれど、もしかして彼は必要以上に……?)

(まさか、許されるとは……やはり私情を捨てるほど追い詰められているのか、比企谷)

 

 

 

 ────

 

 

 

 葉山が参戦したことにより、どうにか申請ラッシュを乗り切ることができた。

 

「ごめんね、ありがとー」

「いえ、手が空いてたので」

 

 隣で、葉山に城廻先輩がお茶を出している。気にせず書類を片付けることに意識を集中させた。

 

 ったく、申請の審査と承認とか各部署の部長がやるべきことだろ。なんでこっちに回されてるんだか。

 

「比企谷、君もお疲れ様」

 

 心の中で愚痴っていると、ことりと目に見える位置にマッ缶ことマックスコーヒーが置かれる。

 

 そっと離れていく手を伝っていくと、そこにあるのは平塚先生の顔。労うような、心配そうな表情だ。

 

「平気かね?」

『まあ、ぼちぼちの進行具合です』

 

 もらったマッ缶を飲みながら、先生に答える。

 

 俺が不眠不休で働いている()()で、あとは全て他の人員で回っている。雪ノ下も驚異のスピード作業だし。

 

 なのに、どうしてだろう。平塚先生は眉根を寄せて、気難しい顔で俺のことを見ていた。

 

「ふむ……やはり、相模の提案をしっかりと止めるべきだったか」

『終わったことを言っても仕方がないでしょう』

「まあ、それもそうなのだがな……」

 

 そう、仕方がないのだ。

 

 最初に雪ノ下の負担を減らす人柱にした相模は、今頃クラスの方でくっちゃべってる。なら立案者の俺が頑張らなくてどうする。

 

 すでに「文実でばかり頑張らなくていい」というトレンドが浸透した以上、誰かがケツ持ちしなきゃならんのだ。

 

 たとえ、働くアリの全体のうち真面目に働く二割しか残っていなかろうが、やらなきゃいけないものは仕方がない。

 

「あ……二年F組の企画申請書類が出ていないわ」

 

 噂をすれば、相模が書いて持ってくるはずだった書類の催促がきた。おい、あいつそれもやってないのか。

 

 相模がやっていないのならば、暫定的にもう一人の実行委員がやらなければいけない。つまりまた仕事が増えたよ、やったね!

 

『俺、クラス行って聞いて書いてくる』

 

 とりあえずのめどは立ったので、PCを閉じて立った。

 

 その時一瞬ぐらりと意識ごと体が揺れたが、机に手をついてなんとか持ち直して、雪ノ下に向き直る。

 

『それ用の書類をくれ』

「…………ええ。できれば本日、いえ明日までに出してちょうだい」

 

 雪ノ下の指示に頷き、書類を見て記入事項を把握する。

 

 人数、代表者名、必要機材、担任名……それとイメージ図。まあ、そんなに大変そうでもない。

 

 その場で平塚先生と、代表者名の欄に海老名さんの名前を書き入れて会議室を出る。目指すは二年F組だ。

 

 文化祭前の校舎は、どこもかしこも騒がしい。ぼうっとする頭で、なんとか廊下を歩いて教室まで行く。

 

 やがてたどり着いた二Fも、例に漏れず扉を開けると慌ただしくしていた。

 

「よし、いっせーので運ぶぞ」

「オッケー」

「違う違う!もっとこう、アンニュイな雰囲気で!」

「こ、こうか?」

「〜♪」

 

 机を組んでステージを作っているもの、演劇の稽古をしているもの、裁縫をしているもの、皆一丸になって作業している。

 

 昨日見たのと同じ光景だが、違うところが一つ。それは皆、同じTシャツを着ていること。いわゆるクラスTシャツだ。

 

 へえ、もう完成してたのか。ここ一週間は会議室に缶詰で知らなかった。

 

「もう男子、ちゃんとやってよー」

 

 その中には相模もいた。どうやら稽古中の奴に難癖つけてるらしい。

 

 どうでもいいと冷たいのか熱いのかわからない思考で切り捨てて、由比ヶ浜の姿を探す。

 

「あ、八幡くん!」

 

 すると、中性的で儚げな雰囲気を、貴公子風のだぶだぶのコートの上から纏う少女が俺の名前を呼んだ。

 

 星の王子さまの『王子様』に扮した戸塚は、そこで何かに気づいたように近くにあった鞄を漁ると、何かを取り出す。

 

 そうするとこちらに駆け寄ってきて、両手で差し出してきた。

 

「はいこれ!貸してくれてありがと!」

 

 戸塚の手の中には一冊の本。

 

 確か、十日くらい前に貸した『星の王子さま』の文庫本だ。何度も読んだせいか、少し傷んでいる。

 

『参考になったか?』

「うん、とっても!それでね、何かお礼を……」

『悪い、戸塚。今はちょっと急いでるんだ。由比ヶ浜いるか?』

 

 今こうしている間にも仕事が遅れている気がして、少しぶっきらぼうに戸塚の言葉を遮って尋ねる。

 

 戸塚は首をかしげるものの、ある方を指差す。そちらを見れば、アイス片手に打ち合わせをする由比ヶ浜がいた。

 

『ありがとう。また今度な』

「うん」

 

 お礼を言って、由比ヶ浜の方に行く。

 

『ゆいがは──』

 

 そう一歩踏み出した時。ガッとつま先に何か硬いものがぶつかった。

 

 普段なら、なんてことない衝撃。しかしなぜか俺の体は前のめりになり、バランスを崩して倒れこむ。

 

 どんがらがっしゃーんと音を立てて、俺は盛大にこけた。クッソ痛え、顔は守ったが体の前面がジンジンしやがる。

 

「は、八幡くん!?大丈夫!?」

「ヒッキー!?」

 

 戸塚に右腕を、遅れて駆け寄ってきた由比ヶ浜に左腕を取られて、そこでどうにか両足に力を込めると立ち上がった。

 

『すまん、ちょっとこけた』

「いやいや、ちょっとって音じゃなかったし!」

「怪我とかしてない?」

 

 平気だ、と心配してくれている二人に言うと、由比ヶ浜を見て本題に入る。

 

『由比ヶ浜、クラスの企画申請書類書かなきゃいけないから手伝ってくれ』

「う、うん、いいけど……あの、本当に」

『由比ヶ浜』

 

 俺の顔を見て、何かを言おうとする由比ヶ浜の声を遮った。

 

『頼む』

 

 今、こうして話している時間も惜しい。

 

 俺にはやるべきことがある。陽乃さんの思惑なんてどうでもいいが、雪ノ下の補佐をしなくちゃいけない。

 

 彼女にのしかかる負担も、過度な期待も、重圧も、全て引き受けなくては。

 

 それが、俺のなすべきことなのだから。

 

「…………わかった。こっち来て」

 

 神妙な顔つきで近くの机に歩いていく由比ヶ浜の後を、さっきから見てくるクラスメイトの視線を無視してついていく。

 

 

 

 

 

 その後、無事に必要なことすべてを書いて申請書類を作り上げた俺は教室を後にした。




変な形になり、申し訳ありません。それにしても、連続で低評価をつけられると少し凹みますね。
ですが、もともと合わない人には合わないとわかった上でこの設定で作っています。中二病ですし、ある意味原作ブレイクしてますし。
けれど、たとえ高評価より低評価が多いとしても、誇りとこの作品への愛情を持って完結まで努力します。
というわけで、これからもよろしくお願いします。

さて、次回オリジナル展開。お楽しみ?に。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。