あの時は身勝手な作者の都合で削除してしまい申し訳ございません。
この先、いいネタを思いついたら長編として連載する可能性が高いので今は短編として投稿しておきます。
とある魔法世界の未元物質
ここは魔法の世界。
人々が体内に宿す魔力の恩恵により、この世界には魔法という異能が溢れている。
その為、科学技術はここ何十年も停滞したままであり、どこに行こうが、魔法が普通に売り買いされ、魔法を生業とする『魔導士』と言われる職業も数多く存在するほど、魔法と言われるものは、この世界に浸透していた。
そして魔導士は、大抵はどこかのギルドへと所属し、依頼に応じて仕事をする事を主にそれぞれ活動している。
これは、フィオーレ王国にある、とある魔導士ギルドに所属している一人の少年を中心としたお話。
正史の世界とは違う、もう一つの物語である。
☆☆☆☆☆
マグノリアの街より北西にある、とある樹海。
その大森林の奥深くに、一つの魔導士ギルドが存在した。
そのギルドは、まるで世間から身を隠すように、人の行ききしない場所へと建てられており、周囲一帯には不気味な魔力が漂っている。
そのギルドに、人が行きつかないのも当然、そのギルドは世間一般では闇ギルドと呼ばれており、魔法を悪行へと使う正規の道を踏み外した、ならず者たちによって構成された犯罪者ギルドだからだ。
そしてその樹海の奥深くに存在する闇ギルドの名前は『
「バラム同盟」の一つ、『
そして現在、その闇ギルドは、ある二人の魔導士の手によって殲滅中だった。
「鉄竜槍、鬼薪!」
「どはぁっ!?」
「ぎゃあっ!?」
連続で放たれた鉄の槍の突きを喰らい、
「クソッ、なんだよアイツ!?」
「腕が鉄の槍に変わりやがった!?」
「なんだ、あの魔法は!」
男達はそのような事を喚きながら、先程からの一方的な攻撃を加える腕を鉄の槍に変えた青年の方に視線を向ける。
髪は背に伸びるほど長く、顔にはいくつかのピアスが付けられており、現在その顔にはあくどい笑みが浮かんでいる。
「なんだよ、バラム同盟の一角を占めるギルドの傘下だっつうから、もっと歯応えがあるかと思ったが、弱すぎだぜ、このクズども」
ギヒヒヒ、と心底相手を馬鹿にした表情で、青年、ガジルは足元に倒れる男を蹴り飛ばして嗤う。
ガジルの嗤い声を聞きながら、彼の隣にいる長身でホストのような出で立ちをした茶髪の少年は、視線は正面の黒い一角獣のメンバーを見たまま、ガジルに向かって口を開く。
「そういってやんなよ。傘下つってもただの捨て駒程度の価値しかねェ連中だ。オマエを相手にできるような奴がいたとして、そんな奴はとっくに親ギルドに引き抜かれてるだろうよ」
「ギヒッ、仮にそんな奴がいたとしても結果は変わらねぇだろうがな。つうかテイトクてめぇコラ、さっきからオレにばっかりやらせやがってサボってんじゃねぇぞ!」
「あァ? 別にいいだろう、元々オマエが行きたいっていった
「ハッ、お前がその程度で疲れるタマかよ」
ガジルはテイトクと呼ばれたその少年に呆れたような溜息を吐く。
そんな二人の会話を聞いていた
「あの野郎共、黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって! 俺がブッ殺してやる!」
その中でも一際ガタイの良い男がそう息巻き、テイトクとガジルの方へと襲いかかる。
男は右手に換装魔法で呼び出した大きな鉄の剣を持ち、まずは手前にいたガジルへと振り下ろす。
「オラァ! 死ねェ!!」
男の苛立った叫び声が響く。ガジルは振り下ろされる剣を見てニヤリと嗤い、右腕を即座に鉄竜の鱗へと変質させ、男の振り下ろした剣を受け止める。
ガキィィン、と鉄同士が衝突する音が周囲へと響く。
「なっ!?」
「ギヒッ、死ぬのはテメェだクズが」
目を見開きながら驚く男にガジルはそう言う。
そしてガジルは刀身を掴み、男の腹に蹴りを放つ。
男は「ぐっ!」と苦しそうに息を吐き、後方へと吹き飛ぶ。その際、右手に持っていた剣はガジルが手元へと引き寄せ男から奪う。
そしてそのまま自身の口元に刀身を持っていくと、大きく口を開けて、その刀身を噛み砕く。
『はぁぁぁああぁ!?』
ガジガジと男の剣の刀身を食べるガジルを信じられないと言わんばかりに目を見開き驚く男達。ガジルは鉄の部分の刀身を食べ終わるとあとはいらないとでも言うようにポイッと捨てる。
「ギヒヒッ、消えろクズどもが。鉄竜の咆哮!!!」
ガジルの口から鉄の破片などを含んだ
そして次の瞬間にはドッッ、と嵐のような暴風が周囲を襲う。
「どぉわっ」
「ぎゃああ!」
「うわあああ」
ブレスの一撃に抵抗する事すらできなかった男たちは、なすすべなく戦闘不能へと陥っていく。その際、一人の男が「鉄竜?」とガジルの技にピクリと反応する。
そしてその顔に冷や汗を垂らしながら呟く。
「こ、こいつ間違いねぇ! 『ファントム』の鉄の
男のその言葉に、残りの男達がざわめき始める。
「ガ、ガジルだと!?」
「
「ギヒッ、そういう事だ。さっさとクタバレ! 鉄竜棍!!」
戦意を喪失し始めた男達にガジルは容赦なく追撃を食らわす。
腕を鉄の棒へと変え、目の前の敵を吹き飛ばす。
「クソ、ガジルは無理だ! もう一人の奴だ。奴を狙え!」
「そうだ、せめてアイツだけでも道連れにしてやる!」
男達は標的をガジルから、先程から何もせずただ戦いを観戦していたテイトクへと狙いを定める。それに気付いたテイトクは面倒臭そうに眉を顰め、ガジルは「ギヒッ、そっちは止めた方がいいぜ」と面白そうに笑いながら事を眺める。
ガジルの動きが何故か止まった事に男達は好機とその顔に笑みを浮かべ、その場に生き残っている男達全員が、テイトクへ向けそれぞれ魔法を発動させる。
掌から炎を出す者、武器を取り出す者、風を纏う者、雷を発する者、腕を獣の腕へと変化させる者。
そして、それらを一斉にテイトクへと向け放つ。
ドドドドドドドドドッッッッッッ! と連続で爆発を起こし、土煙がテイトクを覆う。
「やったぜ! 直撃だ!」
「ハッ、ザマァ見やがれ! お前の仲間は消し飛んだぜ!」
防御する姿勢すら取らなかったテイトクを見て、男達は自分達の勝利を確信した。
その事が男達の戦意に再び火をつけた。男の一人がガジルへとそう挑発めいた言葉を口にする。が、とうのガジルは土煙の方へと視線を向けており、男の言葉を無視している。
無視された事に腹を立てた男はさらにガジルへと言葉を発する。
「おい、聞いてんのかテメェ!?」
男がそう怒鳴り付けるもガジルは反応すら示さず、ただ土煙の中を見ていた。
ガジルが何も反応を返さないからか、仲間がやられた事にあのガジルが動揺している、と男達は隙だらけのガジルを見てそう確信する。
男の一人が背後から奇襲をしかけようと魔法を発動させた時、
「ハッ、やっぱクズだな。相手の力量すら測れねぇとは。こんなんでオレ達ファントムの双璧に勝てると思ってんだからな、笑えてくるぜ。お前もそう思うだろ、テイトク?」
ガジルがようやく反応を示すと同時に、室内で突如起きた不自然な突風が土煙を晴らす。
突然の突風に男達は視線を急いでテイトクの方へと向けると同時に彼の声が響いた。
「そうだな、ザコにザコ扱いされるのは心外だ。だから前言撤回だ、ガジル。こいつらは俺がやる」
白。
男達の視界には純白の三対の翼が、テイトクを包むように出現していた。
その翼には傷は勿論、埃の一つもついていなかった。
そして、その翼の中からテイトクが現れる。
当然、テイトクの方にも傷らしい傷は存在せず、先程の男達の魔法での一斉攻撃を無傷で凌ぎ切ったようだ。
「なっ、馬鹿な!」
「あ、ありえねぇ……今のオレ達の攻撃をまさか防いだのか!?」
「な、なんだこの魔法は?」
「純白の白い翼……? ファントムの双璧? ……っ!? こいつまさか!?」
無傷のテイトクとその背に生える白い翼を見て動揺する者達。
そしてその白い翼を見て、先程のガジルの言葉を思い出し、顔を蒼白にする者。
「クッ、調子にのるな、食らいやがれ!」
動揺しながらも一人の男が再び魔法を放とうと男に向けて右腕を向ける。
そんな男を視界に収めたテイトクは片翼を一閃させる。
すると、たったそれだけで今にも発動しようとした魔法が
「なっ!?」
その事実に魔法を放とうとした男は驚愕を露わにする。
驚愕が周囲を支配する中、パァン! という何かが弾けたような音が響く。
そして次の瞬間には、ドッ! と魔法を放とうとした男の右腕が消し飛んだ。
「が、ああああぁ、ぎゃああああぁぁぁぁぁはあああぁぁああっッッ!!!」
一瞬何が起きたのか理解が追い付かなかった男だったが、自分の右腕が消し飛ばされた事を理解した瞬間、今まで感じた事のない激痛が男を襲う。
男はそのまま狂ったような悲鳴を上げて、右腕が消し飛ばされたショックに気を失う。
「なっ!? 一体何が!?」
「テメェ何をしやがった!?」
残りの男達は、何が起きたのか理解出来ずに声を荒げた。
そんな中、ガジルはテイトクの背から生える白い翼を見て、ニヤリと笑い言葉を発する。
「ギヒッ、相変わらずメルヘンちっくな魔法だな。イカれてるぜ」
「安心しろ、自覚はある。それにイカれてるのはお互い様だ」
二人の緊張感の欠片もないやり取りを聞きながら、男達は顔に脂汗を噴きだす。
そして先程から顔面を蒼白にしている一人の男が震えながら口を開く。
「や、やっぱりだ。こいつファントムの断罪天使、カキネ テイトクだ!!!」
その言葉に残りの男達も同様に顔を青くする。
「う、うそだろ!?」
「ガジル、カキネ…、ファントムの双璧・
「何でよりによってコイツ等が!!」
悲鳴にも似た叫び声を上げる男達を尻目に、とうの二人は相も変わらず余裕を持って会話を続ける。
「ギヒッ、そうだテイトク。ここで一つ勝負でもしてみねぇか?」
「あァ? 勝負?」
「どっちが先にこのクズどもを全滅させられるかを競うんだよ」
「……オイコラ、ガジルてめぇ話を聞いてなかったのか。コイツ等は全員俺がやるっつてんだろ」
「ギヒヒ、知るか。テメェが勝手に言い出した事だろうが、オレはまだ了承した覚えはねぇぞ。それともなにかオレに勝つ自信がねぇってか?」
「……ハッ、いいぜ。テメェのその安い挑発にのってやるよ。後で吠え面かきやがれ!」
「ギヒッ、吠え面かくのはテメェだ!」
そして二人は同時に男達の方へと駈け出した。
二人の動きを見た男達はビビりながらもその手に武器を構えて応戦する。
「クソッタレ、こうなりゃもうヤケだ!」
こちらに近づいてくるテイトクとガジルに彼らも覚悟を決め、魔法を放つ。
だが、その攻撃にもはや意味はなかった。
ガジルはその身体を鉄竜の鱗へと変質させ、攻撃を無効化し、テイトクはその純白の翼を振るい、発動前に無効化させる。
「クソッ! マジでどうなってんだ!?」
「なんで、魔法が発動しねぇんだよ!?」
「奴の魔法か何かか!?」
男達は先ほどから魔法を放とうと魔力を集めるが、何度やっても途中で魔力が霧散する。その為、どうしても魔法を発動する事が出来ず、その場で棒立ちになってしまう。
その様子を眺めていたテイトクは、口元に笑みを浮かべる。
そして男達の叫び声に応えるようにテイトクは口を開く。
「魔法じゃねぇよ、テメェ等
自身の背中に生える純白の三対の翼を横目で確認し、そのような事を呟く。
テイトクの発言通り、男達はテイトクが何を言っているのか全く理解出来ていないようで、その顔に困惑の感情が読み取れた。
「つまり、何が言いてぇかと言うとだ。ここから先、オマエ等が持ち合わせてるこの世界の常識は俺には通用しねぇって事だ」
そう言うや否やどこから取り出したのか、『この世のものではない』と思わせるような純白に輝く剣を右手へと持ち構え、その一撃を放った。
たったそれだけでその剣から発せられた衝撃と斬撃が、男達へと
戦いとは呼べない、一方的な蹂躙が始まった。
☆☆☆☆☆
一ノ瀬 冬弥。
それが、ファントムの双璧、断罪天使、という異名で恐れられるカキネ テイトクの前世での名前だ。
彼は所謂、転生者だ。前世の記憶を持ったまま二度目の人生を歩むという、ネットの二次小説でよくある様なテンプレを経験をした者である。
生前の彼は大学受験を間近に控えたどこにでもいる平凡な高校生だった。
その日は、受験勉強にどうしても集中出来ず、勉強は早めに切り上げて、ストレス発散に最近買った『とある魔術の禁書目録』というライトノベルを読んでいた。
そこで彼はそのライトノベルに出てきた『垣根 帝督』というキャラクターに心を奪われた。
悪党。
その垣根帝督というキャラクターを一言で表すならそれが一番適切だろう。
冬弥は、小さい時から、主人公よりもそれと対峙する悪党というキャラが好きだった。
確かに主人公もカッコイイとも思う。
己の信念を持って仲間達と共に困難を打ち破る姿は共感も持てるし、感動したりもする。
だが、己の信念を持っているのは、何も主人公だけではないのだ。
敵にだってそういったモノを持つ者はいる。当然、中にはそんなモノを持たないただ破壊を目的とした三流以下の悪党もいる、というか大半の悪党はそれに属するだろう。さすがにそう言った悪党は嫌いだが、己の信念を持って行動する悪党というモノが彼は大好きであった。
だからこそ、冬弥は自分が一番好きな要素を持つこの垣根帝督というキャラに心を奪われたのだ。
魅力的な悪党といえば、同じ作品の中に出てきた『
その後、ラノベを読み終わると同時に寝た彼は、転生する事になった。
神様のミスというネットの二次創作ではよくありがちな理由で。
そして彼の転生先は『FAIRY TAIL』と言われる漫画で、アニメやゲームにもなるほど有名で人気な作品らしく、魔法文明が発達した世界であるとのこと。残念ながら冬弥はジャンプ派だった為、一度も読んだ事はない。
特典は、死ぬ直前に読んでいた『とある魔術の禁書目録から垣根帝督の能力』を選んだ。
そして転生後、自分の容姿が生前の平凡な顔から垣根と同じ容姿に変化している事に気付く。
その事から彼は、一ノ瀬冬弥という名前から垣根帝督という名前で生きる事にした。
自分も、いつかあの小説で見たカッコイイ悪党になれる事を夢見ながら……。
☆☆☆☆☆
蹂躙が終わり、静寂が辺りを支配する。
その場には死屍累々と言った感じで倒れる
そんな彼らをつまらなそうに見下ろしながら、壊れた木の机に腰掛けるテイトク。
隣に視線を向ければ、どうやらガジルの方も終わったらしく、男達の鉄で出来た武器をガジガジと食べながら視線をテイトクの方へと向ける。
「ギヒッ、どうやら勝負は引き分けみてぇだな」
「いや、コンマ何秒か俺の方が早かった。だからこの勝負は俺の勝ちだ」
「ア? 何トボけた事抜かしてやがる。どう見ても同時だっただろうが」
「オイオイ、オマエの目は飾りか。さっきのはどう見ても俺の方が早かった」
互いにそれぞれの意見の方が正しいと主張する。
第三者がいない為、彼らの話は平行線の一途をたどる。
それから、互いに無言で睨み付け、暫くの間その場には静寂が再び支配する事になった。
「チッ、このまま話合ってても埒が明かねぇな」
「同感だな、どちらも折れねぇならそれはもう時間の無駄だ。ならやる事は一つだろ」
ガジルが舌打ちをして、そう言うと、テイトクもそれに頷く。
そして、二人は互いの姿を睨み付け、同時に口を開く。
「「表出ろ(やがれ)!! 鉄くず野郎(メルヘン野郎)!!!」」
……今日も、ファントムが誇る双璧・黒白は、いつも通りの日常を送っていた。