俺の家が幻想郷   作:十六夜やと

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大変長らくお待たせしました。
学園祭の準備や卒論のテーマ・内容、進路希望などにうつつを抜かしていたことを深くお詫び申し上げますm(_ _)m
というわけで本編どうぞ!


27話 んなことより掃除だ

「ふふ、来――」

「さっさと異変戻せやオラこちとら暇じゃねーんだよハウル見逃したらどう落とし前つける気じゃ幽霊退治すっぞボケナスが」

「霊夢、落ち着いて。お願いだから」

 

 咲夜に諌められて正気を取り戻す私。

 異変元のココに来る間、金曜ロードショーまでに間に合うかを内心で検討した結果、割りと時間ギリギリなのではないか?という結論に至り、我を忘れて幽々子に詰め寄ろうとした。

 その剣幕に、幽々子を守るように刀を抜いていた妖夢でさえ、「うわー、ないわー」と顔を引きつらせていた。とりあえず咳払いして誤魔化す。

 

 いや、私も最初はジブリ作品に興味など微塵もなかった。なんせ私の家の前にテレビがあるもんだから、魔理沙やアリスんところにでも出掛けない限り、嫌でも幻想郷の住人(アイツ等)が見ている番組が目に入る。

 だから金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』をやっていたときなどは、暇だからという理由だけで惰性で見ていたくらいだ。控えめに言って神作だったが。

 音楽も作画も素晴らしい。何よりストーリーも引き込まれる。外の世界の人間には、妖怪がこう見えているのかと感心すると共に、宮崎駿の世界に圧倒されてしまったのだ。

 非常に、そう、非常に遺憾ながらも、紫苑(アイツ)の持っていたジブリの曲を収録したCDを借りてしまったぐらいに。借りて正解だったけど。

 

 そして今日は『ハウルの動く城』の放映日。

 こんな下らない異変など片付けてしまいたい。

 

「あら、私は異変の首謀者として殺して解して並べて揃えて晒されるのかしら?」

「アンタ亡霊なんだから死なないでしょ。まぁ、そんなこと思っている間に八つ裂きになってるだろうけどね」

 

 傑作だわ、と幽々子が微笑む。

 戯言ね、と私は肩をすくめる。

 

「で、アンタの異変の目的は?」

「特にないけれど――」

「ないんかい」

「――西行妖を復活させる、ことかしら?」

 

 その言葉に私は気だるげな気分が吹き飛ぶ。

 西行妖はかつて幻想郷にある白玉楼にあった妖怪桜の名前だ。幻想郷で西行妖の封印を解いて復活させようと『春度』を集め、おかげさまで春が来なくなる異変を起こした西行寺幽々子。今回はその再現かと適当にシバくために白玉楼(ここ)へと赴いたのだが、どうやら彼女の様子からして適当では済まされない異変だったらしい。

 薄く目を開いて私達を見下ろす姿に冗談の欠片もなく、私と咲夜は思わず身構えた。

 ……それにしては妖力の『よ』の字も感じられないが。

 

「その西行妖はどこにあんのよ」

「貴方達から見て右手にほら……」

 

 扇子を使いながら左手を動かす幽々子に、私達は視線を右に動か

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 そして言葉をなくす。

 

「幻想郷が失われたけど、こうして新たな西行妖は生まれたわ。後はそれを成長させ――」

どー見てもオリーブの木よね?

 

 咲夜の言う通り、西行妖と呼ばれるそれは小型の観葉植物だった。小型の鉢に私達の身長よりは大きいが、木とは呼べないほどのオリーブと言う植物が鎮座していた。ご丁寧に根元に『西行妖』のプラカードが立ててある。達筆に書かれていたため余計に腹が立ってくる。

 というか桜でも何でもない。

 そのことを追求すると幽々子は鼻で笑って私達を嘲るように見降ろしてくる。

 

「――西行妖がいつ桜だと錯覚していた?」

「「なん……だと……!?」」

 

 まるで背後に『バーン』という言葉が見えたような気がしてきたが、恐らく幻覚か幽々子のスペルカードだろう。

 確かに西行妖が桜である理由は、名前から判断してもないけど。

 控えめに言って馬鹿なんじゃないだろうか。

 

 これが言いたかったと言いたげにご機嫌な幽々子。

 そこで疑問に思ったのか、咲夜が「でも……」と言葉を続ける。

 

「『西行妖』というのは妖怪よね? 名前的に」

「そうね」

「このオリーブの木には妖力と呼べるものはないわよね?」

「……そうね」

「もう一つ質問いいかしら」

 

 

 

「これ西行妖って呼べないんじゃない?」

「……君のような勘のいいガキは嫌いよ」

 

 

 

 さっきから亡霊は何をやってんだろうか。

 物凄く楽しそうな冥界の管理人に呆れ果てていると、居心地悪そうな素振りを隠そうとしているが、全然隠しきれていない妖夢が目に入った。このまま二人ともぶっ飛ばせば異変は終結するけれど、この後の()()()を考えると無駄な労力を使いたくないというのが本音だ。

 なので柄にもなく私は妖夢を説得し始めた。

 我ながら何という心境の変化かと内心首を傾げている。

 

「アンタも苦労が絶えないわね……」

「……ノーコメントでお願いします」

「でも、アンタこのまま異変の片棒担いでいていいの?」

「曲がりなりにも腐っていても、私は幽々子様の庭師で剣術指南役ですから」

 

 白玉楼の管理人が「え、ちょ、妖夢?」と焦っているが、私としては面倒この上ない。忠誠心という面から見れば立派ではあるが、どうも今の妖夢は幽々子と共に果てる覚悟を決めているらしい。でも、この前見たアニメだと諫言も忠臣の役目だとか何だとか言ってたような。

 元々責任感の強い剣術馬鹿だ。

 一度決めたことは中々曲げないし、そこが好感を持てるところだけどね。

 

 仕方ない、この前得た()()()を使うか。

 

「この異変って小麦粉何袋使ったの? その分だけ経理担当(映姫)からの支給が減るって理解してる?」

「か、覚悟の上です」

「あと――小麦粉ってゴキブリが好む食べ物らしいって知ってるかしら。月末支給が減らされる上に()()()()()()()()()()()()()()が家を徘徊する現実に耐えられ――」

 

 

 

「幽々子様! これ以上の狼藉は魂魄妖夢が許しません!」

「さっきの発言はどうしたの妖夢!?」

「さすがにアレは駄目です! デカいアレは駄目ですっっっ!!」

 

 

 

 半泣きで主に刃を向ける妖夢の姿は、遊び半分で始めた幽々子の心をかなり抉った。加えて、自分の等身大のゴキブリを想像したのか、顔を真っ青にしている。ついでに咲夜も。

 『ゴキブリは一匹いたら三十匹居ると思え』という言葉が正しいのなら、等身大のそれが群れをなしてカサカサしてくるのだ。私だってアレの群れとか御免だわ。

 もう一押しだろう。

 

「というかアイツ(家主)に連絡すればよかったわ。恐らく白玉楼の食糧供給はストップするかもしれないけど、私には一切合切関係ないし、簡単に掃除し終わ」

 

 

 

「来なさい西行妖! 私が相手よ!!」

 

 

 

 こうして敵全てを寝返らせた私は、ちゃっかり白玉楼近くにあったエアコンのリモコンを回収する咲夜を横目に、大きく深いため息をつくのであった。あの時の春雪異変も、このノリで簡単に終わればよかったのに。

 しかし、茶番のような展開もそうであるが、この後しなければならない片付けを想定すると頭が痛くなる。

 紫に残業手当でも請求してみようかしら?

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「……暇だな」

「そうだな」

 

 家主の一室にて向かい合いながら机の上に佇む二人。

 一人はもんぺを着ていて、もう一人は烏帽子を被った美少女達。共通点は灰色または銀色の髪くらいだろう。

 前者の名前は藤原妹紅、後者は物部布都。

 どちらも幻想郷の住人だ。

 

 なぜ二人は軟禁状態にあるのか。

 それは幻想郷の賢者の式神によって、スキマを経由し拉致されてきたから。彼女等は式神に「今のリビングに入ったら幻想郷が終わる」としか説明されていなかったが、真っ青に震えながら懇願してきたのだから、仕方なく大人しくしているのだ。

 妹紅は溜め息をつき、近くに置かれていた金平糖を一つ掴んでかじる。美味い。

 

「私達が入ったら幻想郷が終わるって……リビングは一体どうなってるんだ?」

「そもそもリビングに行く予定すらなかったのだがな。こうまで言われると逆に気になるが――」

 

 同じくポリポリ金平糖を口に含む布都と妹紅が一緒に、近くで倒れている人物に目を配らせる。そこには泡を吹いて白目で気絶している元トラブルメーカーが転がっていた。妹紅はヤムチャみたいだと内心思う。

 以前の幻想郷では散々引っ掻き回していた諸悪の根元。あんまり彼女には良いイメージはなかったのだが、ここまで無様に転がっていると二人は憐れみすら覚える。

 布都は試しに爪楊枝でつついてみるが反応すらない。

 

「……大人しくしとくか」

「……むぅ」

 

 流石に竹林の案内人とアホの子は賢者にトドメを刺すほど人でなしではなかった。

 人ではないが。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「そこ手が止まってるわよ。扉前の山を運んで」

「端の部分は濡れた綿棒を使いなさい」

「掃除機はまだなの!?」

 

「早くこの面倒な掃除終わらせるわよ! 終わらなきゃ金曜ロードショーは見ることが出来ないと思いなさい!」

「「「はい!!」」」

 

 いつもは指示なんて聞かない面倒な奴等だが、かかっているものがものなだけに、あの妖精達ですら素直に聞いて小麦粉を片付ける。家主のアイツが前に褒美をチラつかせて妖精達を使っているのを思い出して不本意ながら真似してみたのだが、どうやら間違いじゃなかったらしい。

 博麗神社(だったはずの小麦粉の山)を前にして、腕を組み指示を飛ばしながら内心舌打ちをする私。

 いつもなら他人に任せて昼寝でもしようと考えるが、んなことした日にゃ絶対コイツ等サボるに決まってる。粉にまみれながらハウルなんぞ見れるか。

 

 特に白玉楼勢の二人は使い潰す勢いで清掃作業を任せている私は、45リットルのゴミ袋を支えている妖夢の元へと移動した。

 袋の底に溜まっていた小麦粉に顔をしかめながら、皮肉混じりにジト目を剣士に向ける。

 

「どんだけ小麦粉ばら蒔いたのよ……」

「アハハ……こう考えると勿体無いですよね。何かに再利用出来ないでしょうか?」

「若干のゴミも含まれてるから、再利用するにしても料理とかには使えないわ」

 

 地面に落ちているものだから、掃除機で一掃することも視野に入れて指示しているのだ。あのピンクの悪魔ぐらいでないと食べようとは思わないだろう。冥界の管理人の方も、コピー能力を持っている方も。

 表面部分だけ回収することも考えたが、そうなると時間がかかるし面倒この上ない。

 金欠状態であった昔ならば血眼になって拾い上げたはずだけど、最低限度の生活が保証されている今ならば、食糧を拾い集める必要性がないからだ。皮肉にも幻想郷が消失して私が安定した生活を遅れるのだから、人生何が起きるか本当にわからないわね。

 

 とりあえず回収した小麦粉は外出中のアイツにでも押し付けることを冗談抜きで検討していると、妖精達が回収した小麦粉を運んでくるようだ。

 やれやれ、このペースで終わるのか――

 

「って、チル……ノ?」

「どうしたんだい、霊夢?」

 

 返答したのは服装的には何の変化もない⑨妖精の平凡なチルノだったのだが、頭に大きなベレー帽を被り……なんか……その……雰囲気がまるで違う。もっとこうアホらしさを全面に押し出した奴だった筈なのだが、今のコイツは大人の余裕みたいなものを彷彿させる。

 何をどう外部的干渉を受けたらアホがこうなるのか。

 どうでもいいけど物凄く気になった私は、後ろに控えていた大妖精に尋

 

「………」

「 I'll be back」

アンタ等に何が起きたの?

 

 黒いサングラスを掛けた重々しい雰囲気を出す大妖精にツッコミを押さえられなかった。キャラの方向性を見失うほどの何かが彼女達にあったのだろうか?

 絶句している妖夢を傍らに顔を引きつらせていると、肩を落としながらベレー帽を脱いで指先でクルクル回すチルノ。

 

「まったく……上が無能だと下の妖精達が苦労させられる。私達を文句も言わない無賃金労働者と思っていないかい? 自分で起こしたことは自分達で処理できる異変を起こして欲しいものだね」

「うぐっ……」

「まぁ、幻想郷に住んでいるからには、最低限度の責務くらいは果たすよ。もっとも、楽できることに越したことはないが」

「はうっ……」

 

 自分を某不敗の魔術師だと思っている精神異常チルノは、皮肉を込めて妖夢の責任強さを的確に抉っていく。明日は槍でも降るのではないのだろうか。

 目前の「ブランデー入りの紅茶を所望できるかな?」「 I'll be back」と会話になっていない会話を余所に、ふと私は時間を確認して顔を青ざめる。

 

「やっば……あと一時間で始まるじゃない!」

「ここに来て計画性のなさが露呈してきたか。霊夢が安全地帯()から指示してばっかりで動かなかったし、もし清掃に参加していれば少しは今より片付いていたと私は思うがね。他人にあれこれ言う前に、まずは自分から動かないと、私はいいとしても他のボランティアが納得しないよ」

「チルノ後で覚えておきなさい」

 

 一々正論だからこそ腹が立つ。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 早く掃除機が来ないだろうか――

 

「持ってきたわよ~」

「遅い! でもよくやった!」

「スイッチオン」

 

 幽々子が掃除機の電源を入れると、『強』に設定されていたのだろう、全てを吸収してやると鉄の意思と鋼の強さを感じ取れる勢いで、床に残っていた小麦粉を吸い続けていく掃除機(アルテマウェポン)

 

「掃除機の替えの紙パックも持ってきた?」

「それを探してたから遅かったのよ。家主さんに聞こうかなって思ったのだけど、タブレットが見当たらなかったから自分で探しだしたわ」

 

 あんのソシャゲーマー共が、と悪態をついてみるものの、その不満を飲み込むが如く全てを吸収する掃除機。

 

 全てを。

 そう、全てを。

 何度でも言おう。()()()

 

「あああああああああああああああああ!!?? 紅魔館が吸われりゅゅううううううう!!?? ちょ、亡霊止めなさい、やめ、やめろぉぉぉぉ!!??」

「やっFoooooooooooooo!!!」

「博麗神社も吸われりゅ――じゃないわっ! 家具も全部吸ってんじゃないわよ!」

 

 吸引力に心を乗っ取られて、全てを更地にする勢いで掃除機を振り回す亡霊を止めようとしたが、結局は博麗神社の家具と紅魔館全部を犠牲にして、金曜ロードショーを迎えることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ダイソン凄まじいわね。

 

 

 




【裏話】

~銀英伝視聴~
チルノ「最強……あたしの求めていた最強……!」
リグル「ワンパンマンの方がチルノちゃん好みじゃない?」
ルーミア「そーなのかー」
大妖精「b」





【お知らせ】

 春雪異変後の雑談会で取り扱う質問や疑問を募集します。
 活動報告で募集する予定なので、感想欄に記載せずに投稿するであろう活動報告にドシドシ応募してください!
 宛先はコチラ↓
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