というわけで例のあのキャラ登場回です。
みなさん予想してなかった形だと思いますが。
役員制度なるものが我が高校に存在する。
簡単に説明するなら『美化委員』とか『文化祭実行委員会』とか、自分の所属する組に何らかの奉仕をしなければならない面倒なシステムだ。
経歴から第三者に腫れ物のように扱われていて、極力他者と関わり合いを持ちたくない俺としては、このような制度を考えた奴をぶん殴りたい。しかし、現実は非情なために俺は渋々妥当な役員の職に就いた。
決して働くのが面倒だからじゃないよ?
そこで俺が選んだのは『図書委員』だ。
昼休みと放課後に本を並べたり貸し出しを受け付けしたりするだけの簡単な仕事で、尚且つ他者と交流する必要があまりない。受付だって他の委員に比べたら少ないし、読書が好きな俺には適任の素晴らしい職だろう。
ぶっちゃけ簡単な仕事。俺は同学年の同じ図書委員と組まされて受付をすることになった。機械で本のバーコードを読み取って貸し出しをするだけだから、上級生と組ます必要がないわけだな。
本を借りたい人が来るまで読書をしながら待てばいい。
問題があるとすれば……
「「………」」
チラッと隣の同級生を隠し見る。
葉緑体が混じっているのではないかと疑うくらい、艶やかな緑色の長髪が印象的の美少女。スタイルがとても良く、佇む姿は『深窓の令嬢』を彷彿させた。こんな美しい少女が同学年に存在したとは知らんかったが、男ならば玉砕覚悟で告白した奴が少なからずいるんじゃないだろうか?
俺だって男だ。普通の状況なら彼女の美貌には見惚れるよ? この世の絶望みたいな顔で佇んでなければの話だが。
初めての顔合わせをしたときは本当に驚いた。驚きを通り越して呆れた。
彼女の名前は『東風谷早苗』と言うらしく、それを聞いた未来が「学校でも有名な超美少女じゃん! ワケありだけど」と後半部分をボソっと呟いていたが……この事前情報を黙っていたアイツに後でラリアットをくらわせた。
深い事情がありそうなのは俺でもわかる。最初の役員会議には用事があって参加できず、どうして学年でも有名になるくらいの美少女と俺が組まされているのか疑問に思ったが、完全に腫れ物同士でワンセットにしたとしか思えない。いくら可愛くても、こんなテンションの異性と一緒にいたくないだろう。
姿勢正しくカウンターの椅子に座り、俯いてスカートの裾を握り締める姿は異常だ。
本を借りに来た生徒も彼女の雰囲気を察知して、俺に本を渡して貸し出しを希望する。この生徒は俺と同級生の男子で、俺の経歴を知っている。つまりはそういうことだ。
俺はスキャナーでバーコードを読み取り、片手でパソコンを操作しながら本を渡した。
「来週の金曜日までにお願いします」
「あ、あぁ……」
本を渡されて帰る間際に東風谷を横目で見て、俺に同情の視線を向けて去った男子生徒。
完全に俺の経歴云々で向けた視線じゃない。
「「………」」
そして、訪れる無言の空間。
図書館は静かにしなければならない場所だが、さすがにコレは受け入れがたい。
本を読んで気を逸らそうとするけれども、時折彼女の方を見てしまう。なんというか……明日に彼女が首吊り自殺を行ったとしても不思議じゃないと錯覚するくらいだ。
放課後には返された本を本棚にしまう仕事もあるのだが、本の束を持った俺の後ろを無言でついてくる。とりあえず返却された本は抱えており、俺が自分の抱えた本を本棚にしまったり、彼女から受け取ったりする。
っと、古典文学の本棚はここか。
「上から三番目の本とって」
「………」
「ありがと」
無言の彼女は従順に自分の持っていた本の山の上から三番目の本を俺に渡し、俺は感謝の言葉を述べながら一番上の段の空いている部分にしまう。
できれば自分で本をしまって欲しいが、そんなこと言えるのなら苦労しない。持ってきてくれるだけマシ。そう思うことにしようか。
「あ、広辞苑ちょうだい」
「………」
「サンキュー」
悲痛そうな表情で渡す東風谷。
俺は心の中で頭を抱えながらも、微笑みながら受け取るのだった。
♦♦♦
「東風谷早苗さん……の情報ですか?」
「そうそう、お前なら何か知ってるんじゃないかって。なんか学校の生徒全員の情報とか持ってそうだし」
「紫苑にとって私はエロゲ主人公の友人的立ち位置なのですね。私はそこまで万能ではありませんよ? まぁ、彼女は有名ですし、知らないわけではないですが」
「俺様も少しは知ってるぜ」
図書委員の仕事は毎週金曜なため、基本的に金曜以外の放課後は部活に行っている。そしてバイトある日は途中で帰るけどね。
俺はいつも通り美術部に顔を出し、アホ共と駄弁りながら放課後を満喫していた。今日はトランプを使って七並べ。今回の幻想郷からのゲストは金髪吸血鬼のフランだ。
俺がスペードの5を置きながら龍慧に聞いてみると、意外なことに兼定も知っていると口にした。びっくり。
「良くも悪くも有名ってことです。性格は天然で活発的。とても明るく元気な少女ですね。あと、彼女は守矢神社の
「……風祝?」
「風祝っつーのは風の神を祀る神職だ。しかも守矢は『秘術』なンて呼ばれる技法で天候操作を行う連中らしい」
知ってる印象とだいぶ違うが、それよりも気になった俺の疑問を兼定が解説する。
なんでお前がんなこと知ってるの?
「……商売敵のことくらい調べるだろ」
「あ、そっか。お前ん家って神社か」
「あれは傑作だったよねー」
いつもの素行で忘れがちだが、確か数年前にコイツの家に初詣に行ったことを思い出す俺。神主姿の兼定に俺達が大爆笑して以来、コイツは頑なに神社へ来ることを拒むようになった。
だって全然似合ってなかったもん。
妹にすらコスプレ扱いされてたし。
当時のことを思い出したのは俺や未来だけではないらしい。龍慧も笑いをこらえつつ、東風谷早苗という人物について語り始めた。
「まぁ、その秘術を扱える守矢神社の当代の風祝というのが彼女なんです。簡単に言えば雨乞いやらを行う、巫女さんみたいなものですね。それにしても秘術って胡散臭いと思いませんか?」
「お前の存在みたいにな」
「……そうですね、はい」
一気にテンションダウンする龍慧。
その説明に兼定が「風祝と巫女は違うけどな」と付け加える。ちなみに巫女と聞いて思い出したのは博麗神社(テレビ前)在住の女の子だった。
フランはハートの6のトランプに座っている。
「胡散臭い話――で終わればよかったのですが、彼女が天候操作できる話は真実なようでして、『現人神』と崇める者も多いとか。それを商売道具として彼女の両親は使っているらしく、東風谷早苗さんと実家の仲はよろしくないそうです」
「なるほどな」
「そして紫苑が聞きたいであろうこと――なぜ彼女が元気をなくしたのか、なんですが……」
フランの座っているカードの横にハートの5を置く龍慧。声を潜めて話始めたので、俺達は顔を寄せて聞く。
聞かれたくないことなのか?
「こればかりは私も知らないんですよ。時期的には昨年度――だいたい二月から急に変わったらしいのですが、誰一人として原因が分からないんです」
「もしかして秘術が使えなくなったとか?」
「その線も視野にいれました。ですが風祝としての能力は健在なようでして」
だから両親もそこまで気にしていない、と龍慧が締め括る。親なのに娘の変化を気にしないのかと未来は憤りを感じていたが、商売道具としてしか見てない連中には些細なことかと俺は納得する。
俺と兼定もあまり良い顔はせず、フランも話だけは聞いてたのか眉を潜めていた。
昨年度の二月辺りから彼女が変化した。
あの悲痛そうな表情は普通じゃないのは確かだ。どのような背景があって、何が東風谷早苗を変えたのか。
同じ図書委員のペアとして、これは聞いてみるべきかと腹を括るのだった。
……あんな気まずい空気で読書したくないし。
♦♦♦
さて、事情を知るべきだと腹を括ったとしても、そんな簡単に情報が手に入るのなら、とっくの昔に龍慧が調べているわけでして。
「やぁ、東風谷さん。今日もよろしく!」
「………」
「………」
次週の金曜日。
手を挙げながら似合わない爽やかな笑みを浮かべて挨拶をすると、緑髪の少女は俺を一瞬だけチラッと確認し、少し頭を下げて通りすぎて行く。
これ会話するだけでも至難の技じゃなかろうか。
手応えナシとかいうレベルじゃねーぞ。愛情の対義語は無関心だと伝えるためなのかと錯覚するくらい、俺への対応は冷たいを通り越して反応がちっさい。
いつも通り隣に座ってカウンターでの受付を開始するわけだが、今日は思ったより人が少ない。
チャンスだと狙った俺は会話を試みる。
「……えーと……その……今日はいい天気だな!」
「………」
「………」
見よ、これが俺のコミュニケーション能力だ。チャンスを生かせない無能の成の果てです。
彼女はまた俺の方をチラッと見て頷く。
共通の話題もなければ、彼女がこんなにも元気がない理由も知らない。そんな悪条件で何の話を切り出せばいいのかって問いたくなる。
胡散臭いアイツの情報だと、授業の受け答えはしているらしいが、クラス内で親しい者と会話しているのは見たことがないらしい。
それ以前に彼女はこの地域一帯でも有名な風祝だ。高嶺の花たる東風谷早苗と特別親しい同世代自体が少ないとか。こうして俺が話しているなんて知られたら、もしかしたら彼女と同じクラスの連中に刺されかねん。
「『現代の呪術師』『奇跡の風祝』『現人神様』なんて呼ばれるくらい、彼女は学校でも有名な存在なんだよね。知らない人の方が少ないんじゃないかな?」
「なるほどなー」
「あぁ、最近だと呼ばれ方が一つ増えたねー。『夜刀神の背後霊』って」
「……いや、確かにそう見えるかもしれないけど」
という未来との会話が前にあった。
放課後に俺の後ろを本を抱えながらついてくる姿を、誰かが見てそう揶揄したのだろう。東風谷は俺のスタンドじゃねーんだが。
これで余計な噂を生まなきゃいいんだけど。
俺を悪者扱いするのは勝手だが、これで色恋沙汰の噂が流れるのは東風谷さんが可哀想だ。同世代の連中はすぐ付き合ってるだの騒ぎ立てるからな。
そもそも本来ならコレは先生とか同クラスの連中がすることであって、なんで同じ図書委員ってだけで俺が彼女を気にかけないといけないのかなぁ。俺は他人と極力関わりたくないだけであって、問題抱えた同学年のカウンセリングするために図書委員になったわけじゃない。
親も親だ。コミュニケーション能力に乏しい俺ですら、彼女が物凄く悲しんでるって分かるんだぜ? 娘のことを慮る努力をしてほしいよ。
世知辛いねぇ。
「あ、本の貸し出しですか? 東風谷さん、この二つの本のバーコードを読み取ってくれない?」
「………」
「ありがと。来週の金曜日までに返却お願いしまーす」
こうやって指示さえ出せば言うことは聞いてくれる。
面倒とか思わなくもないが、ここまでくると何が彼女をそうしたのか非常に気になってきた。
それを聞くためには少しずつ根気よく頑張って行くしかないんだろう。俺が抱えている問題は他にもあるんだし、時間はまだ一年弱あるんだから。
――なんて思っていた数週間後。
変化は唐突として訪れる。
「おっはー」
「………」
もはや話題すら取り繕うこともなくなった俺は、いつものように挨拶してカウンターの椅子に並んで腰掛ける。
持参の本を読もうとした瞬間。
「――私」
「……ん?」
最初は聞き間違えかなって思った。
初めて聞く美しい声色が俺の耳を刺激し、一人称を呟く声に俺は東風谷の方を見る。
いつもの悲痛な表情には変わりないのだが、今回ばかりは他の感情が混ざっているように感じた。あくまで俺がそう思っただけである。
東風谷早苗は俺の方を見据えながら――こう話を切り出すのだった。
「私……神様が見えるんです」
『あ、この人アカンわ』って一瞬思った。
紫苑「原作とキャラが全く違う件について」
未来「それは次回判明する感じだね」
紫苑「そもそもパラレルワールド設定だから、東方メンバー全員が小人として登場するとは限らないって話」
未来「ぶっちゃけ守矢勢の『ifの話』だし、コレ。もしかしたら、こういう展開があったんじゃないかなーって」