……観戦と言っても戦闘を観る的な意味での観戦ですが。
チャージ率が70%を突破。
それを確認したとき、ティナとスコーピオンが交戦を開始してから、すでに5分ほどが経過していた。
5分で70%だからあと2分もしないうちにチャージを終えることができる計算になるが……思っていたよりも速度が速いな。
イメージとしてはもう少しのんびりとチャージされるものだと思っていたが、違うのか?
そんなことを思いつつもチャージを続行し、どれくらい溜まったのかを確認する。
まぁ確認すると言っても感覚的なものだからざっくりとしか分からんがな。
だが……その感覚を信じるとすれば、現在は約72%で誤差は前後1%ほど。
今1%以上溜めるのに使ったのは10秒以下。
つまりは1%辺り7~8秒ってとこか?
しっかり計算すりゃあすぐ分かるんだろうが、生憎俺は計算が得意な方じゃないし暗算なんて論外、少なくともチャージに意識を回しながらやるのは難しいだろう。
なんせ俺だ。
最終学歴が高校中退の、俺だ。
成績が何故か3、2、4、5の4つで形成されていた微妙な俺だ。
内訳?そりゃあ国英が3、数学2、理科は生物の方で荒稼ぎしてるから4、社会はまぁあの頃は無駄に情勢を見極める能力が鍛えられ続けていた(主に金欠に伴う安い食材の情報入手のため)から公民で引っ張って4、その他実技系は体育、家庭科が5で他は2だった。
……今思うと滅茶苦茶微妙な成績だな、俺。
あの頃は生活するために毎日仕事を探す必要があったからロクに自宅で勉強も出来てなかったことを考えりゃまだそれなりにやれてた方なんだろうが。
あぁそうだ、高校時代のことを考えていたら思い出した。
未織……現在東京エリアで最大規模を誇る司馬重工の令嬢にしてあの頃の俺のスポンサー、そんでもって訳が分からんがしょっちゅう俺にスカウトを掛けて来てた奴……のやつ、あれ以来一度も顔を合わせちゃいないが元気だろうか。
まだスコーピオンを倒してもいないのにそんなことを考えるのはいわゆる死亡フラグになるだろうが、とりあえずこれが終わったらアイツに会いに行ってみても良いかもしれない。
かれこれ1年近く会ってないから忘れられたか、はたまた意外にも覚えていたりするのか。気になるところだ。
……さて、なんだかんだ自分の頭の悪さを自慢したあとで考え事をしながら別のことを実行するマルチなんとか……確かマルチダスク……いやマルチタスクだっけ?をやるのは少し矛盾している気がするし、実際少し集中に雑念が入っているような気もするのであまり頭を使わないことを考えよう。
何も考えないという選択肢はないのか、と聞かれると痛いところだが、生憎と俺は頭が悪いクセに頭を空っぽにして何も考えないってことがティナに甘えている時などのごく一部の例外を除いて出来ない人間なんだ。
正確には空っぽに出来ない訳じゃなく、どうしても思考を続けてしまうだけなんだが。
10歳くらいの頃に天童なんつーこの国のお偉いさん一家に引き取られちまったせいでな。
あの頃の……っと、あぶねぇあぶねぇ。あまり頭を使わないことを考えようとか言ったクセにその次の瞬間頭を使ってら。矛盾してやがるぜ。
そういう訳だから何も頭を使わないことを考える訳だが……果たして何を考えればいい?
それを悩むことも地味に頭を使うしなぁ……
そんなことを考えながら悩むこと約十秒。
俺はようやく頭を使わずに考えられることを思い付いた。
そう、目の前の光景について考え続ければ良いのだ。
具体的にはティナとスコーピオンの戦闘風景を。
それなら実際に起こっていることだからさして頭は使わないし、何よりティナとの戦いで初めて見せる動きもあるかもしれない。
それを学んでおくことはチャージ完了時の命中率にもそれなりに影響することだろう。
……チャージ率、76%。
俺は現在のチャージ率を体感で計測しつつ、目の前で行われる高速戦闘を見届ける。
かたや人でありながら人でない人間、かたやその種の限界すら超越し星座の名を与えられたバケモノ。
その戦いは恐らく普通の人間の目にはマトモに映りもしないだろう。
その高速で行われる戦いは、きっと素晴らしい審美眼を持つ人間が見れば間違いなく美しいと言うであろうレベルのものだったし、常人なら見ているだけで失神しそうな程に激しい。
しかし俺には別のものが見えた……それはティナのパンt……コホン。もとい、ティナがこっそりと飛ばしている自律飛行型戦闘観測ユニット(多分そんな感じの種別だった)の【シェンフィールド】だ。
コイツらは見た目はただの球体であるはずなのに、一度起動すればティナの意思に応じて飛び回り各種情報を伝えるという恐ろしい特性を持っている。
さらに三機あることでティナに伝わる情報の正確性や信頼度も上がるため、もはや狙撃の時の観測手が要らなくなるんじゃないかとすら感じられる逸品だ。
欠点は三機以上使うと脳がそれをコントロールするユニットの熱で焼けるってことだろう。
あと地味に原価で一個数十万円くらいするので結構高価なものだったりもするんだが……しかしこう見るとシェンフィールドってのは優秀なもんだよな。
ゾディアックが相手でも恐れずに適切な情報をティナに伝え続けられるってのは普通の観測手には出来ない仕事だ。
そしてその正確な情報はティナの能力の高さと合間って未来予知じみた正確な予測を可能にし、本来なら成り立たないであろうこの戦いを成り立たせている。
うーん……やっぱアレ、俺も個人輸入しようかな……俺なら脳にBMIだかなんだかを埋め込まずとも直接受信できるから多少安く済むし、その程度の出費で戦闘が楽になるならそれは良いことだからなぁ……
おっと、考え事をしちゃいかんのに何をしてんだか。
観戦(文字通り戦闘を観るという意味の、な)を再開しよう。
チャージ率、80%!
俺は脳内でチャージ率を確認してから、目の前の戦闘を見届けることにした。
状況は変わらずフィジカル面でスコーピオンが圧倒し、事前の準備と様々な現代兵器などによりその手の面ではティナが圧倒している。
しかしスコーピオンも躍起になって目の前の強敵を片付けようと全力で攻撃しているため、その両者はずっと拮抗したままで……
と、そこまで見てから不意に俺の目は、視界の端で巨大なバズーカのような物を捉えた。
いや、正確にはロケットランチャーの方が正しいだろう。
文字通り先端にロケットのようなものが付いた棒のような形をしているし間違いない。
だが、あえて言わせてもらうとそのサイズは規格外だ。
それこそ過去の戦争じゃ絶対に考案すらされなかったであろうほど大きく、どう考えても運用出来るのはイニシエーターのような超人だけな上に使える場面も装甲の分厚い戦車を一撃で止めたい時くらいと容易に想像できた。
しかし今回の相手はゾディアックと言えどガストレアだ。
そして基本的にガストレアを相手にする際の戦術は『バラニウム製の武器でなるべく強烈な一撃をお見舞いして出来るだけ接近する回数を最低限に抑えて倒す』だからアレを使うのは戦術的に間違っては居ないだろう。
……だが、それにしたってあのサイズは大きすぎやしないだろうか?
ほぼ斜め70度くらいの角度で立っているのは上から落とすためだとしてもあれじゃ本当に当たるのかどうかさえ分からないほどに大きい。
アレを命中させるよりも普通に爆弾を直接叩き込んでやった方が効率が良さそうなものだが。
そう考えていると、俺のその思考を見透かしたようにティナが何らかの信号を送ったのかロケットランチャーが起動し、どこぞの防犯商品のように巨大なネットを展開した。
そしてそこにタイミングよくスコーピオンが突っ込んできてネットが足に絡み、転倒する。
なるほど、あれは対巨大生物用か何かの投網マシーンってわけか。
まるでどこかの誰かさんが趣味で作っていそうなヘンテコ兵器だが、あんな変わり種が役に立つってこともあるんだな……あれも今度2つくらい購入するとしよう。普通のサイズだけどネットにバラニウム混ぜた鋼糸使ってるやつ。
そんな具合でなんだかんだ考え事をしている内に1分半ほどが経過し、チャージ率が90%を突破した。
スコーピオンもさっきのネットで転倒したりしてペースを完全に奪われているし、このままチャージを完了させて倒せるのでは?とすら考えられるほどに状況は優勢だった……しかし。
「いやちょっと待てよバーロー……」
まるで最初から待機させていたかの如く足並み揃って、幾百ものガストレアの軍勢が押し寄せて来たのだ。
状況は、ガストレア優位に傾いた。
何かこのままスコーピオンをさっくり殺るのも難だなぁ、とか思っていたが故に行われた予定調和。
とりあえずスコーピオンそのものは原作と同じく超電磁砲で倒せる(倒す、とは言ってない)がしかし大量のガストレア。
まぁ原作通りっちゃ原作通りですがね。
違いがあるとすれば東京エリア居住区との距離……とか?
それと次回投稿は難産になる可能性が高いんで1週間以上掛かると思われ。