緑谷出久が悪堕ちした話   作:知ったか豆腐

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投稿再開です。
久しぶりなので、簡単に前回のあらすじ。

1.ヴィラン連合摘発作戦で骸無の介入により死柄木を取り逃がすオールマイト。
2.オールマイトと骸無の戦闘中に爆豪乱入。骸無vs爆豪。
3.骸無と爆豪の説得に失敗いたオールマイト。二人をのがしてしまう。

今回は最終章の再度、導入です。


緑谷出久は呪いをかけました その3

 ヒーロー・警察サイドによるヴィラン連合の一斉摘発。

 それは一定の成果は上げたものの、死柄木という最大の目標を逃す結果となった。

 しかし、だからといって立ち止まることは許されていない。

 ヒーローと警察は得られた情報を元にさらにヴィラン連合を追い詰めるべく捜査を進めていた。

 

 慌ただしく人が行き交う捜査本部。次の摘発作戦へ向けて最後の準備を進めているところだ。

 そんな捜査本部がある施設の一室にて、オールマイトは体を休めていた。

 関係者以外は立ち入り禁止とした部屋の中で、トゥルーフォームを晒すオールマイト。

 その表情はけっして晴れやかなものとは言えなかった。

 先の作戦を思い出し、拳を握りしめる。

 逃がしてしまった死柄木の事、救えなかった出久のこと、止められなかった爆豪のこと。

 自身の不甲斐なさが身に染みる。

 

「どうした、オールマイト。話は聞いていたかい?」

「……すまない、塚内君。少し考え事をしていた」

「作戦開始はすぐ迫っているんだ。しっかりしてくれ」

「ああ、気合をいれなければな!」

 

 謝罪するオールマイトに塚内警部はため息を吐く。

 なんだかんだと付き合いの長い彼が、オールマイトのメンタルがいつもとは違うことを察することができたのは当然のことだった。

 そして友人としてオールマイトを案じるのもまた当然のことだ。

 

「で、考え事というのは? 取り逃がした死柄木のことかい?」

「いや、それもあるが……骸無、いいや、緑谷少年と爆豪少年のことを考えていた」

 

 前回の作戦で相まみえる機会がありながら、両者ともに説得することができなかった。

 そのことが悔やまれて仕方がないのだ。

 もっと、かける言葉があったのではないか。彼らの心に訴えかけるふさわしい言葉があったのではないか。

 そんな考えが頭の中をぐるぐると巡っているのだ、と、そう塚内に独白するオールマイト。

 珍しく弱音を吐くオールマイトに塚内はあえて笑って励ましの言葉をかけた。

 

「らしくないことを考えているね。オールマイト。君はそうじゃないだろ?」

「私らしくない?」

「ああ、そうさ。僕が知っているオールマイトっていうのは――」

 

 塚内が考えるオールマイト像を語る。

 『私が来た』そう言って現場に駆け付け、正義を行動で示してきたヒーローがオールマイトだという。

 オールマイトというヒーローが最も人々の心を動かすのは、その言葉ではなくその姿なのだ。

 

「君はそうやって多くの人を救ってきたのだろう? それこそちょっと強引なくらいにね」

「……そうだな。あのときは言葉を尽くすことよりも、彼らを止めることに全力を尽くすべきだったんだ!」

 

 ヘドロ事件のあの日、自分が間に合わなかったという負い目から自然と弱腰な対応をしてしまっていたと自覚したオールマイトは覚悟を決めなおした。

 次こそ彼らを救うのだと。

 

「次に会う時こそ、必ず止めてみせる! 緑谷少年を取り戻すんだ!」

 

 力強く告げるオールマイト。

 しかし、心の隅で弱気な気持ちがよぎる。

 果たして、まだ間に合うのだろうか、と。

 

 

 ――第二次 ヴィラン連合摘発作戦

 

 前回の作戦で得ることができた情報からさらに捜査を進め、ヴィラン連合の新たなアジトを見つけ出したヒーロー・警察連合。

 今回は二つのチームで戦力を集中させた上での作戦決行だ。

 片方は改人の製造プラントがあるとされる廃工場。もう一つは死柄木が潜伏しているとされる廃ビルだ。

 オールマイトは今度こそ死柄木を捕らえるべく、死柄木捕縛チームとして参加している。

 作戦開始までの時間、オールマイトは緊張した面持ちで車両の座席に腰掛けていた。

 それもそのはず。

 なぜなら、隣には師匠であるグラントリノが不機嫌そうに座っているのだから。

 

「まったく、おまえは本当に教育に関してはど素人だな。ええ? 俊典?」

「はい……おっしゃる通り、未熟者でして」

「んなこたあ、分かっとるわい!」

 

 身を縮こまらせるオールマイトを叱りつけるグラントリノ。

 そのしかめ面が不快をありありと映し出しているが、その原因が何かはっきりと分からないので滅多なことは口にできない。

 

「おまえさんが面倒見きれんと後継者でもない教え子をよこした時点で未熟具合は折り込み済みだっての」

「その節は、大変ご迷惑を……」

「そうやって骨を折って鍛えてやった有精卵どもが揃ってあの様たぁ、どうなっとるんだ。えぇ!?」

 

 謝るオールマイトへようやく不満の中身を口にしたグラントリノ。

 職場体験でわずかな期間ながら指導をしてやった爆豪と轟の現状と、それを許してしまった雄英教師陣並びにオールマイトへの不満だった。

 

「ひとえに私の力不足が原因です。返す言葉もない……」

「まったく。自覚があるなら努力しておけ。まぁ、あいつらにも悪いところがなかったわけでもないが」

 

 悔恨を噛み締めるオールマイトの隣で指導をした二人の事を思い出す。

 歴戦のヒーローであるグラントリノには、まだ指導者としての経験が短いオールマイトには見えていない部分が感じられていた。

 

「あいつら二人、ヒーローとして才能はあっても感性は全然持っていない奴らじゃったからなぁ」

「あの、よくわからないのですが?」

 

 ヒーローとしての『才能』と『感性』。その違いがよくわからずに聞き返すオールマイト。

 その質問にグラントリノは一度頷いてから、教えを授けるように語りだした。

 

「才能があるってのは、身体能力が優れてる、体格に恵まれてるだとか強い個性を持っているとかそういうことを言うわけだ」

 

 爆豪も轟も『爆破』に『半冷半燃』という強力な個性を持っており、身体能力も優れている。

 まさしく、『才能』のある有望なヒーロー候補と言って差し支えないだろう。

 では、『感性』がないとは?

 

「ヒーローとしてのセンスはダメダメだったな」

 

 一言で言えば、と、前置きをして告げるグラントリノ。

 オールマイトは首を傾げる。

 

「センス、ですか? お言葉ですが、彼らにセンスがないとは思えませんが」

「表面的な話じゃねえのさ。もっと根本的な、根っこの考え方の話だ」

 

 戦闘技術や個性の扱い方とかの話ではないと言う。

 大事なのはそのヒーローの考え方、思考方法なのだと持論を語るグラントリノ。

 

「能力ってのはそいつが持って生まれたモンだけを言うんじゃねえだろ? そいつの努力して身に着けた結果も含めて能力っていうもんだ。その努力の方向性を決める考え方が間違ってりゃ、当然、能力は伸び悩む!」

 

 爆豪、轟はその点が未熟だったのだ。

 轟は父親を意識しすぎて自分の才能を自分で狭めてしまっている。

 爆豪は凝り固まったプライドが邪魔をして、成長の方向を限定してしまっている。

 どちらも多くのヒーローを見てきた古豪グラントリノからしてみればばかばかしい話であった。

 

 自分の父親が嫌いだから自分の能力を選り好みするなどただの我儘でしかない。

 その結果、救えたはずの人が救えないとなった時に後悔しても遅いのだ。

 実力を身に着けることに専念する。そう言えば聞こえはいいが、一人で出来ることなどたかが知れているのだ。

 他人をないがしろにし、協調性を無視したヒーローが大成できるだろうか?

 

 真にヒーローとしての感性を持っているのならば、()()()()のことは真っ先に思い浮かぶはずだ。

 だから、彼らには才能はあっても感性がないのだという。

 

「しかし、そういった考え方というのは後から教育や指導を受けて見についていくものでは?」

「だから、それを教えられなくても最初から持ってるやつはスゲェんだろうが。そういうやつの成長速度は他とは違う!」

 

 ある意味見えているゴールが違うのだという。だから、努力の方向性・効果が変わってくるのだ。

 その説明を聞いて腑に落ちたような気持になったオールマイトは、大きく「なるほど」と頷いた。

 ……ところで、グラントリノの杖で小突かれて痛みに声を洩らす。

 

「阿呆! 何が『なるほど』だ! そこんところを教育しきれなかった結果が今の状態だろがい!!」

「も、申し訳ございません!!」

 

 分かってんのか、新米教師!

 ス、スミマセン!

 

 と、上下関係がハッキリしている会話を繰り広げる二人。

 天下のNo.1ヒーローも師匠相手では形無しであった。

 昔からよく知る情けない姿を見せられて一つため息を吐いたグラントリノは呆れた様子で告げる。

 

「だいたい、才能よりも感性・考え方の方が大事うんぬんかんぬんで言えば、おまえさんが最たるもんじゃろうが」

 

 無個性でヒーローとしての才能はなかったが、『国民の拠り所になり、人々を支える柱になる』と信念をもってヒーローを目指し、その頂点に上り詰めたのがオールマイトだ。

 それを師から告げられて、ハッと気が付くオールマイト。

 

『そうだ。私がワン・フォー・オールの後継者に緑谷少年を選ぼうと思ったのは、彼が強い個性を持っていたからじゃない! 誰もが立ち竦む中、人を救けるために一人走り出したその姿に心動かされたから選んだのだ!』

 

 師の言葉によって、自身の心の根本的な部分を改めて見直すことができたオールマイト。

 一層、気合を入れて摘発作戦へと意識を集中し始めた。

 

 もう間もなく作戦開始時刻だ。

 今度こそ、ヴィラン連合を倒し、緑谷少年を救うのだ。

 そう心に誓うオールマイト。

 

 さあ、決着の時はもうすぐだ。




若干、説教臭い話になってしまいました。
現時点ではまだ完結まで書き上げていないのですが、あまり待たせすぎるのもどうかと思うので、出来上がったところまでです。

次は翌日に投稿します。

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