ヴィラン連合の改人・骸無。
対“平和の象徴”として造られたそのスペックは並のヒーロー程度ならば相手にならず、戦闘に秀でた実力派のヒーロー数人を相手にしても勝利を収めることができるだろう。
他者の追随を許さない戦闘能力。
それこそが、骸無の神髄。求められた能力だ。
それゆえに、この場で骸無の相手は決まっている。
DETROIT SMASH !!
No.1ヒーロー オールマイトだ。
「グッ! このままでは」
オールマイトのスマッシュが骸無を吹き飛ばす。
彼は今、骸無を相手に一方的な展開へと持ち込んでいた。
劣勢の状況に骸無は焦りを見せる。
スペックだけならばいまのオールマイトを超える骸無が一方的にやられている理由。
それは、味方の存在に他ならない。
プレゼント・マイクの声の砲撃に吹き飛ばされ、Mt.レディの強力な一撃、スナイプによる狙撃で打倒される脳無。
ミッドナイトの個性で眠らされ、ギャングオルカの音波で麻痺させられる脳無。
ベストジーニスト、シンリンカムイ、エクトプラズムらの拘束系の個性は瞬く間に脳無の動きを封じていく。
10体の脳無といえど、歴戦のヒーローたちにかかれば戦力としては不十分だ。
骸無が援護をせねば、全滅する未来は避けられない。
そして、その援護を許すほどオールマイトは甘くない。
「よそ見とは余裕だな、緑谷少年!」
「チッ、邪魔をするな。オールマイト!!」
脳無へ向かう進路をことごとく妨害され、舌打ちをする骸無。
身体能力の差を、戦闘経験の差で埋めてくるオールマイトに決定打を打てない。
ならばと、身に着けた炎熱系の個性で焼き殺そうと右手をあげた骸無。
SMASH !!
「グフッ!」
何もできず直撃を受けて地面を何度もバウンドすることとなった。
ダメージをこらえて即座に立ち上がった骸無は忌々しげにそのヒーローの名を呼ぶ。
「イレイザー・ヘッド!! よくもボクの個性を!!」
「個性を複数持っていることは知っている。そう分かっていて俺が好きにさせるわけはないだろう」
増援のヒーローが来たことで、余裕ができたイレイザー・ヘッドがオールマイトの援護にまわっていた。
例えどんなに個性を持っていようと、それが抹消されていれば意味はない。
そして骸無の身体能力についてこれるパートナーが、オールマイトがいればその役目は十全に発揮できる。
イレイザー・ヘッドとオールマイトのコンビ。
これこそ、骸無・脳無といった複数個性・身体強化という特徴を持った改造人間を封じる対策のひとつである。
『イレイザー・ヘッドの個性には制限時間がある。それまで耐えればこちらにも勝機があるはずだ』
そう思ってオールマイトに向き合う骸無であったが、
こんなことができるのは一人しかいない。
繊維を操るという「人類が服を着ている以上有効」な個性を持ったNo.4ヒーロー、ベストジーニストだ。
「向こう側がおおかた片付いたから助けに来たが……なかなか手ごわい相手だな。ここまで拘束していてまだ動けるのか」
「ベスト……ジーニストォ!」
優雅ともいえる動作で現れたベストジーニストを睨みつける骸無。
状況は刻一刻と悪い方向へ流れている。
仕切り直しのために動かせるだけ全力で跳躍するが――――
タイタンクリフ
「ぐああ!」
「痛ったー! 結構勢い強かったわよ、いま」
巨大化したMt.レディによって叩き落とされ、逃走失敗。
ヒーローたちに囲まれてしまう。
『クッ、ダメージが……そろそろダメだぞ。これは』
フラフラになりながらも立ち上がる骸無。
オールマイトはその前に立ち、降伏を勧告する。
「もう終わりだ緑谷少年。脳無たちはすべて無力化した。残るは君だけだ。おとなしく無駄な抵抗をやめたまえ!」
オールマイトの言葉に視線を移せば、脳無たちは鎮圧されてしまっていた。
「ボクが……負ける?」
孤立無援。四面楚歌。
そんな絶体絶命の状況で骸無は…………ヒーローたちに嘲笑を投げかけた。
「ククッ、ハハハ、ギャハハハ! 勝ったと思ってるだろ! これで勝ったと、ボクと脳無を捕まえて終わりだと!! 笑っちゃうねホント」
ゲラゲラと下品に笑い声をあげる骸無に、ヒーローたちは警戒を露わにする。
この期に及んでまだ何かするつもりなのか。
いままでの経緯を見て骸無という改造人間は油断できない相手だった。
だが、その骸無の口から驚くべき言葉を聞くこととなる。
「ボクがここで勝とうが負けようがどうでもいいことだ! オールマイト、そして雄英の教師がこんなにもここに来た時点でボクの目的は達成されてる!」
「ハァ!? そりゃあ、どういう意味だオイ!」
プレゼント・マイクが言葉を荒げて詰問すると、骸無は割れた仮面から笑みを見せて言う。
「合宿の襲撃がうまくいけばそれはそれでよかった。その結果は雄英の、ヒーローの無力さを世間に証明した証だから。
でも、そうならなかった場合。つまり今みたいに襲撃を防衛できる戦力がここに集まっていた場合は作戦は第二段階に移る」
「戦力? 脳無と骸無……まさか!?」
何かに気が付いたギャングオルカが拘束されている脳無に振り返る。
ヴィラン連合の改人は他にもいたはず。それが
つまり、こいつらは……
「そう、ボクたちは囮。本命はヒーローが出払い少なくなった
「雄英高校だと!?」
情報が漏れていることを踏まえて動いた雄英の合宿だったが、その裏をかいたつもりの作戦もヴィラン連合には予想の範囲内であった。
襲撃が上手くいけばそれでよし。うまくいかなければ次の手を。
謀略を仕掛けるのはヒーローではなくヴィランの得意とするところなのだから。
そして、ヴィランはさらに一手駒を進める。
「あら? どこか焦げ臭い匂いが……もしかして!」
ミッドナイトが異臭に気が付き、空を見上げる。
森から黒煙が上がっている。気がつけば周りは火の海となっていた。
増援に駆け付けたヒーローを逃がさぬための手段に、ヴィラン連合は森への放火を躊躇なく行ったのだ。
「一時の勝利おめでとうございます。オールマイト。次は雄英高校で会いましょう」
「なにを言っているんだ……少年!?」
皮肉げな笑みを浮かべた骸無が、オールマイトの目の前でドロドロに溶けだして消えてしまった。
今まで目の前にいた骸無は贋物だった。
「くそ、やられた!」
イレイザー・ヘッドが悔しさに地面を叩く。
この場でヒーローが得た勝利は……あまりにも価値の少ないものでしかなかった。
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――――雄英高校
「あっ、とうとうおまえやられちまったみたいだぜ、骸無」
覆面のヴィラン、トゥワイスが骸無に話しかける。
骸無は落ち着いた様子で答えた。
「そう、お疲れ様。よくやってくれたよ」
「ああ! 俺がんばってたぜ」「めっちゃ暇だった!」
正反対なことを言うトゥワイスの言葉を気にした様子もなく骸無は歩みを進める。
その足元には雄英教師のヒーロー「セメントス」が血まみれで倒れていた。
生徒たちを避難させるために立ちはだかったヒーローは彼が最後。
あとはまともな戦力はいないはず……そう思っていたのだが。
「君は誰だい?」
「俺は雄英高校ヒーロー科三年生。ヒーローネームは『ルミリオン』さ! ここで止めるぞ、ヴィランども!」
通形ミリオ。雄英ビッグ3と称される将来有望のヒーロー候補。
その一人が骸無の前に立ちはだかる。
「邪魔するなら……消すだけだ」
「できる……ものならね!」
ぶつかり合う二人。
オールマイトの後継者候補であった二人が、立場を違えて対峙する。
それは、ありえた可能性からは考えられない悲しい出来事だった。
感想で先の展開を読まれていてすごい焦った。
読者のみなさんが鋭いのか、ボクの発想が普通なだけか……。
そして、意外に多い愉悦部員。
そんなに期待されるともっと愉悦させたくなるじゃないですか!
次章はバッドエンドルート最終章です。
どうぞ、お楽しみに。