衛宮士郎は死にたくない。   作:犬登

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凛視点。
ちょっと会話多いけど気にするな。
ギャグ調。


───その先は、混沌(カオス)だぞ。


閑話 古参勢の朝は早い。

 私こと遠坂凛は天才魔術師であり、十年間待ち望んだ聖杯戦争に意気込んでいた。これが自分の魔術師として試金石になる。これを越えれば、輝かしい第一歩を踏み出せる、と。

 しかしいざ召喚しようとした日になって、亡きお父様の仕掛けていた『時計が一時間早くなる』というイタズラ(意味不明)が発動したせいで朝早く起床することになっていた。

 とても萎える。こんな時に何いらんことしとんじゃ。そういう人じゃなかったでしょ、キャラ的に。

 

 

 学校に到着し、間桐慎二に絡まれて謎の勘違いをされる。今日に限って絡みが激しい。更に萎える。思い切りウザいって言ってるでしょうが。こっちくんな。なんであんなのに靡く女子がいるのか分からない。

 

 

 弓道場に入って当初の目的である桜を見つける。今日も元気なようでお姉ちゃんは嬉しいです。お姉ちゃんも少し元気になれたよ。隣には老けてると噂の、そして桜が通い妻をしている衛宮士郎がいた。

 彼は明らかに魔術師なのだが、セカンドオーナーたるウチには一度も挨拶に来たことがない。別に気にしてないけど。全然気にしてないけど。

 ……まさかセカンドオーナーっていう存在を知らないとか、ないわよね?

 

 廊下で運悪く生徒会長様に遭遇し、口うるさくガミガミ言われる。一回予算に口出ししただけでこれだ。一応仕事してますアピールをしようと思っただけなのに。

 しかもその後何もしなければ、仕事しろって言われた。誰がするか。

 

 退屈な授業も終わり、さっさと帰宅。

 召喚の準備と意気込んだはいいものの、肝心の触媒が無いのに気付き、家中を探し回るも見つからず。

 タッグの強さは相性の良さだ、と開き直ったのが午前一時。夕飯も取らずに探し回っていたため腹ペコだった。

 が、今から食べるのも戸惑われたので、断食を決意して最高のタイミングになるまで待っていた。

 

 そして、寝落ちした。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 時計を見る。午前三時を指していた。つまりベストタイミングから一時間遅れ。

 

「………終わった。私の聖杯戦争は召喚する前から終わっちゃった。は、はは。」

 

 自分が阿呆らしすぎて笑いしか出てこない。何故ベッドに腰かけて待ったし。そりゃ誰でも寝るでしょ。ただでさえ強いサーヴァントを喚ぶ触媒がないのに、自ら最後のチャンスを潰すとは。

 

「ははは、はははははは!!今さら時間がなんぼのもんじゃぁ!!この遠坂凛、その程度で止まるものかぁ!!」

 

 深夜に色々と吹っ切れる現象。

 通称"深夜テンション"が発動していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、アーチャー。召喚に応じ参上した。君が私のマスターか?」

「うわ……まあ、そうなる、わね。」

 

 外した。思いっきり外した。やっぱりセイバーは来ないのか。一時間前だったら喚べてたのかな。アーチャーのステータスはありえない程低いし。視界に浮かぶステータスにはDとかCが並んでいる。

 三騎士は強いって言われてるらしいけど、どう見てもこのアーチャーは弱いわよね。やば、考えれば考えるほど絶望してきた。

 それに、どうしてこんなドヤ顔なのコイツ。無駄にカッコいいけど。背も高いし。全体的に赤色っぽい外見なのはポイント高────。

 

「……それが自分のサーヴァントに向ける第一声か?英霊によっては殺されるぞ、お嬢さん。」

 

 

 

 ────あ゛?

 

 

 

「アンタ、今私のことを何て言った?」

 

 まさか『お嬢さん』とかフザけたことを言ってないわよね?

 場合によっては鉄拳制裁も辞さないつもり。絶対に一発は殴るけど。

 

「どうした、何か気に障ったかね?ただ私は口に気をつけたまえ、と言っただけだ。お嬢さん。」

 

 ははは。

 

「いい度胸してるじゃない、アーチャー。アンタ二回も私のことをロリみたいって言ったわよね?」

「なに?いや、待てマスター。そんな話をしてるわけでは───」

 

 

「───そんな? あ、もうキレたわ。マジでぶっ殺だわ。コイツ、絶対に許さねー。」

 

 今更慌てて言い訳しようとしたって遅い。

 手の甲にある令呪に意識を向けて起動させる。ツインテールと貧乳を侮辱する不届き者をぶちのめすために。

 

「令呪を以て生意気な使い魔に命ずる。」

「お、落ち着けマスター!!こんなことで令呪を使うなど正気か!?」

 

 

「そこを、動くなァァァァッ!!」

 

 

 魔術も使用した、人生で最高の一撃(グーパン)

 

 どん、という鈍い音が地下室に響く。

 数秒後、アーチャーは何かを言いながら崩れ落ちた。

 

───今回は大丈夫だと……思っていたのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーごめんごめん。私、禁句言われると冷静じゃいられないのよね。」

「……私が言う前から冷静とはほど遠かったと思うのだがね。」

 

 リビングのソファーに腰かけて、私とアーチャーは向かい合っていた。あれから数分して落ち着きを取り戻した後、場所を移したのだ。

 

「あ、この紅茶美味しい。」

「それは結構。どうやら今度はマスターの機嫌を損ねずに済んだようだ。」

「何でそんな捻くれてんの、アンタ。」

 

 薄々感じていたことだが、この男は相当な捻くれ者で皮肉屋だ。しかし、何故か憎めない感じがする。所々で気が利いたりするからだろうか。先程の召喚の影響で少し散らかった地下室を手早く片付けていたし。紅茶を淹れてくれるし。

 

「まあいいわ。真面目な話をしましょ。」

「ようやくか。」

 

 紅茶の入ったカップを置いて、アーチャーを見る。む、色とか抜きにしたら結構東洋人っぽい顔してるかもしれない。

 

「私は遠坂凛。流転の魔術とそれを使った宝石魔術がメインよ。あと少しだけ格闘技も齧ってる。よろしくね。」

「なるほど、了解した。……凛、か。実に君らしい名前だ。」

「ふふ、ありがと。そんなこと言われたの初めてかもしれない。」

 

 いきなり名前を誉めてくるとは。ヤバい、コイツかなりのやり手だわ。女の扱いに慣れてる。あれ、でも英雄だし当たり前?つまり英雄は皆ナンパ野郎?

 

「それで。次は貴方の番よ、アーチャー?」

 

 直後、アーチャーの顔が爽やかなナンパ師から苦虫を噛み潰したような感じになった。

 

「……それなのだが。私の真名は言えない。」

「令呪使う?」

「待て。これは本当に」

「令呪、使う?」

 

 あ、悩んでる。滅茶苦茶悩んでる。

 

「………………分かった。」

「アーヨカッタワー、キチョーナレイジュヲツカワズニスンデ。」

「凛、真面目にしてくれ。君が言ったのだろう?」

「くっ。」

 

 捻くれ者をやり込めた喜びを味わっていただけなのに。

 

「それで?名前は?早く言いなさいっての。」

「ああ、言うとも。オレの名は衛宮士郎。君の同級生だった男だ。」

「ふーん、そう────」 

 

 

 

「──────え。」

 

 何を言ってるんだコイツは。

 

「何を言ってるんだコイツは。」

「おい。」

「いやー冗談キツいわよアーチャー。貴方が衛宮君?ないないないない。衛宮君が英雄なんてありえないってば。それに現代で英雄になれるわけないでしょ。」

「現実を見ろ、凛。仮に違うとしたら、私が衛宮士郎の名前を知っている理由をどう説明する?」

「……ですよねー。」

 

 ヤバい。マジだ。マジに衛宮君な感じだ。こんなに低いステータスも説明がつく。何で?どうして?これから先、衛宮君が弓とか銃とか使って戦争で無双しちゃうの?

 

「動揺するのは仕方ないが話を聞け。」

「……分かったわ。取り敢えず落ち着く。」

「まったく。君はそこまで残念なキャラだったか?もう少し優雅だと思っていたのだが。」

「優雅?なにそれ。私には合わないわ。……まあ、そんな家訓的な何かがあったような気もするけど、そこはそれ。自分らしくが一番よ。」

「……何だと?」

 

 あれ、何か可笑しなことを言っただろうか。

 

「まあいい。私が英霊になった理由だったな。」

「そうそうそれそれ。」

「簡単なこと。守護者になる契約を世界と交わした。そして死後に英霊となっただけだ。」

「あー、なるほどね。守護者になるっていう可能性を忘れてた。」

 

 どうして世界と契約するようなことになったかは聞かないでおこう。明らかに地雷だから。気まずくしたくないもの。

 

「じゃあ宝具は?英霊なら持ってるでしょ。」

「固有結界だ。」

「…………何て?」

「固有結界。それもかなり特殊な部類だ。」

 

 何だってこんな爆弾ばかり持ってくるのか、このサーヴァント(衛宮君)は。

 

「……驚くのにも飽きたわ。どれぐらい特殊なの?」

「解析した武具、たとえ宝具であっても固有結界内に登録し、結界外でも魔力を消費すれば投影できる。」

「────」

 

 魔術師を嘗めてるのかな?なにそのフザけた能力は。宝具を投影って何ですか。そんなことが許されていいの。

 ……あ。

 

「もしかすると固有結界って今の衛宮君も使えるの?」

「いや、聖杯戦争初期の衛宮士郎は半人前以下の雑魚だ。まともに魔術回路も起動できないだろう。」

「魔術師って言えるレベルじゃないでしょ。というかマスターだったんだ。」

 

 今の言い方だと聖杯戦争に参加しているっぽい。見るからに魔術師なのに魔術回路を起動できないらしいし、それでマスターってもう意味が分からない。

 

「ああ、順番としては最後のマスターだったな。あまり詳しくは覚えていないが。」

「えー。衛宮君のサーヴァントは?」

「確かアーサー王だったと記憶している。ただ、衛宮士郎からの魔力供給が不十分でかなり弱体化していた。覚えているのはその程度だ。」

「何でそんなヘッポコがアーサー王なんて大物呼び出してんのよ!!」

 

 天才魔術師の私には未来の同級生が来てるのに。待遇の差が酷すぎる。でもアーチャーは能力に関してはインチキって言えるぐらい強いから、良かったかも。

 

「もういい、詳しいのは明日ね。行く前に疲れたら困るもの。」

「ほう、もう動くとはな。好戦的なのは悪くないが。偵察か?それとも強襲か?」

「何言ってるか分かんないけど、今から行くのは教会よ。令呪を確保しに行くの。」

 

 そう言った途端、アーチャーが目を見開く。凄い剣幕で詰め寄ってきた。近い近い。

 

「何だと?最初に監督役を殺すつもりか!?」

「何で殺すの……。監督役と知り合いだから召喚したら来いって言われてるの。何でも、令呪を大量にくれるって話よ。」

「馬鹿な、そんなことが………。」

 

 何か悩んでるけど、どうやらこの話を衛宮君は聖杯戦争の後も知らなかったってことかな。まあ、バレてたら不味いけど。

 

「はいはい。さっさと行くわよ。切り札が増えるのには違いないんだから。」

「凛、本当にその監督役は信用できるのか?後ろからサクッと刺されたりしないだろうな?」

「あはは、ないない。そんな殺伐とした関係じゃないもの。」

「……しかしだな。万が一ということもある。護衛はさせてもらうぞ。」

「大袈裟ね、アーチャーは。まあいいけど。」

 

 少し眠気を感じながらもコートを羽織って教会に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二時間後、遠坂凛はアーチャーに抱えられて家に帰って来た。

 

「ひぐっうぐっ!ごめんえびやぐん!こわかっだ、こわかっだよぉ!!」

「まったく、だから言っただろう。監督役など信用するなと。いい加減泣き止め……おい待て、私の外套で拭おうとするな!!」

 

 慌ただしく玄関に入っていく二人。その服には赤い液体が飛び散っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お願い、死なないで言峰!あんたが今ここで倒れたら、ランサーやギルガメッシュとの契約はどうなっちゃうの? 聖杯はまだ残ってる。ここを耐えれば、シロウに勝てるんだから!

次回「言峰死す」。フェイトスタンバイ!







嘘です。

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